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鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)
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結婚について公示したと話せば知ってますとそっけない。
互いに誓約書にサインをかわし確認する。これで、俺とアーデルハイトは婚約したことになった。
どうして大々的に婚約式をしないのか、とは言われはするのだがアーデルハイトが望まなかったのだとかわす。
そうしてあることを話せば、わたくしのせいにしないでくださると文句を言われた。
「勝手にお話を進められて……」
「お前に言っても、お前の決める事はなかった。ドレスなどは好きにさせてやっただろう?」
「好きにしたいとは言っておりません」
「そうか。では、立て」
「え?」
「お前と踊ったことがない。お前が踊れないとは思わないが一度くらいはあわせておくべきだ」
こちらだと部屋から連れ出しホールへ。
ピアノを用意させ、目配せすれば曲が始まる。
さぁと手を差し出せばしぶしぶというようにアーデルハイトは手を取った。
引き寄せ、その背に手を添える。すると綺麗に腕の上に腕を重ねポーズをとった。
リードするように一歩を踏み出せばついてくる。
踊りやすく、何の問題もない。
「リードがお上手ですのね」
「お前こそ上手いな」
「そこそこ踊れないと問題でしたので」
そうかと笑って少し難易度をあげてみればそれにもついてくる。
そこそこ? そうではないだろう、これは。
さらに難しいステップも踏んでみれば嫌そうな顔をする余裕があるようだ。
「踊れることはわかったでしょう?」
「ああ。十分だ」
「でしたらもうよろしいでしょう、離してくださいます?」
そんなに嫌かと笑って手を離す。音も止まりはぁとアーデルハイトはため息をついた。
「……わたくし、これからの事についてもう少し詳しくお聞きしたいのですが」
「ああ、では食事をしながらしようか」
もう夕刻だと笑って言えばそうなると思っていたとアーデルハイトは言う。
食事の用意ができるまでは二人で。
お望み通り、これからの事について話す。
おとなしく聞いているのは、もう覆すことができないとわかっているからなのだろう。
「わたくしは家に帰りたいのですけれど」
「警護の手配をしなければならない。それに俺が会いにこれないだろう?」
「会う必要はないでしょう」
「ある。からかうのが面白い」
む、とした顔をする。
そこで何か上手に言い返し笑えるようになれば王太子妃としては十分なのだが。
「表情に出ているぞ。それは王太子妃としては良くない」
「わたくしはまだそうではありませんので。公の場ではうまくやりますのでご心配なく」
そうかと笑えば、ええとつんと取り澄ました顔。
「殿下はわたくしも完全無欠にされたいのです? それは無理ですわ。わたくしはどうしようもない欠陥がございますもの」
「完全無欠になれなどとは言わない。ただ俺の横に立って恥ずかしくないようにはしてもらいたい」
「その恥ずかしくない、というのはどの程度」
「お似合いだと言われる程度にはな」
「それこそ、完全無欠に成れと同義ですわ。横に立つなら、同じくらいの技量がなければ人々は許しませんもの、認めませんもの」
わたくし、早まったかしらとアーデルハイトは言う。
別に政治に口を出せとは言っていない。
俺と共に式典や夜会に出て。そして王太子妃として割り振られた仕事をしてもらう。それだけだ。
それだけだと言うが、それが面倒で厄介なこともわかってはいる。
しかし、できると見定めたからこそ王太子妃にと俺は言ったのだ。
それを無理だと思っているのなら、それは俺自身に人を見る目がなかったのだと言っているのと同じなのだが。
「民衆はそこまで見ることは無い。貴族達は……お前なら黙らせることはできるだろう?」
「どのように量られるかわかりませんので、すべてをクリアできるとは思っておりません」
「八割できれば問題ない」
「なんて高い水準ですこと」
よく口もまわる。全てを納得させるのは確かに難しい。
が、我が娘をと言ってくる者達にそれではこの王太子妃に勝てないと思わせるだけで十分なのだが。
「まぁ、お前が自由にやりたいように過ごしていれば、納得せざるを得ないと思うがな」
「それはわたくしを信じすぎではなくて?」
「いや。俺を信じているのではなくて。お前に好きに遊んで良いと言っている」
笑いかけてやると嫌そうな顔をする。
扱いにくいようで扱いやすい。アーデルハイトにそれから、と言葉向けようとすれば食事がと報せが入る。
