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掌編
正統たる者の秘め事
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ヴァンヘルのサレンドルの話。
良い手駒はないものかと、探していた時だ。
部下たちの気晴らしも必要かと入った娼館でその女に出会った。
その女は、この国の王子をとりこにしようとし。その王子の想い人を蹴落としその座に座った女だった。
しかし、それも長くは続かず本当のことをしった王子によりすべてを失わされたらしい。
が、そうは思わない。出会ったあの場所は高級娼館だ。
なんだかんだで、金持ちの手が入っている。後ろ盾があるのだ。そんな場所に追い落とされた者が入れるわけがない。
家の者が手を回したのだろう。
俺はまぁ、誰でも良いかと思ってサロンで相手を探していた。別にしなくてもいい。こういう所にいる女達は色々な情報を持っているから話すだけでも利がある。
部下たちはそれぞれ相手を見つけ、何人かが俺の傍に来るがそう言う気にはなれない。
というものの、つい先日面白い女を見たから。あれとどうしても比べてしまう。
この国の公爵家の娘、だったはずだ。そういえば彼女から、あの日の夜会で王子が一人の女を貶したのだったか。
そう思っていると、限りながら不本意だという顔でその女はやってきたのだ。
きっと吊り上った瞳は気の強さを表している。趣味が悪いと言われそうだが、俺はそういう顔が好きなのだ。
泣かせてやりたくなる、という気も起きる。
ああ、こいつでいいかと思っって来いと手を伸ばしたがしかし。その女は気安く触るなと言ったのだ。
誰に、そう。俺に。
「気安く、とは?」
「言った通りよ。私はこんなところにいるべきじゃないもの」
「それはどういう意味か興味があるな」
そう言って、その日は関係を結ばずただ話を聞いたのだったか。
その話は興味深いものだ。この国の恥だなと思いつつ聞いていた。
この国に長居するつもりはなかったのだが、この女に興味が沸いてしばらくいることに。
それから毎日会いに行って、一週間後に体を許した。
その間、女を値踏みしていたが俺もされていた。
何を聞いて、感じて許したのかわからない。けれど初めてではなく手馴れている様子だった。
つまりは、身体を許すことを手段としていたのだろう。
俺は初めての女よりこのくらいの方が丁度よい。傍に置けば役に立ちそうだと思ったのだ。
「お前、ここから出たいか?」
「出れるなら出たいわ。こんなところ……冗談じゃない」
「そうか。じゃあ俺が連れだしてやろう。しばらくは不自由だがいいか?」
「いやよ」
「そう言うな。俺はお前が欲しい物を与えてやれると思う」
それは何と問われる。
誰にも言うなよと言って、耳もとで自身の出自を囁いた。
「嘘……」
「嘘を言ってもどうにもならないだろう。いいか、抜け出したいなら明日」
そう言って、俺は抜け出す算段を告げた。
夜、そっと部屋の窓から顔を出せと。お前を迎えに行く、と。
この話を信じるかどうかは自由だ。顔を見せなければ俺は行くと突き放して。
俺はどちらでも良かったのだ。
そしてその日、顔を見せていくと言った。なら飛び降りてこいと言って、受け止めて。
攫うようにして連れ出したのだ。
その女の名前はハルモニア。けれどその名のままでは不都合もあるだろうとモニアと呼ぶことにした。
それからの旅は苦笑いが増えた。
貴族として育った女は平民の暮らしを知らない。
ヴァンヘルの現状を知らない。おかしなことを言って俺は困ったものなのだ。
つらい、嫌だと言えばなだめすかして上手に機嫌をとって。
そうやって連れ歩き、しばらくして。俺はセルデスディアの王太子と話をするために会った。
あれの妃に、あの時会った、あの女がなっていたのは知っていた。
それはモニアにも教えていた。それを知った時、何故どうしてと荒れ狂って。
事が終わればお前の方が王妃になると説き伏せて落ち着かせたのだったか。
