彼と彼女の選択

沢 美桜湖

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彼女の

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お互いに近況報告をしながら、料理が来るのを待つ。
日本食が余程恋しかったのだろう。女将さんは一週間通っていると言っていたけど、まだ足りないのか、湊が注文したのは典型的な日本食ばかりだ。

「それで?いつまでこっちにいるの?」
「再来週かな。」
もぐもぐと煮物をおいしそうに食べながら湊が答えた。
私はさすがにおなかがいっぱいで出された小鉢の酢の物をつつく程度だ。

「実家には?」
「うん、最後の週までにはカオ出す予定。」
「え?カオ出す予定って・・・。日本に帰ってきたの久しぶりなんでしょ?実家でのんびりするんじゃないの?」
湊の ちょっと寄るだけ、のニュアンスに思わず聞き返す。
「んー。大事な用があってね。それ次第かな。」
そう言ってあさりのお味噌汁のお椀を片手にニヤリと笑った。
「そ、そう。」
この笑い方は何か悪巧みを思いついたときの顔だ。

あまり深入りするべからず!
流そう
うんそれがいい


あ、この酢だこおいしいね。なんて、わざとらしかったかな?


「香奈子は?仕事がんばってるんだろ?」
お味噌のおにぎりをほおばりながら、湊が訊いてきた。おいしそうに食べるよね。相変わらず。
「うん。最近は色々なプロジェクトに参加させてもらってるんだけど、四苦八苦しがら何とかね・・・。」

そろそろお茶がほしくなる頃だろうな

そう思い、料理を広げるために奥に寄せていた湯のみを取って湊の前におく。それと同時にきれいに中身の無くなった小鉢やお皿などをテーブルの端に持っていく。
おかみさんが来ればすぐ下げてくれるだろう。

ほんとよく食べるわ…

「ドジってみんなに迷惑かけてんじゃないかー?」
お茶をゴクリと飲んで、湊がいじめっ子の顔できいてくる。
「そんなことありませんー。今じゃ後輩に慕われる面倒見のいい先輩って有名なんですー。」
「有名?どこでだ。」
「わたしがいる企画営業2課。」
ムッとして言い返すと、湊に爆笑された。
「そうか。がんばってるんだな。」
ポンポンと頭を撫でられ、さらに複雑な心境。爆笑しながらそんなこと言われてもね。
ふくれっ面でジョッキに口をつけたら、また笑われた。



まずいなー



「さあ、お待たせしました。うちの自慢の揚げだし豆腐ですよ。」
女将さんがお膳を持ってお座敷に入ってきた。
おいしそうな揚げだしが目の前に置かれる。湯気がもくもく。やさしい香りが鼻をくすぐる。
「おいしそう。」
思わず覗き込んだわたしに、ふふふと笑った女将さんは「熱いので気をつけてくださいね。」と言って、寄せてあったお皿をもって座敷を出て行った。

もくもくとのぼる湯気。お出汁の香りがふんわりと食欲をそそる。
レンゲじゃなく木杓子がついている。取り皿にわけて湊の前に置いた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね。」
「ああ。サンキュ。」

自分の分も取り分けて。ふうふうしてから口の中へ。
衣のサクサク感と中の熱々とろりなお豆腐。お出汁も絶妙。

ナニコレ、すっごくおいしい!!

「んんっ。おいしい!」
熱いけど、そんなのかまわない!うますぎるー!
あっという間にわたしのお皿は空っぽになった。

おかわりおかわり

と、ルンルンで木杓子を手に取ったところで、耐え切れずに目の前のオトコをじろりとにらむ。
先ほどから一連の私のがっつき具合を、頬杖をつきながらニヤニヤ眺めている湊に
「ナニよ?」
とかわいくない態度を取ってみる。


あ、熱いの一気に食べたからかな
顔が熱くなってきた



「食べないの?」

「んー?香奈子のうまそうに食ってるとこ見てるほうが面白い。」



暑い…
暑いぞ
女将さーん、エアコンの温度さげてくれませんかねー?



「早く食べないと湊の分まで食べちゃうわよ。」
ニヤニヤ笑ってる湊からふいっと目をそらす。

無視だ無視

あげだしあげだし。冷めてもおいしいかもしれないけど、わたしは熱々で食べるのがすきなのよ!一掬い自分の皿に取りわける。
「うん。いいよ、食べて。そのために連れてきたんだから。」
そう言って、湊はわたしの頬をなでた。手の甲で。

あ、味がわかんなくなってきた…

どうしていいかわからず、わたしは黙々と揚げだし豆腐を口に運ぶことに専念した。

だって思い出してしまった……。
あの頃。
湊がこうやって手の甲で頬をなでるとき。



それは愛してるのサインだったことを。











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