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彼女の
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雑踏の中、湊はそう言ってわたしの頬をなでた。
「愛してるよ。」
見上げたその目はやさしくて・・・。目が離せなかった。ドクドクと心臓が早鐘をうつ。
触れてくる手は 愛おしいというように、手の甲で頬をひと撫でしたあとくいっと擦って、離れていった。
通り過ぎる人も行き交う車も全く目に入らなかった。
ただ湊だけしか見えなかった。
重なる。
あのときの夕焼けに照らされた湊の顔。
優しく微笑む湊が、フラッシュバックのように重なった。
「・・・くっくっくっ」
ハッと我に返った。
あ、あれ?
目の前には、あの頃の、付き合い始めたばかりの頃の彼より、少しだけ目尻のしわが深くなった湊が肩をゆすって笑いをこらえている。
わたしの顔はきっと赤いはずだ。だって火が出そうなほど熱い。
それをごまかそうとビールジョッキを勢いよく呷ってむせた。
「ごほっ!こほこほっ!!」
「香奈子っ!大丈夫か?」
盛大に咳き込んだ私にそう言って、湊はテーブルの向こうから長い手を伸ばして背中をさすってくれた。
か、重ね重ね、恥ずかしい
「だ、だいじょ、ぶ・・・。ありがと。」
顔があげられない。
背中をさすってくれていた手が離れて…行く途中。ついでのように。またクイっと私の頬をかすめていった。
ゆっくり顔をあげれば、あの時のようなやさしい笑顔の湊と目が合った。
もうほんとどうすれば・・・!てか、何がどうしてこんな事になってるんだろう?・・・
おちつけーおちつけわたしー!
わかんないわかんないどうしたらいいのーっ・・・
・・・よし!
と、とりあえずあげだし、食べてしまおう・・・
湊から目をそらし、なんとか私が食べることに専念し始めたとき。
まだ一人でパニックに陥っているわたしに、湊が更なる爆弾を投下した。
「ところで、見合い したんだって?」
と言われて、口の中に入れた揚げ出しを丸呑みしてしまった!
く、くるしいー!
目を白黒させるわたしにおしぼりを差し出す湊はまだ笑っている。
受け取ったおしぼりを両手で握りしめたまま、手の甲でおでこを抑えた。
いや、まて
なに?
は?
え?
な、なんで????
「もう結婚してもいいと思ってるのか?」
はい?
「だから見合いなんてしたんだろ?」
そう言って俯いた湊の表情は、わたしには見えなかった。
「いや。待って。どっからその情報手に入れたのよ?湊、さっき久しぶりの日本だって言ってなかった?あれ?」
「あはははっ。企業秘密。」
そう言って、笑いながら顔を上げた湊。
混乱しているわたしをからかうようにニヤニヤしながら見ている。なんだか無性にイラついた。
「で?」
「で?って?何が?」
すっとぼけてやろうと切り返す。湊に興味本位で踏み込んでもらいたくない。もう関係ないじゃないの。わたしがどうしようと、どうなろうと関係 ない。
「見合い。どういうつもりだ?」
固い口調で言われ、わたしは俯いた。なんで湊に怒られなきゃいけないのよ。
「どういうつもりって。・・湊には・・・関係・・・ない・・。」
そう言ってわたしは唇をかんだ。
湊がふぅーと長い息を吐くのがわかった。
「関係ない、か・・・」
湊はぼそりと独り言のようにつぶやいた。それをきいてチクリと胸がうずいたが顔はあげられなかった。
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