どんなやりとりをしたかは知らないが、モニアと王太子妃になった女は比べるべくもなかった。
妃としての素養は彼女の方が上だ。モニアでは務まらないと俺は常々思っていたのだ。
そもそも、王妃になれば贅沢できる。皆が傅くと思っているのは違うと正さねばならない。
しかし俺はそれを放棄していた。
この女は王妃にはなれないと知っていたからだ。
それはつまり、俺の妃。
そうするつもりなどなかった。部下達も、それはわかっていたからこそ何も言わなかったのだ。
そして、その時のために俺はモニアにやってほしいことがあると告げたのだ。
敵の内部に入り、門を開けてほしいと。
お前ならあの王も気にいる。こんなことをさせるのは心苦しいが、俺のために。
そして、お前自身のためにと。
モニアは最初は渋っていたものの、俺が描く未来を話せば頷いた。
戴冠式は皆から祝われる。その隣にいるのはお前だ。
贅を尽くした装いで着飾りお前のおかげだと自慢させてくれ、と。
すると気をよくして、俺の言うことを聞いてくれた。
わが父を殺し、王位を簒奪したあの王は好色。時折、娘を募っているのだ。
その中に紛れ込ませ、王の心をくすぐりモニアは気に入りの一人となった。
そういう手管は上手いだろうと思っていたのだ。そして取り入って、中にいる協力者とともに王が一番、無防備になる時間を掴ませ、計画を実行させた。
城の門の鍵を開けさせ、精鋭だけで乗り込む。
そう、思っていたのだが悪政に耐えきれなかった民衆たちがついてきてしまった。
まぁそうだろう。重税に、娘を差し出せと言って。金を湯水のように使い、民に還元せぬような王は良いものではない。
襲撃とともに気付かれただろうが、俺達は最短距離でもって王の寝室へ向かった。
あの王の甘い汁を共にすすっている兵士たちは抵抗した。そこで流された血は決して少なくない。
けれどそれに目をやる時間など無い。
わが父が、あの男に殺された場所。そこへ踏み入り、まだ状況を把握できてないあの男に俺は笑いかけた。
「返してもらいますよ」
「なっ」
今日もまた色ごとにふけっていたのだろう。
数人女たちを共に寝台に乗せていた。そこにはモニアもいた。
モニアは男の腕を掴んで逃がさないようにしている。
頭のまわる女ではあったが、馬鹿でもあったのだ。
そのままだと、俺はお前を殺してしまう。そんな場所にいるのが悪い。
俺は何よりも、王であらねばならないのだ。
寝台に踏み込んで男を見下ろす。ああ、なんて醜く肥え太った男か。
お前の身は民の嘆きと恨み、悲嘆。無為に死んだ者達の命でできている。
王は民を導くものだ。民が王にしてくれるのだ。それを忘れたのか、ただ知らぬのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
ここでこいつは死ぬのだから。
状況を飲み込めないままの男に、俺の剣は向けられる。首を撥ねればこの部屋は血に塗れる。
それはあとが面倒だと、俺はまっすぐ剣を突出し、その身を貫いた。
そして手を話、剣の柄を蹴って一層深く突き刺したのだ。
男のうめき声と、女の叫び声が重なる。
その切っ先は、モニアの身にも達していた。
そんな男押さなくて良かった。逃げればよかったのだ。何故後ろにいる。
どうして、なぜと投げかけれる視線に、俺は冷たい視線を返しただけだ。
俺は部下たちに王を連れていけと命じた。
これは民の前で殺されるべき男だ。
そして俺は、腹を赤く染めたモニアに向き直る。
「どうしてそこにいた」
そう問うが痛みで何も言えないのだろう。涙をこぼし助けを求めている。
その傷は治療をすれば間に合うものだ。しかし放っておけば、死ぬだろう。
そして俺はここで、助けないことを選んだのだ。
王になって、この女が隣にいては。
俺は民を、導けぬ。
そう、これはずっと前から決めていたことだ。そうであったのに、心は揺れていた。
どうしようもない女であろうとも、俺はこれを気に入っていた。
馬鹿なことを言う女を気に入っては、いたのだ。
でもそれも、切り捨てる。
俺は王に、ならねばいけないのだから。