切りは良い所だ。行こうかと紡ぎ手を差し出せばおとなしく、その手を取る。
「手を取るとは思わなかった」
「慣れないといけませんから」
「慣れ?」
「だって、妻と夫になるのですから。こういう時はお答えするのが自然なのでしょう? 少なくとも、わたくしのお父様達はそうでしたから」
そうだな、確かに。
恋情はいらない。それは厄介なものでもある。
しかし共に過ごす時間が増えるのなら、それが嫌なものでないなら良いとは思う。
まだお互い探る様な雰囲気で食事をし、酒を飲む。これはこの先の予行練習なのだろう。
互いにどこまで踏み込むか、踏み込ませるか。その探りあいだ。
アーデルハイトはなかなか踏み込ませてくれないのだが。
今日の食事はセルデスディアよりにしてあると言えば、アーデルハイトは少し味付けが濃いのではという。
しかしこれは俺にとっては普通だ。
その口ぶりは食べれなくはないが重いと言っているようだ。
しかし慣れて貰わねばならない。一人のために味付けを変えることなどもできない。
服飾などは、好きに選ばせている。どれもセルデスディアの職人たちを赴かせたのだから、この国の様式が入るだろう。
「そうそう、ディートリヒ様。わたくしずっと言おうと思っていたことがあるのですけれど」
「なんだ?」
「好きな方ができたら、どうぞその方をお連れになってくださいね。わたくしが面倒くさい妃としての仕事はしますので、気兼ねなくお過ごしください」
にこりと笑みを浮かべ、のたまう。
何を思って、それを紡いだのかしばし思案する。
俺が黙っていると、わたくしは弁えておりますので、続ける。
ではそのかわり、自分も好きにするということだろうか。このようなことを言うのは、他に好きな男がいるからだろうか。
「……そのかわり、自分も好きにさせろということか?」
「いえ、他意はありませんけれど。そういう方ができた時にもめるのは嫌なので先にと」
たおやかに笑うだけで心の内は明かさない。
俺は、ああもしかしてと思い至るのだ。
うまく隠しているが、あの三人のうちの誰かと恋仲なのでは、と。
誰か、とも言わず三人ともかもしれないが。
これは試してみるべきかと。もしそうであるなら先に知っておいた方がいい。
後々、それを他の者から知らされると弱みになる。今、この事を知っておけるならばそれはアーデルハイトの弱みを握ったということにもなるのだから。
俺は笑って、そうだなと頷いて聞いてみるかと思う。
しかし素直に答えるわけもないだろう。どうすれば素直になるかは知ってはいるのだから、言わせてやるのは簡単な事だ。
互いに誓約書にサインをかわし確認する。これで、俺とアーデルハイトは婚約したことになった。
どうして大々的に婚約式をしないのか、とは言われはするのだがアーデルハイトが望まなかったのだとかわす。
そうしてあることを話せば、わたくしのせいにしないでくださると文句を言われた。
「勝手にお話を進められて……」
「お前に言っても、お前の決める事はなかった。ドレスなどは好きにさせてやっただろう?」
「好きにしたいとは言っておりません」
「そうか。では、立て」
「え?」
「お前と踊ったことがない。お前が踊れないとは思わないが一度くらいはあわせておくべきだ」
こちらだと部屋から連れ出しホールへ。
ピアノを用意させ、目配せすれば曲が始まる。
さぁと手を差し出せばしぶしぶというようにアーデルハイトは手を取った。
引き寄せ、その背に手を添える。すると綺麗に腕の上に腕を重ねポーズをとった。
リードするように一歩を踏み出せばついてくる。
踊りやすく、何の問題もない。
「リードがお上手ですのね」
「お前こそ上手いな」
「そこそこ踊れないと問題でしたので」
そうかと笑って少し難易度をあげてみればそれにもついてくる。
そこそこ? そうではないだろう、これは。
さらに難しいステップも踏んでみれば嫌そうな顔をする余裕があるようだ。
「踊れることはわかったでしょう?」
「ああ。十分だ」
「でしたらもうよろしいでしょう、離してくださいます?」
そんなに嫌かと笑って手を離す。音も止まりはぁとアーデルハイトはため息をついた。
「……わたくし、これからの事についてもう少し詳しくお聞きしたいのですが」
「ああ、では食事をしながらしようか」
もう夕刻だと笑って言えばそうなると思っていたとアーデルハイトは言う。
食事の用意ができるまでは二人で。
お望み通り、これからの事について話す。
おとなしく聞いているのは、もう覆すことができないとわかっているからなのだろう。
「わたくしは家に帰りたいのですけれど」
「警護の手配をしなければならない。それに俺が会いにこれないだろう?」
「会う必要はないでしょう」
「ある。からかうのが面白い」
む、とした顔をする。
そこで何か上手に言い返し笑えるようになれば王太子妃としては十分なのだが。
