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本編
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「わたくしは、全部許してるのよ。怒ってませんし、あなたが何を不安に思ってるのか、わからないわ。何言ったって捨てないし逃げないわ」
「しかし」
「しかし、でもなんでもないわ。そもそも、もしわたくしがあなたを嫌いになったとしても別れたりしないわ。そんなこと、簡単にできないってわかってるもの」
「嫌いになるとか、言うな」
「もし、の話よ……嫌いにならないわ。だから教えてよ」
リヒトにそれを教えてよと笑いかける。すると、リヒトは少しずつ話し始めました。
まず、ちゃんと調べずにわたくしを怒りのままにさらった事が申し訳ない、と。
なにそれ、本当に今更ね。けれどそれは、わたくしも何もしなかったのだから。貴方の側からみればそうだったのでしょう。
「酷く罵ったし、感情をぶつけた」
「それは面白かったので、別に怒ってもなんともないのよ」
「面白い?」
「ええ。あなたの綺麗な顔が怒りに歪んでいて、早々見れるものではないと思ったし。それから、ああやって罵られるなんて初めての事だったから」
あれはあれで、刺激的だったのよと言うと変な顔をする。
なぁに、その顔はと笑いかければお前はそういうやつだったなとリヒトは言う。
自分が変に、申し訳ないと思っているのが馬鹿らしいと。
「それから、やっぱり無理矢理抱いた事」
「そうね。それは謝っていただくわ。ほら、謝って」
リヒトは、悪かったとわたくしに、まっすぐに視線向けて言うの。
ええ、本当に悪いと思っていたのね。
あの時、確かに怖くはあったのだけれど。でも、嫌ではなかったと思う。嫌であれば、どうにかして逃げようとするでしょうし。
それが無理なら死んでやるわ、とか言うと思うの。けれど、そんなことを一切、言った覚えがないのですから。
「良いわ、許す。それにわたくしも謝らなきゃ。貴方の気持ちを笑った事を。それでかっとなって、でしたでしょう?」
「謝らなくていい」
そうは、言うけれど。
あなただけ謝りっぱなしじゃない?
あの時、あなたとセレンファーレさんの関係を知らずに、わたくしはフラれたのね、かわいそうにと笑ったの。
報われない恋をしているなんて、って。それは、そうね。結婚してからもしばらく、そう思っていたわ。
リヒトとセレンファーレさんが半分血のつながった兄妹だと知るまでは。
それを知ると、そう思えなくなってしまった。
本当は思ったままにふるまうこともできたでしょうに、押し殺したのでしょう。
「いいえ、謝らせて。あなたの気持ちを馬鹿にして、面白がって笑ったのを、申し訳ないと思うわ。ごめんなさい」
「ああ……許す」
これで、リヒトの心は軽くなったかしら。
これは必要な事だったのでしょう?
昔は、謝らなくていいと思っていたけれど、これがあなたに必要なことならばわたくしは謝らせるわ。
それであなたが、前に進めるならいいと思うの。
馬鹿みたいね。いとしいからこそ、そう思えるのよ、リヒト。
決して、そう思ってることを言ったりしないけれど。
「他には、まだある?」
「ある」
「まだあるの……わたくしはもう心当たりがないのだけれど」
「ある……けど、多分お前は忘れたかなかったことにしただろうから、言わない」
「何よ、それ……」
「悪かったと言うから、それに頷いてくれ、それでいい」
なんの事かしら。まったく思い至る事がない。
わたくしはそれで良いのならと返す。リヒトが謝り、それを許す。
それだけで良いのなら、別にかまわないわ。
「謝って、気持ちはかわった?」
「ああ。お前が許してくれたから、愛されていると思える」
「……愛されてないと、思ってたの?」
「いや、愛してくれているとは、思っていたが……そうであると言える、自信がなかった」
何をいまさら、と思ってしまう、呆れてしまう。
手を伸ばして頬に触れる。それを受け入れて擽ったそうにすると少し、幼く見える。
きっとそれはわたくしだけが知っていることね。