「お前はここで死ね。代わりに栄誉をやる。あの王を殺す為、俺に手を貸して死んだ女という栄誉だ」
皆がお前を褒め称え感謝するだろう。
誰もが忘れぬ女になるだろう。
そう、言うが俺にその気はもちろんない。
モニアは笑って、うそつきと零した。
そう、俺はうそつきだ。
だから嘘に嘘を重ねよう。
「は。そうだ、俺はうそをついている。お前を王妃などにはしない。お前を好いてはいない、利用したのだ」
死ぬ間際の女を抱いてやる。最後くらい、やさしくされるべきだろう。
俺のために、死ぬのだから。
好いていないことは、なかったのだ。利用していることに、まったく心痛めていないなんてことも、なかった。
どうにか持ち上げられた手。血塗れの手が俺の頬を撫でる。
そしてその手は落ちた。
おそらく痛みと流れ出ている血によって気が遠のいたのだろう。
ああ、俺はこの女を殺す。このまま放っておいて、殺す。
お早くと部下たちの声が聞こえる。うるさい、そんなことはわかっている。
俺は王たらねばならないのだ。だから、俺は。
寝台に女を降ろす。まだ体はあたたかい。生きている。
でも放っておいて、殺す。部下に任せることもできるが、しない。俺はこの女を殺して、しまうのだ。
「悪いな。遠慮なく化けて出ろ。そうすれば俺はお前を決して忘れない」
口づけひとつ、落としてやる。
それは最後の手向けに見えて、俺の気持ちとの決別なのだ。
この女を忘れよう。けれど忘れやしない。
王の俺は忘れるだろう。けれどサレンドルは忘れやしない。
王妃にはしてやれなかったが、良い夢は見させてやれただろうか。
いやそんなことはないか。俺に使い捨てられたのだから。
あの女は夢にさえ出てこない。
それは復讐だろうか。夢に出てきたなら、優しく笑ってやることもできただろうに。
そうさせては、くれないのだ。
なんという、性が悪い。俺の想いは募るばかりになってしまう。
ああ、もう。王である俺でさえ、忘れられなくなってしまう。
あれはあれでとても気に入っていて愛でていたのだけれども。
結局、すべての気持ちを殺しきれていないサレ様なのでした。
良い手駒はないものかと、探していた時だ。
部下たちの気晴らしも必要かと入った娼館でその女に出会った。
その女は、この国の王子をとりこにしようとし。その王子の想い人を蹴落としその座に座った女だった。
しかし、それも長くは続かず本当のことをしった王子によりすべてを失わされたらしい。
が、そうは思わない。出会ったあの場所は高級娼館だ。
なんだかんだで、金持ちの手が入っている。後ろ盾があるのだ。そんな場所に追い落とされた者が入れるわけがない。
家の者が手を回したのだろう。
俺はまぁ、誰でも良いかと思ってサロンで相手を探していた。別にしなくてもいい。こういう所にいる女達は色々な情報を持っているから話すだけでも利がある。
部下たちはそれぞれ相手を見つけ、何人かが俺の傍に来るがそう言う気にはなれない。
というものの、つい先日面白い女を見たから。あれとどうしても比べてしまう。
この国の公爵家の娘、だったはずだ。そういえば彼女から、あの日の夜会で王子が一人の女を貶したのだったか。
そう思っていると、限りながら不本意だという顔でその女はやってきたのだ。
きっと吊り上った瞳は気の強さを表している。趣味が悪いと言われそうだが、俺はそういう顔が好きなのだ。
泣かせてやりたくなる、という気も起きる。
ああ、こいつでいいかと思っって来いと手を伸ばしたがしかし。その女は気安く触るなと言ったのだ。
誰に、そう。俺に。
「気安く、とは?」
「言った通りよ。私はこんなところにいるべきじゃないもの」
「それはどういう意味か興味があるな」
そう言って、その日は関係を結ばずただ話を聞いたのだったか。
その話は興味深いものだ。この国の恥だなと思いつつ聞いていた。
この国に長居するつもりはなかったのだが、この女に興味が沸いてしばらくいることに。
それから毎日会いに行って、一週間後に体を許した。
その間、女を値踏みしていたが俺もされていた。
