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2章 騎士団の見習い
4.入団
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春まではあっという間だった。
今年、騎士団に入団したのは、36名。
規則が変わったのは、間際だったこともあり、13歳以下での入団者は結局エヴァ1人だった。他の見習いよりも、頭二つは背が低いエヴァは、その容姿も相まってかなり目立っていた。
じろじろと見られていたが、人に不躾な視線を向けられることに慣れていたのでエヴァはあまり気にならなかった。
横にいたラーシュの方が気まずそうに身じろぎする。
実は、ラーシュのその長い髪と華やかな容姿、腕にジャラジャラついた装飾的な魔道具もかなり異質で目立っていたが、ラーシュは自分が目立っているとは露ほども思っていなかった。
団長のランバルドが壇上に立ち、挨拶する。
「騎士団では、皆平等だ。家名に拘らず、必要以上の敬語も不要だ。皆を仲間と思い、尊重して励むように」
剣を掲げた、ランバルドの言葉に、見習いたちが目を輝かせている。騎士団のトップである団長は、憧れの対象なのだろう。
――――確かに見習いでもない僕が団長に稽古をつけてもらっていたら妬まれるかも
実際の団員たちの様子をその目で見て、エヴァは改めて自覚した。
それに、今日の団長は、式典用の装飾が多い華やかな軍服を身に付けていて、特に威厳を感じる。
今日は、団長や副団長に不用意に近付かないようにしようと、エヴァは心に決めた。
団長の挨拶の後には、デモンストレーションがあった。空飛ぶ騎獣を使っての空中演舞と剣技による模擬試合だ。
空飛ぶ騎獣は団員を乗せ隊列を組んで宙を舞う。円を描いたり、交差したりと迫力のある動きを見せた後、見習い達に向けて、祝福の花を降らせた。
剣技にはルーカスが参加していたので、エヴァは身を乗り出してその技を見た。一対一だったが、あらかじめ動きが決められているらしく、激しい打ち合いを行う。
どちらもなかなか、楽しい催しだった。
式後はラーシュと連れ立って寮へ向かう。
騎士団の寮は五階建てで、一階に食堂や共同の風呂など共有設備があり、二階から上が居室になっている。見習いが一番上の階で、段々下の階に下がってくる。毎年部屋を移動するようだ。
成人すると、家に帰ったり、城に近いところに居室をもらえるので、この寮には13歳から16歳までの団員だけが住んでいる。
アンナリーナは宣言通り、ラーシュと隣同士にしてくれたようだ。五階にあがるとそれぞれの部屋に向かう。エヴァの部屋は廊下の一番突き当たりだ。部屋に入ろうとすると、エヴァの部屋の正面の扉が開いた。
「あ……オールストレーム家の。僕はリクハルド・ベルマンです。よろしく」
部屋から出てきたリクハルドは少しおどおどした少年だった。先ほどの入団式にいたらしい。ひょろりと背が高いが、やせ形なのであまり武を好むようには見えない。
しかし、個室を使えると言うことは、それなりの高位貴族だということだ。エヴァは貴族名鑑を思い出す。
――――ベルマンは三公爵家の一つだ。
つまり、オールストレーム家と同等の家格。
「よろしく、エディ・オールストレームです。僕たちのことよく分かったね」
「……お前目立ってたからな。ラーシュ・オールストレームだ。よろしく」
「……君も目立ってたけどね。よろしく、エヴァ、ラーシュ」
リクハルドの言葉にラーシュは目を剥く。
そんな馬鹿な、と言いたげな顔をしたが、言葉にはしなかった。
何とはなしに、この後の食事を一緒にする流れになり、リクハルドと共に二人は食堂に向かった。
初日なので、今日は歓迎の意味をこめてご馳走が用意されているらしい。
食堂は大層広かった。沢山の人間が同時刻に食事をとるためには当たり前の設えだが、エヴァは神殿時代、一人自室で食事をとっていたし、最近もラーシュと二人で食べていたため、こんなに広い食堂は見たことがなかった。
