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本編
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部屋に戻り、着替えて。フリードリヒが眠る姿を傍らで眺めていたらわたくしもいつの間にか眠っていて。
ローデリヒは乳母に預けているので安心。
薄らと夜が明けていくような頃合いにふと目が覚めたのは肌寒かったから。
リヒトは、まだ戻ってきていない。朝帰りね。
一枚羽織って、上掛けを蹴り飛ばしているフリードリヒにかけてあげる。
こうして一緒に眠ることができるのはいつまでかしら。
そのうち、フリードリヒは一人で寝ることになるけれど大丈夫かしら。
まだぐっすり、目覚めそうにもないので寝室に残してわたくしは部屋を出る。
ツェリもまだ来ていない時間。一人で茶くらいは淹れられるから給湯室に入る。
最近は便利なもので、一杯分を紙に包んでいるものもあるからそれを。わたくしが上手に入れられないから味は少し落ちてしまうのだけれど仕方ないわね。
湯を沸かして、注ぐ。
ティーカップを持って居間のソファに座りあの人が帰ってくるのを待つ。
ああ、お水は用意しておかなきゃ。しこたま飲まされているでしょうから。二日酔いの薬も昨夜もらってきましたし。
しばらく一人で本を読みつつゆっくり過ごしていると、扉の開く音。
そちらを見れば、首元を緩め、マントなども適当に外して抱えて戻ってきたというのがよくわかるリヒトがいました。
「おかえりなさい」
立ち上がって迎えれば、まぁやっぱり。お酒臭い。お酒と、煙草の匂い。
酔いは醒めているのでしょうけれど、気分はあまり良くないといったところかしら。
「……起きていたのか?」
「違うわ。早くに目が覚めただけ」
「でも、待っていてくれたんだな」
あくびを一つしながらわたくしに抱き着いてくる。すり寄ってきて、まるで大きな猫みたい。
「眠い……」
「そうでしょうね、お疲れ様」
「祝い酒だなんだとしこたま飲まされた……」
ソファに座らせて、お水を飲みなさいと差し出す。
「飲むのも億劫だ。飲ませてくれ、口移しがいい」
何を言っているのかと呆れていると冗談だと笑う。
嘘、本気だったくせに。
水を飲みほして一息ついて。リヒトはフリードリヒはと尋ねてくる。
「この時間に起きてるわけないでしょう。寝てるわ」
「そうだな。俺も寝たいが……起こしてしまいそうだな」
「それなら、仕方ないからわたくしの膝を貸してあげるわ」
ほら、とわたくしは自分の膝を叩く。
リヒトは瞬きの後に笑って、借りるとしようとそこに頭を乗せました。
わたくしは、その眼の上に掌を置いて視界を隠してあげる。お眠りなさいなと。
「フリードリヒが起きてきたら起してあげるわ」
「ああ……」
すぐさま穏やかな吐息が聞こえてくる。
ああ、上着くらいは脱がせておいたほうが楽だったかしら。けれどもうどうしようもないし。
お酒も入っているのだから眠りも浅そう。けれどまったくないよりは、と思う。
目の下に薄らとできているクマは今日できたものではないはず。いつとれるかしら。
戴冠式も終わって、あとは各国のそれぞれの方と改めてご挨拶をして。わたくしもご婦人方との茶会がある。
まだ少し、フリードリヒとローデリヒを構う時間がとれそうにない。不自由はさせないけれど、不満は募ってしまうかもしれないわ。
不満、といえばきっとこの人もそう。ずっと寝ていないからそろそろ言われそうよね。
ほどほどにしてくれるならいいのだけれど……ほどほどにしてくれないから。
膝を貸してしばらくすると、かたんと小さな音。その音の方を見れば、寝室の扉が開いてフリードリヒが顔を覗かせている。
「フリードリヒ、おはよう。こちらにいらっしゃい」
「かぁさま……おは……ふぁ」
「まだ眠いのね」
うーと唸りながらほてほてと歩いてくる。
そして、こちらにきてとうさまとぼんやりした声で紡ぐ。
「父様、おねむ?」
「ええ。もう少し寝かせてあげましょうね。ここにいらっしゃい」
リヒトの反対側をぽんぽんと叩いて示せばよいしょと登ってくる。そして隣からリヒトの顔を覗きこんで、そっと伸ばした手で頭を撫でる。
それはわたくしの真似のよう。
