悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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本編

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 ディートリヒ様とわたくしの関係はこれからもきっと変わりません。
 多少の心変わりはもちろんあるでしょうけども。
 それから微妙な空気になってしまったわたくしたちだったのですが、ディートリヒ様は何か誤魔化すようにわたくしを寝台まで連れて行ってしまいました。
 そういう気分ではないのですが、と思いつつも向けられる視線がどこか痛々しく。
 ひどく優しくされてしまったのがまた、心地悪くてたまりませんでした。
 謝らないと言いつつも、その心中はわたくしに対する申し訳ないという気持ちで今は、一杯なのでしょうけど。
 それは一時のもの。きっとすぐ、晴れるでしょうに。
 ディートリヒ様の腕に抱かれたままつく眠りは穏やかではあったのですが、わたくしはどちらかと言うと色々と言われながら眠りにつく方が好きなようでした。
 けれどそれも、朝起きればいつも通り。
 軽口叩きながらわたくしに今日の予定を聞き、自分の予定を伝えと変わりありませんでした。
 ディートリヒ様をお見送りして、わたくしはわたくしのすることを。
 わたくし宛の手紙というものが増えてきましたのでそれを確認しなければなりません。
 今日は犬達はセレンファーレさんのためにお出かけですから、わたくしはここでその作業をすることにしました。
 ツェリにお願いすると、鍵のかかった箱をもってきてくれます。その箱を開けると、そこには手紙が整えられ入っていました。
 危険なものはないかと封は切られているのですが、内容はわたくしに向けてのもの。それは自分で確認しなければなりません。
 急を要する物などはこういった形ではきませんが、お茶会のお誘いだとかご機嫌伺いだとか。
 そう言ったものはさらっと目を通して終わりです。
「どのお手紙を見てもお茶会はなさらないのですか、とあるのよね……」
 しなければいけないのかしら。するとなると招待はどのように、と色々と思うのです。
 確かに綺麗な庭はありますので、そちらにお招きしてガーデンパーティーなどはきっと賑やかになるでしょう。しかしわたくしにやる気があるかどうかといえば、無いのですよね。
 でもきっとこれも公務の内になるのでしょう。
 しかし、こういった事をするならまずディートリヒ様へのお伺いが必要でしょう。
 そう思いつつ、ツェリの淹れてくれたお茶を飲みながら休憩していると、乱暴な音を立てて部屋の扉が開きました。
「アーデルハイト、どういうつもりだ!」
 ああ、これは。
 これは、もうお知りになったのねとわたくしは察しました。
 犬達がセレンファーレさんを連れ出したことを。そもそも彼女一人で放っておかれるはずがないので、こっそり護衛はつけているとは思っていたのです。
 きっと犬達はその護衛を撒いていったのでしょう。
「どうされました?」
 大股で、怒り滲ませた表情をわたくしに向ける。そのような表情が久しくてわたくしはどきどきとしてしまいました。
「どうされました、だと? お前、セレンをどこに連れていった」
「セレンファーレさんの望みをかなえてあげているだけですけれど?」
 わたくしは、彼女がミヒャエルを一目見たいと望んだから、犬達を貸して差し上げたのですと申し上げました。
 するとちっと舌打ちして、勝手なことをと低く、唸るような声で零されました。
 わたくしは碧眼に射られるばかり。
「わたくしは、何も悪いことはしておりませんよ?」
 ふふと笑い零すと、ディートリヒ様はどうしてこんな勝手をしたとわたくしに問います。
 ああ、これはいよいよ、あの言葉を言うときなのでしょう。
「だって、ディートリヒ様が仰ったではないですか」
 何もしなかったお前が一番悪い、と。
 ですから、今度はセレンファーレさんをお助けして、彼女のしたいようにさせてあげたのですよ、と。
「これは彼女が望んだことですわ。ディートリヒ様が運任せに会う機会をつくろうと――いえ、今思えば、会わせる気なんてなかったのですよね」
 あんな、馬車が到着する時間くらい、手を回せばどうにでもなります。
 きっと上手に、部下にそうさせたのでしょう。
「彼女はわたくしに一目と仰いました。彼女にとっても良い機会だと思いますのよ」
「だが、会えばどうなるかわからんだろうが」
「悪い事にはならないと思いますけど。ディートリヒ様、ミヒャエルを見ましたでしょう? もしあれで、一層セレンファーレさんを傷つけるようなことを彼がするならセレンファーレさんとはそこまでですわ」
 さらに追い立てられて、それでも好きと言えるほどの心の強さがあったなら、箱庭で折れて泣いてはいないはずですもの。
 もし会って、話してそうなれば、ここで終わるはずです。
「それに……会うのはまだ恐ろしいと言っていましたから、犬達が一目だけ見れるように上手にしますわ」
「……そうだな。俺が付けた優秀なやつらを上手に撒くのがお前の犬だったな」
「ええ。彼らが上手に、しますわ」
 そう、上手に。
 セレンファーレさんにミヒャエルの姿を一目見せて。
 そして、ミヒャエルにも気づかせるでしょう。
 わたくしは二人が会うことを期待しているのです。それを口にはしませんが彼らは察しているでしょう。
 別にこれは二人のためではなく、興味なのです。
 わたくしは、一度悲惨な結末を迎えた二人が、再び会って、そしてどうなるのかが見てみたいのです。
 ひとのこことろは。
 変わるものなのだと思いました。そう、ミヒャエルを見て。セレンファーレさんを見て。
 犬達にだって心の揺らぎはありますが、彼等はひとつ、決して動かぬわたくしへの気持ちを抱いている。だから変わらないと思えるのです。
 では、この目の前でまだ怒りの相好崩さぬディートリヒ様はどうなのでしょう。
 そして、わたくしは――何か変わるのでしょうか。そういった、興味なのです。
 人の何かが変わる様というのは、目に鮮やかなものであったり、醜悪であったり、それを成す方によって違うのでしょう。
 ミヒャエルとセレンファーレさんのそれが美しいものになればよいとわたくしは思います。
 そうなれば、きっとディートリヒ様は逆の方向にいかれるのでしょうが。
 それが少し楽しみである、と思うのを知られたらまたお前は悪い女だとか、ひどいとか。
 そういった事を言われるのでしょう。
 ほら、もうディートリヒ様はお忘れでしょう?
 昨晩わたくしに、申し訳ないというようなことを思った事なんて、吹き飛んだでしょう?
 あなたさまはそれでよろしいのよと、わたくしは思うのです。
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