守護者の乙女

胡暖

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3章 悪魔裁判

20.対峙

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 ガチャンと大きな音に続いて、ギィと古びた金属がきしむ音がした。そして、エヴァは無造作に地面に投げ飛ばされた。
 とっさのことに対応できずに、エヴァは強かに身体を打ち付ける。

「いててて……」

 捉えられてすぐに、目隠しをされ、後ろ手に両手を縛られたエヴァは、今自分が置かれている状況が全く分からないまま、もぞもぞと身をよじらせることしかできない。
 取りあえず、次の衝撃に備えて体を丸くしていると、再びガシャンと音がした。鍵が閉められたようだ。

「悪魔には似合いの姿だな!しばらくここで過ごすといい。悪魔裁判が執り行われるまでな!!」

 クリストフの高笑いが聞こえ、やがて足音が遠ざかっていった。
 どうやら、悪魔裁判の開催までは、無闇に傷つけられることはなさそうだ、とエヴァはホッとする。
 裁判の正当性を主張するためには、エヴァが既に傷ついた状態で現れては都合が悪いのだろう。

 人の気配が消えたことを感じ、エヴァはゆっくりと体の力を抜いた。
 目が見えない分、五感が研ぎ澄まされいるような気がする。頬に触れる湿った土、そのかび臭さから考えると、地下に連れてこられたようだった。

 ぼんやりと、先日訪れた王宮の地下牢だろうか、とエヴァが考えていると、かつん、かつんと足音が聞こえてきた。
 来訪者に対し、エヴァは身構え、再び体に力を入れる。足音はエヴァの前で止まった。
 カシャンと軽い音がする。不意に聞こえてきた声に、エヴァの心臓がドキリと高鳴る。

「無様だね」

 あざけるようなその声は、普段とは全然違う響きだが、暫く一緒に過ごした仲間の声に間違いなかった。

「リクハルド……」
「ねぇ、今どんな気分?」

 たのしげなその声に、エヴァは心の中でため息を溢した。彼の問いには答えずに、エヴァは質問した。

「どうして僕をめたの?リクハルド」

 ポツリと呟いたエヴァの声に反応するように、大声でリクハルドがわらう。

「どうして?そんなの決まっているじゃないか!僕はもともとお前の事がだいっきらいだったんだよ。お前は、僕の夢も憧れも全て奪っていったんだ。何にも知らない顔でのほほんとしてさ!」
「夢と憧れ?僕が?」
「本当なら僕は学院に入って研究者を目指すつもりだったんだ。お父様だって賛成してくれていた。それなのに、お前が特例で騎士団に入団なんかするから、動向を探ってくるようにと、僕は騎士団に入れられた。アンナリーナ様だって、お前なんかよりずっとずっと前からおしたいしていたのに……神族に嫁がれる筈だったから諦めたのに……それをお前が横から……!お前なんかの婚約者になるなんて!!」

 リクハルドは、牢の柵に両手をかけガシャンガシャンと揺らしながらまくし立てた。
 姿は見えないものの、普段のリクハルドからは考えられない程の激昂げっこうした声にエヴァはひるむ。
正直、話していることは逆恨みもはなはだしい上に、エヴァに責任のある話とは思えない。
それに、エヴァとて望んで今の立ち位置にいるわけではないのだが、そんなことはとても言えない雰囲気だった。

「だから、オリヤン達を魔道具で操ってやったんだ!あいつら、先輩風を吹かせて僕をいじめようとしてきたからな。はは!死んじゃって良い気味だ!」
「……リンドヴルムは?」
「父様が捕まえてきてくれたんだよ!上手くやれよってな!」
「そう」
「お前さえ、お前さえいなければ……!」

 そこで不気味な程パタリと黙ったリクハルドは、次に凍えそうな声で良い放つ。

「お前なんかさっさと死んじゃえ」

 言いたいことだけ言うとリクハルド立ち去った。
 また人の気配が消えたことを確認して、ふー、と息を吐くとエヴァは、ごろりと転がって上を向いた。

「ラタ、いる?」
『モチロン!でも、いいの?言わせっぱなしで。アイツ、こっそり殺る?』
「物騒なこと言わないの。良いんだよ、証人は必要だからね」

 ラタに目隠しと手首の拘束を取ってもらうと、エヴァはゆっくりと起き上がった。

「はぁ、ねぇラタ。ここどこ?」
『神殿の地下だよ』
「神殿?……悪趣味だなぁ」

 エヴァはぐるりと辺りを見渡す。
 想像した通り、地下牢のようだった。
 牢の中はがらんとしており何もない。ここに巡回しに来る者のためだけに、階段と廊下に小さい蝋燭ろうそくが灯されているが、それだけだ。牢の中はじめっとして暗い。
 もともと、警護を担うわけでもない神殿の牢だからか、定期的に犯罪者を捉えている様子もない。今はエヴァの他には誰もいないようだった。静かな空間で一人、ポツリと呟く。

「さて、ここからどうするかな」

 やられっぱしは性に合わない。それでなくても、この一連の騒動に、エヴァは静かに腹を立てていた。

『お?殺るか?』
「殺りません」

 どこか楽しそうに声を上げるラタに首を振って、エヴァはこれからのことについて思いを巡らせた。
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