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本編
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その夜、南方での雨のことを尋ねると知っているとディートリヒ様は答えられた。
それに対しての施策も行われているがまだ領主などにその指示はいっていないとのこと。
「その話からお前は何を言いたい?」
「今日遊びにきてくださったシルヴィ嬢のお父様が、領地に少し余裕があるからその地方の領民を助けようとしている、というお話を聞きましたの」
「それで?」
「それだけですわ」
「一領主がどうこうできる話でもないだろうに」
「ええ、それはシルヴィ嬢もわかっていらっしゃいますわ。わたくしがこの話をしたのは、ディートリヒ様にお話ししますと彼女とお約束したから」
この話を聞いて、彼女のお父様をディートリヒ様が取り立てようとも、何もしなくても別に問題ありませんもの。
それはディートリヒ様が決めることですので。
「領民を思う心があるのは良いことだな」
そう言って、ディートリヒ様はわたくしを傍に呼ぶ。
嫌な予感しかしないのだけれど、それに逆らうのもまた悪い手と学んだ。
わたくしはディートリヒ様の傍らに腰を下ろす。するとその腰にするりと手を伸ばし近くに抱き寄せる。
「明後日、夜会があるだろう」
「存じておりますよ」
「そこに俺とお前の結婚に反対していた諸侯も来るのだ。そいつらにお前の聡明さと意地の悪さを見せつけるといい」
そう言ってわたくしの頬、首筋を指先でくすぐっていかれる。
どこか楽しげに見えるのは何故なのでしょうね。
「お前が馬鹿な女だと思えば隙があるとみて側室だなんだと言ってくる。俺の為にも下手を打つなよ」
そう言って、さてとわたくしを抱え上げる。
夜のお務めのお時間ということでしょう。最初の頃は荒々しく、乱暴な抱き方だったのですが最近は少し優しくて。
それはそれで良いのですが態度の軟化に対する理由が見当たらないので気持ち悪いとわたくしは思うのです。
まぁ、ただの気分の問題だったのですねと、この後思い知ることになるのですが。
わたくしが三度、もう駄目、無理と言っても俺はまだ一度もと言い。
そのあと一度欲を撒いたものの、そのまま次を始めてしまうディートリヒ様。
もう少し自重してくださいません?
本当に、わたくしの体が持ちませんわ。
これだけ毎晩お付き合いして、性欲が満たされませんの? 発情期なのですか? わたくしの負担を考えてくださる?
側室はいらないと仰りますが、持っていただいた方がわたくし自身の為なのではと思い始めるほどです。
満足したらしたで、もう限界と眠ろうとするわたくしをつついて起しますし。寝て起きる空間が同じというのがまたいけないのでしょう。
一緒の寝台で眠るゆえに、一度終わって眠りについてもディートリヒ様の気が向けばまた抱かれる。
部屋をわけていただきたいのですが、と言ったところで不仲と言われたら困ると返されるのは見えています。
「なぁ、アーデルハイト」
「なんですか……わたくしは眠いのですが」
「いつもそれだな。抱く方が体力がいるのだがお前の方が先にへばる」
「半分軍人のあなたとわたくしではそもそもの最大値が違いますの。そんなこともお分かりにならないの?」
いつも良いようにして腹が立ちますわ、とわたくしを抱きしめる腕を抓る。
痛いだろうがと文句をいうものの、声は踊ってらっしゃるので楽しいのでしょう。
「ああ、本当に俺は砂漠の中からひとつぶの宝石を見つけるような、良い拾いものをした」
「わたくしは楽しく遊んでいたのに突然鷹に襲われて食べられてしまった子ウサギの気持ちですわ」
子ウサギとディートリヒ様は笑いを堪えてらっしゃるのがわかります。
「最初はな、セレンファーレというかわいいいとこを泣かしたクソのような女はどんなやつなのか。散々いたぶって捨ててやろうと思ったのだが」
「良いご趣味ですこと」
「それを探す途中で毛色の変わったのを見つけ、思いのほか面白かったので飼うことにしてみたのだ」
直接何かをしたのは別の令嬢だが、紐解けばお前の方が目に付いたと。
あの時、拒絶されても助けていればとディートリヒ様は零し、終わったことだがなと笑う。
「わたくしはわけもわからず拉致をされて、殺されるのかしらとどきどきしましたのよ。残念ながら飼い殺しですが」
良く口が回る、とわたくしの唇をその指で撫でる。噛み付いてやろうかしら。
「はは、飼って使い物にならなければすぐさま事故にみせかけて殺してしまえばいいとも思っていたのだがな」
「そちらのほうがわたくしは幸せでしたわ」
「そうか、しかしお前は逃げられない。俺は逃がさんよ」
逃げる術を、封じてらっしゃるつもり、なのでしょう。
そうですわね、今のところわたくしが使える手はありません。
それにここは、退屈もしませんし、いてあげてもよろしくてよ、と思い留まっているのですから。
しかし。
「最初はその気はなかったのだが……世継ぎはお前の子でもいい」
「……御冗談を」
「冗談ではない」
「正気の沙汰とは思えませんわ」
「では俺は正気を失っているのだろうな」
ディートリヒ様は本気のご様子。気の迷いではないのです?
