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本編
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次の日、わたくしもリヒトの元を訪れる方達との席にご一緒しました。
すると昨日と同じようにうちの娘に国の話をと持ちかけてくる方も。
それはやんわり、他にも来られる方がいるのでとお断りしました。
貴族たちの訪いを片付けた頃、出かけていた犬達が戻ってきました。どうやらそれぞれ収穫があった様子。
まずダーダトア公爵家の事業の失敗。
それは隣国を経て、海の向こうの国から宝石などを仕入れてくるというもの。どうやら、船が沈んでしまったようなのです。
船の旅というのは危険が伴いますから、それは予想の範囲でしょうに。しかもそれが、どうやら大量だったよう。
少量であれば、まだ取り返しがついたかもしれませんがかなり大きな額だったようです。
専用の船を新調し、人を雇い。そして大金を持たせて他国へ。船が沈んだという話は最近の事のようでした。
その知らせがつくのにも時間がかかっていたようです。
大きなことをするならそれ相応の備えは必要なのでしょうが、どうやらそれらも不十分。
この補てんを領地からの税収をあげるのか、どうするのかという所。しかし、国から税収の最大値は決まっています。
ダーダトア公爵家はそのほぼ最大値ではなかったのかしら。そういう事をすると、人々は他の領に行こうと思いますのに。
それから、その事業には黒いうわさがというのも。ならず者、つまり表立って出てこれない方達との繋がりがあると言われているそうです。
「あと、西方辺境伯の次男の結婚相手との話は、そのダーダトア家が濃厚と聞いている。つまり」
つまり、とジークは言葉を切りました。
もし、そこが繋がってしまうのならば色々な可能性が広がってしまう。
例えばそのならず者が西方からのつながりである。他国とのつながりである。
ほかにも、色々と。そういえばダーダトア領と西方領は近いのではなくて? 可能性としては無い話ではない。
本当にそのお話がまとまりかけている、もしくはまとまっているのであればアザレア嬢はそれを了承しているのかどうか。
していて、リヒトに絡んでいるのかしら。だって、もし納得しているならさっきも来たりはしないでしょう。
そうであってそこにいるならお二人が必死なのを見て笑っているはずでしょうがそういったものは無かったように思います。
納得はしてなくて、その話を壊すには次男の、ナイトロット様より格上の相手から望まれなければ難しい。
しかし、五公の中に相手はいない。三侯の中にはいますが、自分より下の家ですものね。
この話を仕方なく、破談にする、破談にさせる。その場合、上からの強い力があれば相手も文句を言えない。今それに当てはまり一番適当な相手はリヒトしかいません。
これは、手段を選ばなければハメられることもありそうです。リヒトには一層気を付けていただかないと。
「それから、その西の辺境伯の次男が王都に到着したそうだ」
あら、それは。わたくしは会わないようにしていればよいのね?
そもそも会う機会があるのか、と思いますけれど。
「一人で勝手にうろうろ歩くなよ」
「そんなことしませんけれど」
するだろ、とリヒトが言うと犬達もすると頷いている。
しませんわと再度言っても信用がないようです。なんてことなのかしら。
「話を聞くからに、いい領主ではなさそうだな」
「そうですね。ダーダトア領は穀物も育てていますから、民も多いのです」
「お前のところは?」
「わたくしの所は税金は最大値の八割くらいですのよ」
「高いな」
「ええ、高いのですけれど皆払ってくれてますわ」
シュタイン領は作物が大量に取れるわけではなく。どちらかというと産業の街。服飾品に携わる所なのです。
そして、お父様は大人が安心して働けるように子供を預かる場所を作ったり、年老いて仕事ができなくなった者達には後続を育てる仕事を作って回す。それからある一定の年齢になれば学ぶ場所も作る、といった事をされているようです。
最初はなかなか難しかったようですが、今それはシュタイン領の当たり前なのです。それに全員にそれを課しているわけではありませんし。
税は働けるもののみに。職を見つけられなくても最悪、領の自警団に入る事ができます。女性だって、その自警団で料理や洗濯。そういった仕事ができますもの。
昔は職にあぶれて貧民街だってありました。けれどお父様はそれを一つずつ無くしていったのです。
だからわたくしも。そんな人が住みやすい場所にいたからこそ、お母様と二人で生活することができたのですから。
他の領ならば、きっと死んでいましたわ。
