悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

文字の大きさ
上 下
91 / 245
本編

83

しおりを挟む
 変わりなく過ごしていたある日、ヴァンヘルから招待状が届きました。
 それはリヒトが依頼していた、そちらの国を見てみたいとう要望が通されたという事。
 この辺りでという日程の指定の下に、こちらの予定を調整していくとセレンファーレさんがリヒテールに発つひと月前という事に。
 それにセレンファーレさんが母の国を見てみたいと仰り、共に行くことになりました。そして予定を早めて、リヒテールへと入ることに。
 リヒテールへ向かう都合というものは、我が家にお迎えするのが早くなるだけですので特に問題はありませんでした。あちらに行くのが遅くなるわけではなく早まるのですから互いにとっては嬉しいことでしょう。
 その旅にレオノラ嬢も同行することになりました。もとより彼女はセレンファーレさん一人では、というところから一緒に向かうことになってましたし。
 見聞を広める為ということで彼女もまた一緒に行くこととなっておりました。
 そしてセレンファーレさんが発つ日が決まった時よりわたくしはやめたのです。
 月の物を止める薬を飲むことを。
 わたくしがそれを飲むのをやめた事は、王族付きの医者から王妃様の耳にも入っていたようです。やっとなのねとお声掛けいただき、楽しみにされているようでした。
 すぐに子を産めるようになるでもなく、体が整わねばならない事ですから早くと仰られない事は救いです。
 そしてわたくしは、飲むのをやめた事をリヒトにまだ、言っていませんでした。しかし今日、始まりましたのでもうわかる事でも、あります。
 知られることは少し怖くもありました。
 それに加え、久しぶりの鈍痛に思考も何もかもついていかなくて、深いため息ばかり今日は零れる。
 しかし、この告げていなかったことが悪かったようで。
 わたくしの体調が悪いと聞いたリヒトは仕事を切り上げて戻ってきたのです。大事な会議があると、今日はお聞きしたのですけれど。
「騒ぐようなことではありませんから戻ってくださいな」
「しかし」
「……これは、その、これから毎月……いえ、なんでもありませんので」
「は?」
「…………いいから、行ってください」
 わたくしは背を押して部屋から追い出そうとしました。
 なんだ、どうしてだと不思議そうな顔をしていたリヒトは、やがて思い至ったのでしょう。
「……月の物か」
 その言葉にわたくしは頷くしかなく。しかし、どこか居心地の悪いものもありました。
「……ええ、そうです……」
「いいのか?」
 いいのか、というその問いの意味がわからなくて首を傾げると、リヒトはもういつ、そうなってもと零しました。
 わたくし自身、決心というか覚悟はまだ、定まってはいません。
 けれどいつまでも逃げているわけにもいかない事ですし、区切りとしてここは自分も納得させやすい所だったのだと思います。
 それに、気をつけていればすぐに子がということも、絶対ではありませんが……ないでしょうし。
「ええ。でも、その……少し、待っていただけるなら、その方が」
「難しいことを言う……」
 俺はいつでもお前に触れたいのに、我慢させるような事をとリヒトは言って、わたくしに口付けていく。
「体調が良いわけじゃないだろ? ゆっくり過ごしていろ」
 俺は戻ると、納得したリヒトは仕事に戻りました。
 なんだか拍子抜けするような、あっという間の事。
 その、もっと。一人で何故決めた、だとか。まだ良かったのにとか。
 そういう事を言われるかもと思っていたのですが、それは全く無くて。
 わたくしの気持ちを確認するかのようにいいのか、と問われただけ。
 優しいと思う。わたくしを大事にしてくれていると思う。
 だからわたくしも、彼を大事にしたいし、優しくしたいと思う。
 今のこの気持ちを犬達が知ったら笑うかしら。何と言うかしら。
 いえ、きっとわたくしが決めた事なのならと受け入れるのでしょう。彼らはそういう気持ちの返し方をわたくしにしているのだから。
 そんな事を思いながら、ツェリに淹れてもらったハーブティーでほっとしていると、わたくしと会いたいという者がいるのだと報せがありました。
 それはレオノラ嬢からで、待たせている部屋までわたくしは向かいました。
 その部屋で、彼女は真っ青な顔をしており何かあったのだとすぐにわかるほどでした。
 挨拶もそこそこにどうされたのと尋ねると手紙を、わたくしに差し出したのです。
 拝見してもと問うと頷く。わたくしはその手紙を読ませていただきました。
 まぁ、彼女をこのような顔にさせる相手は、わたくしの心当たりではひとり。
 ガゼル様からのお手紙だろうと思っていると、まさにそうで。
 そこにはただ『帰ってきなさい』と一言あるだけでした。逆にそれが、恐ろしくもあるところ。
「王太子妃様……」
 不安そうな声に大丈夫よとわたくしは微笑みます。
 このような手紙をよこしてきた理由はきっとひとつでしょう。
「これはあなたがヴァンヘルに一緒に行くからでしょうね」
 それは国からの命令として通す予定。内々には決まっているが、という程度の情報ではあります。
 ヴァンヘル、そしてリヒテールへ。
 それはガゼル様にとって良くない事なのでしょう。だって、ご自分のしていたことがどうとられるかはわかっていらっしゃるのでしょうから。
 妹への教育といっても度が過ぎていた。周囲に知れ渡れば困るのはガゼル様です。
「あなたの家に、国として正式にお願いしたという書面を流すようお願いしておくわ」
 この手紙に従って実家に帰る必要もないわとわたくしは続けました。
 もし何かひっかかるのなら、まだ勉強することもあるから返している暇はないとわたくしに言われたのだと手紙を書きなさい。わたくしも一筆書いて差し上げるわとレオノラ嬢に告げます。
「あなたに必要なのはあのお兄様と離れる事よ。もしヴァンヘルか、リヒテールで良い人と出会ったのならそのまま嫁いでしまう方が良いと思うわ」
 そうすればもう手は届きませんよとわたくしが言うとレオノラ嬢は頷いて。
「兄は、私の事が知れた場合、どうなるのでしょうか」
「それはわたくしの決める事ではないわ。あなたが傷つけた罪を償えと声をあげるなら、しかるべきところで正しくさばいていただくことになるのでしょうが。そうはしないのでしょう?」
 それは家の体面もあることでしょうから。
 レオノラ嬢は頷いて、何もされないのであればと言いました。
 そう、何もされないのであれば、と。今まで静かにされていたのに突然のお手紙。
 何か起こるのでは、と思わないこともありません。けれどひとまず、レオノラ嬢を安心させるのが一番でしょう。
 もう一度、戻る必要はないと言い含めておきました。
 セレンファーレさんにもお話して、何かおかしな事がないのか尋ねておくべきかもしれません。
 彼女は彼女で、少し浮き足立ってしまっていますから何かお願いして繋ぎとめておくのも良いでしょうし。
 わたくしは、今日はもう部屋でお休みなさいと声をかけてレオノラ嬢を送らせました。
 この件はきっとわたくしだけではどうにもできないでしょう。
 リヒトに話さなければと、わたくしは手紙を預かったのでした。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

処理中です...