わたくしとの子? 本気でございますか。
この国の方はご存じありませんが、わたくしは平民の子でもあるのです。
父が戯れに抱いた侍女の娘。つまりこの方は王家に平民の血をいれると仰っているのです。
この方に、父はわたくしの出自がどのようなものか、ちゃんと話してそれでもよろしいのかと問うて私を嫁にだしたのです。
わたくしは公爵家の人間ではありますが、血筋としては半分なのですから。
「戯言と聞き流しておきますわ」
「戯言ではない」
この方が貴族の娘から側室を迎え、その方が子を身ごもった後であれば、わたくしはよろしいですよと頷いたでしょう。
わたくしとの子に王位継承をさせないと約束をしてくださったなら。わたくしも、子を産み育てるということにまったく興味が無いわけではありません。
しかし、今わたくしに子をということは、ディートリヒ様の次に王位継承権が高い子供になってしまいます。王家に平民の血をいれるなんて、そんなことはできません。
してはいけないと、わたくしは母から強く言われているのですから。
そんな、恐ろしいことを、と。
「そんなに嫌か?」
「え?」
「俺との子は嫌か?」
わたくしはその言葉には答えません。ディートリヒ様の事は、別段嫌いではないのです。本人には言ってませんが。
ディートリヒ様は、わたくしのことをお好きではないでしょう? 最初に出会った頃の憎悪、嫌悪が簡単に薄れるとは思いませんもの。
それに好きだ嫌いだというのを隠すのも、お上手ですし。
わたくしは、もちろん最初は嫌でしたが、慣れて、ほだされてしまったのでしょう。
感情をあらわにする姿というのは、わたくしにとってごちそうのようなものです。
美味しいと思ったものを嫌いにはなれないでしょう?
最初は嫌いではなかったのです、好奇心、興味はありましたけど。けれど向けられる言葉で少し嫌いになり、色々とあって大嫌いになり、また色々となって嫌いでも好きでもなくなったのです。
ディートリヒ様も、最初の時以来、わたくしに好きとか嫌いとか、そういう言葉を明確には紡ぎませんのでどう思っているのか、本心がわかりません。
言葉にしても本心を紡いでいるかはわかりませんけれど。
お前が心変わりをしてくれると良いのだがと、ディートリヒ様は一層近くにわたくしを抱き寄せ額に口付を落とされました。
わたくしが側室でしたら、別にかまいませんでしたのよ。しかしわたくしは正妃なのです。
わたくしのこの血統をこの国の本流として残すわけにはいきません。
あなたもおわかりでしょう?
それに対しての施策も行われているがまだ領主などにその指示はいっていないとのこと。
「その話からお前は何を言いたい?」
「今日遊びにきてくださったシルヴィ嬢のお父様が、領地に少し余裕があるからその地方の領民を助けようとしている、というお話を聞きましたの」
「それで?」
「それだけですわ」
「一領主がどうこうできる話でもないだろうに」
「ええ、それはシルヴィ嬢もわかっていらっしゃいますわ。わたくしがこの話をしたのは、ディートリヒ様にお話ししますと彼女とお約束したから」
この話を聞いて、彼女のお父様をディートリヒ様が取り立てようとも、何もしなくても別に問題ありませんもの。
それはディートリヒ様が決めることですので。
「領民を思う心があるのは良いことだな」
そう言って、ディートリヒ様はわたくしを傍に呼ぶ。
嫌な予感しかしないのだけれど、それに逆らうのもまた悪い手と学んだ。
わたくしはディートリヒ様の傍らに腰を下ろす。するとその腰にするりと手を伸ばし近くに抱き寄せる。
「明後日、夜会があるだろう」
「存じておりますよ」
「そこに俺とお前の結婚に反対していた諸侯も来るのだ。そいつらにお前の聡明さと意地の悪さを見せつけるといい」
そう言ってわたくしの頬、首筋を指先でくすぐっていかれる。
どこか楽しげに見えるのは何故なのでしょうね。
「お前が馬鹿な女だと思えば隙があるとみて側室だなんだと言ってくる。俺の為にも下手を打つなよ」
そう言って、さてとわたくしを抱え上げる。
夜のお務めのお時間ということでしょう。最初の頃は荒々しく、乱暴な抱き方だったのですが最近は少し優しくて。
それはそれで良いのですが態度の軟化に対する理由が見当たらないので気持ち悪いとわたくしは思うのです。
まぁ、ただの気分の問題だったのですねと、この後思い知ることになるのですが。
わたくしが三度、もう駄目、無理と言っても俺はまだ一度もと言い。
そのあと一度欲を撒いたものの、そのまま次を始めてしまうディートリヒ様。
もう少し自重してくださいません?
本当に、わたくしの体が持ちませんわ。
これだけ毎晩お付き合いして、性欲が満たされませんの? 発情期なのですか? わたくしの負担を考えてくださる?
