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彼の
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しおりを挟む不意に
頭にあった圧が無くなった。
胸もとにくちづけながら香奈子の体に手を這わせて、もうバスローブの紐を解いてしまおうと思った時だった。
俺の頭をクシャクシャに握りこんでいた手が離れていき、不思議に思い顔を上げて香奈子を見れば、色の無くなった顔を背けてしまった。
「香奈子?」
震えだす香奈子の肩先を撫でれば、ビクッと体を震わせ「ごめん…なさ…あの、…。」と口籠もりながら体を起こした。せっかくずらしたバスローブの合わせを引き上げながら、香奈子は後ろへずり下がった。
なんだ?
「…香奈子?どうした?」
俯く香奈子の表情が見えなくて、香奈子を引き寄せようと手を伸ばしたが、身をよじって香奈子は逃げた。
逃げた…香奈子が、逃げた…
言いようのない焦りが生まれ、香奈子の頤をすくい上げ少しばかり強引に顔を覗き込んだ。
その目には涙が浮かんでいて更に焦る。
「香奈子!ごめん、苦しかった?どこか痛い?ごめん!無理させたか?」
オタオタしはじめた俺の目の前で、香奈子はまた顔を背け俺の指から逃れる。顔を背け全身で、さわるな!と言われているようで…。マズイ!本当に、俺は 何をやってしまったのか…。
「香奈子。どうしたんだ?」
話すのを戸惑っているように見える香奈子の髪を撫でながら続きを促す。
やっと俺の目を見たから、ん?と優しく微笑んでみる。内心はビクビクしているのだが。
「…だって…」
「うん?」
「…だって、…に、にねんぶり、だって…。」
くぐもった涙声で話す香奈子に、更に俺の頭は疑問符だらけだ。
「ん?二年?」
「…だから!今!二年ぶりだって言ったでしょ!……」
震えながら俺を睨みつける香奈子の目からはぶわっと涙が溢れてくる。
「今言った!こ、こんなことするの…に、にねん…ぶり、だって!っ…」
泣きながら叫ぶ香奈子は
「もぅ!…なんかッム、ムカつく! 愛美…に監視、までさせ…て私に、わたしに、男が寄ってこないようにしてた、くせに、自分はなんなのっ?!もう!意味わかんない!!」
終いにはキレ気味だ。
背を向けた香奈子の震える後ろ姿を見ながら呆けてしまった。
「え…?ちょっ…ま…」
「別れたんだから……わたしが湊と一緒に行かなかったんだから…!だから!…わ、わかってる…でも、そんなこと…ききたくなかった…。」
「かな!待て香奈子!」
やっと俺は自分の失言に気付いた。と、同時に後ろから香奈子を抱きしめる。
「香奈子!待って。それは誤解だ!」
「いいわよ!もう!でも今は聞きたくない!離して!」
俺の腕から逃げようと暴れる香奈子を強く抱きしめて必死に説明する。
「かな、それおまえ!二年前にこうやったのはおまえ!」
「嘘言わないで!」
「嘘じゃない!二年前って言ったのはお前のことだって!」
「もう!いいから!聞きたくない!離してよ!」
「香奈子!信じてくれ!この六年、他の女なんて抱いてないし、キスすらしてない!」
「いい加減にしてよ!もうほんと、意味わかんないから!離して!!」
少々強引に香奈子を振り向かせて視線を合わせる。なりふり構っていられない。まさかあの時のことで香奈子を失いそうになるなんて!
「香奈子。ちゃんと聞いてくれ。俺は香奈子以外の女に触れたいと思わない。離れていた間も香奈子以外に触れたことはない。そもそも香奈子以外に反応しない。」
と言って、未だ自己主張を続ける下半身を指差す。視線で追った香奈子は赤くなる。
「はん…!げ、下品…」
「下品でもなんでも事実だ。香奈子以外に誰を見たって何したって勃たないし。この六年金髪碧眼のいわゆる”美人“って言われる女なんて山ほどみたが、どうでもいい。香奈子だけだ。この六年の間に、何百回何千回香奈子を思い出しながら、一人寂しくヌイたことか…。」
俺ももう必死だ。恥なんてどこにもない。
「おれの右手、頑張った…」
そう言って右手を目の前でヒラヒラと振りながら、わざとニヤニヤ下品に笑って香奈子の顔を覗き込む。香奈子の顔は真っ赤だった。かわいいなぁ。
「二年前、俺が抱いたのは香奈子だよ。香奈子は忘れてるかもしれないけどな。」
そう言ってまだ眉間に皺を残している香奈子の頬を手の甲で撫でた。
「あの時、おまえかなり酔ってたからな。」
顔を寄せて赤い顔の香奈子の唇に自分のそれを重ねた。
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