100人程が入っても全く狭さを感じないホールに、食べ盛りの男達が満足できるように、肉がこれでもかと盛られた皿がいくつも置いてある様は圧巻としか言いようがなかった。
エヴァは、その量に圧倒され、ポカンと口を開けて用意された皿達を眺めた。
「よぉ。庶民のお前は、こんなご馳走見るのも初めてだろう?」
「全く。みっともねー、顔してんじゃないよ」
少し年上だろう少年達にからかうように声をかけられる。
ラーシュがエヴァの隣でグッと拳を握った。
エヴァは、話しかけてきた少年達を見やり、首をかしげた。
「君達、僕が誰か分かるの?ごめんね、僕は君達のこと知らないから僕と話がしたいならまず名乗ってくれる?」
「な……!年下のくせに生意気だぞ!お前」
「そうだそうだ。貴族にたまたま拾われた孤児が!」
エヴァの言葉に少年達は語気荒く突っ掛かってくる。
エヴァはまた首をかしげる。
「僕が公爵家の養子になったことが君たちに何か関係ある?」
少年達はグッと言葉をつまらせる。
そこでラーシュが前に出た。
「……こいつは、正式に公爵家の養子と認められている。事と次第によってはお前らの生家に抗議するぞ」
養子であるエヴァには強く出られても、ラーシュにはそうではないらしい少年達は、ふんと鼻を鳴らしてその場を立ち去った。
「……すごいね、君達。先輩に意見するなんて……」
リクハルドが、おどおどと声をかけてくる。
エヴァは、リクハルドを振り返り笑った。
「ごめんね、なんか。せっかくの歓迎会なのに。ラーシュもありがとう」
「……お前、力じゃ負けるんだから、ああいう時は俺に任せておけ」
「えー。僕間違ったこと言ってないよねー?」
気の抜けるエヴァの返事にラーシュはため息をつく。
気を取り直して、三人は料理を取りに行くことにした。
先ほどのやり取りを見ていたからか、強烈な視線をいくつも浴びたものの、その日はもう誰も絡んでこなかった。
――――入団式からこれか……。
ラーシュは人知れず気を引き締めた。
今年、騎士団に入団したのは、36名。
規則が変わったのは、間際だったこともあり、13歳以下での入団者は結局エヴァ1人だった。他の見習いよりも、頭二つは背が低いエヴァは、その容姿も相まってかなり目立っていた。
じろじろと見られていたが、人に不躾な視線を向けられることに慣れていたのでエヴァはあまり気にならなかった。
横にいたラーシュの方が気まずそうに身じろぎする。
実は、ラーシュのその長い髪と華やかな容姿、腕にジャラジャラついた装飾的な魔道具もかなり異質で目立っていたが、ラーシュは自分が目立っているとは露ほども思っていなかった。
団長のランバルドが壇上に立ち、挨拶する。
「騎士団では、皆平等だ。家名に拘らず、必要以上の敬語も不要だ。皆を仲間と思い、尊重して励むように」
剣を掲げた、ランバルドの言葉に、見習いたちが目を輝かせている。騎士団のトップである団長は、憧れの対象なのだろう。
――――確かに見習いでもない僕が団長に稽古をつけてもらっていたら妬まれるかも
実際の団員たちの様子をその目で見て、エヴァは改めて自覚した。
それに、今日の団長は、式典用の装飾が多い華やかな軍服を身に付けていて、特に威厳を感じる。
今日は、団長や副団長に不用意に近付かないようにしようと、エヴァは心に決めた。
団長の挨拶の後には、デモンストレーションがあった。空飛ぶ騎獣を使っての空中演舞と剣技による模擬試合だ。
空飛ぶ騎獣は団員を乗せ隊列を組んで宙を舞う。円を描いたり、交差したりと迫力のある動きを見せた後、見習い達に向けて、祝福の花を降らせた。
剣技にはルーカスが参加していたので、エヴァは身を乗り出してその技を見た。一対一だったが、あらかじめ動きが決められているらしく、激しい打ち合いを行う。
どちらもなかなか、楽しい催しだった。
式後はラーシュと連れ立って寮へ向かう。