「フリードリヒ、今日は母様、お庭でパーティーなの」
「みんな、くる?」
「ええ、来ると思うけれど……一緒に遊んでる?」
「うん!」
みんな、というのは犬達の子のこと。ほかにも貴族の子らもくるはずです。
ツェリとフェイルの子は女の子。ジークとハインツの子は男の子で時折一緒に遊んだりもしているから離れていても寂しくはないでしょうし。
その子たちと、他の貴族の子たちは仲良くできるかしら。ほかにもお友達ができると良いのだけれど。
「ふふ、じゃあ父様を起こしましょうか」
わたくしが声をかけると少し唸って、けれど起きない。フリードリヒ、と声かけるときゃっきゃと声かける。
「父様! 父様おきてー」
「フリードリヒ、上にのっちゃいなさい」
「とーさま!」
「うぐっ」
のっちゃいなさいと言ったのはわたくしだけれども。ばっと飛びついたのが顔の上。
その衝撃で目が覚めたのか呻き声が聞こえる。
「フリードリヒ……」
「父様、おはよ!」
「ああ……おはよう」
フリードリヒを引きはがして、自分の上に抱え直し頭を撫でている。器用なこと、と思いながら笑っているとリヒトが起き上がり、隣に座り直す。
「おはよう、目は覚めてます?」
「いや、まだぼーっと……」
「顔洗ってらっしゃい。ああ、それとその匂いも」
そうするとリヒトはフリードリヒをわたくしの膝の上に置いて立ち上がる。
湯浴みの準備は言えばしてくれるでしょう。もうこの時間なら誰かはいるはず。
「父様、ごはんはいっしょ?」
「ああ、一緒だ。それの用意もしてもらおうか」
声はかけておくと言ってくれたのでお任せする。わたくしもフリードリヒも夜着のまま。さすがに着替えなければ。
フリードリヒもそれはわかっているのでしょう。
しばらくするとツェリが来てくれて、ローデリヒも一緒でした。
「ローデリヒ、おはよ!」
挨拶して、フリードリヒの支度をツェリに任せる。ローデリヒはまだ寝ているようだからそのままに。
いつもと変わらない朝ねと思う。リヒトが置いていったマントなどを侍女たちに片付けるようにお願いして自分も支度を。
今日はあまりかしこまった格好をしなくていいのが楽だけれど、やることを思えば笑ってしまう。
昼のパーティーはまた人の目を集めるものなのだから。
ローデリヒは乳母に預けているので安心。
薄らと夜が明けていくような頃合いにふと目が覚めたのは肌寒かったから。
リヒトは、まだ戻ってきていない。朝帰りね。
一枚羽織って、上掛けを蹴り飛ばしているフリードリヒにかけてあげる。
こうして一緒に眠ることができるのはいつまでかしら。
そのうち、フリードリヒは一人で寝ることになるけれど大丈夫かしら。
まだぐっすり、目覚めそうにもないので寝室に残してわたくしは部屋を出る。
ツェリもまだ来ていない時間。一人で茶くらいは淹れられるから給湯室に入る。
最近は便利なもので、一杯分を紙に包んでいるものもあるからそれを。わたくしが上手に入れられないから味は少し落ちてしまうのだけれど仕方ないわね。
湯を沸かして、注ぐ。
ティーカップを持って居間のソファに座りあの人が帰ってくるのを待つ。
ああ、お水は用意しておかなきゃ。しこたま飲まされているでしょうから。二日酔いの薬も昨夜もらってきましたし。
しばらく一人で本を読みつつゆっくり過ごしていると、扉の開く音。
そちらを見れば、首元を緩め、マントなども適当に外して抱えて戻ってきたというのがよくわかるリヒトがいました。
「おかえりなさい」
立ち上がって迎えれば、まぁやっぱり。お酒臭い。お酒と、煙草の匂い。
酔いは醒めているのでしょうけれど、気分はあまり良くないといったところかしら。
「……起きていたのか?」
「違うわ。早くに目が覚めただけ」
「でも、待っていてくれたんだな」
あくびを一つしながらわたくしに抱き着いてくる。すり寄ってきて、まるで大きな猫みたい。
「眠い……」
「そうでしょうね、お疲れ様」
「祝い酒だなんだとしこたま飲まされた……」
ソファに座らせて、お水を飲みなさいと差し出す。
「飲むのも億劫だ。飲ませてくれ、口移しがいい」
何を言っているのかと呆れていると冗談だと笑う。
嘘、本気だったくせに。
水を飲みほして一息ついて。リヒトはフリードリヒはと尋ねてくる。
