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彼女の
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しおりを挟む「え・・っと、いや・・・。あ・・の・・。」
わたし、大人げなかった?・・かな?
湊の傷ついたような反応に、焦って口を開けば言い訳じみた言葉しか出てこない…。
「お、お見合いは確かに行ったけど。でもそれはおばさんの顔を立てるためで。どうしてもって言われて、・・・断れなくて・・・。だから、えっと、別に結婚したいからお見合いしたわけじゃなくて・・。あの・・・。」
ビールジョッキを握りしめながら、早口で捲くし立てた。わたしの代わりにジョッキが汗をかいている。ように見える。
「・・・っくっく・・」
??? あれ?と顔を上げれば、湊は俯いたまま肩を震わせている。
「…いや……わるい。」
顔を上げた湊は耐えられないというように、口元を片手で押さえ必死で笑いをこらえている様子。
はい?
ぽかんと口を開けて呆けているであろうわたしの頭に手を伸ばして、湊はぽんぽんと頭をなでた。
「うん。ごめん。たぶんそんなとこだろうとは思ってたけど。一応確認。」
・・・え?
にっこり笑って言われたら、怒れなくなった。
………
もう、ほんと意味わかんない!
腹立ちまぎれにジョッキに残ったビールを煽って飲み干した。
「くっくっく・・・!」
湊はまだおかしそうに笑っている。
面白くない
もう一杯注文してやれ。ふん。どうせ湊のおごりだし。
そう思い、「すみませーん!生もう一杯お願いします!」と女将さんを呼んだ。
結局、湊の分も注文して二つのジョッキがきたところで、どこからかブーブーブーっとバイブレーションの音が聞こえてきた。
「おっと」
湊は、置いてあったスマホをみると、
「悪い、会社からだ。でていいか?」
と訊いてきた。
「もちろん。こんな時間にかけてくるなんて急ぎでしょ。どうぞどうぞ。わたし勝手に飲んでるから。」
「サンキュ。」
そう言って、湊はまたわたしの頬をなでたあと、タブレットや書類を引っ張り出して話し始めた。
なんだろう・・
わたしもだいぶ懐かしさにやられている自覚はあるけど、湊のこのスキンシップの多さはなに?!やけに触られてる気がするんですけど?!
あ!
やっぱり海外生活が長いとそうなっちゃうのかな?
……うん、そうかも?
そうだそうだ
もー勘違いしちゃうところだったよ
よし!食べよう!せっかくこんなにおいしいお料理が目の前にあるんだから食べなきゃね!
ひとり納得して、ほうれん草のおひたしを口に運ぶ。
うん、ほんとにおいしい。今度愛美も連れてこよう。いいお店教えてもらっちゃった。この温かいお店の雰囲気も、さっぱりだけどしっかり出汁のきいたお料理もすごくいい。
ビールじゃなくて日本酒にすればよかったかなー
湊はすっかりビジネスマンの顔だ。
やっぱり仕事してるときの湊は素敵だよね。
真剣な顔で話しながら書類に目を落とす湊。その横顔を見ながら、先日の母たちとのやりとりを思い出していた。
先月母に催促され、久しぶりに実家に帰ったとき。
伯母がリビングでニコニコしながら私を待ち構えていた。伯母の顔とテーブルに置かれている大きな封筒を見た瞬間に、やられた!と思った。
前々から「いい人がいるのよー。」と聞かされていたのだが、のらりくらりとかわしていたのだ。
伯母と母は写真を広げてわたしを説得しようとあの手この手で攻めてくる。適当に返事をしながら聞き流していた。ショートケーキを食べながら。
「これ、おいしい!伯母さんどこで買ったの?」
と、全く興味を示さないわたしにミセスのお二人は雷を落とした。
「香奈子!あなた来年には30よ?わかってる?このままじゃ行き遅れよ。イキオクレ! いい物件はすぐ無くなっちゃうのよ?!いいかげん真剣に自分の将来のこと考えなさい!」
「わかってるんだけどねー。仕事楽しいしー、食べていけるだけの収入はあるし、親友とたまに飲んだくれて、エステやショッピングでストレス発散、オンナ度も上がって一石二兆! 今の生活結構たのしんじゃってるんだよねー。」
てか、今時イキオクレなんて言うか? まだ30にもなってないのに
なんて、ショートケーキをつつきながらかるーく切り返せば、母の強烈なアッパーカットをくらった。
「あんた、まだ忘れられないの?」
うぐ……
なんですかね?まったくいみがわかりません。なんの話だ母。
しかし。
口に入れたイチゴがものすごくすっぱい……きがするのは………きのせいですか……おかあさま…
「どういうこと?」
伯母が母にきいている。
「ほら、覚えてない? 湊くん。転勤で海外に行った彼氏。ああ、元カレっていうんだっけね。」
「ああ、あの色男くん! 覚えてるわ。あれはもったいなかったわよね。」
いやいや、まてまて。
なんとかイチゴを飲み込んで応戦する。
「い、いや。別に忘れられないわけじゃなく! 湊は関係ないから! ・・だ、だから!さっきも言ったでしょ。仕事が楽しいし、わたし今の生活に満足し」
「あらあら?そうなのー」
私があせって捲くし立てるのを遮って伯母が頬に手を当てて言った。
「あなた、思ったより一途なのねぇ。」
…なんて。余計なコメントはいらん!伯母よ!
「涙目でそんなこと言っても説得力ゼロよね。」
うるさい、母!涙目はイチゴのせいだ!
「そんなに好きならあの時素直についていけばよかったじゃないの。」
呆れた顔で私を見下ろした母は
「全く、おばかさんなんだから。誰に似たのかしら。」
なんていいながら、キッチンに行ってしまう。
う、うるせー・・
母のアッパーに軽く脳震とうを起こし立ち直れないわたしに、
「とにかく。そんな形式張ったものじゃないんだから、堅苦しく考えずにとりあえず会うだけあってみてちょうだいな。」
叔母はそう言って、お相手情報の入った封筒を押し付けて帰っていったのだ。
まあ、確かに。封筒に入っていたのは、スナップ写真と名刺だけだったのだが。
まあ、確かに。そんな本格的なものではないのだろうが…。
それでも
どうしても
結局
その2週間後、張り切った母と伯母をお供にわたしはお見合いをした。
どれだけ抵抗しても無駄だった。
着物を着込んだ母と伯母に早朝から襲撃され、振袖を着ろと脅迫され・・・。
さすがに30手前のオンナが振袖着てお見合いって痛いだろう?! やめてくれ!お見合いは行くからせめてスーツで行かせろ!と泣いて頼み(本気で泣きました・・・)、してやったりの顔でワンピースを引っ張り出してきやがって、泣く泣く準備して会場へ引っ張っていかれたのだった。
お相手はすごく誠実そうな32歳の商社に勤める方で。お見合いは滞りなくすんだ。大人ですから伯母や母に恥をかかせるようなことはしない。来てしまったのだから大人の対応で。営業職で培った本領発揮。
お見合いのあと、母に「やればできるじゃないの。」と言われむかっ腹が立ったが。
それが先週のこと。
実はあちらから正式にお付き合いしたいとの申し出があったらしい。まだわたしのほうからは返事をしていない。明日の日曜に実家に行くことになっている。
そうだった・・・返事しに行かなきゃいけないんだったっけ
つらつらとそんなことを思い出して。
コレ飲んだら帰らなきゃ
チクチクする胸はなんだろう・・・。
やっぱ食べすぎかな
胃もたれなんて、ほんと年だわ
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