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本編
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セレンファーレさんとレオノラ嬢を引き合わせて数日。
二人は王宮の中でほとんどの時間を一緒に過ごしていました。
どうなるかしら、と見守ってはいたのですが問題ないようです。
最初は様子見で、控えめだったレオノラ嬢でしたがセレンファーレさんが、そう。
浮世離れしているのを見て、色々と言う様になったのです。それはちくちくとお小言のようで。
嫌味のような言い方ですが、悪意はないようでした。
それを見ていて、レオノラ嬢は素直なのだなと思ったのです。素直に言葉にしすぎる。
だから、悪意があっても、なくても――言い方が下手。
わたくしに泥棒猫! と言った事を覚えてらして? と言ったら顔を真っ赤にして、申し訳ありませんでしたと謝ってきましたので、あれが恥ずかしく失礼に当たる事だったというのにちゃんと気付いたようです。
言われたわたくしはとても面白かったのですけども。
対して、セレンファーレさんはレオノラ嬢を見て学ぶところもあるようです。
周囲の様子を窺わずものを言うのならばよく考えてから。しかし考えすぎるとそのタイミングを逸してしまう、とか。
彼女は自己主張をどんな場所でもできる方が良いのではとわたくしは思っていました。
レオノラ嬢はそこでそれを言うのは、と思うようなこともありますがなんでもはっきりと口にすることができるという、我の強さを学んでいるようです。
案外、二人の相性は悪くないのではと思いました。
これでしたら、数日分の日程を組んで王妃様にお預けすることもできそうです。
というのも茶会が終わったら他国に赴くのに付き合えと、ディートリヒ様に言われておりました。
その話をされたのです。わたくしはすっかりではありませんがそんなこと、記憶の端に追いやっておりましたからそんなお話もありましたねと思ったのです。
日程は一週間程。
犬達はお留守番、セレンファーレさんの護衛と言うと、三人ともそれはありえない、と口をそろえ。相談の結果、それなら一人だけ一緒に行くということになりました。
それもまた、誰が行くと騒いだもので。最終的に剣で競ってハインツが一緒に行くことになりました。
彼らの剣の腕というのはほぼほぼ並んでいるので、それは白熱した戦いになったのです。
折角ですので、とセレンファーレさんとエレノア嬢にもその様を見せて差し上げたのですが、彼女たちの想像していたようなお綺麗な、儀式的な型にはまったものではなく泥仕合のようなものでしたので少し驚かれていたようです。
まぁ、彼らはそれも楽しいのでしょうが。
わたくしがいない間、残る二人が護衛を。それからいくつか課題を出していくので頑張ってくださいと微笑みます。
テストしますねと言いながらお二人には別の本をお渡ししました。
セレンファーレさんには、リヒテールの歴史の本を。こちらは神話よりの、幼い子供も知っているような話のものです。これは、あちらで観劇をする場合、よく題材になっている物が綴られたものです。
それからレオノラ嬢には、このセルデスディアの、昨年がどういった年であったかの報告書。産物の取れ高とその年の気候。税率決定の理由などについて、少し深めのお話になっています。
一週間あればどちらもちゃんと読み込むことができます。
読む、のではなく読み込む。
知識としてつけるということ。
難易度としてはレオノラ嬢の方が高いのですが、帰った時が楽しみです。
知識的な事については識者を呼んだりと、予定を詰めました。
礼儀的な事は王妃様にお願いを。
そして、色々な雑務、仕事も終えて。わたくしの担いを他の方に、そして王妃様に大事な所はお任せしてわたくしはディートリヒ様と旅に出ることとなりました。
ディートリヒ様も沢山の仕事をされていますから余暇をいれるのは大変だったでしょう。
わざわざ仕事を詰めて行く必要があるのか、とも思うのですがその心はわたくしにはわかりません。
旅の終わりに、この疑問もきっと解かれるのでしょうが。
準備を終え、出立前夜。
しばらく仕事を詰めておられたので、あまり顔を会わせる機会の無かったディートリヒ様と過ごす時間が生まれました。
ディートリヒ様に最近のセレンファーレさんのお話をすると、うまくやれているならそれで良いと仰られただけでした。
反応が薄いと、わたくしは思うのです。
そう、出会った頃ならばセレンファーレさんの事となれば食い気味に聞いてきたというのに。
興味がないわけではないですがあっさりとしているように感じます。
「ディートリヒ様、ところでどちらに向かうのです? わたくし、行先すらお聞きしていませんけれど」
「ああ。セルデスディアの北、ヴァンヘルだ」
「……ヴァンヘルとは国交がほとんどないのではなくて?」
「表向きはな」
まるで悪戯をするような笑みを浮かべられますが、それは悪戯ではありません。
国交が全くない、という事はありません。互いの領土の不可侵やら最低限の取り決めはありますから。
しかし、ヴァンヘルから国を挙げての使いが来たりなどはありません。個人的に来たりなどはしていますが。
つまりセルデスディアとの関係はその程度なのです。リヒテールとは、ミヒャエルを呼べるほどの繋がりがあります。ほかの近隣の国も、王族や皇族といった方は時折ですが外務の要である方が来たりなどもあります。
けれど、ヴァンヘルからはそれがないのです。
「セレンの母の国だからな……表向きの付き合いはなくなる」
「ああ、なるほど……そうですわね」
セレンファーレさんのお母様は追われる身だったのですから。
その方をかくまっていたことくらい、ご存じなのでしょう。しかしそれを表立って声高にするには、ヴァンヘルの王族は血にまみれていらっしゃいますから。
