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鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)
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おおよそ、予想の範囲だったのだ。
あの三人を連れて行きたいということも。それから抱かれたくない、子は嫌だということも。
すべて言いくるめてどうにでもできる事ではあったのだ。
アーデルハイトに言った通り、最悪リヒテールの王に頼んで王命としてもらうこともできた。
しかしそれは、俺が女一人口説けぬ事となり、また何かしらの見返りをということにもなる。
俺にとっては悪手だ。
そうであることに気付いているかどうかはわからないが、アーデルハイトは俺にしてやられたと思っているようだ。
悪手を取らされる方がこちらにとっては痛い。まだそこまで考えを持っていけないところは甘い。
気付けていないところも、まだ最悪を想定できない幼さだろう。
もう少し考えれば出る答えだっただろうに。
最終的には頷かせるつもりだった。悪手を取らされる前には、だ。
だが、これでまた色々と準備ができる。そう思い、俺の心は少し軽かった。
しかし、だ。
子は孕みたくない、避妊しろという。そういうことを条件としてくる姿に自分の血に自信がないのだと思えた。
公爵から話には聞いていたが頑なな。セルデスディア王家は血の由来など気にはしないのだがアーデルハイトはそうではないようだ。
そんなもの、その者に才があればかすむと言うのに。
しかし、あの凝り固まっているであろう考えをほぐすのはすぐにはできないだろう。それを覆す方法をすぐに考えないといけないというわけでもない。
そして俺も、子という部分においてはまだこの女でよいのかと見定められていない。
俺には血を残す義務がある。王家を続かせる義務が。民が望む限りだが。
良い王族であり、良い王太子であると自他ともに認めている。今の王族が滅ぶことは望まれてはいないだろう。
いつかは子を、と言われるのは必至だが、それは急ぐことではないし心変わりもある。後々どうにでもできることのひとつだ。
話を終えれば、こちらは城へ帰るだけだ。
今まで見送りには一度も――いや、見送りできるような状態ではなかったか。
けれど今日は、それではまたとアーデルハイトは見送りに来た。
改めてみると、そういった所作は完璧なのだ。公爵が厳しくしつけたのだろうなと、思う。
ああ、ダンスも踊れるのか見ておかなければいけないか。それは次にしようと決め、馬車に乗り込む。
また来ると言えば、アーデルハイトは次に来る時にはといくつか要望を出してくる。
それはどれもかなえられるものだ。思うままにしてやろうと言えば当たり前だというようにそっぽを向く。
そう言った部分はまだ子供だが、ひとつ、片付いた。
まずアーデルハイトが頷かなければどうにもならない話だったのだから。
城に戻り、結婚に頷いたと陛下に伝え、正式な発表の日取りを決めるのが先決か。
式は一年後では遅い。しかし半年では短いだろう。準備に手間がかかる事はわかっている。
そろそろ姿絵も完成する頃だ。いるのかいないのかと、探るものもいるだろうから名と身分は出したい。
家格は他国の公爵家の娘。文句をつける輩はひとまずは、いないだろう。
どうしてこちらに連れてこないのかというのは足りない素養を補うまではと拒否されたことにすれば良い。
あとからの理由付けはできる。
本人がその気になったのは何故なのか。そのことを聞かなかったが何か思うことがあったのだろう。
それが何でも良いのだが、思う方向に進んでもらわなければ困る。
根回しするにも本人がいないほうがしやすい。
それから、あの三人に与えられる位を用意してやらねばならんのか。
護衛としての腕はあるのだろうから、見張りを一人か二人、つけておけばいいか。その人選は俺の仕事ではないのだが。
また馬車に揺られ、人知れず城に戻る。
今日も一日、ずっと城で仕事をしていたことになっているが、それは上手くいったようだ。
誰も知らぬ通路を通り執務室に入れば問題なく、とトゥーリが書置きをしている。
それでも早めに確認しなければいけない書類はある。椅子に座り、それを確認し終えて一息つく。