騎士団の寮は五階建てで、一階に食堂や共同の風呂など共有設備があり、二階から上が居室になっている。見習いが一番上の階で、段々下の階に下がってくる。毎年部屋を移動するようだ。
成人すると、家に帰ったり、城に近いところに居室をもらえるので、この寮には13歳から16歳までの団員だけが住んでいる。
アンナリーナは宣言通り、ラーシュと隣同士にしてくれたようだ。五階にあがるとそれぞれの部屋に向かう。エヴァの部屋は廊下の一番突き当たりだ。部屋に入ろうとすると、エヴァの部屋の正面の扉が開いた。
「あ……オールストレーム家の。僕はリクハルド・ベルマンです。よろしく」
部屋から出てきたリクハルドは少しおどおどした少年だった。先ほどの入団式にいたらしい。ひょろりと背が高いが、やせ形なのであまり武を好むようには見えない。
しかし、個室を使えると言うことは、それなりの高位貴族だということだ。エヴァは貴族名鑑を思い出す。
――――ベルマンは三公爵家の一つだ。
つまり、オールストレーム家と同等の家格。
「よろしく、エディ・オールストレームです。僕たちのことよく分かったね」
「……お前目立ってたからな。ラーシュ・オールストレームだ。よろしく」
「……君も目立ってたけどね。よろしく、エヴァ、ラーシュ」
リクハルドの言葉にラーシュは目を剥く。
そんな馬鹿な、と言いたげな顔をしたが、言葉にはしなかった。
何とはなしに、この後の食事を一緒にする流れになり、リクハルドと共に二人は食堂に向かった。
初日なので、今日は歓迎の意味をこめてご馳走が用意されているらしい。
食堂は大層広かった。沢山の人間が同時刻に食事をとるためには当たり前の設えだが、エヴァは神殿時代、一人自室で食事をとっていたし、最近もラーシュと二人で食べていたため、こんなに広い食堂は見たことがなかった。
100人程が入っても全く狭さを感じないホールに、食べ盛りの男達が満足できるように、肉がこれでもかと盛られた皿がいくつも置いてある様は圧巻としか言いようがなかった。
エヴァは、その量に圧倒され、ポカンと口を開けて用意された皿達を眺めた。
「よぉ。庶民のお前は、こんなご馳走見るのも初めてだろう?」
「全く。みっともねー、顔してんじゃないよ」
少し年上だろう少年達にからかうように声をかけられる。
ラーシュがエヴァの隣でグッと拳を握った。
エヴァは、話しかけてきた少年達を見やり、首をかしげた。
「君達、僕が誰か分かるの?ごめんね、僕は君達のこと知らないから僕と話がしたいならまず名乗ってくれる?」
「な……!年下のくせに生意気だぞ!お前」
「そうだそうだ。貴族にたまたま拾われた孤児が!」
エヴァの言葉に少年達は語気荒く突っ掛かってくる。
エヴァはまた首をかしげる。
「僕が公爵家の養子になったことが君たちに何か関係ある?」
少年達はグッと言葉をつまらせる。
そこでラーシュが前に出た。
「……こいつは、正式に公爵家の養子と認められている。事と次第によってはお前らの生家に抗議するぞ」
養子であるエヴァには強く出られても、ラーシュにはそうではないらしい少年達は、ふんと鼻を鳴らしてその場を立ち去った。
「……すごいね、君達。先輩に意見するなんて……」
リクハルドが、おどおどと声をかけてくる。
エヴァは、リクハルドを振り返り笑った。
「ごめんね、なんか。せっかくの歓迎会なのに。ラーシュもありがとう」
「……お前、力じゃ負けるんだから、ああいう時は俺に任せておけ」
「えー。僕間違ったこと言ってないよねー?」
気の抜けるエヴァの返事にラーシュはため息をつく。
気を取り直して、三人は料理を取りに行くことにした。
先ほどのやり取りを見ていたからか、強烈な視線をいくつも浴びたものの、その日はもう誰も絡んでこなかった。
――――入団式からこれか……。
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