転生令嬢はやんちゃする

ナギ

文字の大きさ
上 下
237 / 243
与太話

逃げるが勝ち

しおりを挟む
息子ちゃん旅立つ




 ヒューイ君とやらの顔も一応見て。しばらくベッドの上で転がっていたが俺はばっと起き上がった。
 親父と母さんあてに手紙をかき、チクっておいた。俺の妹にはまだ手をださせません!
 そして俺は身支度を、というより旅の色々はまとめてあったからまぁ、すぐに出れる。
 理由? ははは、そんなのシエラにいる事がばれたのを思い出したからだ。
 俺、年下だけど、本能的に、シエラ怖い。
 そんなわけでじいちゃんばあちゃんに断わりをいれ、ノエルには手紙をさらっと書いた。
 俺が帰るまでヒューイ君とやらのお付き合いが続いていたなら、認めてもいいという上から目線だ。
 兄だからな。それくらいはな!
 帰ってきたらじっくり話し合おうじゃないか、ヒューイ君とやら……本当は行く前に話をしておきたかったが。
 じぶんのみのあんぜんがいちばんである。
 ぼろい服に着替えて、最低限の夜営ができる旅セットを背負ってじいちゃんばあちゃんに見送られて俺は王都を出た。
 行く先はまだ決めてないし、街中で宿とって行先決めるのもいいかもしれない。
 あの家にいるとすぐに追い詰められるが、街中逃げるなら俺の方が強い。あっちは学校もあるし、それをおろそかにできないしな。
 気楽な一人旅をする予定の俺はひとまず乗合馬車の案内所に。
 どこいくかなー。あ、幼馴染たちがいる街もいいな。あれファンテールに行く道からちょっと外れるだけだし。
 ファンテールまでの道のりはのんびり行けば一か月以上かかる。馬潰す勢いで行けばもっと早いけど、俺はそういう旅をするためにきたわけじゃない。
 多少の寄り道も楽しんでいこう、と見てるともうすぐ俺が行く方面に馬車が出るみたいだ。
「……乗るか」
 街にいても別に何もすることないし。
 早めに街から出る方が良いかもしれない。
 出発しますよーという声に乗りまーすと声かけて、金払って。俺は王都を出た。
 アディオス王都! 一年後には帰ってくるぜ!!
 で、がたごとと。尻痛い。これはもう仕方ないことだけどな。
 どんな人が乗ってるのかなーと乗合馬車を見れば、俺みたいな旅人系の兄ちゃん。商人ぽさもある。
 夫婦だと思うおっちゃんとおばちゃん。その間には子供もいるし間違いないだろ。
 あとはフードを深くかぶった人。
 フードを深く…………あ、れ。
「なぁ、イア……私に挨拶もなく出るなんて失礼じゃないか」
「!? あ、え!? フラウ!? な、んでここに!?」
「尾行してたに決まってるだろう」
 お前は、と溜息をつく。
 えー!? まったくわからなかった!!
「ふふ、私はなぁんでもお見通しだよ」
「あははははは、そ、そっか……」
 フラウ。俺の一つ上のいとこ。
 王都で最も花があり、高貴な令嬢の一人。顔のつくりは母親似。誰がどうみても派手な美人と思うはずだ。
 けど、そんな見た目と裏腹に、フラウはかなりやる。剣技も馬術も魔術も、そのへんの、そういうことサボってるやつらよりかは全然強い。
 剣技とか魔術とかのレベルは同等……いや、多分俺の方が強い。強い、けど。
 勝ったらその後、色々と……面倒な、事に……なるからいつも引き分けとかでうまくかわしてた。
 フラウの力量を追い越してから、俺は上手に逃げている。
「私に挨拶もせず行くなんてひどいじゃないか、父様と母様にも顔を見せていないし」
「あ、まぁ……その、急ぎ王都を出る理由ができて」
「おばあ様達から聞いたよ? ノエルの恋人の話を聞いて見に行ってくると勇んで出ていきショックを受けて帰ってきたとか」
 待って、俺そんな風に見えてた!?
「私が行ったのはイアが来てると聞いてなのに。尋ねたらもう旅に出てるなんて」
 あたりを付けて馬車の乗合に来てみれば見覚えのある後姿。その辺にいた人から外套を貰って俺を追ってきたと言う。
 貰って?? 奪っての間違いじゃ、と思ったのは内緒だ。
 いや、っつーか……まさか、一緒に来るつもりか、こいつ。
「フラウ、まさか一緒に……」
「いや、さすがにそれはできないのはわかっているから。だから次の街で降りて帰るよ……今、ほっとしたな?」
「するに決まってるだろ!」
 ほっとするに決まってる。決まってる!
 これでもし一緒に行くってなったら、シエラが騒ぐだろ? 伯父さんが俺に笑み向けるだろ? こわいわ。
