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掌編
愛を捧ぐ日
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バレンタイン的な日を作ったのでそういう日の色々
くっついた後ということで
「……愛を捧ぐ日が近づいてくると、皆様浮足立ちますわね」
「そうだな。お前は?」
「わたくしは、別に」
「そうか」
「…………欲しいのです?」
「それは欲しい」
「そう」
そう、欲しいのですか、そうですか。
それはとても、困るとわたくしは思うのです。
愛を捧ぐ日。恋人たちを守る聖人にちなんでのお祝いの日。
恋人同士のいろいろについて御利益がありとかなんとか、そういう日で。
意中の方に贈物をしたり、恋人同士が一層、仲を深めたり。そういった日の過ごし方を、わたくしはよくわかっていない。
というのも、犬達からあげるともらって。じゃあそれでお茶会……というようなことばかりでしたし。
彼等もわたくしが何か残るものを貰う事はあまり好きではないのを知っているので、その場で食べて終わり。
いつもと変わらぬものでした。
ですので、誰にもあげた事がないのです。
だから何を送れば良いのか、わたくしはわからない。
城下に降りて店先を見れば、きっと季節柄おすすめのものが並んでいるのでしょうが勝手に出てはいけませんし。
行くと言えば、一緒に行くと言うでしょうし。
「はぁ……」
「どうした、溜息なんてついて」
「いえ。別に」
「……別に、ではないだろう」
どうすればいいのかしらとつく溜息に食いついてくる。
聞かれても困るばかりよ、察しなさいよ。
そう言うところ、駄目だと思うのよね、リヒトは。
執拗に聞いてくるけれどそれを交わして過ごす日々。
そして当日――なぜか、わたくし達の部屋に贈物がやってくる。
わたくし宛のもあるけれど、リヒト宛が多い。文官が置いていく誰からかという知らせは、貴族の娘達からのものが多い。
それを見て一日過ごしたわたくしは、少しピリピリしてしまったのです。
何故かと言うと――結局、何を贈ればいいのかわからなくて。
わからなくて、犬達にもなんとなく相談できぬまま今日まで来てしまったという。
いえ、色々と考えたのよ。考えて、ひとつは浮かんだの。でもそれは禁じ手ではと思って無しとした。
もうわたくし宛にきたもののひとつをあげてしまいましょうかと自棄になるほどに贈物がある。
自分宛てのものをいくつか開けてみると、菓子類が多い。こんなに沢山、食べきれるわけがありません。
ツェリにいって、いくつかを皆でと侍女たちへ。詰め合わせたりして分け合いますと言う。
まぁ、そうされると思っての菓子類なのでしょう。
その日、執務から帰ってきたリヒトは多いなと、興味なさげに言いつつ。
わたくしの目の前でそれを開いて見せる。
「…………リヒトは、わたくしの目の前でほかの方からの、意味ある贈物をあけるのね」
「……妬いているのか?」
「いえ、別に。わたくしの夫は多くの方から愛を捧ぐ贈物を頂く素晴らしい夫ですので」
「妬いているな」
するりと、隣に座って腰を抱いてくる。
そうね、妬いていると言えなくもない。
あんなに、人前でも仲睦まじくしているというのにこんなに沢山贈られるのだから。
皆様、わかっててやってるのかしら!
「……でも一番欲しい相手からはもらえてないのだが」
「今更、必要ないでしょう?」
「ある。俺は用意した」
「えっ」
ごくごく自然に、わたくしの手を取って。
左手の薬指に指輪をはめてくる。それは宝石も何もない、シンプルな銀の指輪――とみせかけて確り、高そうな石が入っている。
その色は、リヒトの瞳と同じ色。
「……金色でしたら、あなたの髪色と同じでしたわね」
「そこまですると、嫌がられそうだと思ったのでしなかった」
お前はシンプルな方が良いだろうと、わたくしの事をよくわかってらっしゃる。
「そうね。金色ならこれを見るたびにあなたのことを思い出してしまうから、いつか外してしまうかもしれないわ」
「ずっとつけていてくれるか?」
「気が向けば」
「素直ではない……」
ふん、とそっぽ向けばこっちを向いてくれと言われ。
どうしようかしらとわたくしは勿体ぶってみせる。
「アーデルハイトからは?」
「……」
「アーデルハイトからは、ないのか?」
「あなた、自分で聞いてしまうのね」
「ああ。言わないと、お前は答えてくれないしなかったことにするかもしれない」
うっ。聞かないでいただけると嬉しかったのだけれど。
どうしようかしらと視線を泳がせていると、リヒトは困ったように笑う。
無ければ、無いと言ってくれたら良いと。
けれどそんな顔をされたら、あげるしかないじゃない。
「…………いいえ、あるわ。あるわよ」
「ある、のか?」
「ええ、でも物でもなんでもないわよ」
「ああ」
「……………いいわよ」
「……何?」
「だ、だから……わ、わたくしを、この夜だけ好きにしていい権利を、あげるといったの!」
この手は、この手は使いたくなかったのですけれど。
本当に、使いたくなかったのだけれど!
