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鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)
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女がどう過ごしていたか、報告を受ける。
別段慌てるでもなく、怯えるでもなくといった所か。
「は、肝は座っているようだな」
そうでなくては公爵家の娘などやっていられないかとも思う。
「殿下、この後どうなさるおつもりで?」
「話を聞いて、俺が納得したら返す。お前が調べたことも確かだろうが、調べきれぬところもあっただろう」
「人の心の内については無理ですね」
「そこまで探れとは言わん。俺は一週間ほどはここに居るが一度帰る。一度戻らねば処せないことがあるしな……俺がいない間は頼む」
「一週間で終わらない、と?」
「ああ。終わらないだろう」
あれは簡単には落とせないと俺は笑う。
そう、あれは簡単に折れないだろう。素直に本当のことを話すとは思えない。
別に、何か一本、芯が通っているわけでもないのだろうが、屈させるには骨が折れる。
そう感じるのだ。
「もう下がっていい」
「はい」
一人になり、腰掛けた椅子に一層身を沈める。
瞳を閉じて思い浮かぶのはセレンの姿だ。
俺が守らねばならない、妹。血の繋がりは半分だがあの優しい妹を守るのは俺の役目なのだ。
けれど、セレンがいつか。いつか俺の手を離れるのもわかっている。
わかっているからこそ、それまではと思っているのに。
「許せるわけ、ないだろう……」
己も、だが。
セレンを傷つけた者達を許せるはずがない。
リヒテールの王子と、その傍に居る女もだ。しかし、王子相手に下手なことはできない。
私情で戦を起こすわけにはいかないのだから。だからこそどこかで、落としどころは欲しい。
表立って、セルデスディアの姫と言えないセレン。あちらだってそれを知らない。
だから、俺が出ていくわけにもいかない、というより出ていけない。
「……それにしても……性の悪い女だったな」
少し話してみた雰囲気、良い感じはまったくない。
笑みを湛えて、別に何を言われようともどうでも良い、というような顔をしている。
ただ時折面白がるような、そんなそぶりを見せるのが腹立たしく思えた。
明日、また話すことになるだろう。
あの女にはまだ聞かねばいけないことがある。
セレンがあの男を好きになったのは、それはセレンの心の問題だ。
それを止める事は、俺が傍にいたとしてもできなかっただろう。しかし、傍にいたならば。
もしもの話をしても仕方ないと、わかっているが。
傍にいたなら、俺はきっとあの王子はやめろと口を出しただろう。きっと嫌われてでも。
あの場に、近くにいたならば酷い扱いを受けるのを途中で割って入って、阻んだだろう。
しかし見世物のように人前で貶められた。その場に、あの女もいたのだ。
それをただ見ていたあの女は、セレンをその後、すぐにそこから出したという。
ことが起こる前に、防ぐこともきっと、あの女はできたのだろう。
セレンと友人と言うわけでもなかっただろうが、それでもあの学園で、力を持っているとすぐ名をあげられる一人だ。
新しく入ってきた者を知らぬわけがないだろう。
今まで、関わり合いにならなかった女が何を思ってそうしたのかも聞いてみなければわからない。
日は落ちて、しばし眠り朝になる。
朝からあの女の顔を見るのかと思うと、少しばかりイラつく。
美醜で言えば、あの顔は美しいと言うのだろう。見る目に絶えぬなんてことは無い。
しかしそう思えないのは、あの女の中身が悪辣であるからだ。
朝、部屋を訪れればまだ眠っていると言う。相手の都合など知らんと、普通では踏み込まないが寝所に足を踏み入れる。
上掛けを捲ればすやすやと気持ちよさそうにまだ眠っていて、図太い女だなと思った。
しかも、丈の長い、薄手の下着一枚で寝ている。必要なものは一式用意させているのに選んだのはこれかと眉は顰められる。
どういう教育を受けているのか、それともこの女が自由なだけなのか。
「起きろ」
「ん……寒い……」
「そんな格好で寝ていれば当たり前だろう」
「…………ふぁ、あら……おはようございます、かしら?」
うっすらと開いた瞳が、俺の姿を捕えてゆっくりと開いていく。
淑女の寝室に勝手に踏み入るなんて失礼ねと笑うが、そんなことは全く思っていないのだろう。
着替えろと言って背を向ければ、のろのろと支度を始める気配。
