悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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本編

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 リヒトとわたくしの子はフリードリヒと名付けられました。
 頬はぷくぷくで、瞳の色は碧眼。髪の色も金色でリヒト譲り。
 けれど顔立ちはどことなくわたくしに似ているようです。
 子育ては、なかなか大変なもので。ツェリに手伝ってもらってもいたのですがフリードリヒが生まれて半年後、ツェリも懐妊していることがわかりました。
 わたくしが妊娠している間に犬達はそれぞれ結婚をして所帯を持っていたのです。
 他国から来た彼等の下に嫁ぐことを親が許すとは、と思ったのですが。彼等には領地と爵位も与えられ。
 後ろ盾というのならわたくしがいて、王太子の覚えも良い。
 特に反対されることもなかったようです。
 セルデスディアにいる頃、そういう報告を親にとは言ってましたから。
 そして、一番に懐妊したのはツェリだったのですけれど。そのあとすぐ、ジークとハインツの奥様にも子ができたと言っていました。
 それから、わたくしとリヒトの子に合わせるかのように他にも、何人か子が産まれているそうです。
 そんな話を耳にするものの、わたくしにとってはどうでも良い事。
「フリードリヒ、泣かないでくださる? わたくしの抱っこが下手なのかしら……」
「アーデ、俺がしよう」
 そう言ってわたくしの手からフリードリヒを抱え上げたのはジークでした。するとフリードリヒはすぐに泣き止んでしまう。
 なんということ……わたくしよりジークの方が良いのかしら。
 手さぐりで行う子育て。乳母をつけてはいただいているのですが、やはり自分の手でと最低限しかついてもらっていない。
 その乳母はツェリの親類にあたる方なのですが。
「あなた達、わたくしの所にいるより奥様達の相手をなさった方が良いのではないの?」
「大丈夫だ、理解してもらっている」
「問題ない」
「俺の奥さん、ツェリだし」
 と、犬達は変わらぬのです。
 まぁ、お互い了承しているなら良いのですけれど。
「アーデ、眠ったから」
「嘘! ほ、本当にこの子は……!」
 どうしてわたくしの手ではゆっくりと眠ってくれないのかしら。
 抱かれるのはリヒトの方が好きなようですし。
 すやすやと眠る顔を見て笑みが零れる。とてもかわいらしい。
 この子は一体、どんな子に育っていくのかしら。
 ゆりかごの中にゆっくりと降ろしてもらい、わたくしはその傍に。
 ふふ、と笑いが零れてしまうのは仕方ない事。わたくしはこうしてフリードリヒの寝顔を見るのが大好きになってしまったのです。
 わたくしとリヒトの生活はフリードリヒ中心。
 何をするにも三人一緒。すると、わたくしとリヒトの意見の違いもでてくるのです。
 わたくしはこの子に薄い青の服を着せたいのに、リヒトはそれより濃い色が良いと言うし。
 それはとても小さなことなのですけれど言い合う事だってあります。
 そうするとフリードリヒが泣いてわたくし達を止めるのです。そんなことが何度もあって、この子はとてもよく空気を読むのだなと、わたくしは感じていました。
 そんなある日、リヒトが機嫌悪そうな顔で戻ってきてわたくしを抱きすくめたのです。
「いやだ、行きたくない」
「どうしましたの?」
「セレンの結婚式だ。とうとうこの時が来てしまった……祝いたい気持ちは、あるのだが」
 複雑な気持ちなのねとわたくしは苦笑する。そうだと憮然とした面持ちで答えた後にリヒトは大きな溜息をつきました。
「招待状が来たのだが、お前たちは来れないだろう? 俺一人でなんて耐えられない。俺一人で他人の幸せを見てこいだなんて拷問だと思わないか」
「我儘を言わないの。セレンファーレさんだって楽しみにしてたでしょう?」
 それはわかっているとリヒトは言うけれど、納得はしていない様子。
 彼女をミヒャエルに、本当の意味でとられてしまいますものね。
