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本編
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セレンファーレさんとレオノラ嬢のお勉強も問題なく続き、お父様とお義母様がいらっしゃる日が参りました。
王城に到着されたのをわたくしは迎えました。入り口での挨拶はそこそこに、国王様達のいらっしゃる場所へご案内を。
そこでの国同士の挨拶を終え、応接間へと移動してほっと、一息。
皆様気を使ってくださったのか、お父様とお義母様とわたくしだけにしてくださいました。
あとで、ディートリヒ様はいらっしゃいますでしょうが。
「元気そうだな」
「ええ、お父様もお義母様もお変わりないようで」
「うまくやっているようで安心したわ。困ったことなどはない?」
「ええ、ありませんわ。良くしていただいております」
お義母様はそう、とほっとされているようです。
お義母様は、血が繋がらぬわたくしを大事に育ててくださいました。色々なことを教えていただき、淑女として文句のつけようがないようにしてくださった。
愛情を、注いでくださったのだと思います。逆にお父様のほうが、わたくしの扱いに困っているようでした。
そんなわたくしが、まさかこの国の王太子妃になるなんて、思ってもいらっしゃらなかったでしょう。わたくしだって、そうですし。
「……一年前よりも柔らかな表情をしているのね」
「え?」
「楽しそうよ。アーデルハイトはこちらの方が、窮屈な思いをしてないのね」
「確かに……王太子妃なんて恐れ多いと思ったのだが、望まれていっただけのことはあったか」
私もこれで一安心だと、お父様は零しました。
何を、安心なさったのか。人並みに親として、娘を心配していたということなのでしょう。
「そうそう、貰ったお茶、とても美味しかったの。あれを買って帰りたいのだけど」
「それならわたくしが用意しますわ。お土産に、他の婦人方にもお配りになるのでしょう?」
「ええ。何種類かあると嬉しいわ」
「わかりました。お帰りになるまでに一度、お茶会をしましょう、お義母様」
お父様もご一緒します? と問えばそうだな、と意外な声が返りました。
わたくしは、お前達だけでしなさいとくると思ったのですが。それにはお義母様も驚いていたようです。
「……アーデルハイト。ミヒャエル殿下から手紙を預かっているのだが……やましいことは、ないな?」
「え?」
「本当は殿下を好いている、などは」
「お父様、何を仰ってらっしゃるの?」
「……ないようだな。よかった」
お父様はお付きの者に箱を持ってこさせました。わたくしの前におくので、開けなさいということでしょう。
開くと、二つ。わたくしの名前が書いてある物と、何もない物。
まぁ、こちらのお名前が無い物はおそらく、というよりどう考えてもセレンファーレさん宛でしょう。
「……ミヒャエルには思う方がいらっしゃいますのよ、お父様」
「殿下に?」
「ええ。その方はこちらの国にいらっしゃいますの。お父様にも、お力を借りなければいけないことになるかもしれないのですが」
お父様はわたくしの言葉に渋い顔をされました。
おそらく、リヒテールでミヒャエルの妃候補がもうすでに何人かいるのでしょう。
それをひっくり返すことになる。そのメリットデメリットを考えているのだと思います。
「今、釣り合いが取れるようにお勉強されてますから、ミヒャエルが立太子する頃にはどこに出ても恥ずかしくない方になられていると思いますわ」
「それは、その方の後見になれということか?」
「リヒテールでの後見というならそうですわね……お父様がお口添えしていただいたほうが色々と、面倒はないかと思いますが」
むぅ、と唸るお父様に、お義母様は会ってみれば良いじゃないですか、と仰います。
好きな方と添い遂げる事ができるのは幸せな事ですし、と。
お義母様は現実的でもありますが、夢見がちな少女のようでもあります。恋の話は何よりも、楽しい話題というところ。
セレンファーレさんとお義母様は、引き合わせておくべきでしょう。きっと、リヒテールに行くことになった場合、力になってくださるでしょうし。
何より、着飾って遊ぶことが好きなお義母様ですから、セレンファーレさんは格好の獲物に違いありません。