何を聞いて、感じて許したのかわからない。けれど初めてではなく手馴れている様子だった。
つまりは、身体を許すことを手段としていたのだろう。
俺は初めての女よりこのくらいの方が丁度よい。傍に置けば役に立ちそうだと思ったのだ。
「お前、ここから出たいか?」
「出れるなら出たいわ。こんなところ……冗談じゃない」
「そうか。じゃあ俺が連れだしてやろう。しばらくは不自由だがいいか?」
「いやよ」
「そう言うな。俺はお前が欲しい物を与えてやれると思う」
それは何と問われる。
誰にも言うなよと言って、耳もとで自身の出自を囁いた。
「嘘……」
「嘘を言ってもどうにもならないだろう。いいか、抜け出したいなら明日」
そう言って、俺は抜け出す算段を告げた。
夜、そっと部屋の窓から顔を出せと。お前を迎えに行く、と。
この話を信じるかどうかは自由だ。顔を見せなければ俺は行くと突き放して。
俺はどちらでも良かったのだ。
そしてその日、顔を見せていくと言った。なら飛び降りてこいと言って、受け止めて。
攫うようにして連れ出したのだ。
その女の名前はハルモニア。けれどその名のままでは不都合もあるだろうとモニアと呼ぶことにした。
それからの旅は苦笑いが増えた。
貴族として育った女は平民の暮らしを知らない。
ヴァンヘルの現状を知らない。おかしなことを言って俺は困ったものなのだ。
つらい、嫌だと言えばなだめすかして上手に機嫌をとって。
そうやって連れ歩き、しばらくして。俺はセルデスディアの王太子と話をするために会った。
あれの妃に、あの時会った、あの女がなっていたのは知っていた。
それはモニアにも教えていた。それを知った時、何故どうしてと荒れ狂って。
事が終わればお前の方が王妃になると説き伏せて落ち着かせたのだったか。
どんなやりとりをしたかは知らないが、モニアと王太子妃になった女は比べるべくもなかった。
妃としての素養は彼女の方が上だ。モニアでは務まらないと俺は常々思っていたのだ。
そもそも、王妃になれば贅沢できる。皆が傅くと思っているのは違うと正さねばならない。
しかし俺はそれを放棄していた。
この女は王妃にはなれないと知っていたからだ。
それはつまり、俺の妃。
そうするつもりなどなかった。部下達も、それはわかっていたからこそ何も言わなかったのだ。
そして、その時のために俺はモニアにやってほしいことがあると告げたのだ。
敵の内部に入り、門を開けてほしいと。
お前ならあの王も気にいる。こんなことをさせるのは心苦しいが、俺のために。
そして、お前自身のためにと。
モニアは最初は渋っていたものの、俺が描く未来を話せば頷いた。
戴冠式は皆から祝われる。その隣にいるのはお前だ。
贅を尽くした装いで着飾りお前のおかげだと自慢させてくれ、と。
すると気をよくして、俺の言うことを聞いてくれた。
わが父を殺し、王位を簒奪したあの王は好色。時折、娘を募っているのだ。
その中に紛れ込ませ、王の心をくすぐりモニアは気に入りの一人となった。
そういう手管は上手いだろうと思っていたのだ。そして取り入って、中にいる協力者とともに王が一番、無防備になる時間を掴ませ、計画を実行させた。
城の門の鍵を開けさせ、精鋭だけで乗り込む。
そう、思っていたのだが悪政に耐えきれなかった民衆たちがついてきてしまった。
まぁそうだろう。重税に、娘を差し出せと言って。金を湯水のように使い、民に還元せぬような王は良いものではない。
襲撃とともに気付かれただろうが、俺達は最短距離でもって王の寝室へ向かった。
あの王の甘い汁を共にすすっている兵士たちは抵抗した。そこで流された血は決して少なくない。
けれどそれに目をやる時間など無い。
わが父が、あの男に殺された場所。そこへ踏み入り、まだ状況を把握できてないあの男に俺は笑いかけた。
「返してもらいますよ」
「なっ」
今日もまた色ごとにふけっていたのだろう。
数人女たちを共に寝台に乗せていた。そこにはモニアもいた。
モニアは男の腕を掴んで逃がさないようにしている。
頭のまわる女ではあったが、馬鹿でもあったのだ。
