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第五章
親の気持ち
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ガタゴトと動く馬車の中、お父様は黙ったままだった。
私を見つめて、やがてひとつ息を吐いた。
「レティーツィアは、テオドールが好きなのか」
「うっ、えっ、あっ」
「留学の時と、勝手に助けにいった事、それからあの手紙でそれはもうわかっている。トリスタンからも聞いた」
「……ぁぅ……はい、あの……好き、大好き……です。テオと、一緒に……なりたい、です」
「テオドールはそれに応えて……いるのだろうな。そのために留学した」
「その通りです」
そうか、とお父様は仰って。
もうそうなって、決めてしまったのなら仕方ない、と続けた。
「ジャジャル家と婚姻をというのは、私はしたくない。あの家は見えない部分が大きい。あの家の者を、我が家に入れるのはお断りだ」
「えっと……そう、お考えなのですね」
「ああ。トリスタンがデジレ様の元に行く。よって我が家はお前とその伴侶が継がねばならん。テオドールは、能力としては問題ないだろう。ただ男爵家から公爵家というところで風当たりは強そうだが」
「あっ、テオそういうの大丈夫だと思います! テオのずぶとさほんとすごいから!」
と、明るく楽しく言ってから、あっ、お父様相手にこれはまずかった! と思って固まる。
お父様は眉顰めて、気をつけなさいと言っただけだった。
な、なんだろう。優しい!!
「お前は扱いにくい娘だな。兄もだが」
「申し訳ないです……」
「そう思っていても改まらないところが特に悪い」
「返す言葉もございません……」
「しかし、トリスタンもお前も、どちらもかわいいわが子だ。したいようにさせてやりたい」
お父様はふと笑み浮かべ、テオドールの家と話をしておこうと仰った。
え、それって。それって、もしかして。
「認めてくださるの?」
「認めなければ家出くらいはしそうだからな……それは、望むところではない」
「お父様はよくわかってらっしゃる……あの、ありがとう、お父様!」
「ん?」
「テオとのこと、認めてくれてありがとう。嬉しい!」
私が笑むと、お父様も表情和らげる。
それが私は嬉しくて。
「それに、お前の手綱をとれるものを探すのもな……いないだろうし」
「え?」
「……お前を御せる男を見つけるのは大変だという話だ。その点は、テオドールは問題ない」
ちょ、それなんか。私がとんでもないお転婆で大変だって言ってるんです?
お、お父様めー!
瞳細めて笑いながら、お父様はお母様にも話をしなければなと仰る。
トリスタンの事が終わったら、次はお前だなと。
「そういえば、お兄様とデジレ様は……いつ婚約されるのです?」
「デジレ様が臣下に下られると同時にだ。そして、あれは家を出ることになる」
「……お兄様、あちらの御家に移られるんですね」
「ああ、そうなる。とても……心配だ」
その言葉にはお父様の気持ちが重々込められていた。
何をするかわからない、というような。
「で、でもお兄様も早々、変なことはしないと思いますけど」
そうだといいのだが、と不安の滲んだ声。
お兄様は、お父様にとって心配の種なのだ。私もそうだと思うけど。
それから、家に帰って。
お母様とお父様とお話して。
お母様は、テオなら任せられると微笑んでくれた。
というより、小さいころからテオドールは貴方の事が好きだったわねと、知ってらしたようで。
そして私も、いつからか好きだったでしょうと微笑む。
私よりも私のことをよくわかってらっしゃった。
「目に見えて何か変わったのは留学の前あたりだったかしら」
好きな方と結ばれるのは幸せな事よ、とお母様は仰る。ちらりとお父様を見て、お父様は何か気まり悪そうな顔をしていて。
そういえば、お父様とお母様って仲良しだけど、どうだったのかなぁと思った。
「お父様とお母様は、恋愛なんです?」
「いいえ、違うわ。この人が私に惚れて、貴族の結婚でしたのよ。けれど、真摯に気持ちを紡いでくださって」
「おい、子にする話ではない……」
「いいじゃないですか。私はお父様の気持ちにお応えしたの。とても緩やかで柔らかな、恋になったの」
「へー……」
お父様、やりますね。
多少強引な手もあったけど、とほほほと笑い零しながら仰られるお母様。それ、多分お兄様がきちんと引き継いでますよ、とは言わなかった。
「お前こそ、ふわふわとどこ見ているかわからないようで、目を離すとすぐに」
「まぁ、そんなことおっしゃられるの?」
と、夫婦喧嘩とまではいかないけど。
ごちそうさまです! みたいな問答を始めたので私はそっと部屋を出た。
