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掌編
酷い事を言うと笑う幸せ
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ちゃんとくっついた後の話。
例えばの話、なのだけれど。
きっとこれを問えば、お前はなんでそんなことを言うのだと表情歪めることはわかっているのだけれど。
それでも、わたくしは聞いてみたい。
例えば、わたくしが突然、死んでしまったら。
あなたどうしますの、と。
「……死ぬ予定なんてないだろう?」
「ええ、それはそうですけれど……聞いてみたくて」
「聞いてみたくて、で酷いことを聞くんだな」
「ええ」
まぁ、こういう反応も予想の内。
叱られるかしら、文句を言われるかしらとも思っていたのだけれどあっさり。
でも黙ってしまった。
「答えたくなければ別にいいのですけれど」
「アーデルハイトは?」
「わたくし?」
「お前は、俺が突然死んだらどうする?」
「どうすると問われる幅が広いのですけれど」
それなら俺にとってもそうだろう、と返された。確かに。
その幅については何もいってませんでしたわね。
「俺が死ねば、先王が戻られて子供らが育つまでは政を行うだろう。お前もきっと手助けはするんだろうな」
「そうですわね……わたくし、あなたが亡くなったら取り乱すかしら。逆に冷静かもしれませんけれど」
いとしいひとを亡くす、なんてこと。
そんな経験、ありませんからどんな気持ちになるかなんてわかりませんわ。
けれど、わたくしは後追いなんてしないとは思うのです。
そんなことをしても喜ばないでしょうし、何より周囲に迷惑がかかるでしょう。
だから、生きていくのです。
ずっと、リヒトの事を想って、引きずって、生きていく。
この人も、そうであってくれるかしら。
「あなたがいなくなってしまったら、わたくしは王家の血筋でもありませんし、面倒なことが片付いたらどこか静かな所で暮らしますわ。ああ……あなたと過ごしたあのお屋敷にしようかしら」
「意地の悪いことを言う……」
「ふふ。でもわたくしあそこが良いわ。あそこならあなたとの思い出しかありませんもの」
それは幸せというものに満たされているわけではないけれど。
わたくしとリヒトだけの思い出と言えることなのですし。
こんな風に思うなんて歪んでいるかしら。わたくしはあれもあれで幸せだったと思うのですけれど。
「……俺は、お前がいなくなったら生きていけない」
「そう」
「けれど、後を追うことは無い。俺は王だからな……できない。時がたてば後妻をと言われるんだろうな」
「言われるでしょうね。子供たちに母親が必要だとかなんとか……」
「ああ。それをきっと煩わしいと、俺は思うんだろうな」
「別に、わたくしはよろしくてよ。わたくしがいなくなっての話ですし。あなたが誰かを好いて傍に置いても咎めることもありませんし」
そう言うと、そんなことできるわけないだろうと言ってリヒトはわたくしの頬を撫でる。
酷く優しくて心地よい。死んでしまえばこうして触れることもなくなってしまうのよね。
「お前より、俺の心揺さぶる女はいないだろう。お前の記憶は鮮烈で、それを塗り替えられる相手なんていない」
「ふふ、それは嬉しい事ね。じゃあ、言ってあげるわ。もし、わたくしが先に死んでしまったら」
わたくしのこと、一生抱えて生きて。あなたの心に爪痕遺していってあげるわ。
「酷い事を言う。まるで、お前が先に死んでいくみたいな」
「そうね。どちらが先に死ぬかしら」
「それはまだ、何十年も先であってほしい。俺が先に死んで、お前を置いていく」
「どうなるかしらね」
「さぁな。けれどこういう事を言われて、俺はあまり嬉しくはない。やっと通じ合ったのにもう死んだときの話をされてもな」
酷い女だとリヒトは笑う。
わたくしは、いつ何が起こるかわからないのだからするのよとこの話はもう終わりとしようとしたのだけれどそうはさせてくれない。
「死ぬ話などされて俺の心は大いに傷ついた」
「うそ。そんなことないでしょうに」
「いいや、傷ついた。だから慰めろ」
もう、とわたくしは息をつく。慰めろ、なんて命令じゃない。
楽しんでいるだけだわ。わたくしは本当に仕方ない男ねと笑って、リヒトへと手を伸ばした。
どっちも死んだらお互い引きずって生きてくやつ。
どっちもどっち!!
