彼と彼女の選択

沢 美桜湖

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彼女の

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あの夜。

湊は最初から様子がおかしかったと思う。そのときは気づかなかった。

いつもゆっくりわたしを高めていっていつだってわたし優先に体を重ねる湊だったが、ごくまれにタガが外れたように、わたしの体をむさぼるように抱くときがあった。雄の本能のままに激しく荒々しく。

あの夜もそういう日なんだと思っていた。

今思うと、湊がああいう風に”オスになる日”は、SOS…まではいかなくても湊が弱ってる時だったのかもしれない。





***************






大きく広げた足を抱え上げ、激しくわたしを揺さぶる湊。濡れた音と二人の息づかいだけが鳴り響く。何度も高みに押し上げられ痺れた頭ではまともに考えることなんてできない。わたしはただ湊の激情を受け止めるのに精一杯だった。


「ハッ……ぁあんっ!み、みな、と、ぁぁぁあ、やっまた、いっちゃ…。」


その時湊は、ぐちゅりと音を立てて剛直を抜いてしまった。
「やぁっ、や、だ…ぁん、みなと…」
急に攻め立ていたものがなくなり、軽い喪失感に襲われわたしは放心状態だった。


湊は動けないわたしの身体をクルリとうつぶせにすると、すぐに覆いかぶさってきた。高ぶった体は後ろからなでさすられてぶるっと震えた。シーツと身体の間に手を入れて両の乳房を強くもみしだかれ立ち上がった粒をはじかれる。わき腹から臀部までを強く擦るように撫でられて、背中に湊の引き締まった体がこすり付けられた。湊のいきり立ったモノがおしりの割れ目から腿を割ってぬちぬちと行ったりきたりする。わたしの空洞がこの先への期待でキュウっと収縮した。

早く入れて。
はやく中を埋めて欲しいの…

声に出して言ったかもしれない。わたしはとにかく入れて欲しくて、埋めてほしくて、背後にいる湊の身体にいいところを擦り付けた。

「香奈子。」
背中に唇を這わせる湊の声にすら反応して、隠れた茂みの間からとろりと愛液が流れ出すのが自分でもわかった。

わたしは自分のハァハァと乱れた呼吸音だけしか聞こえなくなっていた。そして急に腰を捕まえられ持ち上げられた。ひざはがくがく震えているが、なんとかヘタラずに持ちこたえる。頭は枕に埋もれシーツを掴み、腕に力を入れて何とか起き上がろうとするが無理だった。おしりを湊に突き出す様にいたたまれず、
「いや、みなと これ や・・・」
と小さく抵抗してみるも、すぐさまズグッと湊に貫かれた。
「ぁぁああっ!」
とあげた媚鳴は枕に吸い込まれてしまった。

湊が強く腰を打ちつけ出入りするたびに、ぐじゅっぐじゅっといやらしい濡れた音が響きわたり奥を突かれる。
「んあぁぁっ」

だんだんと湊の抽送が激しくなり、パチュンッパチュンッパチュンと肢体のぶつかり合う音だけが部屋に響いていた。


「かなこ・・」
湊の切ない声音にまた体はぶるっと震えた。

「かなこ」


「俺、アメリカ行き、決まった。」


え? どういうこと?・・・

ドロドロに溶けた頭で必死に考える。

なんのこと?なんのはなし………そんな…

しかし湊は動きを止めたりせず、さらにわたしを攻め立てる。相変わらず聞こえるのは、パチュンッパチュンというイヤラシイ音だけだ。

「…ぁあ…ま………みな………とまって……あぁあっ」

「来月、発つよ。」

だめ
まって
止まって
みなと!


声にならない声で懇願するが、しかし湊は聞こえているはずのわたしの願いを無視して、わたしのいいところを擦るようにソコばかりを攻める。
「・・あ!はぁ、まっ、みな・・あぁぁ・・あ、ん・・。」
湊に一から快楽を教え込まれた体は、従順に高ぶっていく。

「おまえは、どうしたい?」

湊のかすれた声が後ろから降ってくる。
後ろを振り返って湊の顔を見たいのに、それを拒むかのように湊は執拗に杭を打ちつける。
おしりを突き出す体勢だからか、剛直がおくまで入ってきたときわたしの隠れた芽が擦られて自分からもっと当たるようにと腰をふってしまう。


体はもう弾ける寸前。

こんな事してる場合じゃないのに…
やだ…いや…はなしを………

「愛してるよ、加奈子。だから ・・・・・。」

湊の声をかすかに聞きながらわたしは真っ白な世界に放り出された。





***************





あのあと、わたしは自分がどうしたらいいのかわからずに、明言を避け続けた。念願の会社に入社して仕事が楽しくなりだして、さあこれから!というときだった。プライドを持って仕事をしていた。捨てられるわけが無かった。でも、同時に湊を心から愛していた。仕事と湊を天秤にかけ、どちらを取るか…なんて。そんなことできるはずがなかった。


仮に。仕事を辞めて湊について行っても。駄目になるような気がしたのだ、わたしが。わたし自身が駄目になるとおもった。きっと仕事を辞めたことを後悔して湊を責めて、湊との関係まで壊してしまうんじゃないかと思った。恐かった。





好きなの
愛してるの
離れたくない
さみしいの
こわいの
抱きしめててほしいの
失うのがコワイの
どうしたらいいの
壊したくない
こんなに大切なのに
どうして
どうして…







それから

湊の転勤の準備は順調に進められ、日を追って湊の部屋は広くなっていった。
次第にモノが無くなっていく湊の部屋で、ただ愛し合った。
湊は何も言わなかった。雄の湊はなにも言えないわたしをむさぼるように抱き続けた。



結局、わたしは最後まで答えを出すことが出来なかった。


いや
結果だけみれば。わたしは仕事を選んだのだ。刻一刻と時間が過ぎていく中、わたしは何もせず、いつものように仕事に通い続けたのだから。
そんなわたしを湊は最後まで甘やかした。最後まで決定的な言葉を言わないわたしに、湊は何も言わなかった。ただいつものやさしい眼差しで見つめてくるだけだった。それが湊の優しさで、答えなんだと思った。
わたしはその眼差しに見え隠れする陰りには気付かないフリをしていた。



決断できないわたしに
やさしいあなたはいつも微笑みながら

右手の甲でわたしの頬をなでてくれたね













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