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本編
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近くにいた侍従を捕まえて、サレンドル様のいらっしゃる場所を尋ねる。
貴賓室のひとつにいると聞いて、尋ねてもかまわないかと取次ぎをお願いしました。
しばらくするとどうぞおいでくださいと、わたくしは案内されたのですが今、部屋に入って大丈夫なのか確認してまいりますからと留め置かれました。
「……すっと案内してくださらないのね。込み入った話でもしてるのかしら」
するとしばらくして、現れたのはサレンドル様ご自身でした。
「サレンドル様? ディートリヒ様とご一緒では?」
「ああ、ええ。一緒でしたよ。でも、少し時間を置いた方がおもし……良いかと思って出てきました」
「時間?」
というより、先程面白いと言おうとされていましたよね。
サレンドル様は楽しげに笑われていらっしゃいましたが、それでとすっと瞳細められました。
「何か言いたい事があって、私の所へ来られたのでは?」
「ええ。ベンデッタ伯爵の事ですわ。もっと早くに、捕まえる事もできたのでしょう?」
「それは……申し訳ないと思っています」
「いえ、思ってらっしゃらないでしょう?」
そうきつく問えば、苦笑でかわされる。まったく思ってないことも、ないとは思います。
けれど、国のためにすることにこの方は心痛める事は多少あってもすぐ忘れるのだろうなとわたくしは思うのです。
「あとで彼女に謝罪をしましょう。確かに、彼女を使わせていただいたのは事実ですから。国としてではなく、私個人として」
「謝って許される事ではありませんのよ。未遂でしたけど、何かあったら」
「ありませんよ。起させないように準備していましたから」
私はベンデッタがやろうとしていたことを知っていたのでとサレンドル様は仰いました。
わたくしがその言葉に眉顰めると、間者がいたのですよと。
「あの部屋に行くこと、それから手下の人数もわかっていました。そしてあなたが、彼女に何かあってはとお気に入りのあの三人をつけるのもわかっていましたし。ああ、彼等すごいですね。私の部下が抑えるのに手こずったと言っていました」
そう言いながら、もうこのような事はありませんよと笑って。
「ベンデッタ伯爵からすべて吐き出させてヴァンヘルの膿を出し切ってしまいますから。それに私はもうひとつ、彼女に降りかかる災難を払いましたし」
「ほかに、何かありましたの?」
「ええ、まぁ。私の子飼いも優秀なので、先に潰しておきました」
彼女にお話することはありませんが、それととんとんでお願いしますとサレンドル様は仰られました。
そのことをリヒトにも話したのか尋ねれば、話して怒られてしまいましたと苦笑され。
「ですから、部屋を出てきたのです。怒ってまともに取り合ってもらえなくなって、あなたにとりなしてもらおうとお迎えにあがるつもりが、用があると仰られて丁度良かったのですよ。まぁ、怒らせた理由は他にもありますけど……」
「どんなお話をされてましたの……」
「色々ですよ、色々」
さぁ、王太子妃様とサレンドル様はわたくしに手を差し出す。
わたくしも文句を言いましたし。サレンドル様はセレンファーレさんに謝ると仰っている。リヒトも怒って、それを伝えているようですし。
「とりなすかは、わかりませんわよ?」
「いえ、大丈夫です。あなたを連れて行けばそれだけで、怒りも収まるでしょうから」
何が大丈夫なのか。わたくしが何も言わないかもしれませんのに。
にこにこと笑っているのに何か薄ら寒いものを感じもするのですが、悪意はないようで。
サレンドル様に案内されるままに近くの部屋へ。
「一番奥の寝室もお好きに使っていただいて大丈夫ですから」
それではあとはよろしくお願いしますとサレンドル様はわたくしの背中を押して部屋に入れる。
何故、と思って振り返るとすでに扉を閉じられていました。
「え? サレンドル様?」
「奥の部屋にいらっしゃいますから、あとはどうぞお二人で」
扉を開けようとするものの開かない。鍵がかけられていてどうにもならない様子。
「……何か企んでらっしゃいますの?」
「いえ、何も。本当はディートリヒ殿の顔も見たいのですが、つっかかられると思うので」
どうぞあなただけで、奥にと楽しげな声。
わたくしだけの力ではどうにもなりませんし、戻らなければ犬達も探すでしょう。
リヒトと一緒にいたほうが良いかしらと、先に進むべくそっと扉を開ける。
「ディートリヒ様、いらっしゃいますの?」
「っ、アーデルハイト?」
「ええ。サレンドル様に部屋に、おしこめられて……リヒト?」
何かおかしいと、感じる違和感。
