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最終章
静かな幕開け
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まず国王様の挨拶から始まって。次は殿下の挨拶。
今日も皆が集ってくれたことを嬉しく思う、から始まり。
つらつらと流れるように紡いでいく。殿下すごいな、あれカンペも無しに紡いでるんだもの。
難しい言い回しも織り交ぜつつ、時折笑いも呼び込みつつ。
「では……今宵も楽しんで欲しい」
最後にそう告げて、挨拶は終わり。
国王様たちの元にはたくさんの人達が挨拶に行く。今日、挨拶に行くのは他国からの方たち始まって続々と。
主にお妃教育に参加してた家が行く。今日のメインなので。
私もお父様達とご一緒に。
お父様が当たり障りのない話の中に、準備は出来ていることを含めていた。
殿下もにこにこと笑ってそれに頷いたり。そして次の方が待っているのでと私たちは礼をして離れた。
「レティ、大丈夫か?」
「はい、元気いっぱいですけど?」
「ま、無理するなよ」
お兄様が優しい怖い。
と、思うけど。私の身に何が起こるのかわからないし、殿下も無事でいられるかというところ。
心配してるんだと思う。その気持ちは嬉しい。けど素直に受け取れない! というところもある。これは日ごろの行い的なせいよね、うん。
「ありがとう、お兄様」
「それは全部終わってからでいい」
そう言って、いくぞと私はダンスホールの方へ導かれた。
そちらでは殿下がいらっしゃるのを皆、待っているのだ。
殿下がいらっしゃったときにぱっと目につくような、良い場所をとってる方たちもいる。
私たちは待っている場所をすでに打ち合わせていた。
ホールに入って、右側の柱の二本目付近。
「お兄様の方は準備できてますの?」
「問題ない。何かあれば周りの者はすぐに避難させる。ホールでのことは俺に任されているからな」
お兄様がどういった準備をしたのか私は知らないけど、なるようになる、かしら。
しばらくして、殿下がこちらにいらっしゃった。
最初のダンスは殿下が踊る。令嬢方がすすーっと殿下の元に寄って行かれたけど、殿下はくるっとホールを見回して、私たちを見つけた。
目が合ったら微笑むんだもの!!
令嬢たちを連れたまま、私の所へ。
「レティ、最初のダンスをお願いできるかな? トリスタン、いいか?」
「私が口を出すことではありませんよ、殿下」
や、やだ! 余所行きのお兄様に拭きそうになる! 笑いこらえた私えらい!!
「そう。では許可も貰ったし、いいよね?」
「私でよろしいのですか?」
「うん。ほかの方たちから色々、言われると思うけどいいかな? ごめんね、私はまだ、隣に立って欲しい一人を選べないから、絶対に選ばない君にお願いしたい」
そう、殿下は周囲によく聞こえるように紡いでくださった。
これは私の為の言葉。
私は殿下の妃にはならないからこそというところ。
周囲の令嬢たちのぎらぎらした視線が突き刺さってくるのだけど、殿下の言葉でそれが少し、和らいだ。
「そうですね。私は殿下の横に並ぶことはありませんね。だって、殿下は私の恋を応援してくれてますもの」
「そう、君と彼が幸せになることを祈ってるよ。彼がこうして誘ったことを知ったら君に怒るかもしれないけど」
「いえ、それくらいでは怒りません。大丈夫です」
私には相手がいて、殿下もそれを知っている。
私にそういう相手、つまりテオがいるのはそのうちわかることだから口にしてよいとお父様からも許可を頂いている。名前は伏せてだけど!
そんな話、公の場でしたことは今までなかったから皆さんびっくりだろう。うすうす、誰か想い合っている人がいるというのに気づいてる方もいるとは思うけど。
殿下が手を差し出して、私がその手に自分の手を重ねる。
お兄様がよろしく、と言った後に気を付けろよと小声で告げた。
ダンスホールに出ちゃえば、私と殿下だけで。もうどうすることもできない。
ダンスが終わる頃に私は何かをするわけで。
それがどういったものかはわからないけど、殿下に対して行うというのはわかっている。
だから殿下には防御系の魔石を渡したし、殿下自身も何かしらの手は打っている。
「レティ、準備は良い?」
「はい。殿下、よろしくお願いします」
それはダンス、ではなくてその後の事。
お互いにわかってるから、曲の始まりと共に足が動く。
ゆるやかな曲調に合わせてくるくる。いろんな思惑の交錯するホールで踊る。
雰囲気としては和やかに何かを喋りながら、楽しそうにって、見えるんだと思う。
「ああ、バルトロメもいる。レティが何かして、そこに入ってくるつもりなのかな」
「私は、見てるだけだと思いますよ。それで、こんなことをするなんてってあとから口を出して煽るような」
「そうだね。まぁそうは、ならないと思うけど」
いち、に、さん。ステップ踏んだ瞬間、身体の内側で変な、生ぬるい魔力の流れを感じた。
あ、身体の自由が奪われる。そんな感覚に殿下、始まったと言おうとしたのだけれども。
声が、でない!
