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犬も食わないハジメテの
本当のキモチ ~sideA~
しおりを挟むお互いがお互いの動きを探り合うような、緊迫した空気が漂う。
ルーク、迷惑だったかなぁ…。一所懸命膨らませた勇気は、もうすでにしぼみかけている。
そういえばルークの家の中に入るのは2回目だな、とぼんやり考える。1回目はそうとカウントしてもいいものか。私は酔っぱらってほとんど覚えてはいない。柔らかなソファに座り、置かれていたクッションを抱きかかえる。
「何がいい?紅茶?」
「うん、ありがとう」
何となくクッションを手放せないまま、入れてもらった紅茶に口をつける。
温かいものを飲んでホッとする。向かいに座ったルークは珈琲を飲んでいるようだ。香ばしい匂いがするが、私は独特の苦みが苦手だった。ルークは珈琲を飲む人なのね。お互いの好みを擦り合わせるようなこともせずにいたなぁ、と思うと少しおかしくなる。
「で、どうしたんだよ。待ち合わせ場所じゃなくてこっちに来るなんて」
ぼんやりと考えていたら、ルークに質問されて意識を戻す。
何て言うのがいいのか口ごもる。本当に勢いだけで行動したので、何をどうするかなんて考えてなかったのだ。こちらを探るようなルークの瞳を見返しながらもう一口紅茶に口をつける。
「どうしたというか…少し……不安になったの」
「不安?」
訝し気に問いかけてくるルークに少し笑いかけて頷く。
少し考えるようにしたルークが、手に持った珈琲をテーブルに置くとこちら側に回り込んでくる。
そして横に座る。
「……何が不安?」
ルークのこちらを見通すような瞳が見えなくなったことと、問いかけてくれた声がびっくりする程優しかったから、私は体から力を抜く。
本当は、本当に不安だったのは、私に魅力があるか無いかだけじゃなくてね。
「全部……全部不安なの。……本当に私で良いのかなぁとか、このまま結婚して大丈夫かなぁとか」
ポツリとこぼした声に、横のルークの体が強張ったのを感じる。
あぁ、どうしよう。やっぱり言わない方がよかったのか。不安になった瞬間、肩をグイッと抱き寄せられる。そのまま手が、耳の横に、上がってきて、ルークの肩に私の頭をもたせ掛けるように動く。
「……俺が、お前がいいって言ったのは信用できない?」
「……そうじゃないの」
ゆっくり目を閉じて首を振る。
きっかけは本当に些細な事だった。ルークは目立つ人だから、私の迎えに来るようになって、直ぐに私達が付き合っていることは他に知れた。
仕事中に感じるたくさんの人からの視線。あいつが……と言う囁き声。そして、直接私にルークはもったいない人だと忠告してくれるお姉様方。
色々な事に疲れて、そうすると急に不安になった。どうして、ルークは私に手を出さないんだろう。たくさんの人たちが言うことが真実のように感じられて苦しくなった。
「…貴女のガールフレンドなら皆知っている事を私だけが知らないなんて嫌なの」
触れている肩から、ルークがごくりと唾を飲んだ振動を感じる。少しだけ掠れた声がする。
「……泣いてもわめいても止めてやらねぇぞ?覚悟はできてるんだろうな」
「私、貴方になら泣かされたって良いと思ってるのよ?」
少しだけ体を離して、ルークの首に手をまわす。しっかり目を見てそう言うと、ルークがそのまま後ろ向きに倒れる。
「え、きゃぁ!」
「あーもー……勘弁してくれ」
急な動きについて行けずに、首にしがみついたまま一緒に倒れ込む。
心底弱り切ったような声を出してルークは顔を覆った。
「……そんなに嫌?」
「……嫌じゃないから困ってる」
ため息のようなルークの言葉におかしくなる。
「……笑うな」
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