そのままだと、俺はお前を殺してしまう。そんな場所にいるのが悪い。
俺は何よりも、王であらねばならないのだ。
寝台に踏み込んで男を見下ろす。ああ、なんて醜く肥え太った男か。
お前の身は民の嘆きと恨み、悲嘆。無為に死んだ者達の命でできている。
王は民を導くものだ。民が王にしてくれるのだ。それを忘れたのか、ただ知らぬのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
ここでこいつは死ぬのだから。
状況を飲み込めないままの男に、俺の剣は向けられる。首を撥ねればこの部屋は血に塗れる。
それはあとが面倒だと、俺はまっすぐ剣を突出し、その身を貫いた。
そして手を話、剣の柄を蹴って一層深く突き刺したのだ。
男のうめき声と、女の叫び声が重なる。
その切っ先は、モニアの身にも達していた。
そんな男押さなくて良かった。逃げればよかったのだ。何故後ろにいる。
どうして、なぜと投げかけれる視線に、俺は冷たい視線を返しただけだ。
俺は部下たちに王を連れていけと命じた。
これは民の前で殺されるべき男だ。
そして俺は、腹を赤く染めたモニアに向き直る。
「どうしてそこにいた」
そう問うが痛みで何も言えないのだろう。涙をこぼし助けを求めている。
その傷は治療をすれば間に合うものだ。しかし放っておけば、死ぬだろう。
そして俺はここで、助けないことを選んだのだ。
王になって、この女が隣にいては。
俺は民を、導けぬ。
そう、これはずっと前から決めていたことだ。そうであったのに、心は揺れていた。
どうしようもない女であろうとも、俺はこれを気に入っていた。
馬鹿なことを言う女を気に入っては、いたのだ。
でもそれも、切り捨てる。
俺は王に、ならねばいけないのだから。
「お前はここで死ね。代わりに栄誉をやる。あの王を殺す為、俺に手を貸して死んだ女という栄誉だ」
皆がお前を褒め称え感謝するだろう。
誰もが忘れぬ女になるだろう。
そう、言うが俺にその気はもちろんない。
モニアは笑って、うそつきと零した。
そう、俺はうそつきだ。
だから嘘に嘘を重ねよう。
「は。そうだ、俺はうそをついている。お前を王妃などにはしない。お前を好いてはいない、利用したのだ」
死ぬ間際の女を抱いてやる。最後くらい、やさしくされるべきだろう。
俺のために、死ぬのだから。
好いていないことは、なかったのだ。利用していることに、まったく心痛めていないなんてことも、なかった。
どうにか持ち上げられた手。血塗れの手が俺の頬を撫でる。
そしてその手は落ちた。
おそらく痛みと流れ出ている血によって気が遠のいたのだろう。
ああ、俺はこの女を殺す。このまま放っておいて、殺す。
お早くと部下たちの声が聞こえる。うるさい、そんなことはわかっている。
俺は王たらねばならないのだ。だから、俺は。
寝台に女を降ろす。まだ体はあたたかい。生きている。
でも放っておいて、殺す。部下に任せることもできるが、しない。俺はこの女を殺して、しまうのだ。
「悪いな。遠慮なく化けて出ろ。そうすれば俺はお前を決して忘れない」
口づけひとつ、落としてやる。
それは最後の手向けに見えて、俺の気持ちとの決別なのだ。
この女を忘れよう。けれど忘れやしない。
王の俺は忘れるだろう。けれどサレンドルは忘れやしない。
王妃にはしてやれなかったが、良い夢は見させてやれただろうか。
いやそんなことはないか。俺に使い捨てられたのだから。
あの女は夢にさえ出てこない。
それは復讐だろうか。夢に出てきたなら、優しく笑ってやることもできただろうに。
そうさせては、くれないのだ。
なんという、性が悪い。俺の想いは募るばかりになってしまう。
ああ、もう。王である俺でさえ、忘れられなくなってしまう。
あれはあれでとても気に入っていて愛でていたのだけれども。
結局、すべての気持ちを殺しきれていないサレ様なのでした。
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