悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

文字の大きさ
上 下
107 / 245
本編

98

しおりを挟む
 近くにいた侍従を捕まえて、サレンドル様のいらっしゃる場所を尋ねる。
 貴賓室のひとつにいると聞いて、尋ねてもかまわないかと取次ぎをお願いしました。
 しばらくするとどうぞおいでくださいと、わたくしは案内されたのですが今、部屋に入って大丈夫なのか確認してまいりますからと留め置かれました。
「……すっと案内してくださらないのね。込み入った話でもしてるのかしら」
 するとしばらくして、現れたのはサレンドル様ご自身でした。
「サレンドル様? ディートリヒ様とご一緒では?」
「ああ、ええ。一緒でしたよ。でも、少し時間を置いた方がおもし……良いかと思って出てきました」
「時間?」
 というより、先程面白いと言おうとされていましたよね。
 サレンドル様は楽しげに笑われていらっしゃいましたが、それでとすっと瞳細められました。
「何か言いたい事があって、私の所へ来られたのでは?」
「ええ。ベンデッタ伯爵の事ですわ。もっと早くに、捕まえる事もできたのでしょう?」
「それは……申し訳ないと思っています」
「いえ、思ってらっしゃらないでしょう?」
 そうきつく問えば、苦笑でかわされる。まったく思ってないことも、ないとは思います。
 けれど、国のためにすることにこの方は心痛める事は多少あってもすぐ忘れるのだろうなとわたくしは思うのです。
「あとで彼女に謝罪をしましょう。確かに、彼女を使わせていただいたのは事実ですから。国としてではなく、私個人として」
「謝って許される事ではありませんのよ。未遂でしたけど、何かあったら」
「ありませんよ。起させないように準備していましたから」
 私はベンデッタがやろうとしていたことを知っていたのでとサレンドル様は仰いました。
 わたくしがその言葉に眉顰めると、間者がいたのですよと。
「あの部屋に行くこと、それから手下の人数もわかっていました。そしてあなたが、彼女に何かあってはとお気に入りのあの三人をつけるのもわかっていましたし。ああ、彼等すごいですね。私の部下が抑えるのに手こずったと言っていました」
 そう言いながら、もうこのような事はありませんよと笑って。
「ベンデッタ伯爵からすべて吐き出させてヴァンヘルの膿を出し切ってしまいますから。それに私はもうひとつ、彼女に降りかかる災難を払いましたし」
「ほかに、何かありましたの?」
「ええ、まぁ。私の子飼いも優秀なので、先に潰しておきました」
 彼女にお話することはありませんが、それととんとんでお願いしますとサレンドル様は仰られました。
 そのことをリヒトにも話したのか尋ねれば、話して怒られてしまいましたと苦笑され。
「ですから、部屋を出てきたのです。怒ってまともに取り合ってもらえなくなって、あなたにとりなしてもらおうとお迎えにあがるつもりが、用があると仰られて丁度良かったのですよ。まぁ、怒らせた理由は他にもありますけど……」
「どんなお話をされてましたの……」
「色々ですよ、色々」
 さぁ、王太子妃様とサレンドル様はわたくしに手を差し出す。
 わたくしも文句を言いましたし。サレンドル様はセレンファーレさんに謝ると仰っている。リヒトも怒って、それを伝えているようですし。
「とりなすかは、わかりませんわよ?」
「いえ、大丈夫です。あなたを連れて行けばそれだけで、怒りも収まるでしょうから」
 何が大丈夫なのか。わたくしが何も言わないかもしれませんのに。
 にこにこと笑っているのに何か薄ら寒いものを感じもするのですが、悪意はないようで。
 サレンドル様に案内されるままに近くの部屋へ。
「一番奥の寝室もお好きに使っていただいて大丈夫ですから」
 それではあとはよろしくお願いしますとサレンドル様はわたくしの背中を押して部屋に入れる。
 何故、と思って振り返るとすでに扉を閉じられていました。
「え? サレンドル様?」
「奥の部屋にいらっしゃいますから、あとはどうぞお二人で」
 扉を開けようとするものの開かない。鍵がかけられていてどうにもならない様子。
「……何か企んでらっしゃいますの?」
「いえ、何も。本当はディートリヒ殿の顔も見たいのですが、つっかかられると思うので」
 どうぞあなただけで、奥にと楽しげな声。
 わたくしだけの力ではどうにもなりませんし、戻らなければ犬達も探すでしょう。
 リヒトと一緒にいたほうが良いかしらと、先に進むべくそっと扉を開ける。
「ディートリヒ様、いらっしゃいますの?」
「っ、アーデルハイト?」
「ええ。サレンドル様に部屋に、おしこめられて……リヒト?」
 何かおかしいと、感じる違和感。
 部屋の真ん中にある長椅子に腰かけているリヒトはわたくしから視線をそらしました。
 どうしたのかしらと近づけば、リヒトは寄るなと、わたくしに言ったのです。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

処理中です...