連れてこられ、恐怖も何もないのだろう。
ただあるがままを受け止めているように見える女は極めて異質に見えた。
ああ、やはり、これは普通の女ではない。
別段慌てるでもなく、怯えるでもなくといった所か。
「は、肝は座っているようだな」
そうでなくては公爵家の娘などやっていられないかとも思う。
「殿下、この後どうなさるおつもりで?」
「話を聞いて、俺が納得したら返す。お前が調べたことも確かだろうが、調べきれぬところもあっただろう」
「人の心の内については無理ですね」
「そこまで探れとは言わん。俺は一週間ほどはここに居るが一度帰る。一度戻らねば処せないことがあるしな……俺がいない間は頼む」
「一週間で終わらない、と?」
「ああ。終わらないだろう」
あれは簡単には落とせないと俺は笑う。
そう、あれは簡単に折れないだろう。素直に本当のことを話すとは思えない。
別に、何か一本、芯が通っているわけでもないのだろうが、屈させるには骨が折れる。
そう感じるのだ。
「もう下がっていい」
「はい」
一人になり、腰掛けた椅子に一層身を沈める。
瞳を閉じて思い浮かぶのはセレンの姿だ。
俺が守らねばならない、妹。血の繋がりは半分だがあの優しい妹を守るのは俺の役目なのだ。
けれど、セレンがいつか。いつか俺の手を離れるのもわかっている。
わかっているからこそ、それまではと思っているのに。
「許せるわけ、ないだろう……」
己も、だが。
セレンを傷つけた者達を許せるはずがない。
リヒテールの王子と、その傍に居る女もだ。しかし、王子相手に下手なことはできない。
私情で戦を起こすわけにはいかないのだから。だからこそどこかで、落としどころは欲しい。
表立って、セルデスディアの姫と言えないセレン。あちらだってそれを知らない。
だから、俺が出ていくわけにもいかない、というより出ていけない。
「……それにしても……性の悪い女だったな」
少し話してみた雰囲気、良い感じはまったくない。
笑みを湛えて、別に何を言われようともどうでも良い、というような顔をしている。
ただ時折面白がるような、そんなそぶりを見せるのが腹立たしく思えた。
明日、また話すことになるだろう。
あの女にはまだ聞かねばいけないことがある。
セレンがあの男を好きになったのは、それはセレンの心の問題だ。
それを止める事は、俺が傍にいたとしてもできなかっただろう。しかし、傍にいたならば。
もしもの話をしても仕方ないと、わかっているが。
傍にいたなら、俺はきっとあの王子はやめろと口を出しただろう。きっと嫌われてでも。
あの場に、近くにいたならば酷い扱いを受けるのを途中で割って入って、阻んだだろう。
しかし見世物のように人前で貶められた。その場に、あの女もいたのだ。
それをただ見ていたあの女は、セレンをその後、すぐにそこから出したという。
ことが起こる前に、防ぐこともきっと、あの女はできたのだろう。
セレンと友人と言うわけでもなかっただろうが、それでもあの学園で、力を持っているとすぐ名をあげられる一人だ。
新しく入ってきた者を知らぬわけがないだろう。
今まで、関わり合いにならなかった女が何を思ってそうしたのかも聞いてみなければわからない。
日は落ちて、しばし眠り朝になる。
朝からあの女の顔を見るのかと思うと、少しばかりイラつく。
美醜で言えば、あの顔は美しいと言うのだろう。見る目に絶えぬなんてことは無い。
しかしそう思えないのは、あの女の中身が悪辣であるからだ。
朝、部屋を訪れればまだ眠っていると言う。相手の都合など知らんと、普通では踏み込まないが寝所に足を踏み入れる。
上掛けを捲ればすやすやと気持ちよさそうにまだ眠っていて、図太い女だなと思った。
しかも、丈の長い、薄手の下着一枚で寝ている。必要なものは一式用意させているのに選んだのはこれかと眉は顰められる。
どういう教育を受けているのか、それともこの女が自由なだけなのか。
「起きろ」
「ん……寒い……」
「そんな格好で寝ていれば当たり前だろう」
「…………ふぁ、あら……おはようございます、かしら?」
うっすらと開いた瞳が、俺の姿を捕えてゆっくりと開いていく。
淑女の寝室に勝手に踏み入るなんて失礼ねと笑うが、そんなことは全く思っていないのだろう。
着替えろと言って背を向ければ、のろのろと支度を始める気配。
連れてこられ、恐怖も何もないのだろう。
ただあるがままを受け止めているように見える女は極めて異質に見えた。
ああ、やはり、これは普通の女ではない。
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