「彼女の後見は……ディートリヒ様ですのであとで詳しいお話をいたしましょう」
そう告げたすぐ後、部屋の外からディートリヒ様の訪いが告げられました。
お父様たちは立ち上がり、ディートリヒ様を迎えられます。しかし、ディートリヒ様はおひとりではありませんでした。
セレンファーレさんをエスコートして現れたのです。
まぁ、なんて行動の早いと思うわたくしに、ディートリヒ様は笑いかけてきました。
「連れてきてはいけなかったか?」
「いえ、先程お話を……していましたの」
そうか、とディートリヒ様は頷き、お父様とお義母様に礼をして、こちらは私の従妹なのだと紹介されました。
お父様もお義母様も、ディートリヒ様にそんな方がいるなんて知りません。対外的には、隠された姫ですからセレンファーレさんは存在しないものなのですから。
「セレンファーレと申します」
セレンファーレさんは完璧な淑女の礼をとられました。お父様とお義母様もそれに応えます。
しかし、本当かというような視線をわたくしに向けてきます。
わたくしは微笑んで、それを肯定しました。
「セレンファーレの母は、亡国の公女なのだ。だから、今は秘された姫なのです。しかし、隠す必要がもうすぐ」
「なくなりますな」
「ご存じでしたか」
まぁ、とお父様は頷きます。お父様も知ってらっしゃるのですね、ヴァンヘルの事は。
そして、そういうことならば殿下とも問題はなさそうですなと紡ぎました。
それはリヒテールに置いて、力を貸そうという事でしょう。
それから立ち話も、と腰をおろすことになったのですが、お父様とディートリヒ様は公的なお話をと、隣室へ移動されました。
残されたわたくしたちは、のんびりと女同士のお話をしたのです。
主に、お義母様がセレンファーレ様に、ミヒャエルとのことをお尋ねして照れているのをかわいらしいと愛でているような、そんな感じでしたが。
セレンファーレさんとお義母様の関係はどうやら問題ないようです。
リヒテールに行った場合、良き相談相手になってくれることでしょう。お義母様は、ミヒャエルのお母様、つまり王妃様とも懇意にしてらっしゃいますし。
そして、後日のお茶会にセレンファーレさんも一緒にとなりました。
まぁ、そうなるだろうなと思っていたのですが。また料理長に腕を振るっていただきましょう。
王城に到着されたのをわたくしは迎えました。入り口での挨拶はそこそこに、国王様達のいらっしゃる場所へご案内を。
そこでの国同士の挨拶を終え、応接間へと移動してほっと、一息。
皆様気を使ってくださったのか、お父様とお義母様とわたくしだけにしてくださいました。
あとで、ディートリヒ様はいらっしゃいますでしょうが。
「元気そうだな」
「ええ、お父様もお義母様もお変わりないようで」
「うまくやっているようで安心したわ。困ったことなどはない?」
「ええ、ありませんわ。良くしていただいております」
お義母様はそう、とほっとされているようです。
お義母様は、血が繋がらぬわたくしを大事に育ててくださいました。色々なことを教えていただき、淑女として文句のつけようがないようにしてくださった。
愛情を、注いでくださったのだと思います。逆にお父様のほうが、わたくしの扱いに困っているようでした。
そんなわたくしが、まさかこの国の王太子妃になるなんて、思ってもいらっしゃらなかったでしょう。わたくしだって、そうですし。
「……一年前よりも柔らかな表情をしているのね」
「え?」
「楽しそうよ。アーデルハイトはこちらの方が、窮屈な思いをしてないのね」
「確かに……王太子妃なんて恐れ多いと思ったのだが、望まれていっただけのことはあったか」
私もこれで一安心だと、お父様は零しました。
何を、安心なさったのか。人並みに親として、娘を心配していたということなのでしょう。
「そうそう、貰ったお茶、とても美味しかったの。あれを買って帰りたいのだけど」
「それならわたくしが用意しますわ。お土産に、他の婦人方にもお配りになるのでしょう?」
「ええ。何種類かあると嬉しいわ」
「わかりました。お帰りになるまでに一度、お茶会をしましょう、お義母様」
お父様もご一緒します? と問えばそうだな、と意外な声が返りました。
わたくしは、お前達だけでしなさいとくると思ったのですが。それにはお義母様も驚いていたようです。