例えばの話、なのだけれど。
きっとこれを問えば、お前はなんでそんなことを言うのだと表情歪めることはわかっているのだけれど。
それでも、わたくしは聞いてみたい。
例えば、わたくしが突然、死んでしまったら。
あなたどうしますの、と。
「……死ぬ予定なんてないだろう?」
「ええ、それはそうですけれど……聞いてみたくて」
「聞いてみたくて、で酷いことを聞くんだな」
「ええ」
まぁ、こういう反応も予想の内。
叱られるかしら、文句を言われるかしらとも思っていたのだけれどあっさり。
でも黙ってしまった。
「答えたくなければ別にいいのですけれど」
「アーデルハイトは?」
「わたくし?」
「お前は、俺が突然死んだらどうする?」
「どうすると問われる幅が広いのですけれど」
それなら俺にとってもそうだろう、と返された。確かに。
その幅については何もいってませんでしたわね。
「俺が死ねば、先王が戻られて子供らが育つまでは政を行うだろう。お前もきっと手助けはするんだろうな」
「そうですわね……わたくし、あなたが亡くなったら取り乱すかしら。逆に冷静かもしれませんけれど」
いとしいひとを亡くす、なんてこと。
そんな経験、ありませんからどんな気持ちになるかなんてわかりませんわ。
けれど、わたくしは後追いなんてしないとは思うのです。
そんなことをしても喜ばないでしょうし、何より周囲に迷惑がかかるでしょう。
だから、生きていくのです。
ずっと、リヒトの事を想って、引きずって、生きていく。
この人も、そうであってくれるかしら。
「あなたがいなくなってしまったら、わたくしは王家の血筋でもありませんし、面倒なことが片付いたらどこか静かな所で暮らしますわ。ああ……あなたと過ごしたあのお屋敷にしようかしら」
「意地の悪いことを言う……」
「ふふ。でもわたくしあそこが良いわ。あそこならあなたとの思い出しかありませんもの」
それは幸せというものに満たされているわけではないけれど。
わたくしとリヒトだけの思い出と言えることなのですし。
こんな風に思うなんて歪んでいるかしら。わたくしはあれもあれで幸せだったと思うのですけれど。
「……俺は、お前がいなくなったら生きていけない」
「そう」
「けれど、後を追うことは無い。俺は王だからな……できない。時がたてば後妻をと言われるんだろうな」
「言われるでしょうね。子供たちに母親が必要だとかなんとか……」
「ああ。それをきっと煩わしいと、俺は思うんだろうな」
「別に、わたくしはよろしくてよ。わたくしがいなくなっての話ですし。あなたが誰かを好いて傍に置いても咎めることもありませんし」
そう言うと、そんなことできるわけないだろうと言ってリヒトはわたくしの頬を撫でる。
酷く優しくて心地よい。死んでしまえばこうして触れることもなくなってしまうのよね。
「お前より、俺の心揺さぶる女はいないだろう。お前の記憶は鮮烈で、それを塗り替えられる相手なんていない」
「ふふ、それは嬉しい事ね。じゃあ、言ってあげるわ。もし、わたくしが先に死んでしまったら」
わたくしのこと、一生抱えて生きて。あなたの心に爪痕遺していってあげるわ。
「酷い事を言う。まるで、お前が先に死んでいくみたいな」
「そうね。どちらが先に死ぬかしら」
「それはまだ、何十年も先であってほしい。俺が先に死んで、お前を置いていく」
「どうなるかしらね」
「さぁな。けれどこういう事を言われて、俺はあまり嬉しくはない。やっと通じ合ったのにもう死んだときの話をされてもな」
酷い女だとリヒトは笑う。
わたくしは、いつ何が起こるかわからないのだからするのよとこの話はもう終わりとしようとしたのだけれどそうはさせてくれない。
「死ぬ話などされて俺の心は大いに傷ついた」
「うそ。そんなことないでしょうに」
「いいや、傷ついた。だから慰めろ」
もう、とわたくしは息をつく。慰めろ、なんて命令じゃない。
楽しんでいるだけだわ。わたくしは本当に仕方ない男ねと笑って、リヒトへと手を伸ばした。
どっちも死んだらお互い引きずって生きてくやつ。
どっちもどっち!!
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