悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

文字の大きさ
上 下
206 / 245
鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)

17

しおりを挟む
 何もない。
 そう思えるようなものだった。
 アーデルハイトとあの三人の間には恋情のようなものは無いらしい。
 少なくとも、アーデルハイトには。あれらにもそういったものはないのだと思えた。
 何を言うのか、という視線は少し面白かったと思う。
 まぁ、そういう視線を向けられる事は予想していたし別になんとも思わない。
 俺はセルデスディアの王太子で、あれらは貴族だ。たとえ他国の者であっても、その地位をしっているのならば逆らえるものではない。
 それにしても、アーデルハイトだ。
 俺のしたことについては何も言わない。仕方がなかったのだというように受け止めて流しているのだろう。
 俺に対して怒りを見せるかとも思ったのだが、そういった事がない。
 あの仕打ちに何も思わなかったということは無いようなのだが、違和感はある。
 が、何かというように向けられる視線に何もと笑って返せば困ったようにするのだ。
 何もなかったかのように昼食を共にし、帰ると告げれば見送りをする。
 連れて帰る三人とのしばらくの別れを今は惜しんでいるのだが、昨日の事などまるでなかったかのように振る舞っているのだ。
 行くぞと別れもほどほどに馬車に乗る。
 三人には馬を与え、着いてこいと指示をした。俺からの指示など受けたくもないだろうが、受けざるを得ないのはわかっているのだ。
 そう、昨日と同じように。
 一日かけて城に戻り、話は明日すると三人を城にある部屋へと案内させるとすぐにトゥーリがやってきた。
 近衛に回すことはすでに決めており、傍につける者の人選は任せると伝える。
 このことはすでに予想はついていたのだろう。わかりましたとトゥーリは答えるだけだ。
 それから、急ぎの仕事の対応をして眠りにつく。
 ふと、結婚すればあれがいつもこの隣にいるのかと思う。それに果たして、慣れることはできるのだろうか。
 だがすぐに問題ないかと思い至る。
 俺の領分には踏み込んでこないだろう。頭は良いのだから、どこまではいいのかくらいはわかるだろう。
 そもそも、接してこようと思わないかもしれない。それとも、それをわからないふりで何か仕掛けてくるだろうか。
 どちらであっても俺にとっては問題ない。
 最低限の眠りをとり、最低限の食事をとり、仕事をして。
 それらが片付いた折、あの三人と再び見えた。
 トゥーリから、先にこれからの話をさせておいたので状況は飲み込んでいるのだろう。
 向けてくるのは敵意ではない。観察するような、何かを見定めようとするような視線だ。
 こういった値踏みの視線は今までも数多受けている。しかし、それらとはどこか違うものを感じた。
「私のすることは気に入らないかもしれないが、アーデルハイトの傍に置いてやる。が、誰もが納得しなければならない。そうしてほしければ己で地位を作れ。そうでなければ後々が苦しいだろう」
 特別扱いなどはしてやらない。あの女の傍にいたければ自分でどうにかしろと思うのだ。
「私から言うのはそれだけだ。お前達からは、何かあるか?」
「いえ、特には。寝床も食事も与えていただけるようなので、あとは己の力で周囲に納得していただきます。が、一つよろしいでしょうか」
「何だ?」
「家には何も言っておりませんので連絡をとりたいのですが」
「ああ。それは構わん。トゥーリに手配させる」
 その他は別に話す事も無く。
 あとは好きにすればいいと他の者に任せた。
 しばらくして、優秀である事は自然と耳にも入ってきた。まぁ、そうでなければついてくるなどとは言わないだろう。
 アーデルハイトの元には人を送り、最低限の連絡は取る。
 時折、足は運んでやった。しかし顔を合わせて楽しい話をするでもなく、互いに探り合いながら牽制しあっている。
 なし崩しに抱きもしたのだが、まだ強情さは取れなくてそれは面白くはあった。
 しかし時間の流れは無慈悲なもので、決めた式の日は近づいてくる。
 すると、国王陛下達からいつ、彼女は来るのだと問われてしまった。
 そんなのは別に、式の直前でいいのではないだろうか。事前に来て色々とかき回されるのは面倒。あの女はそういった事をやるだろう。
 花嫁が国に到着してそのまま式を行うというのは良くある話だ。
 何にせよ、アーデルハイトについてばかり考える事などできない。
 が、結婚が決まったら周囲から娘を薦められることはなくなった。それが一番の良い事だ。
 煩わしいことに悩まされることもない。仕事がはかどって何よりだ。
 色々とはかどれば時間もできる。そうなれば、セレンの事にももっと気を配れるようになった。
 王太子なのだから、優先順位の一番は国だ。陛下の国策は下策というわけではないが、それでも手の届かぬところはある。
 それをひとつずつ補っていけば、他にもと事案が浮かんできてしまうのだ。
 致命傷であるようなことは今の所ないのは幸いだが、対処するのが早いに越したことは無い。
 周囲は浮足立ち、式の為の準備もなされる。周囲の国からの賓客の対応、諸侯らのへの対応。
 式をするので仕事が増えるのは覚悟していたが、面倒なことも多い。
 臣下にすべて投げても良いが、そうも言ってはいられない。
 それらの雑事を行っていると、時がたつのなどすぐの事だった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

処理中です...