 伯母さんは間違いは起こすなよって言うと思う。間違いも何も、フラウはそういう対象じゃない。
 そもそもフラウはもう、婚約者がいるし。
「次の街まで楽しくおしゃべりしよう?」
「お、おう」
 向けられた笑顔が怖い。
 次の街まで二時間くらいか。俺は根掘り葉掘り、色々聞かれるんだろう。
 そしてその情報はシエラに流れるのだろう。
 それから、フラウと色んな話をした。俺がヒューイ君について聞いてみると、フラウも知っていたらしい。
 良いやつだぞ、という事は知り合いなんだろう。
 というより。
「は? ででででで、でーと? デートしてる? どどどど、どこで!?」
「流行の店で、二人でテラスで……あーんしてるの見たけど?」
「は!? ちょ、や、やっぱり戻ってヒューイ君とやらをしめあげ」
「帰るならシエラにちゃんと会っていきなさいよ」
「ウッ、シエラは、ちょっとその……遠慮したい」
「愛されてるのに……」
「いや、愛されてるって……」
 シエラの、俺に向ける視線はぎらぎらしている。野生の獣みたいな、獲物を狩る目だ、こわい。
 あと匂いで俺がわかるとか、こわいだろ。こわいだろ!!
 年に一度は王都に来てたから、そのたびに会ってたけど、さ。毎回何かのハードルを越えてバージョンアップしているというか。
 おそろしいものになっていくいとこを俺はかわいいと思えるか、と言えば。
 言えない。こわいしかない。嫌いってわけじゃないんだけど。
 で、フラウはフラウで妹の事が大事だから。こいつもこいつで結構シスコンなんだよな。だから、シエラに協力する。
「イアはそろそろ諦めて、シエラと婚約するべきだと思うけど」
「いや、でもいとこだし……」
「別に問題ないだろう」
「そうだけど、なぁ……」
 だってシエラだぜこわい。俺はかわいくて守ってあげたくなるような女の子と出会いたい!
 俺の周りの女の子って自分で自分の身を守れるような強いタイプばっかりだから!
「大丈夫だ、シエラにはイアが好きだと言っていたと伝えておく」
「や、やめろー! そんなこと言ったら勘違いするから! シエラとは、ちゃんと自分でどうにかするから!」
「逃げたのに?」
「うっ」
 お見通しだ。
 でもな、フラウ。逃げるが勝ちって言うだろ!
 逃げられる限りは、俺は逃げる!!
 逃げられなくなったら、まぁ、その……どっかで折り合いをつけて、負けてもいいけど。
 断固拒否ってくらい嫌いなわけじゃない。ただあの押しの強さというか、そういうのは苦手だ。
 そんな俺の心の内を見透かしてか、フラウは笑うばかりだ。
「あ、街だな。一年旅に出ることを許されたんだっけ。それじゃあ次に王都に来るときは、正式にお披露目されるのかな」
「ああ、多分そうなる」
 気を付けてなとフラウは言う。俺はそれを受け取って、行ってくると笑う。
 戻ってきたらちゃんと顔を見せに来ることと、それからお土産を約束させられて。
 忘れてた。
 こいつもこいつで、食道楽。美味しいものには目が無かった!
 リクエストは海産物の乾物だそうだ。




そんなわけで無事に出発しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?

カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。 ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を 助けようとして、事故死。 その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。 魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す

狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
 男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!  主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー! ※現在アルファポリス限定公開作品 ※2020/9/15 完結 ※シリーズ続編有り!

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...