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婚約者編
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しおりを挟む「おねぇちゃんありがとう!ここまででいいよ!」
門を出たところで、横を歩いていた少女に声をかけられる。
そう?と言いながら、持っていた篭を手渡した。手を振って少女と別れる。
午後は外に出ることにした。
昨日の今日で一人で出歩くことに恐怖がないと言えば嘘ではない。
しかし、昨日私が階段から突き飛ばされたのが事故であれ…故意であれ、犯人は私を殺す気はなかったのではないかと思うのである。確かに階段から落ちれば大怪我はするだろうし、もしかしたら命を落とすかもしれない。でも、もし明確な殺意があるのであれば、刺すでも何でももっと確実な方法があるのではないか。だからこそ、犯人は私に怪我をさせ、その事実をもってこの視察を中止させたいのではないだろうかと思ったのだ。
まぁ、色々考えてはみたが、要はやられっぱなしが嫌だったのである。
昨日に引き続き、のこのこ一人で出歩いていたら、敵はどう出るか…。
それでも一応、自衛のために自分で考えられる対策はした。
それが先ほどの少女だ。昨日、タイミング良く襲われたということは、敵は、こちらの動きを知っていたのではないだろうか?とすれば、アルストリアの人間は誰が信用できるか分からない。
貴族にはとても見えない、普段着のワンピースを着て、髪も見えないようにスカーフで纏める。ソバカスを散らして地味に見える化粧で変装した。
そして、朝、食材を納品に来た、地元の人間を捕まえて、家族の振りをして門を出ることにした。都合良く、子供一人で納品に来ていた子がいたので、篭を持つ手伝いをすると言って近づいた。
「さぁ、行くわよ!」
一応、着替える時に付いてくれたフレイヤ様付きの侍女には昨日突き飛ばされたこと、私が3時間を超えて帰らなければ、何か事件に巻き込まれたと思ってほしい旨は伝えてきている。
また、挨拶を終えた後、移動の疲れが出たので、午後は部屋で休んでいると周囲の人間に伝えてほしいとも。
これで少しは時間が稼げるといいのだが……。
一人歩きのためにと、念のために持ってきていた庶民用のローブのフードを目深にかぶり、まっすぐ前を向いて歩きだす。
◆
「すみません、細工物の工房はどこかしら?」
「あぁ、それならあっちだよ。商人さんかい?」
宮殿から出て真っ直ぐに向かった先は市場だった。実は昨日、横を通っていたのだ。それどころではなかったし、時間も遅かったので店は開いていなかったが、場所だけは覚えていた。
市場が開くのは、午前中だから午後に差し掛かった今の時間は、皆店仕舞いをしている。
私はまだ開いていた、その場で食べられる串に刺さった簡単な揚げ菓子を売っているおばさんに声をかけた。
アルストリアは女性も仕事を持っている人が多い。店舗ではなく、工房の場所を訪ねたことから、おばさんは私の事を商人だと勘違いしているようだった。
私はその勘違いを訂正せずに微笑む。
「えぇ、買い付けに来ているの。…何だか、街が慌ただしくはない?何かあるのかしら?」
「あぁ、何でも皇太子さまの婚約者候補を集めて、舞踏会を開くそうだよ。色々な国から偉い人が来てるってんで、いつも以上の活気さ!」
「……へぇ?」
揚げ菓子を一つ買って、教えてくれたおばさんに軽く会釈して、教えてもらった方に歩き出す。
「婚約者候補を集めて……ねぇ」
菓子を食べながら呟く。
セオドア様の婚約者は正式にフレイヤ様に決定しているはずだ。どうやら、アルトリアと縁を結ぶことを良く思っていない勢力があるらしい。それもかなり上層部に。
(だから、露骨に私を狙ったの?)
私は爵位はあっても一代限りの男爵位。だけど、フレイヤ様の教育係としてこの国に来たから、彼女に対してそれなりに影響力を持つ人物に見える…とすれば、フレイヤ様に警告するためにはうってつけの人物と考えられてもおかしくない。
はぁ、とため息を吐く。ちょっと憧れの国に遊びに来ただけなのに何だか面倒事に巻き込まれた気がするわ。
でも……。フレイヤ様を気づつけられるかもしてないのに黙ってなんていられないわね。
さて、工房では何か良い話が聞けるかしら。工房長は商人と繋がりが多い。自分達の経営に直結するので、情報通の商人から何かしら情報を仕入れている可能性は高いはずだ。自国に関することも、他国に関することも。
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