リヒトはその手を掴まえて、わたくしの掌に口付る。それ、よくするわよね。
「くすぐったいわ」
「そうか?」
わたくしの掌から手首、腕とリヒトは口付を落とす。その腕の中に引きこまれて腰を抱かれて。
こんな風に触れられるのも当たり前になってしまったわ。
「わたくし、リヒトと出会えて幸せだったと思うのよ。だからセレンファーレさんには感謝しているわ」
「……セレンも、お前に感謝していると思う」
「そうかしら。そういえば、あちらもそろそろお子ができる頃だと思うのよね」
「…………それは」
あら、知らなかった? わたくし先日、もしかしたらというようなお手紙をいただいたのだけれど。
リヒトは何とも言えない顔をしていて。
「あなた、おじ様と呼んでいただきましょうね」
「そうなるとお前はおば様ではないのか」
「そうですけれど。おばと呼ばせなければいいだけですので」
生まれたお祝いに行きましょうとわたくしは言う。
その時にはフリードリヒとローデリヒもつれて。あの子達にも、わたくしが育った場所を見せてあげたいのですから。
そんな風に思うのは、やはりわたくしも普通の親だったのだと、思うのです。
それから、お父様とお義母様にも子供たちの成長を見せて差し上げたいの。
そこでふと、思うのはリヒトの本当のお父様の事。
先王陛下は、フリードリヒとローデリヒを本当の孫のようにかわいがってくださっています。
きっと似ているのでしょう。亡くなったディートリヒ様とも。
でしたら、体調は崩されているけれど、リヒトのお父様にも二人を見せて差し上げたい。リヒトは時折、尋ねているようですがわたくしまでそこについていくことは最初にお会いして以来、無かったのです。
「リヒト、今度二人を連れてお父様の所に参りましょう?」
何者か、教える事は子供たちにはできませんけれど。
きっとそれは一時の慰めにもなるでしょうから。
リヒトは、そうしていいならと言ってわたくしを抱きすくめました。
その後すぐ、起きる気配をフリードリヒが見せたので手を叩いて脱出する。
何とも言えない顔をしていましたけれど、今はこの子の方が少し、優先度が高いのです。
それを口にすると、あとで痛い目を見るのはわたくしなので言いませんけれど。
ああ、けれど。
今日はリヒトに好きにさせてあげてもいいと、少し思えたのでした。
「しかし」
「しかし、でもなんでもないわ。そもそも、もしわたくしがあなたを嫌いになったとしても別れたりしないわ。そんなこと、簡単にできないってわかってるもの」
「嫌いになるとか、言うな」
「もし、の話よ……嫌いにならないわ。だから教えてよ」
リヒトにそれを教えてよと笑いかける。すると、リヒトは少しずつ話し始めました。
まず、ちゃんと調べずにわたくしを怒りのままにさらった事が申し訳ない、と。
なにそれ、本当に今更ね。けれどそれは、わたくしも何もしなかったのだから。貴方の側からみればそうだったのでしょう。
「酷く罵ったし、感情をぶつけた」
「それは面白かったので、別に怒ってもなんともないのよ」
「面白い?」
「ええ。あなたの綺麗な顔が怒りに歪んでいて、早々見れるものではないと思ったし。それから、ああやって罵られるなんて初めての事だったから」
あれはあれで、刺激的だったのよと言うと変な顔をする。
なぁに、その顔はと笑いかければお前はそういうやつだったなとリヒトは言う。
自分が変に、申し訳ないと思っているのが馬鹿らしいと。
「それから、やっぱり無理矢理抱いた事」
「そうね。それは謝っていただくわ。ほら、謝って」
リヒトは、悪かったとわたくしに、まっすぐに視線向けて言うの。
ええ、本当に悪いと思っていたのね。
あの時、確かに怖くはあったのだけれど。でも、嫌ではなかったと思う。嫌であれば、どうにかして逃げようとするでしょうし。
それが無理なら死んでやるわ、とか言うと思うの。けれど、そんなことを一切、言った覚えがないのですから。
「良いわ、許す。それにわたくしも謝らなきゃ。貴方の気持ちを笑った事を。それでかっとなって、でしたでしょう?」
「謝らなくていい」
そうは、言うけれど。
あなただけ謝りっぱなしじゃない?