そんなことを思い出し、少し行ってみたいと思ったのです。育ったあの場所に。
それから犬達が色々な情報を伝えてくれましたけれど、わたくしはそちらに思いはせてしまい大事なところ以外は聞き流していました。
話は明日の事になり、明日は夜会があるので注意をという事に。
きっとお三方もいらっしゃいますし。わたくしは、ナイトロット様に気を付けておくと約束を。
この前の夜会より気軽な物。挨拶などの時間もなく、気ままに楽しんでほしいというような夜会。
それは人同士の関わり、接触がしやすくなるものです。何か仕掛けてくるなら明日でしょうとわたくしは思いました。
「あなた達はセレンファーレさんについていてあげてね」
「アーデ」
「だってわたくしより、彼女に何かあったほうが大問題ですもの」
「じゃあアーデは、殿下の隣にちゃんといて。いい? 絶対」
「いつもいるじゃない?」
「殿下」
「ああ、うん。お前たちの言いたいことはわかっている」
離れた事なんてありませんけれど、と思うのだけれども。
もう忘れてると犬達は言う。何が、かしら。
「どこかに行くときは絶対に、一人でいかない。人目のない所にはいかない。それから、殿下にちゃんと行ってから行く。駄目って言われたらいかない。というようなことを約束してほしい」
犬達に言われて、わかったわと頷く。
そんなこと念押しされなくとも大丈夫ですのに。
心配そうな顔をする犬達とこめかみを押さえて唸るリヒトと。
なんですの、その視線。そう思っているとこうしよう、とハインツが提案をしました。
「アーデは、お姉様方と一緒にいる事」
「ああ、それがいい」
「うん。そうしよう。あのお二人が一緒なら大丈夫だ」
そして、犬達は了承を取ってくると出かけてしまいました。
なんなの、と思うわたくしにリヒトは笑い零します。あいつらはお前が心配でたまらないのだな、と。
すると昨日と同じようにうちの娘に国の話をと持ちかけてくる方も。
それはやんわり、他にも来られる方がいるのでとお断りしました。
貴族たちの訪いを片付けた頃、出かけていた犬達が戻ってきました。どうやらそれぞれ収穫があった様子。
まずダーダトア公爵家の事業の失敗。
それは隣国を経て、海の向こうの国から宝石などを仕入れてくるというもの。どうやら、船が沈んでしまったようなのです。
船の旅というのは危険が伴いますから、それは予想の範囲でしょうに。しかもそれが、どうやら大量だったよう。
少量であれば、まだ取り返しがついたかもしれませんがかなり大きな額だったようです。
専用の船を新調し、人を雇い。そして大金を持たせて他国へ。船が沈んだという話は最近の事のようでした。
その知らせがつくのにも時間がかかっていたようです。
大きなことをするならそれ相応の備えは必要なのでしょうが、どうやらそれらも不十分。
この補てんを領地からの税収をあげるのか、どうするのかという所。しかし、国から税収の最大値は決まっています。
ダーダトア公爵家はそのほぼ最大値ではなかったのかしら。そういう事をすると、人々は他の領に行こうと思いますのに。
それから、その事業には黒いうわさがというのも。ならず者、つまり表立って出てこれない方達との繋がりがあると言われているそうです。
「あと、西方辺境伯の次男の結婚相手との話は、そのダーダトア家が濃厚と聞いている。つまり」
つまり、とジークは言葉を切りました。
もし、そこが繋がってしまうのならば色々な可能性が広がってしまう。
例えばそのならず者が西方からのつながりである。他国とのつながりである。
ほかにも、色々と。そういえばダーダトア領と西方領は近いのではなくて? 可能性としては無い話ではない。
本当にそのお話がまとまりかけている、もしくはまとまっているのであればアザレア嬢はそれを了承しているのかどうか。
していて、リヒトに絡んでいるのかしら。だって、もし納得しているならさっきも来たりはしないでしょう。
そうであってそこにいるならお二人が必死なのを見て笑っているはずでしょうがそういったものは無かったように思います。
納得はしてなくて、その話を壊すには次男の、ナイトロット様より格上の相手から望まれなければ難しい。
しかし、五公の中に相手はいない。三侯の中にはいますが、自分より下の家ですものね。
この話を仕方なく、破談にする、破談にさせる。その場合、上からの強い力があれば相手も文句を言えない。今それに当てはまり一番適当な相手はリヒトしかいません。
これは、手段を選ばなければハメられることもありそうです。リヒトには一層気を付けていただかないと。
「それから、その西の辺境伯の次男が王都に到着したそうだ」
あら、それは。わたくしは会わないようにしていればよいのね?