「わたくしもお祝いしに行きたいけれど、フリードリヒを連れていくわけにもいかないでしょう?」
「……いや、連れて行こう。そうだ、そうしよう」
「リヒト……いくらなんでも赤子も一緒に長旅は無理よ?」
「ゆっくり行けば良い。フリードリヒに負担はかけない」
 そうリヒトは決めてしまったらしい。
 わたくしが無理よ、と言うけれど大丈夫だと言う。犬達を呼んで道程を見直して、調整して。
 犬達はちょっと呆れているのだけれどもリヒトのいう事には逆らえない。
 しかし、ツェリもいけませんし。犬達も奥様が、というところで長旅はどうかというもの。
 国王様と王妃様にもそのお話をすると、リヒトは呆れられていました。
「お前はそんなに、妃と子と離れたくないのか……」
「仕方のない子ね。しょうがないわ、結婚式は私達で参りましょうか」
 と、苦笑して。
 セレンファーレさんの結婚式には国王様と王妃様が行かれることになったのです。
 その代り、リヒトは国の事を一手に引き受けることになる。
 それは仕方のない事なのですが、国王様は続けてもうひとつ仰ったのです。
「そろそろ退位して、王位を譲ろうかと思うのだ。お前に子もできたしな」
「陛下、それは」
「だらだらと王をしているより、隠居したい。それに、政治の采配はお前の方が上手い」
 今もほとんどお前の仕事だろうとほがらかに笑いながら、そのつもりでいてくれと国王様は仰います。
 それはつまり、ここ数年の内にリヒトが王になるという事。
 そうなると、わたくしは王妃で、この子に王位継承権が正式に渡される。
 話を聞いた後、わたくしたちはあまり話をせず、ただフリードリヒが楽しそうにしているのを身を寄せて眺めているだけでした。
 けれど、先に口を開いたのはリヒト。
「まだもうしばらく、先の話だと思っていた」
「すぐに来ますわよ、その時が」
「まだ俺には重い」
「わたくしだって」
 けれど、お互いにその時がくることを覚悟は、しておかなければいけないのをわかっているのです。
 王になったら、とリヒトは言います。
 王になったらこうして一緒にいる時間も減るのだろうか、と。
 それはあなたの政治の腕次第よ。わたくしもできる事なら、助けるのだけれども。
「あなた、全部一人でやってるように見えるのだけれど、信頼できる方はいないの?」
「いるにはいる。それには法務を任せている。税務も他の者に任せているし……」
「ならそれをもっと広げて、仕事の量を減らしたら? 一人でやりすぎなのよ」
 その相手が簡単に見つからないのだとリヒトは言う。
 本当に? と問うと少し考えて。
「……まぁ、時間はまだあるからどうにかする。それより、アーデルハイト。何故黙っていた」
「? 何を?」
「医師が、もう良いと」
「あっ、いえ、その。わ、忘れていたの、伝えるのを」
「一か月もか?」
 リヒトは、いじわるするように笑う。
 そう、わたくしは黙っていたのです。
 お医者様がもう夜の営みはしても大丈夫、と仰ったのだけれど。そんなこと言ったら大変なことになる。
 ただでさえフリードリヒの事で手いっぱいなのにと思って言わなかったのです。
 そう、わざと。
 なのに、とうとうばれてしまった。
「俺は相当、我慢させられていたことになる。覚悟しておけよ」
「い、いやよ! あなた本当にっ……ちょ、やぁっ」
 逃げようとしたら掴まって口付けを、何度も、何度も。
 久しぶりに劣情のこもったそれを受けてわたくしはくったりしてしまう。
 息を整える間に、リヒトは笑って。そしてフリードリヒを抱きかかえて乳母に預けてくるというのです。
 やだ、これはもう、わたくし今日はこれからリヒトの生贄状態だわ。
「フリードリヒの世話はわたくしが、するのよリヒト」
「一日くらいはいいだろう。それに陛下達も一緒に過ごしたいと言っていたし」
 任せてしまえと言われて逃げられてしまう。
 そしてその日はフリードリヒを預けられて久しぶりにリヒトと二人きりの夜になり。
 ずっと触れられていなかった分を全部ぶつけられてわたくしは。
 わたくしは……!
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