悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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本編

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「お姉様、お姉様! ありがとうございました、やってみます!」
 と、鼻息荒いような雰囲気で。
 セレンファーレさんが朝一番に言いにきて、それをまたリヒトの前で言うものですから。
 そっとそちらを見れば、ああなるほどというような顔をされ、その後ににっこりと。
 なんとなく察したというような笑みを浮かべました。
 やだ! そんな顔されたくないわ!
 その後、移動の馬車の中で二人きりになると詳しく話せと言われ、結局話してしまったのです。
 ああ、恥ずかしい。
「なるほど……ちゃんと約束は守っているんだな」
「……は?」
「いや、セレンとの話がきちんと纏まるまで。つまりは、そちらの国に行くまで手を出すことは許さないと言ってあって」
「なんですの、それは……」
「その気持ちが本気かどうか試したというところだな。ちなみにこれは俺とサレンドルと、あの王子との約束だ」
 その試しのせいでわたくしは、あんな。あんな!
 リヒトは笑ってあの約束のせいでセレンに不安を抱かせてしまったのは悪かったなと言う。
 違いますわ、一番迷惑を被ったのはわたくし。わたくしですわ。それをわかってらっしゃるの?
「そう。そんなお約束をされていたのですね……」
「ああ。言ってなかったか?」
「言ってません」
「……拗ねるな」
「拗ねておりません」
 リヒトは困ったなと言いながら、笑っていて。
 それは本当には困ってない顔ですわねとわたくしは言ってやるのです。
「いや、困っている。どうすればお前の機嫌が良くなるのかと」
「不機嫌ではありませんのよ」
「そうか?」
 腹立たしいような、むず痒いような。
 わたくしはふんと視線逸らして外の風景に目を向ける。
 整備された街道。木々の緑は深い色。
 セルデスディアのものとは違う。
 ヴァンヘルのものとも違う。リヒテールの穏やかさがあってこそのものと、思うのです。
 故郷に近づくことに別に特別思うことはないと思っていると、ふと。
「アーデルハイト、やりたいことはあるか?」
「何がです?」
「慣れ親しんだ国に来たのだから、行きたいところとかあるのではと思って」
「……それは、ありますけれど……」
 ならそこに行こうとリヒトは言う。旅程などはどうにでもなると。
 わたくしが行きたい場所は王都内ですからすぐ行ける場所なのですけど。
「二人で街を歩いてみるのもいいかもしれないな。こちらなら俺の顔も知られてはいない」
「そんなの、無理ですわ」
「何故だ」
「あなた、目立ちますもの。衆目を集めてすぐにばれてしまいますわ」
 そう言うと、確かにと唸る。
 けれどリヒトはしばらくは大丈夫だろうの言い張るのです。
 これはわたくしを連れて街中を歩く気なのでしょう。
「ただの恋人のように過ごしてみるのも楽しいだろう?」
「そういうことをしたいのです?」
「ああ、してみたい。そういうものとは縁がないだろ?」
「まぁ……」
「憧れはないのか?」
 無いとは言いません。そういった普通の娘のようなことはしていないと思いますし。
 年頃の娘が街で恋人と過ごす。その姿を見たことはあります。それを羨ましいなと思ったことは、あまり覚えがありません。
 けれどそんな遊びもまたリヒトとならと思えてしまったのです。
「そんな暇があれば良いのですけれど」
「あるさ。俺たちは付き添いで、仕事が多いのはセレンだ」
「そうかしら」
 それは彼女の方が多いだけでわたくしたちに何もないわけではないのですが。
 これから彼女は我が家に滞在し、城に通いながらたくさんのことを勉強していく。
 そしてミヒャエルの立太式と合わせて結婚することになっているのです。
 わたくしたちは婚約式の為に一緒に来てるのです。
「リヒテールでは会議はほぼないからな。ついてきた重臣の何人かも先に帰るだろう」
「ああ、難しいお話があまりないのね」
「そう。気楽なものさ」
 気楽。
 そうであればいいのですが。
 政治のお話がないあなたは気楽でしょうがわたくしはそうでもありませんのよ。
 必ず現れるであろうお三方と、西の辺境伯の次男。
 もしかしたら他にもいるかもしれませんし。
 あとはそう。お兄様とお嫁に行かれたお姉様からも日頃の話など聞かれるでしょうし。
 嫌いではないのです。家族でしたし。
 突然できた異母妹にも優しくしてくださったのですから。
 しかし、根掘り葉掘り聞かれるのは許していただきたい。
 あまつさえリヒトも一緒になんて言いそうなのです、お姉様は。それを言うとお義母様も加わりそうなのですが。
「……リヒト、きっとわたくしのお姉様とお兄様が会いに来られると思うのですけど」
「ああ、それで?」
「色々尋ねてくると思いますからほどほどに流してください」
 まともに答えていると疲れますから。
 そう言うと、ちゃんとお相手しなければいけないだろうと逆に言われてしまいました。
「アーデルハイトの兄君と姉君なら俺にとってもそうだ。お会いする機会はあまりないし、会える時にきちんとな」
「お兄様はともかく、お姉様は……長くなりますわよ」
「婦人の話はそのようなものだろう」
 そうですけれど。
 わたくしはまぁ、好きにされてと投げました。どうせその時はご一緒するのでしょうし。
「……こんなに毎日、側にいられるのはいいな」
「え?」
「城にいれば公務で昼は別だろう? けれど、この旅の間は一緒にこうして過ごせる」
 色々な話ができてなかなか楽しいとリヒトの機嫌は良いのです。
 わたくしも、色々な事に気付きましたのよ。
 あなたがさりげなくわたくしに気を使ってくださってることとか。
 少し眠い時には目頭を押さえて堪えたり。
 それから、癖なのでしょうけれど考え事をしている時はとんとんと、指先でリズムをとっていたりとか。
 長く一緒にいるからこそ、知ることができました。
 この旅もまた意味のあるものになっているのでしょう。
 リヒテールで過ごし、セルデスディアに戻ったらまた何か、わたくしの気持ちは変わっているのかしら。
 わたくしは、ええ。
 もうわかっているのだけれど、それをまだ言葉にして伝えていないのです。
 それで良いと思っていたのですけれど。
 それで、良いと思えなくなっているのです。
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