明日からは式に向けて色々と決めなければ。
嫁だなんだと、貴族どもから言われなくなるのは本当に幸いだ。
過去、何人かとも会ったがぴんとこない。宰相は娘をと考えているようだが、あの女ではだめだ。
欲を尽くすばかり。女たちを統制するなど、できないだろう。
国一番の、女の地位にいずれかつく。傍らに立つ女は普通であってはならないのだ。普通では、潰れてしまうのだから。
あの女ならば、潰れないだろう。
俺の望む王太子妃となってくれるだろうと思う。
恋情も、愛情もない。ただ義務的に、傍らに立つ女はなんと、都合が良いのだろう。
まだ少し、思う所もあるがそこは飲み込もう。
あれはわざと、セレンを助けなかったわけでは――ないのだから。
そういえば、だ。
アーデルハイトを妃に迎えると決めてから、セレンの事を思う回数は減った。
どう過ごしているかという報告はこちらにくる。療養先は良い所で多少はまともになったと報告はあった。
あの王子と、どこぞの令嬢と。
その二人に対してはまだ何もしていない。さすがに王子に手をだすのは――国同士の関係を悪くする。
令嬢については、王子がやっと気付いて裁可を下したのだとか。
遅い。遅すぎる。
令嬢については、学園を追い出され。そして家からも縁を切られたという。
今までちやほやと育ってきた女が市井で生きていけるとは思わない。しかし最低限、家からの援助は縁を切ったと言ってもあるようだ。
プライドの高い女にとっては娼館に入れられるなど冗談ではないという感じだろうな。
セレンは傷つけられた。しかしそれは生命を損なうようなものではない。
しかし謝罪は欲しい。セレンに対しての、謝罪は。
それがあるのならば、王子に対して苦いものは抱えるだろうが押し殺すことは可能だ。
公式の場ではこの感情を抑えられる。それが必要な事だからだ。
それに、これは俺個人の感情であってセレンの気持ちとは違う。
セレンがどうしたいのか。もう少し落ち着いたら問うべきだろう。今はまだ、無理だろうが。
大切な――セレンファーレ。
俺はセレンの望みを、すべて叶えてやりたいほどには心砕いている。
そのような存在は、セレンだけだ。
そう思ったところにふと、アーデルハイトの姿がちらつく。
あれは叶えずとも良い。自分で叶えてしまう性質の者なのだから。
あの三人を連れて行きたいということも。それから抱かれたくない、子は嫌だということも。
すべて言いくるめてどうにでもできる事ではあったのだ。
アーデルハイトに言った通り、最悪リヒテールの王に頼んで王命としてもらうこともできた。
しかしそれは、俺が女一人口説けぬ事となり、また何かしらの見返りをということにもなる。
俺にとっては悪手だ。
そうであることに気付いているかどうかはわからないが、アーデルハイトは俺にしてやられたと思っているようだ。
悪手を取らされる方がこちらにとっては痛い。まだそこまで考えを持っていけないところは甘い。
気付けていないところも、まだ最悪を想定できない幼さだろう。
もう少し考えれば出る答えだっただろうに。
最終的には頷かせるつもりだった。悪手を取らされる前には、だ。
だが、これでまた色々と準備ができる。そう思い、俺の心は少し軽かった。
しかし、だ。
子は孕みたくない、避妊しろという。そういうことを条件としてくる姿に自分の血に自信がないのだと思えた。
公爵から話には聞いていたが頑なな。セルデスディア王家は血の由来など気にはしないのだがアーデルハイトはそうではないようだ。
そんなもの、その者に才があればかすむと言うのに。
しかし、あの凝り固まっているであろう考えをほぐすのはすぐにはできないだろう。それを覆す方法をすぐに考えないといけないというわけでもない。
そして俺も、子という部分においてはまだこの女でよいのかと見定められていない。
俺には血を残す義務がある。王家を続かせる義務が。民が望む限りだが。
良い王族であり、良い王太子であると自他ともに認めている。今の王族が滅ぶことは望まれてはいないだろう。
いつかは子を、と言われるのは必至だが、それは急ぐことではないし心変わりもある。後々どうにでもできることのひとつだ。
話を終えれば、こちらは城へ帰るだけだ。
今まで見送りには一度も――いや、見送りできるような状態ではなかったか。
けれど今日は、それではまたとアーデルハイトは見送りに来た。
