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1.転校
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ぴー、ぴー、ぴー、軽い音をたてながら、車が後ろに下がる。
先程からずっとうつむいていたミオは、その音に顔を上げて母を見た。
「ねぇ、おかあさん。本当に行かなきゃダメ?」
「ちょっと待って!ミオ。お母さん運転久しぶりなんだから集中させて」
言葉を遮られてミオは頬を膨らませた。
横では、母が真剣な顔をして車を駐車スペースに停めている。
今日は、7月10日。あと、1週間もすれば夏休みに入る。こんな変な時期に、ミオは転校する。
というのも、父に転勤の辞令が出て、父の勤める会社の社宅に住んでいたミオ達はすぐに移動しなければいけなかったからだ。
(夏休みに皆とやりたいこと、いっぱいあったのにな…)
父の転勤先は、ミオの住んでいた都心から新幹線でおおよそ1時間。しかも、電車もバスもほとんど走っていない、自家用車がないとどこにも行けない、田舎。
小学生が一人で移動するのは、なかなか厳しい距離だ。おまけに、父も母も故郷は別にあって、ミオには祖父母を訪ねると言う名目で都心に戻ることもできない。
仲の良かった友達とは、もう永遠にお別れだ。
だから、6月の末に引越することを知らされてから、今日までずっとミオは暗い顔をしていた。
無事に駐車を終えて、ふー、と一息をついた母がミオの方を向く。
「ミオ、何度も言ったでしょう?」
そう、何度も繰り返された否定の言葉を、もう聞きたくなくて、ミオは「言ってみただけ」と言って、さっさと車から降りた。
◆
都心の学校から転校してきたミオには、信じられないほど古い校舎。校庭は広そうだけど、備え付けられた遊具はどれもボロボロだった。
何を見ても気分が落ち込む。ミオは大きくため息をこぼした。
職員室で母とは別れ、ミオは新しい担任に案内されるまま、教室に向かった。
教室に入ると、人数はそれほど多くなかった。それでも、十数人の目が、一度に自分の方を向く迫力にミオは頬をひきつらせた。
漫画みたいに、担任が黒板にミオの名前を書く。
「今日から皆の仲間になる、小鳥遊 深桜さんです。お父さんのお仕事の都合で引っ越してきました。さぁ、小鳥遊さん、自己紹介してくれる?」
ミオは、顔を曇らせ、小さな声で「よろしくお願いします」とだけ言うと、ペコリと一礼した。
まばらな拍手と好奇な視線にさらされて、ミオは小さくなって、指示された席に着いた。
もうなんでも良いから早くここから立ち去りたい。自分の殻に閉じ籠ったミオは、休み時間の度に話しかけにくる同級生と、視線も合わせずその日1日をやり過ごしたのだった。
先程からずっとうつむいていたミオは、その音に顔を上げて母を見た。
「ねぇ、おかあさん。本当に行かなきゃダメ?」
「ちょっと待って!ミオ。お母さん運転久しぶりなんだから集中させて」
言葉を遮られてミオは頬を膨らませた。
横では、母が真剣な顔をして車を駐車スペースに停めている。
今日は、7月10日。あと、1週間もすれば夏休みに入る。こんな変な時期に、ミオは転校する。
というのも、父に転勤の辞令が出て、父の勤める会社の社宅に住んでいたミオ達はすぐに移動しなければいけなかったからだ。
(夏休みに皆とやりたいこと、いっぱいあったのにな…)
父の転勤先は、ミオの住んでいた都心から新幹線でおおよそ1時間。しかも、電車もバスもほとんど走っていない、自家用車がないとどこにも行けない、田舎。
小学生が一人で移動するのは、なかなか厳しい距離だ。おまけに、父も母も故郷は別にあって、ミオには祖父母を訪ねると言う名目で都心に戻ることもできない。
仲の良かった友達とは、もう永遠にお別れだ。
だから、6月の末に引越することを知らされてから、今日までずっとミオは暗い顔をしていた。
無事に駐車を終えて、ふー、と一息をついた母がミオの方を向く。
「ミオ、何度も言ったでしょう?」
そう、何度も繰り返された否定の言葉を、もう聞きたくなくて、ミオは「言ってみただけ」と言って、さっさと車から降りた。
◆
都心の学校から転校してきたミオには、信じられないほど古い校舎。校庭は広そうだけど、備え付けられた遊具はどれもボロボロだった。
何を見ても気分が落ち込む。ミオは大きくため息をこぼした。
職員室で母とは別れ、ミオは新しい担任に案内されるまま、教室に向かった。
教室に入ると、人数はそれほど多くなかった。それでも、十数人の目が、一度に自分の方を向く迫力にミオは頬をひきつらせた。
漫画みたいに、担任が黒板にミオの名前を書く。
「今日から皆の仲間になる、小鳥遊 深桜さんです。お父さんのお仕事の都合で引っ越してきました。さぁ、小鳥遊さん、自己紹介してくれる?」
ミオは、顔を曇らせ、小さな声で「よろしくお願いします」とだけ言うと、ペコリと一礼した。
まばらな拍手と好奇な視線にさらされて、ミオは小さくなって、指示された席に着いた。
もうなんでも良いから早くここから立ち去りたい。自分の殻に閉じ籠ったミオは、休み時間の度に話しかけにくる同級生と、視線も合わせずその日1日をやり過ごしたのだった。
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