前の国王を殺して、簒奪した王位。
リヒテールも距離を置いて付き合っていたように記憶しています。
二人は王宮の中でほとんどの時間を一緒に過ごしていました。
どうなるかしら、と見守ってはいたのですが問題ないようです。
最初は様子見で、控えめだったレオノラ嬢でしたがセレンファーレさんが、そう。
浮世離れしているのを見て、色々と言う様になったのです。それはちくちくとお小言のようで。
嫌味のような言い方ですが、悪意はないようでした。
それを見ていて、レオノラ嬢は素直なのだなと思ったのです。素直に言葉にしすぎる。
だから、悪意があっても、なくても――言い方が下手。
わたくしに泥棒猫! と言った事を覚えてらして? と言ったら顔を真っ赤にして、申し訳ありませんでしたと謝ってきましたので、あれが恥ずかしく失礼に当たる事だったというのにちゃんと気付いたようです。
言われたわたくしはとても面白かったのですけども。
対して、セレンファーレさんはレオノラ嬢を見て学ぶところもあるようです。
周囲の様子を窺わずものを言うのならばよく考えてから。しかし考えすぎるとそのタイミングを逸してしまう、とか。
彼女は自己主張をどんな場所でもできる方が良いのではとわたくしは思っていました。
レオノラ嬢はそこでそれを言うのは、と思うようなこともありますがなんでもはっきりと口にすることができるという、我の強さを学んでいるようです。
案外、二人の相性は悪くないのではと思いました。
これでしたら、数日分の日程を組んで王妃様にお預けすることもできそうです。
というのも茶会が終わったら他国に赴くのに付き合えと、ディートリヒ様に言われておりました。
その話をされたのです。わたくしはすっかりではありませんがそんなこと、記憶の端に追いやっておりましたからそんなお話もありましたねと思ったのです。
日程は一週間程。
犬達はお留守番、セレンファーレさんの護衛と言うと、三人ともそれはありえない、と口をそろえ。相談の結果、それなら一人だけ一緒に行くということになりました。
それもまた、誰が行くと騒いだもので。最終的に剣で競ってハインツが一緒に行くことになりました。
彼らの剣の腕というのはほぼほぼ並んでいるので、それは白熱した戦いになったのです。
折角ですので、とセレンファーレさんとエレノア嬢にもその様を見せて差し上げたのですが、彼女たちの想像していたようなお綺麗な、儀式的な型にはまったものではなく泥仕合のようなものでしたので少し驚かれていたようです。
まぁ、彼らはそれも楽しいのでしょうが。
わたくしがいない間、残る二人が護衛を。それからいくつか課題を出していくので頑張ってくださいと微笑みます。
テストしますねと言いながらお二人には別の本をお渡ししました。
セレンファーレさんには、リヒテールの歴史の本を。こちらは神話よりの、幼い子供も知っているような話のものです。これは、あちらで観劇をする場合、よく題材になっている物が綴られたものです。
それからレオノラ嬢には、このセルデスディアの、昨年がどういった年であったかの報告書。産物の取れ高とその年の気候。税率決定の理由などについて、少し深めのお話になっています。
一週間あればどちらもちゃんと読み込むことができます。
読む、のではなく読み込む。
知識としてつけるということ。
難易度としてはレオノラ嬢の方が高いのですが、帰った時が楽しみです。
知識的な事については識者を呼んだりと、予定を詰めました。
礼儀的な事は王妃様にお願いを。
そして、色々な雑務、仕事も終えて。わたくしの担いを他の方に、そして王妃様に大事な所はお任せしてわたくしはディートリヒ様と旅に出ることとなりました。
ディートリヒ様も沢山の仕事をされていますから余暇をいれるのは大変だったでしょう。
わざわざ仕事を詰めて行く必要があるのか、とも思うのですがその心はわたくしにはわかりません。
旅の終わりに、この疑問もきっと解かれるのでしょうが。
準備を終え、出立前夜。
しばらく仕事を詰めておられたので、あまり顔を会わせる機会の無かったディートリヒ様と過ごす時間が生まれました。
ディートリヒ様に最近のセレンファーレさんのお話をすると、うまくやれているならそれで良いと仰られただけでした。
反応が薄いと、わたくしは思うのです。
そう、出会った頃ならばセレンファーレさんの事となれば食い気味に聞いてきたというのに。
興味がないわけではないですがあっさりとしているように感じます。
「ディートリヒ様、ところでどちらに向かうのです? わたくし、行先すらお聞きしていませんけれど」
「ああ。セルデスディアの北、ヴァンヘルだ」
「……ヴァンヘルとは国交がほとんどないのではなくて?」
「表向きはな」
まるで悪戯をするような笑みを浮かべられますが、それは悪戯ではありません。
国交が全くない、という事はありません。互いの領土の不可侵やら最低限の取り決めはありますから。
しかし、ヴァンヘルから国を挙げての使いが来たりなどはありません。個人的に来たりなどはしていますが。
つまりセルデスディアとの関係はその程度なのです。リヒテールとは、ミヒャエルを呼べるほどの繋がりがあります。ほかの近隣の国も、王族や皇族といった方は時折ですが外務の要である方が来たりなどもあります。
けれど、ヴァンヘルからはそれがないのです。
「セレンの母の国だからな……表向きの付き合いはなくなる」
「ああ、なるほど……そうですわね」
セレンファーレさんのお母様は追われる身だったのですから。
その方をかくまっていたことくらい、ご存じなのでしょう。しかしそれを表立って声高にするには、ヴァンヘルの王族は血にまみれていらっしゃいますから。
前の国王を殺して、簒奪した王位。
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