「表情に出ているぞ。それは王太子妃としては良くない」
「わたくしはまだそうではありませんので。公の場ではうまくやりますのでご心配なく」
そうかと笑えば、ええとつんと取り澄ました顔。
「殿下はわたくしも完全無欠にされたいのです? それは無理ですわ。わたくしはどうしようもない欠陥がございますもの」
「完全無欠になれなどとは言わない。ただ俺の横に立って恥ずかしくないようにはしてもらいたい」
「その恥ずかしくない、というのはどの程度」
「お似合いだと言われる程度にはな」
「それこそ、完全無欠に成れと同義ですわ。横に立つなら、同じくらいの技量がなければ人々は許しませんもの、認めませんもの」
わたくし、早まったかしらとアーデルハイトは言う。
別に政治に口を出せとは言っていない。
俺と共に式典や夜会に出て。そして王太子妃として割り振られた仕事をしてもらう。それだけだ。
それだけだと言うが、それが面倒で厄介なこともわかってはいる。
しかし、できると見定めたからこそ王太子妃にと俺は言ったのだ。
それを無理だと思っているのなら、それは俺自身に人を見る目がなかったのだと言っているのと同じなのだが。
「民衆はそこまで見ることは無い。貴族達は……お前なら黙らせることはできるだろう?」
「どのように量られるかわかりませんので、すべてをクリアできるとは思っておりません」
「八割できれば問題ない」
「なんて高い水準ですこと」
よく口もまわる。全てを納得させるのは確かに難しい。
が、我が娘をと言ってくる者達にそれではこの王太子妃に勝てないと思わせるだけで十分なのだが。
「まぁ、お前が自由にやりたいように過ごしていれば、納得せざるを得ないと思うがな」
「それはわたくしを信じすぎではなくて?」
「いや。俺を信じているのではなくて。お前に好きに遊んで良いと言っている」
笑いかけてやると嫌そうな顔をする。
扱いにくいようで扱いやすい。アーデルハイトにそれから、と言葉向けようとすれば食事がと報せが入る。
切りは良い所だ。行こうかと紡ぎ手を差し出せばおとなしく、その手を取る。
「手を取るとは思わなかった」
「慣れないといけませんから」
「慣れ?」
「だって、妻と夫になるのですから。こういう時はお答えするのが自然なのでしょう? 少なくとも、わたくしのお父様達はそうでしたから」
そうだな、確かに。
恋情はいらない。それは厄介なものでもある。
しかし共に過ごす時間が増えるのなら、それが嫌なものでないなら良いとは思う。
まだお互い探る様な雰囲気で食事をし、酒を飲む。これはこの先の予行練習なのだろう。
互いにどこまで踏み込むか、踏み込ませるか。その探りあいだ。
アーデルハイトはなかなか踏み込ませてくれないのだが。
今日の食事はセルデスディアよりにしてあると言えば、アーデルハイトは少し味付けが濃いのではという。
しかしこれは俺にとっては普通だ。
その口ぶりは食べれなくはないが重いと言っているようだ。
しかし慣れて貰わねばならない。一人のために味付けを変えることなどもできない。
服飾などは、好きに選ばせている。どれもセルデスディアの職人たちを赴かせたのだから、この国の様式が入るだろう。
「そうそう、ディートリヒ様。わたくしずっと言おうと思っていたことがあるのですけれど」
「なんだ?」
「好きな方ができたら、どうぞその方をお連れになってくださいね。わたくしが面倒くさい妃としての仕事はしますので、気兼ねなくお過ごしください」
にこりと笑みを浮かべ、のたまう。
何を思って、それを紡いだのかしばし思案する。
俺が黙っていると、わたくしは弁えておりますので、続ける。
ではそのかわり、自分も好きにするということだろうか。このようなことを言うのは、他に好きな男がいるからだろうか。
「……そのかわり、自分も好きにさせろということか?」
「いえ、他意はありませんけれど。そういう方ができた時にもめるのは嫌なので先にと」
たおやかに笑うだけで心の内は明かさない。
俺は、ああもしかしてと思い至るのだ。
うまく隠しているが、あの三人のうちの誰かと恋仲なのでは、と。
誰か、とも言わず三人ともかもしれないが。
これは試してみるべきかと。もしそうであるなら先に知っておいた方がいい。
後々、それを他の者から知らされると弱みになる。今、この事を知っておけるならばそれはアーデルハイトの弱みを握ったということにもなるのだから。
俺は笑って、そうだなと頷いて聞いてみるかと思う。
しかし素直に答えるわけもないだろう。どうすれば素直になるかは知ってはいるのだから、言わせてやるのは簡単な事だ。
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