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彼の
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しおりを挟む「・・・・みなと・・。」
あの時
寝ている香奈子は涙を流しながら、俺の名前を呼んだんだ。
俺にさんざん抱かれたあと、香奈子は気を失うように眠った。頬にかかる一筋の髪をはらいながら、濡れたまつ毛が光る瞼にくちづけた。
好き勝手に香奈子の身体を貪り尽くし、己の欲を出し尽くして満足したはずなのに。寝ている香奈子の唇から自分の名がこぼれ落ちたことで、またもや体の奥から熱い欲望がむくむくと湧き上がってきた。
寝ている香奈子を組み敷いて思い切りこの欲望を打ち付けてやろうか。
めちゃくちゃにしてやりたい。
いっそのこと避妊などせず、この欲を香奈子の中にぶちまけてやればいいじゃないか。子供ができれば、この手を離さずにすむんだ・・・。
少しひらいたままの唇をこじあけて舌をさしこめば、愛しい人が目を覚まして。
俺の名を呼びながら快楽を貪り、身をよじり。
何も考えられなくなるくらいどろどろに溶かして。それから・・。
黒い本能に支配され香奈子にくちづけようと顔を寄せる。
「・・・・あいしてるの・・みなと・・・。」
「っ! くそっ・・・」
自分の髪をガシガシかき混ぜながら香奈子から身体を離し、起き上がった。
泣きながら夢を見るほど、苦しませている。それが他でもない自分だという現実に嫌気がさす。結局はどうしたって香奈子を泣かせることに変わりはない。
「・・・愛してるよ、香奈・・・。」
遮るもののない部屋で月明かりだけが不自然にベッドを照らしていて。俺はその月明かりの中、腕の中のぬくもりを抱きしめ続けた。
********************
「おいで、香奈。」
香奈子がバスルームのドアの向こうから顔を覗かせたまま、出てこない。
顔を真っ赤にして睨んでいるが、あれは誘ってるのだろうか?
まあ、きっと本人にはそんなつもりは一切無いのだろうが。
「わたしの服! どこにもっていったの?!」
と、かみついてくる。
「ああ、クリーニング頼んだんだ。明日の朝には届けてくれるよ。」
そう言ってにっこり笑いかけてやる。さっき香奈子がシャワーに入った隙に、服も下着も一式回収したのだ。着るものは備え付けのバスローブしかない。
念のため
逃げられないように
香奈子はドアにおでこを当ててブツブツ呟いている。「え?なんで?朝? え? じゃやっぱり帰れないの? 朝までこのカッコ? ど、ど、ど、どうしようーーー?! え? あれ? 下着は?! えー?」
相変わらずおもしろいな。
ニヤつきそうになる頬を必死で引き締め、香奈子に歩みよる。
「ほら、いつまでも隠れていないでこっちにおいで。」
バスローブ姿の香奈子を引っ張り出して、頬にキスしてやる。
「ちゃんと温まった?」
髪をすくフリをしながら、耳から項まで指でなぞる。
案の定香奈子はピキッと固まり静かになった。
シャワーを浴びて冷静になったのだろう。
本音を言えば
あのまま
熱に浮かされた香奈子を抱いてしまいたかった。
でも風邪をひかせるわけにはいかない。
時間はたっぷりある。
そう。
時は満ちた。
白いバスローブ姿の香奈子は魅力的で、話をする前に襲いかかってしまいそうだと内心苦笑いする。
背中に流れる艶やかな黒髪。しっかりと前を合わせているが、いかんせん香奈子が着ているのはバスローブだ。チャコールグレーのバスローブから覗く華奢な手首や白くまっすぐな脚は、首元をきっちり隠している分イヤラしくて。誘われているんじゃないかと、勘違いしそうだ。
本当は今すぐ抱きしめて身体中撫でまわしたいところだが、唇にチュッと一つキスを落とし、香奈子を窓際のカウンターに連れて行く。
折角のスイートルームだ。存分に活用しなくては。
この部屋をオーダーした時に、花も用意してくれるようにお願いしたんだ。香奈子の好きだった花を。
つい先刻。
雑踏の中で見つけた香奈子は、この凛と咲くカラーのように綺麗でしばらく見惚れてしまった。
この六年ですっかり大人の女になった。濃紺のシンプルなワンピースを着て、ハイヒールを履いて。大人の色香を纏い佇む姿を見た時。
眩しくて
一瞬声をかけるのを躊躇した。
でも、同時に
俺たちは間違っていなかったって、確信したんだ。
スツールに香奈子を座らせて、シャンパンを差し出す。
香奈子はグラスを受け取りながら
「え?あれ? 湊もシャワー・・・」
と、不思議そうにきいてきた。
俺もすでにシャワーを浴びて、香奈子と同じようにバスローブを着ている。
「ああ、向こうで浴びた。あっちの部屋にも小さいシャワーブースがついてるんだ。」
隣を指差せば、
「へ? ここ以外にも部屋があるの?! しかもシャワー付き?!! ・・・ありそうだよね?そりゃあるよね?だってここスイートルーム……。」
ボソボソつぶやく香奈子に
「ほら、香奈。」
シャンパングラスを持ち上げ、カチンと香奈子のものに触れ合わせる。
「えっ・・と、あー、か、かんぱい?」
戸惑いながらも上目遣いでグラスを持ち上げる香奈子に微笑みながら
「乾杯。再会とこれからに。」
とグラスを掲げて、よく冷えたシャンパンを口に含む。その液体はシュワシュワと爽快に喉を流れていった。
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