色々考えて、この人が喜びそうなものはこれしか、思い浮かばなかったのだから。
リヒトはいつも、わたくしに遠慮している。いえ、わたくしはその愛を一身に受けるだけで疲れるのだけど、多分この方はそれでは足りていない。
「それは」
「そ、それは?」
「俺の気が済むまで付き合ってくれる、と?」
「……ま、まぁ、そういうことね」
そう言うと、リヒトははーと長い息をつきながら片手で顔を半分隠してしまった。
え、もしかして。もしかしてわたくし、呆れられている?
「いらないのならいいですけれど」
「いや、いる。むしろここでくつろいでいる時間すら惜しい」
リヒトはわたくしを抱え上げ、足早に寝室に向かう。
この先、どうなるかなんてわかっているのだけれど一応、わたくしは聞いておくことにしたのです。
一応。
「……あ、朝まで?」
「朝までとは言わない」
「そ、そう」
「明け方まではする」
「それほとんど変わらないじゃない!」
わたくしの悲鳴にもにた声は笑い声でかき消されて、寝台に下ろされるとすぐに口づけられて。
視線が合えば、ああ、これは。
貪りつくされると思うような顔をしている。
ああ、子供たちを預けておいて正解だったと、わたくしは思うのでした。
この後をかいてもいいのだけれど。
かけたらかきますが明らかにR18では?みたいなものになりそうな気がするので
期間限定とかにするかもしれません。
かけたら!
くっついた後ということで
「……愛を捧ぐ日が近づいてくると、皆様浮足立ちますわね」
「そうだな。お前は?」
「わたくしは、別に」
「そうか」
「…………欲しいのです?」
「それは欲しい」
「そう」
そう、欲しいのですか、そうですか。
それはとても、困るとわたくしは思うのです。
愛を捧ぐ日。恋人たちを守る聖人にちなんでのお祝いの日。
恋人同士のいろいろについて御利益がありとかなんとか、そういう日で。
意中の方に贈物をしたり、恋人同士が一層、仲を深めたり。そういった日の過ごし方を、わたくしはよくわかっていない。
というのも、犬達からあげるともらって。じゃあそれでお茶会……というようなことばかりでしたし。
彼等もわたくしが何か残るものを貰う事はあまり好きではないのを知っているので、その場で食べて終わり。
いつもと変わらぬものでした。
ですので、誰にもあげた事がないのです。
だから何を送れば良いのか、わたくしはわからない。
城下に降りて店先を見れば、きっと季節柄おすすめのものが並んでいるのでしょうが勝手に出てはいけませんし。
行くと言えば、一緒に行くと言うでしょうし。
「はぁ……」
「どうした、溜息なんてついて」
「いえ。別に」
「……別に、ではないだろう」
どうすればいいのかしらとつく溜息に食いついてくる。
聞かれても困るばかりよ、察しなさいよ。
そう言うところ、駄目だと思うのよね、リヒトは。
執拗に聞いてくるけれどそれを交わして過ごす日々。
そして当日――なぜか、わたくし達の部屋に贈物がやってくる。
わたくし宛のもあるけれど、リヒト宛が多い。文官が置いていく誰からかという知らせは、貴族の娘達からのものが多い。
それを見て一日過ごしたわたくしは、少しピリピリしてしまったのです。
何故かと言うと――結局、何を贈ればいいのかわからなくて。
わからなくて、犬達にもなんとなく相談できぬまま今日まで来てしまったという。
いえ、色々と考えたのよ。考えて、ひとつは浮かんだの。でもそれは禁じ手ではと思って無しとした。
もうわたくし宛にきたもののひとつをあげてしまいましょうかと自棄になるほどに贈物がある。
自分宛てのものをいくつか開けてみると、菓子類が多い。こんなに沢山、食べきれるわけがありません。
ツェリにいって、いくつかを皆でと侍女たちへ。詰め合わせたりして分け合いますと言う。
まぁ、そうされると思っての菓子類なのでしょう。
その日、執務から帰ってきたリヒトは多いなと、興味なさげに言いつつ。
わたくしの目の前でそれを開いて見せる。
「…………リヒトは、わたくしの目の前でほかの方からの、意味ある贈物をあけるのね」
「……妬いているのか?」
「いえ、別に。わたくしの夫は多くの方から愛を捧ぐ贈物を頂く素晴らしい夫ですので」
「妬いているな」
するりと、隣に座って腰を抱いてくる。
そうね、妬いていると言えなくもない。
あんなに、人前でも仲睦まじくしているというのにこんなに沢山贈られるのだから。
皆様、わかっててやってるのかしら!