あの時、あなたとセレンファーレさんの関係を知らずに、わたくしはフラれたのね、かわいそうにと笑ったの。
報われない恋をしているなんて、って。それは、そうね。結婚してからもしばらく、そう思っていたわ。
リヒトとセレンファーレさんが半分血のつながった兄妹だと知るまでは。
それを知ると、そう思えなくなってしまった。
本当は思ったままにふるまうこともできたでしょうに、押し殺したのでしょう。
「いいえ、謝らせて。あなたの気持ちを馬鹿にして、面白がって笑ったのを、申し訳ないと思うわ。ごめんなさい」
「ああ……許す」
これで、リヒトの心は軽くなったかしら。
これは必要な事だったのでしょう?
昔は、謝らなくていいと思っていたけれど、これがあなたに必要なことならばわたくしは謝らせるわ。
それであなたが、前に進めるならいいと思うの。
馬鹿みたいね。いとしいからこそ、そう思えるのよ、リヒト。
決して、そう思ってることを言ったりしないけれど。
「他には、まだある?」
「ある」
「まだあるの……わたくしはもう心当たりがないのだけれど」
「ある……けど、多分お前は忘れたかなかったことにしただろうから、言わない」
「何よ、それ……」
「悪かったと言うから、それに頷いてくれ、それでいい」
なんの事かしら。まったく思い至る事がない。
わたくしはそれで良いのならと返す。リヒトが謝り、それを許す。
それだけで良いのなら、別にかまわないわ。
「謝って、気持ちはかわった?」
「ああ。お前が許してくれたから、愛されていると思える」
「……愛されてないと、思ってたの?」
「いや、愛してくれているとは、思っていたが……そうであると言える、自信がなかった」
何をいまさら、と思ってしまう、呆れてしまう。
手を伸ばして頬に触れる。それを受け入れて擽ったそうにすると少し、幼く見える。
きっとそれはわたくしだけが知っていることね。
リヒトはその手を掴まえて、わたくしの掌に口付る。それ、よくするわよね。
「くすぐったいわ」
「そうか?」
わたくしの掌から手首、腕とリヒトは口付を落とす。その腕の中に引きこまれて腰を抱かれて。
こんな風に触れられるのも当たり前になってしまったわ。
「わたくし、リヒトと出会えて幸せだったと思うのよ。だからセレンファーレさんには感謝しているわ」
「……セレンも、お前に感謝していると思う」
「そうかしら。そういえば、あちらもそろそろお子ができる頃だと思うのよね」
「…………それは」
あら、知らなかった? わたくし先日、もしかしたらというようなお手紙をいただいたのだけれど。
リヒトは何とも言えない顔をしていて。
「あなた、おじ様と呼んでいただきましょうね」
「そうなるとお前はおば様ではないのか」
「そうですけれど。おばと呼ばせなければいいだけですので」
生まれたお祝いに行きましょうとわたくしは言う。
その時にはフリードリヒとローデリヒもつれて。あの子達にも、わたくしが育った場所を見せてあげたいのですから。
そんな風に思うのは、やはりわたくしも普通の親だったのだと、思うのです。
それから、お父様とお義母様にも子供たちの成長を見せて差し上げたいの。
そこでふと、思うのはリヒトの本当のお父様の事。
先王陛下は、フリードリヒとローデリヒを本当の孫のようにかわいがってくださっています。
きっと似ているのでしょう。亡くなったディートリヒ様とも。
でしたら、体調は崩されているけれど、リヒトのお父様にも二人を見せて差し上げたい。リヒトは時折、尋ねているようですがわたくしまでそこについていくことは最初にお会いして以来、無かったのです。
「リヒト、今度二人を連れてお父様の所に参りましょう?」
何者か、教える事は子供たちにはできませんけれど。
きっとそれは一時の慰めにもなるでしょうから。
リヒトは、そうしていいならと言ってわたくしを抱きすくめました。
その後すぐ、起きる気配をフリードリヒが見せたので手を叩いて脱出する。
何とも言えない顔をしていましたけれど、今はこの子の方が少し、優先度が高いのです。
それを口にすると、あとで痛い目を見るのはわたくしなので言いませんけれど。
ああ、けれど。
今日はリヒトに好きにさせてあげてもいいと、少し思えたのでした。
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