改めてみると、そういった所作は完璧なのだ。公爵が厳しくしつけたのだろうなと、思う。
ああ、ダンスも踊れるのか見ておかなければいけないか。それは次にしようと決め、馬車に乗り込む。
また来ると言えば、アーデルハイトは次に来る時にはといくつか要望を出してくる。
それはどれもかなえられるものだ。思うままにしてやろうと言えば当たり前だというようにそっぽを向く。
そう言った部分はまだ子供だが、ひとつ、片付いた。
まずアーデルハイトが頷かなければどうにもならない話だったのだから。
城に戻り、結婚に頷いたと陛下に伝え、正式な発表の日取りを決めるのが先決か。
式は一年後では遅い。しかし半年では短いだろう。準備に手間がかかる事はわかっている。
そろそろ姿絵も完成する頃だ。いるのかいないのかと、探るものもいるだろうから名と身分は出したい。
家格は他国の公爵家の娘。文句をつける輩はひとまずは、いないだろう。
どうしてこちらに連れてこないのかというのは足りない素養を補うまではと拒否されたことにすれば良い。
あとからの理由付けはできる。
本人がその気になったのは何故なのか。そのことを聞かなかったが何か思うことがあったのだろう。
それが何でも良いのだが、思う方向に進んでもらわなければ困る。
根回しするにも本人がいないほうがしやすい。
それから、あの三人に与えられる位を用意してやらねばならんのか。
護衛としての腕はあるのだろうから、見張りを一人か二人、つけておけばいいか。その人選は俺の仕事ではないのだが。
また馬車に揺られ、人知れず城に戻る。
今日も一日、ずっと城で仕事をしていたことになっているが、それは上手くいったようだ。
誰も知らぬ通路を通り執務室に入れば問題なく、とトゥーリが書置きをしている。
それでも早めに確認しなければいけない書類はある。椅子に座り、それを確認し終えて一息つく。
明日からは式に向けて色々と決めなければ。
嫁だなんだと、貴族どもから言われなくなるのは本当に幸いだ。
過去、何人かとも会ったがぴんとこない。宰相は娘をと考えているようだが、あの女ではだめだ。
欲を尽くすばかり。女たちを統制するなど、できないだろう。
国一番の、女の地位にいずれかつく。傍らに立つ女は普通であってはならないのだ。普通では、潰れてしまうのだから。
あの女ならば、潰れないだろう。
俺の望む王太子妃となってくれるだろうと思う。
恋情も、愛情もない。ただ義務的に、傍らに立つ女はなんと、都合が良いのだろう。
まだ少し、思う所もあるがそこは飲み込もう。
あれはわざと、セレンを助けなかったわけでは――ないのだから。
そういえば、だ。
アーデルハイトを妃に迎えると決めてから、セレンの事を思う回数は減った。
どう過ごしているかという報告はこちらにくる。療養先は良い所で多少はまともになったと報告はあった。
あの王子と、どこぞの令嬢と。
その二人に対してはまだ何もしていない。さすがに王子に手をだすのは――国同士の関係を悪くする。
令嬢については、王子がやっと気付いて裁可を下したのだとか。
遅い。遅すぎる。
令嬢については、学園を追い出され。そして家からも縁を切られたという。
今までちやほやと育ってきた女が市井で生きていけるとは思わない。しかし最低限、家からの援助は縁を切ったと言ってもあるようだ。
プライドの高い女にとっては娼館に入れられるなど冗談ではないという感じだろうな。
セレンは傷つけられた。しかしそれは生命を損なうようなものではない。
しかし謝罪は欲しい。セレンに対しての、謝罪は。
それがあるのならば、王子に対して苦いものは抱えるだろうが押し殺すことは可能だ。
公式の場ではこの感情を抑えられる。それが必要な事だからだ。
それに、これは俺個人の感情であってセレンの気持ちとは違う。
セレンがどうしたいのか。もう少し落ち着いたら問うべきだろう。今はまだ、無理だろうが。
大切な――セレンファーレ。
俺はセレンの望みを、すべて叶えてやりたいほどには心砕いている。
そのような存在は、セレンだけだ。
そう思ったところにふと、アーデルハイトの姿がちらつく。
あれは叶えずとも良い。自分で叶えてしまう性質の者なのだから。
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