けど、私のそのうろたえを殿下はすぐに感じ取って、もうすでに始まっているのだと察してくれた様子。
瞳見開いて、そのままと零した。
私は私で、踊りながらこれをどうにかしようとするんだけど、紡ぐ魔力が端からほどかれていってる。
私に仕込まれた魔術は、複雑。解くのも難しいものだった。
これは放っておいちゃいけないものだったと、私の背中には冷や汗。
そして曲が、終わる。
私と殿下の手はまだ繋がれたまま。関節毎に熱があるようで、上手に動けない。
というより、私の身体が動かされていく感覚しかなかった。
今日も皆が集ってくれたことを嬉しく思う、から始まり。
つらつらと流れるように紡いでいく。殿下すごいな、あれカンペも無しに紡いでるんだもの。
難しい言い回しも織り交ぜつつ、時折笑いも呼び込みつつ。
「では……今宵も楽しんで欲しい」
最後にそう告げて、挨拶は終わり。
国王様たちの元にはたくさんの人達が挨拶に行く。今日、挨拶に行くのは他国からの方たち始まって続々と。
主にお妃教育に参加してた家が行く。今日のメインなので。
私もお父様達とご一緒に。
お父様が当たり障りのない話の中に、準備は出来ていることを含めていた。
殿下もにこにこと笑ってそれに頷いたり。そして次の方が待っているのでと私たちは礼をして離れた。
「レティ、大丈夫か?」
「はい、元気いっぱいですけど?」
「ま、無理するなよ」
お兄様が優しい怖い。
と、思うけど。私の身に何が起こるのかわからないし、殿下も無事でいられるかというところ。
心配してるんだと思う。その気持ちは嬉しい。けど素直に受け取れない! というところもある。これは日ごろの行い的なせいよね、うん。
「ありがとう、お兄様」
「それは全部終わってからでいい」
そう言って、いくぞと私はダンスホールの方へ導かれた。
そちらでは殿下がいらっしゃるのを皆、待っているのだ。
殿下がいらっしゃったときにぱっと目につくような、良い場所をとってる方たちもいる。
私たちは待っている場所をすでに打ち合わせていた。
ホールに入って、右側の柱の二本目付近。
「お兄様の方は準備できてますの?」
「問題ない。何かあれば周りの者はすぐに避難させる。ホールでのことは俺に任されているからな」
お兄様がどういった準備をしたのか私は知らないけど、なるようになる、かしら。
しばらくして、殿下がこちらにいらっしゃった。
最初のダンスは殿下が踊る。令嬢方がすすーっと殿下の元に寄って行かれたけど、殿下はくるっとホールを見回して、私たちを見つけた。
目が合ったら微笑むんだもの!!
令嬢たちを連れたまま、私の所へ。
「レティ、最初のダンスをお願いできるかな? トリスタン、いいか?」
「私が口を出すことではありませんよ、殿下」
や、やだ! 余所行きのお兄様に拭きそうになる! 笑いこらえた私えらい!!
「そう。では許可も貰ったし、いいよね?」
「私でよろしいのですか?」
「うん。ほかの方たちから色々、言われると思うけどいいかな? ごめんね、私はまだ、隣に立って欲しい一人を選べないから、絶対に選ばない君にお願いしたい」
そう、殿下は周囲によく聞こえるように紡いでくださった。
これは私の為の言葉。
私は殿下の妃にはならないからこそというところ。
周囲の令嬢たちのぎらぎらした視線が突き刺さってくるのだけど、殿下の言葉でそれが少し、和らいだ。
「そうですね。私は殿下の横に並ぶことはありませんね。だって、殿下は私の恋を応援してくれてますもの」
「そう、君と彼が幸せになることを祈ってるよ。彼がこうして誘ったことを知ったら君に怒るかもしれないけど」
「いえ、それくらいでは怒りません。大丈夫です」
私には相手がいて、殿下もそれを知っている。
私にそういう相手、つまりテオがいるのはそのうちわかることだから口にしてよいとお父様からも許可を頂いている。名前は伏せてだけど!
そんな話、公の場でしたことは今までなかったから皆さんびっくりだろう。うすうす、誰か想い合っている人がいるというのに気づいてる方もいるとは思うけど。
殿下が手を差し出して、私がその手に自分の手を重ねる。
お兄様がよろしく、と言った後に気を付けろよと小声で告げた。
ダンスホールに出ちゃえば、私と殿下だけで。もうどうすることもできない。
ダンスが終わる頃に私は何かをするわけで。
それがどういったものかはわからないけど、殿下に対して行うというのはわかっている。
だから殿下には防御系の魔石を渡したし、殿下自身も何かしらの手は打っている。
「レティ、準備は良い?」
「はい。殿下、よろしくお願いします」
それはダンス、ではなくてその後の事。
お互いにわかってるから、曲の始まりと共に足が動く。
ゆるやかな曲調に合わせてくるくる。いろんな思惑の交錯するホールで踊る。
雰囲気としては和やかに何かを喋りながら、楽しそうにって、見えるんだと思う。
「ああ、バルトロメもいる。レティが何かして、そこに入ってくるつもりなのかな」
「私は、見てるだけだと思いますよ。それで、こんなことをするなんてってあとから口を出して煽るような」
「そうだね。まぁそうは、ならないと思うけど」
いち、に、さん。ステップ踏んだ瞬間、身体の内側で変な、生ぬるい魔力の流れを感じた。
あ、身体の自由が奪われる。そんな感覚に殿下、始まったと言おうとしたのだけれども。
声が、でない!
けど、私のそのうろたえを殿下はすぐに感じ取って、もうすでに始まっているのだと察してくれた様子。
瞳見開いて、そのままと零した。
私は私で、踊りながらこれをどうにかしようとするんだけど、紡ぐ魔力が端からほどかれていってる。
私に仕込まれた魔術は、複雑。解くのも難しいものだった。
これは放っておいちゃいけないものだったと、私の背中には冷や汗。
そして曲が、終わる。
私と殿下の手はまだ繋がれたまま。関節毎に熱があるようで、上手に動けない。
というより、私の身体が動かされていく感覚しかなかった。
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