「……でも一番欲しい相手からはもらえてないのだが」
「今更、必要ないでしょう?」
「ある。俺は用意した」
「えっ」
ごくごく自然に、わたくしの手を取って。
左手の薬指に指輪をはめてくる。それは宝石も何もない、シンプルな銀の指輪――とみせかけて確り、高そうな石が入っている。
その色は、リヒトの瞳と同じ色。
「……金色でしたら、あなたの髪色と同じでしたわね」
「そこまですると、嫌がられそうだと思ったのでしなかった」
お前はシンプルな方が良いだろうと、わたくしの事をよくわかってらっしゃる。
「そうね。金色ならこれを見るたびにあなたのことを思い出してしまうから、いつか外してしまうかもしれないわ」
「ずっとつけていてくれるか?」
「気が向けば」
「素直ではない……」
ふん、とそっぽ向けばこっちを向いてくれと言われ。
どうしようかしらとわたくしは勿体ぶってみせる。
「アーデルハイトからは?」
「……」
「アーデルハイトからは、ないのか?」
「あなた、自分で聞いてしまうのね」
「ああ。言わないと、お前は答えてくれないしなかったことにするかもしれない」
うっ。聞かないでいただけると嬉しかったのだけれど。
どうしようかしらと視線を泳がせていると、リヒトは困ったように笑う。
無ければ、無いと言ってくれたら良いと。
けれどそんな顔をされたら、あげるしかないじゃない。
「…………いいえ、あるわ。あるわよ」
「ある、のか?」
「ええ、でも物でもなんでもないわよ」
「ああ」
「……………いいわよ」
「……何?」
「だ、だから……わ、わたくしを、この夜だけ好きにしていい権利を、あげるといったの!」
この手は、この手は使いたくなかったのですけれど。
本当に、使いたくなかったのだけれど!
色々考えて、この人が喜びそうなものはこれしか、思い浮かばなかったのだから。
リヒトはいつも、わたくしに遠慮している。いえ、わたくしはその愛を一身に受けるだけで疲れるのだけど、多分この方はそれでは足りていない。
「それは」
「そ、それは?」
「俺の気が済むまで付き合ってくれる、と?」
「……ま、まぁ、そういうことね」
そう言うと、リヒトははーと長い息をつきながら片手で顔を半分隠してしまった。
え、もしかして。もしかしてわたくし、呆れられている?
「いらないのならいいですけれど」
「いや、いる。むしろここでくつろいでいる時間すら惜しい」
リヒトはわたくしを抱え上げ、足早に寝室に向かう。
この先、どうなるかなんてわかっているのだけれど一応、わたくしは聞いておくことにしたのです。
一応。
「……あ、朝まで?」
「朝までとは言わない」
「そ、そう」
「明け方まではする」
「それほとんど変わらないじゃない!」
わたくしの悲鳴にもにた声は笑い声でかき消されて、寝台に下ろされるとすぐに口づけられて。
視線が合えば、ああ、これは。
貪りつくされると思うような顔をしている。
ああ、子供たちを預けておいて正解だったと、わたくしは思うのでした。
この後をかいてもいいのだけれど。
かけたらかきますが明らかにR18では?みたいなものになりそうな気がするので
期間限定とかにするかもしれません。
かけたら!
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