部屋の真ん中にある長椅子に腰かけているリヒトはわたくしから視線をそらしました。
どうしたのかしらと近づけば、リヒトは寄るなと、わたくしに言ったのです。
貴賓室のひとつにいると聞いて、尋ねてもかまわないかと取次ぎをお願いしました。
しばらくするとどうぞおいでくださいと、わたくしは案内されたのですが今、部屋に入って大丈夫なのか確認してまいりますからと留め置かれました。
「……すっと案内してくださらないのね。込み入った話でもしてるのかしら」
するとしばらくして、現れたのはサレンドル様ご自身でした。
「サレンドル様? ディートリヒ様とご一緒では?」
「ああ、ええ。一緒でしたよ。でも、少し時間を置いた方がおもし……良いかと思って出てきました」
「時間?」
というより、先程面白いと言おうとされていましたよね。
サレンドル様は楽しげに笑われていらっしゃいましたが、それでとすっと瞳細められました。
「何か言いたい事があって、私の所へ来られたのでは?」
「ええ。ベンデッタ伯爵の事ですわ。もっと早くに、捕まえる事もできたのでしょう?」
「それは……申し訳ないと思っています」
「いえ、思ってらっしゃらないでしょう?」
そうきつく問えば、苦笑でかわされる。まったく思ってないことも、ないとは思います。
けれど、国のためにすることにこの方は心痛める事は多少あってもすぐ忘れるのだろうなとわたくしは思うのです。
「あとで彼女に謝罪をしましょう。確かに、彼女を使わせていただいたのは事実ですから。国としてではなく、私個人として」
「謝って許される事ではありませんのよ。未遂でしたけど、何かあったら」
「ありませんよ。起させないように準備していましたから」
私はベンデッタがやろうとしていたことを知っていたのでとサレンドル様は仰いました。
わたくしがその言葉に眉顰めると、間者がいたのですよと。
「あの部屋に行くこと、それから手下の人数もわかっていました。そしてあなたが、彼女に何かあってはとお気に入りのあの三人をつけるのもわかっていましたし。ああ、彼等すごいですね。私の部下が抑えるのに手こずったと言っていました」
そう言いながら、もうこのような事はありませんよと笑って。
「ベンデッタ伯爵からすべて吐き出させてヴァンヘルの膿を出し切ってしまいますから。それに私はもうひとつ、彼女に降りかかる災難を払いましたし」
「ほかに、何かありましたの?」
「ええ、まぁ。私の子飼いも優秀なので、先に潰しておきました」
彼女にお話することはありませんが、それととんとんでお願いしますとサレンドル様は仰られました。
そのことをリヒトにも話したのか尋ねれば、話して怒られてしまいましたと苦笑され。
「ですから、部屋を出てきたのです。怒ってまともに取り合ってもらえなくなって、あなたにとりなしてもらおうとお迎えにあがるつもりが、用があると仰られて丁度良かったのですよ。まぁ、怒らせた理由は他にもありますけど……」
「どんなお話をされてましたの……」
「色々ですよ、色々」
さぁ、王太子妃様とサレンドル様はわたくしに手を差し出す。
わたくしも文句を言いましたし。サレンドル様はセレンファーレさんに謝ると仰っている。リヒトも怒って、それを伝えているようですし。
「とりなすかは、わかりませんわよ?」
「いえ、大丈夫です。あなたを連れて行けばそれだけで、怒りも収まるでしょうから」
何が大丈夫なのか。わたくしが何も言わないかもしれませんのに。
にこにこと笑っているのに何か薄ら寒いものを感じもするのですが、悪意はないようで。
サレンドル様に案内されるままに近くの部屋へ。
「一番奥の寝室もお好きに使っていただいて大丈夫ですから」
それではあとはよろしくお願いしますとサレンドル様はわたくしの背中を押して部屋に入れる。
何故、と思って振り返るとすでに扉を閉じられていました。
「え? サレンドル様?」
「奥の部屋にいらっしゃいますから、あとはどうぞお二人で」
扉を開けようとするものの開かない。鍵がかけられていてどうにもならない様子。
「……何か企んでらっしゃいますの?」
「いえ、何も。本当はディートリヒ殿の顔も見たいのですが、つっかかられると思うので」
どうぞあなただけで、奥にと楽しげな声。
わたくしだけの力ではどうにもなりませんし、戻らなければ犬達も探すでしょう。
リヒトと一緒にいたほうが良いかしらと、先に進むべくそっと扉を開ける。
「ディートリヒ様、いらっしゃいますの?」
「っ、アーデルハイト?」
「ええ。サレンドル様に部屋に、おしこめられて……リヒト?」
何かおかしいと、感じる違和感。
部屋の真ん中にある長椅子に腰かけているリヒトはわたくしから視線をそらしました。
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