そもそも会う機会があるのか、と思いますけれど。
「一人で勝手にうろうろ歩くなよ」
「そんなことしませんけれど」
するだろ、とリヒトが言うと犬達もすると頷いている。
しませんわと再度言っても信用がないようです。なんてことなのかしら。
「話を聞くからに、いい領主ではなさそうだな」
「そうですね。ダーダトア領は穀物も育てていますから、民も多いのです」
「お前のところは?」
「わたくしの所は税金は最大値の八割くらいですのよ」
「高いな」
「ええ、高いのですけれど皆払ってくれてますわ」
シュタイン領は作物が大量に取れるわけではなく。どちらかというと産業の街。服飾品に携わる所なのです。
そして、お父様は大人が安心して働けるように子供を預かる場所を作ったり、年老いて仕事ができなくなった者達には後続を育てる仕事を作って回す。それからある一定の年齢になれば学ぶ場所も作る、といった事をされているようです。
最初はなかなか難しかったようですが、今それはシュタイン領の当たり前なのです。それに全員にそれを課しているわけではありませんし。
税は働けるもののみに。職を見つけられなくても最悪、領の自警団に入る事ができます。女性だって、その自警団で料理や洗濯。そういった仕事ができますもの。
昔は職にあぶれて貧民街だってありました。けれどお父様はそれを一つずつ無くしていったのです。
だからわたくしも。そんな人が住みやすい場所にいたからこそ、お母様と二人で生活することができたのですから。
他の領ならば、きっと死んでいましたわ。
そんなことを思い出し、少し行ってみたいと思ったのです。育ったあの場所に。
それから犬達が色々な情報を伝えてくれましたけれど、わたくしはそちらに思いはせてしまい大事なところ以外は聞き流していました。
話は明日の事になり、明日は夜会があるので注意をという事に。
きっとお三方もいらっしゃいますし。わたくしは、ナイトロット様に気を付けておくと約束を。
この前の夜会より気軽な物。挨拶などの時間もなく、気ままに楽しんでほしいというような夜会。
それは人同士の関わり、接触がしやすくなるものです。何か仕掛けてくるなら明日でしょうとわたくしは思いました。
「あなた達はセレンファーレさんについていてあげてね」
「アーデ」
「だってわたくしより、彼女に何かあったほうが大問題ですもの」
「じゃあアーデは、殿下の隣にちゃんといて。いい? 絶対」
「いつもいるじゃない?」
「殿下」
「ああ、うん。お前たちの言いたいことはわかっている」
離れた事なんてありませんけれど、と思うのだけれども。
もう忘れてると犬達は言う。何が、かしら。
「どこかに行くときは絶対に、一人でいかない。人目のない所にはいかない。それから、殿下にちゃんと行ってから行く。駄目って言われたらいかない。というようなことを約束してほしい」
犬達に言われて、わかったわと頷く。
そんなこと念押しされなくとも大丈夫ですのに。
心配そうな顔をする犬達とこめかみを押さえて唸るリヒトと。
なんですの、その視線。そう思っているとこうしよう、とハインツが提案をしました。
「アーデは、お姉様方と一緒にいる事」
「ああ、それがいい」
「うん。そうしよう。あのお二人が一緒なら大丈夫だ」
そして、犬達は了承を取ってくると出かけてしまいました。
なんなの、と思うわたくしにリヒトは笑い零します。あいつらはお前が心配でたまらないのだな、と。
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