「この時間に起きてるわけないでしょう。寝てるわ」
「そうだな。俺も寝たいが……起こしてしまいそうだな」
「それなら、仕方ないからわたくしの膝を貸してあげるわ」
ほら、とわたくしは自分の膝を叩く。
リヒトは瞬きの後に笑って、借りるとしようとそこに頭を乗せました。
わたくしは、その眼の上に掌を置いて視界を隠してあげる。お眠りなさいなと。
「フリードリヒが起きてきたら起してあげるわ」
「ああ……」
すぐさま穏やかな吐息が聞こえてくる。
ああ、上着くらいは脱がせておいたほうが楽だったかしら。けれどもうどうしようもないし。
お酒も入っているのだから眠りも浅そう。けれどまったくないよりは、と思う。
目の下に薄らとできているクマは今日できたものではないはず。いつとれるかしら。
戴冠式も終わって、あとは各国のそれぞれの方と改めてご挨拶をして。わたくしもご婦人方との茶会がある。
まだ少し、フリードリヒとローデリヒを構う時間がとれそうにない。不自由はさせないけれど、不満は募ってしまうかもしれないわ。
不満、といえばきっとこの人もそう。ずっと寝ていないからそろそろ言われそうよね。
ほどほどにしてくれるならいいのだけれど……ほどほどにしてくれないから。
膝を貸してしばらくすると、かたんと小さな音。その音の方を見れば、寝室の扉が開いてフリードリヒが顔を覗かせている。
「フリードリヒ、おはよう。こちらにいらっしゃい」
「かぁさま……おは……ふぁ」
「まだ眠いのね」
うーと唸りながらほてほてと歩いてくる。
そして、こちらにきてとうさまとぼんやりした声で紡ぐ。
「父様、おねむ?」
「ええ。もう少し寝かせてあげましょうね。ここにいらっしゃい」
リヒトの反対側をぽんぽんと叩いて示せばよいしょと登ってくる。そして隣からリヒトの顔を覗きこんで、そっと伸ばした手で頭を撫でる。
それはわたくしの真似のよう。
「フリードリヒ、今日は母様、お庭でパーティーなの」
「みんな、くる?」
「ええ、来ると思うけれど……一緒に遊んでる?」
「うん!」
みんな、というのは犬達の子のこと。ほかにも貴族の子らもくるはずです。
ツェリとフェイルの子は女の子。ジークとハインツの子は男の子で時折一緒に遊んだりもしているから離れていても寂しくはないでしょうし。
その子たちと、他の貴族の子たちは仲良くできるかしら。ほかにもお友達ができると良いのだけれど。
「ふふ、じゃあ父様を起こしましょうか」
わたくしが声をかけると少し唸って、けれど起きない。フリードリヒ、と声かけるときゃっきゃと声かける。
「父様! 父様おきてー」
「フリードリヒ、上にのっちゃいなさい」
「とーさま!」
「うぐっ」
のっちゃいなさいと言ったのはわたくしだけれども。ばっと飛びついたのが顔の上。
その衝撃で目が覚めたのか呻き声が聞こえる。
「フリードリヒ……」
「父様、おはよ!」
「ああ……おはよう」
フリードリヒを引きはがして、自分の上に抱え直し頭を撫でている。器用なこと、と思いながら笑っているとリヒトが起き上がり、隣に座り直す。
「おはよう、目は覚めてます?」
「いや、まだぼーっと……」
「顔洗ってらっしゃい。ああ、それとその匂いも」
そうするとリヒトはフリードリヒをわたくしの膝の上に置いて立ち上がる。
湯浴みの準備は言えばしてくれるでしょう。もうこの時間なら誰かはいるはず。
「父様、ごはんはいっしょ?」
「ああ、一緒だ。それの用意もしてもらおうか」
声はかけておくと言ってくれたのでお任せする。わたくしもフリードリヒも夜着のまま。さすがに着替えなければ。
フリードリヒもそれはわかっているのでしょう。
しばらくするとツェリが来てくれて、ローデリヒも一緒でした。
「ローデリヒ、おはよ!」
挨拶して、フリードリヒの支度をツェリに任せる。ローデリヒはまだ寝ているようだからそのままに。
いつもと変わらない朝ねと思う。リヒトが置いていったマントなどを侍女たちに片付けるようにお願いして自分も支度を。
今日はあまりかしこまった格好をしなくていいのが楽だけれど、やることを思えば笑ってしまう。
昼のパーティーはまた人の目を集めるものなのだから。
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