悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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掌編

あなたの口から聞いてません

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誕生日決めてないんですけど、きっとこういうのあっただろうなと思って。
時系列的には、多分…多分、愛してみようと思うとか言い始めた、あのサレンドルさんと密会のあとくらい。
(ということにした)
なのでまだ、名前の呼び方はディートリヒ様です。


 結婚したその年はばたばたしていてスルーしてしまったので、今年は頑張ったの、とはわたくしは言わない。
 だって見せてから、驚かせたいじゃない?
「お誕生日おめでとう、ジーク」
「ああ、ありがとう」
「お願いして厨房を借りてケーキを作ったのよ」
「…………え?」
「なぁに?」
「いや、その」
「…………失敗してないから大丈夫よ」
 ひどい。確かに厨房を貸して、というと料理長たちは慌てふためいていたけれど、料理くらいは、多少できるのです。
 小さい頃は自分で、何か作ったりもしていたのを何となく覚えていますし。
 とはいっても、火の扱いなどについてはへたくそなので、そこはやりますととられてしまって自分で全部したわけではありません。
 混ぜるのと、最後の飾りつけだけしたのでわたくしが作った、と言い切れるのかどうかとは思いますけれど。
 けれど、書いてある通りにやれば大体はできるもの。
 ジークが顔をしかめるのは、そういえば今までは失敗ばかりしていたからかもしれない。
 去年もおととしも、真っ黒なケーキだったもの。
 オーブンの扱いは難しいのよ。けれど、今回焼くのはしてもらったから焦げなかったわ。
「ジーク、大丈夫。俺も横でみてたけど、ケーキだった。味は知らないけど」
「そう、味は。でも、これが美味しいなら来月の誕生日が楽しみ……」
「お前ら……」
「何言ってるの? そこそこあるんだからあなた達も一緒に食べるのよ?」
 そう言うと、ハインツとフェイルは微妙そうな顔をする。逃げようとして一歩踏み出したフェイルの肩をハインツは即座に掴んだのです。
 そして、ツェリにお茶を淹れてもらっておそるおそる、ジークはケーキを口に。
 表情が変わらないのでおいしいのかどうか、わからないのが悩みどころ。
「どう?」
「……ぼそぼそしている」
「ぼそぼそ? そんなはずは…………ぼそぼそしてるわね」
 わたくしも一口いただく。
 味は悪くない、と思うのだけれど食感が。ぼそぼそしているとしか言いようがない。
 二人も食べろとジークが言うと、同じように口にして。
 同じように、ぼそぼそしていると零す。
「失敗ね。やっぱり作ってもらった方が美味しいわ……」
「でも作ったからには捨てるのももったいない……」
 変なところが律儀なジークは切り分けたものを全て平らげた。ハインツとフェイルも同じ。
 そうすると、わたくしも自分の分はと口にする。
 もっと簡単なものに挑戦すればよかったかしら。ドライフルーツたっぷりのパウンドケーキとか。
 それならしっとりするかもしれないわ。次はそうしましょう。
 と、一人で決める。
 どうにか食べて、お茶で流し込む。そうすると口当たりはさっぱり。
 けれど、あと半分残っているケーキはどうしようかしら。
 料理長に止めてもらったのは正解。この倍の大きさのものを作っていたらと思うと。
 ええ、食べきれないもの。
「あとは俺が持って帰る」
「え、いいのよ。無理に持って帰らなくても」
「失敗でもなんでも、アーデが作ってくれたものだから」
 その言葉はわたくしではなく未来の奥様に言うものよ、と思うのだけれど。
 そう、と頷いてツェリに包んでとお願いする。
 ジークはそれを持って帰り、平らげたのだとわたくしに告げた。
 その数日後の事。
「アーデルハイト」
「なんです?」
「お前、ケーキが作れるそうだな」
「……え?」
「犬には贈るが俺には贈らないのか?」
「…………ええと」
 ええと。
 まず、どうしてそれをご存知なのか、と思ったのだけれど。
 朝食をとりながら、ごくごく自然にそのようなことを仰るディートリヒ様。
「贈ろうにも、わたくしあなたのお誕生日、聞いてませんし」
「は?」
「聞いてませんわ。わたくし、知ってはいますけれど、本人の口からは聞いておりません」
 そう、誕生日があることは知っているのです。
 だって予定として王太子の誕生日を祝う夜会がありますもの。ええ、もちろん知ってますわ。
 しかも二週間後。
 表向き、ちゃんとお祝いも言いますけれど。贈物も皆様の前でしますけれど。
 けれど、個人的に何か贈るところまでいくほど仲が良いわけでもなく。
 これは、欲しいと言うことですの? それもケーキ? でもあれは失敗しましたし。
「……つまり、自ら思い立って何か贈ろうと思う間柄では、ないということなんだな。お前の中では」
「ええ、まぁ……そうですわね。けれど欲しいと仰るなら何か考えないでも」
「欲しい」
 あら、早い。欲しい、と言って笑う。
 そう言われると、わかりましたと言うしかないじゃないですか。
「わかりましたわ。何か考えます」
「ケーキが良い。お前が作ったものというのを食べてみたい」
「そ、それはなかなか難しい……それに作れませんのよ。前のも失敗、でしたし」
「失敗していてもかまわんよ」
 お前が作ったものなら何でも良い、と仰る。それはもう、楽しげに。
 そう言われて、当日はさすがに無理ですから、また料理長に勘弁してくださいと言われつつ厨房に立つ。
 失敗して笑われるのは悔しいので料理長にお願いして一緒に作ってもらいました。
 そして出来上がったパウンドケーキはなかなか、立派なもの。
 ディートリヒ様に少し早いですがとさしあげれば、思いのほか美味しかったらしく吃驚していました。
 ええ、わたくしだってこんな風にできるなんて――というより。
 ほとんど料理長にやってもらったのですけれどそれは言いません。
 これはわたくしが、作ったのです。
「失敗すると思っていた。こう、黒焦げの……」
「あなた、貰っておいて失礼な事ばっかり言ってますわ」
 もうこれはあげませんと皿を引こうとすると、そう言うなと手を押さえる。
 まぁ、実際。
 どうやって作ったかなんてご存知なのでしょう。料理長がほとんど手をいれたものですし。
 けれどこのままでは悔しい。いつか自分で作れるようにもなりたいものと思うのでした。




多分五年後くらいにはパウンドケーキくらいはつくれるようになってる気がします。
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