側室はいらないと仰りますが、持っていただいた方がわたくし自身の為なのではと思い始めるほどです。
満足したらしたで、もう限界と眠ろうとするわたくしをつついて起しますし。寝て起きる空間が同じというのがまたいけないのでしょう。
一緒の寝台で眠るゆえに、一度終わって眠りについてもディートリヒ様の気が向けばまた抱かれる。
部屋をわけていただきたいのですが、と言ったところで不仲と言われたら困ると返されるのは見えています。
「なぁ、アーデルハイト」
「なんですか……わたくしは眠いのですが」
「いつもそれだな。抱く方が体力がいるのだがお前の方が先にへばる」
「半分軍人のあなたとわたくしではそもそもの最大値が違いますの。そんなこともお分かりにならないの?」
いつも良いようにして腹が立ちますわ、とわたくしを抱きしめる腕を抓る。
痛いだろうがと文句をいうものの、声は踊ってらっしゃるので楽しいのでしょう。
「ああ、本当に俺は砂漠の中からひとつぶの宝石を見つけるような、良い拾いものをした」
「わたくしは楽しく遊んでいたのに突然鷹に襲われて食べられてしまった子ウサギの気持ちですわ」
子ウサギとディートリヒ様は笑いを堪えてらっしゃるのがわかります。
「最初はな、セレンファーレというかわいいいとこを泣かしたクソのような女はどんなやつなのか。散々いたぶって捨ててやろうと思ったのだが」
「良いご趣味ですこと」
「それを探す途中で毛色の変わったのを見つけ、思いのほか面白かったので飼うことにしてみたのだ」
直接何かをしたのは別の令嬢だが、紐解けばお前の方が目に付いたと。
あの時、拒絶されても助けていればとディートリヒ様は零し、終わったことだがなと笑う。
「わたくしはわけもわからず拉致をされて、殺されるのかしらとどきどきしましたのよ。残念ながら飼い殺しですが」
良く口が回る、とわたくしの唇をその指で撫でる。噛み付いてやろうかしら。
「はは、飼って使い物にならなければすぐさま事故にみせかけて殺してしまえばいいとも思っていたのだがな」
「そちらのほうがわたくしは幸せでしたわ」
「そうか、しかしお前は逃げられない。俺は逃がさんよ」
逃げる術を、封じてらっしゃるつもり、なのでしょう。
そうですわね、今のところわたくしが使える手はありません。
それにここは、退屈もしませんし、いてあげてもよろしくてよ、と思い留まっているのですから。
しかし。
「最初はその気はなかったのだが……世継ぎはお前の子でもいい」
「……御冗談を」
「冗談ではない」
「正気の沙汰とは思えませんわ」
「では俺は正気を失っているのだろうな」
ディートリヒ様は本気のご様子。気の迷いではないのです?
わたくしとの子? 本気でございますか。
この国の方はご存じありませんが、わたくしは平民の子でもあるのです。
父が戯れに抱いた侍女の娘。つまりこの方は王家に平民の血をいれると仰っているのです。
この方に、父はわたくしの出自がどのようなものか、ちゃんと話してそれでもよろしいのかと問うて私を嫁にだしたのです。
わたくしは公爵家の人間ではありますが、血筋としては半分なのですから。
「戯言と聞き流しておきますわ」
「戯言ではない」
この方が貴族の娘から側室を迎え、その方が子を身ごもった後であれば、わたくしはよろしいですよと頷いたでしょう。
わたくしとの子に王位継承をさせないと約束をしてくださったなら。わたくしも、子を産み育てるということにまったく興味が無いわけではありません。
しかし、今わたくしに子をということは、ディートリヒ様の次に王位継承権が高い子供になってしまいます。王家に平民の血をいれるなんて、そんなことはできません。
してはいけないと、わたくしは母から強く言われているのですから。
そんな、恐ろしいことを、と。
「そんなに嫌か?」
「え?」
「俺との子は嫌か?」
わたくしはその言葉には答えません。ディートリヒ様の事は、別段嫌いではないのです。本人には言ってませんが。
ディートリヒ様は、わたくしのことをお好きではないでしょう? 最初に出会った頃の憎悪、嫌悪が簡単に薄れるとは思いませんもの。
それに好きだ嫌いだというのを隠すのも、お上手ですし。
わたくしは、もちろん最初は嫌でしたが、慣れて、ほだされてしまったのでしょう。
感情をあらわにする姿というのは、わたくしにとってごちそうのようなものです。
美味しいと思ったものを嫌いにはなれないでしょう?
最初は嫌いではなかったのです、好奇心、興味はありましたけど。けれど向けられる言葉で少し嫌いになり、色々とあって大嫌いになり、また色々となって嫌いでも好きでもなくなったのです。
ディートリヒ様も、最初の時以来、わたくしに好きとか嫌いとか、そういう言葉を明確には紡ぎませんのでどう思っているのか、本心がわかりません。
言葉にしても本心を紡いでいるかはわかりませんけれど。
お前が心変わりをしてくれると良いのだがと、ディートリヒ様は一層近くにわたくしを抱き寄せ額に口付を落とされました。
わたくしが側室でしたら、別にかまいませんでしたのよ。しかしわたくしは正妃なのです。
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