光と闇の子

時雨

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人間界

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 時間を遡ること、二時間ほど前。
「アラン、自信はあるかい?」
「もちろんですよ、兄上」
 そう、会話を交わすのは二十歳ほどの青年とまだ15かそれくらいの少年だった。
 青年はいかにも好青年で、きっと普段から女性に人気であろう、整った容姿をしていた。
 そして、少年はというと、金色の髪に、紺色の瞳を持っていて、きりりとした表情で「兄上」と呼んだ青年を見上げていた。
「うん、それでよし。ただし、油断は禁物だよ。うちのアランはとても強いけど、きっと入学試験ではもっと強い人もいるからね」
「行くぞ、イリス、アラン」
 青年が少年の頭をなでながらそう忠告していると、ふと馬車の方から背の高い青年が歩いてきた。
 イリスとアランはほとんど同時に背の高い青年の方を向き、「ロイ(兄上)」と呼んだ。
 ロイと呼ばれた青年は、イリスと似たような顔立ちだが、身長からか、それとも雰囲気からか、全くの別人に感じられる。
 イリスとロイは一卵性の双子だが、どうも二人は得意なことも好きなことも全くの正反対だった。
 イリスは魔法が得意で、穏やかで優しい性格だが、ロイは剣のほうが得意で、口数が少なく、近寄りがたい性格をしている。
 そして、アラン。アランはイリスとロイがまだ12歳の時に、彼らの家の前に、もう一人の女児と共に捨てられていた子供だ。
 女児の方はセイラと言って、今ではすっかりローランド家のお姫様になっているが、問題は、当時5歳で、しっかり記憶が残っているはずであろうアランが本来の家族のことについて全く思い出せないということだった。
 もちろん、イリスもロイも新しくできた弟と妹がとても大事だが、一向に記憶が戻らないアランに、いったい何があったんだろうと、ずっと考えていたのだ。
 あの頃、家の前に倒れていた二人は、特に体のどこかに傷があったわけでもなく、むしろ、大事そうに布団にくるまっていたし、丁寧に手紙も置かれていた。
「ローランド侯爵
拝啓 
  置き手紙になってしまい、申し訳ございません。このようなことを、私ごとき平民が侯爵様にお願いできる立場ではありません、無礼ということを重々承知の上でございます。
  どうか、この二人を、私の代わりに元気に育ててくれないでしょうか。私はこれから、どうしても行かなければならないところがあるのです。多分、いえ、きっと帰ってこられないでしょう。ですので、どうか、お願いできないでしょうか。
  侯爵様が金銭面に困ることは重々承知の上です。ですが、この二人を、セイラとアランを育ててくれる代わりに、少しばかりですが、私に出せるものを用意いたしました。
  どうか、二人を、宜しくお願いいたします。
敬具
                                              二人の兄 」
 そんな内容が書かれた手紙と共に、貴重な魔晶石が一袋、隣に置かれていたのだ。袋の中には魔晶石が100個ほど入っており、当時のローランド夫婦はとても驚いていたと、イリスもロイも覚えている。
 元々弟か妹が欲しいとひそかに思っていたイリスは、すぐに新しくできた弟と妹を受け入れることができた。ロイも、最初のころこそ抵抗があったが、しばらくすると、アランの賢さとセイラの可愛さに参り、すっかり二人のことが大好きになっていた。
 そして、あれから十年。ロイもイリスも無事、それぞれライアン学園の魔術と剣術の首席となり、卒業し、今年で15になるアランにも、いよいよ入学する時が来た。
 ライアン学園に入学するには、招待状が必要なだけでなく、入学する子供の実力を測る入学試験も行われる。
 もちろん、招待状がなくても入学試験は受けられるが、その場合、招待状をもらった人よりも必要な試験が三つほど増える。そして、招待状なしで入学試験に受かった人物は、残念ながらこの100年で一人しかいない。
 そして、一月ほど前に、アランにも招待状が送られてきた。金色の装飾が施された招待状には「アラン・ローランド」と大々的に書かれていて、今日が入学試験を行う日だ。
「私も行きたい~!」
「だめだよ。今日は僕と兄上たちの代わりにお留守番するって約束したでしょ」
 イリスの服の裾を引っ張りながら駄々をこねているのが、セイラ・ローランド。一家に甘やかされて育ってきたためか、根はやさしいいい子だが、わがままなところがあるお姫様に育った。
 イリスもロイもどことなくシスコンなところがあるからか、毎回、よほど不可能なことではない限りセイラの要求を呑んでしまうところがある。
一方、アランももちろん妹のことは大事に思っているが、イリスやロイみたいに甘やかすだけでなく、しっかりダメなことをダメと言っている。そのせいか、セイラはアランのほうがイリスやロイたちよりも怖かった。
ローランド夫婦もその双子もセイラとアランのことを甘やかしすぎるところがある。そうやって、甘やかして育ってきたのがセイラで、アランは、無理しなくてもいいよと侯爵にも二人の兄にも言われているが、常に剣術を磨いてきた。
なぜそんなに自分の身をぼろぼろにしながら尚、強くなろうとしているのかは、アラン自身にすらわからなかった。ただ単に、強くならないといけない。強くならないと、だれか、大事な人と、もう二度と会えなくなるんだという感覚がずっとアランの中にはあった。
「だって、一人寂しいもん……。アラン兄さまの入学試験、私だって見たいよ」
 わざと少ししょんぼりした声でそういうと、案の定イリスは連れて行ったほうがいいのかな、と思い始めたのかロイに助けを求めた。
 そんな兄二人を見ながら、アランは小さくため息をついた。しかし、ここでダメと言ってもきっとこっそりついてくるだろうと思い、特に二人がセイラも連れていく、という意見に否定はしなかった。
 そして馬車に揺られること一時間。セイラはあまり屋敷の外を出たことがないからか、何か珍しいものを馬車から見かけるたびに三人の兄に向かってすごいよ!と言っていた。
 今まで体が弱いから、あまり外に出たことのないセイラのそのはしゃいでいて、アランもロイとイリスも微笑ましいその姿を見守っていた。
 校門の前につくと、ロイは馬車から降りてアランの招待状を守衛に見せ、中に入った。
 馬車は実際に試験を行う会場のそばに止めて、四人は一緒に会場に入った。まだ実際に試験開始まで時間があるからか、会場にはあまり人はいなく、少しガランとしていた。
 しばらくアランはロイに色々剣術について質問などしていたが、やることがなくて暇なのか、セイラはイリスの服を軽く引っ張って、こう聞いた。
「兄さま兄さま、授業がないときはどこで休憩してるの?」
「休憩か……そうだな、セイラとアランに案内してあげるか、僕とロイの秘密基地」
「ああ、あそこか」
 そう聞かれたイリスは、しばらく考え込み、ふと何か思い出したようにロイの方を向いて聞いた。
 ロイも「秘密基地」と呼ばれるような場所に心当たりがあるのか、そうだな、とうなずきながら言った。
 そのままアランとセイラは二人に連れられ、小さな森のような場所についた。気が囲む真ん中には小さな丸い机と椅子が二脚。そして椅子の周りには不自然なほどに整っているため、おそらくイリスとロイの二人がここ周辺を平らにしたんだろうということがセイラにもアランにも分かった。
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