「……アーデルハイト。ミヒャエル殿下から手紙を預かっているのだが……やましいことは、ないな?」
「え?」
「本当は殿下を好いている、などは」
「お父様、何を仰ってらっしゃるの?」
「……ないようだな。よかった」
お父様はお付きの者に箱を持ってこさせました。わたくしの前におくので、開けなさいということでしょう。
開くと、二つ。わたくしの名前が書いてある物と、何もない物。
まぁ、こちらのお名前が無い物はおそらく、というよりどう考えてもセレンファーレさん宛でしょう。
「……ミヒャエルには思う方がいらっしゃいますのよ、お父様」
「殿下に?」
「ええ。その方はこちらの国にいらっしゃいますの。お父様にも、お力を借りなければいけないことになるかもしれないのですが」
お父様はわたくしの言葉に渋い顔をされました。
おそらく、リヒテールでミヒャエルの妃候補がもうすでに何人かいるのでしょう。
それをひっくり返すことになる。そのメリットデメリットを考えているのだと思います。
「今、釣り合いが取れるようにお勉強されてますから、ミヒャエルが立太子する頃にはどこに出ても恥ずかしくない方になられていると思いますわ」
「それは、その方の後見になれということか?」
「リヒテールでの後見というならそうですわね……お父様がお口添えしていただいたほうが色々と、面倒はないかと思いますが」
むぅ、と唸るお父様に、お義母様は会ってみれば良いじゃないですか、と仰います。
好きな方と添い遂げる事ができるのは幸せな事ですし、と。
お義母様は現実的でもありますが、夢見がちな少女のようでもあります。恋の話は何よりも、楽しい話題というところ。
セレンファーレさんとお義母様は、引き合わせておくべきでしょう。きっと、リヒテールに行くことになった場合、力になってくださるでしょうし。
何より、着飾って遊ぶことが好きなお義母様ですから、セレンファーレさんは格好の獲物に違いありません。
「彼女の後見は……ディートリヒ様ですのであとで詳しいお話をいたしましょう」
そう告げたすぐ後、部屋の外からディートリヒ様の訪いが告げられました。
お父様たちは立ち上がり、ディートリヒ様を迎えられます。しかし、ディートリヒ様はおひとりではありませんでした。
セレンファーレさんをエスコートして現れたのです。
まぁ、なんて行動の早いと思うわたくしに、ディートリヒ様は笑いかけてきました。
「連れてきてはいけなかったか?」
「いえ、先程お話を……していましたの」
そうか、とディートリヒ様は頷き、お父様とお義母様に礼をして、こちらは私の従妹なのだと紹介されました。
お父様もお義母様も、ディートリヒ様にそんな方がいるなんて知りません。対外的には、隠された姫ですからセレンファーレさんは存在しないものなのですから。
「セレンファーレと申します」
セレンファーレさんは完璧な淑女の礼をとられました。お父様とお義母様もそれに応えます。
しかし、本当かというような視線をわたくしに向けてきます。
わたくしは微笑んで、それを肯定しました。
「セレンファーレの母は、亡国の公女なのだ。だから、今は秘された姫なのです。しかし、隠す必要がもうすぐ」
「なくなりますな」
「ご存じでしたか」
まぁ、とお父様は頷きます。お父様も知ってらっしゃるのですね、ヴァンヘルの事は。
そして、そういうことならば殿下とも問題はなさそうですなと紡ぎました。
それはリヒテールに置いて、力を貸そうという事でしょう。
それから立ち話も、と腰をおろすことになったのですが、お父様とディートリヒ様は公的なお話をと、隣室へ移動されました。
残されたわたくしたちは、のんびりと女同士のお話をしたのです。
主に、お義母様がセレンファーレ様に、ミヒャエルとのことをお尋ねして照れているのをかわいらしいと愛でているような、そんな感じでしたが。
セレンファーレさんとお義母様の関係はどうやら問題ないようです。
リヒテールに行った場合、良き相談相手になってくれることでしょう。お義母様は、ミヒャエルのお母様、つまり王妃様とも懇意にしてらっしゃいますし。
そして、後日のお茶会にセレンファーレさんも一緒にとなりました。
まぁ、そうなるだろうなと思っていたのですが。また料理長に腕を振るっていただきましょう。
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