なんだか今日はたくさん、色んな事があったような。そんな感じだった。
けど、ちょっとだけ前進したような、そんな感じもある。
テオに手紙を書こう。今日あったことを色々、書いて。
お父様とお母様に認めていただいたことも。
私はテンションがあがって眠れるわけもなく、テオへの手紙を長々と書きつづった。
その最後には、また魔力流せば見えるように好きって気持ちを、たくさん詰め込んだ。
離れて寂しいけど、大丈夫。
テオが帰ってくるのなんて、すぐだから。
私を見つめて、やがてひとつ息を吐いた。
「レティーツィアは、テオドールが好きなのか」
「うっ、えっ、あっ」
「留学の時と、勝手に助けにいった事、それからあの手紙でそれはもうわかっている。トリスタンからも聞いた」
「……ぁぅ……はい、あの……好き、大好き……です。テオと、一緒に……なりたい、です」
「テオドールはそれに応えて……いるのだろうな。そのために留学した」
「その通りです」
そうか、とお父様は仰って。
もうそうなって、決めてしまったのなら仕方ない、と続けた。
「ジャジャル家と婚姻をというのは、私はしたくない。あの家は見えない部分が大きい。あの家の者を、我が家に入れるのはお断りだ」
「えっと……そう、お考えなのですね」
「ああ。トリスタンがデジレ様の元に行く。よって我が家はお前とその伴侶が継がねばならん。テオドールは、能力としては問題ないだろう。ただ男爵家から公爵家というところで風当たりは強そうだが」
「あっ、テオそういうの大丈夫だと思います! テオのずぶとさほんとすごいから!」
と、明るく楽しく言ってから、あっ、お父様相手にこれはまずかった! と思って固まる。
お父様は眉顰めて、気をつけなさいと言っただけだった。
な、なんだろう。優しい!!
「お前は扱いにくい娘だな。兄もだが」
「申し訳ないです……」
「そう思っていても改まらないところが特に悪い」
「返す言葉もございません……」
「しかし、トリスタンもお前も、どちらもかわいいわが子だ。したいようにさせてやりたい」
お父様はふと笑み浮かべ、テオドールの家と話をしておこうと仰った。
え、それって。それって、もしかして。
「認めてくださるの?」
「認めなければ家出くらいはしそうだからな……それは、望むところではない」
「お父様はよくわかってらっしゃる……あの、ありがとう、お父様!」
「ん?」
「テオとのこと、認めてくれてありがとう。嬉しい!」
私が笑むと、お父様も表情和らげる。
それが私は嬉しくて。
「それに、お前の手綱をとれるものを探すのもな……いないだろうし」
「え?」
「……お前を御せる男を見つけるのは大変だという話だ。その点は、テオドールは問題ない」
ちょ、それなんか。私がとんでもないお転婆で大変だって言ってるんです?
お、お父様めー!
瞳細めて笑いながら、お父様はお母様にも話をしなければなと仰る。
トリスタンの事が終わったら、次はお前だなと。
「そういえば、お兄様とデジレ様は……いつ婚約されるのです?」
「デジレ様が臣下に下られると同時にだ。そして、あれは家を出ることになる」
「……お兄様、あちらの御家に移られるんですね」
「ああ、そうなる。とても……心配だ」
その言葉にはお父様の気持ちが重々込められていた。
何をするかわからない、というような。
「で、でもお兄様も早々、変なことはしないと思いますけど」
そうだといいのだが、と不安の滲んだ声。
お兄様は、お父様にとって心配の種なのだ。私もそうだと思うけど。
それから、家に帰って。
お母様とお父様とお話して。
お母様は、テオなら任せられると微笑んでくれた。
というより、小さいころからテオドールは貴方の事が好きだったわねと、知ってらしたようで。
そして私も、いつからか好きだったでしょうと微笑む。
私よりも私のことをよくわかってらっしゃった。
「目に見えて何か変わったのは留学の前あたりだったかしら」
好きな方と結ばれるのは幸せな事よ、とお母様は仰る。ちらりとお父様を見て、お父様は何か気まり悪そうな顔をしていて。
そういえば、お父様とお母様って仲良しだけど、どうだったのかなぁと思った。
「お父様とお母様は、恋愛なんです?」
「いいえ、違うわ。この人が私に惚れて、貴族の結婚でしたのよ。けれど、真摯に気持ちを紡いでくださって」
「おい、子にする話ではない……」
「いいじゃないですか。私はお父様の気持ちにお応えしたの。とても緩やかで柔らかな、恋になったの」
「へー……」
お父様、やりますね。
多少強引な手もあったけど、とほほほと笑い零しながら仰られるお母様。それ、多分お兄様がきちんと引き継いでますよ、とは言わなかった。
「お前こそ、ふわふわとどこ見ているかわからないようで、目を離すとすぐに」
「まぁ、そんなことおっしゃられるの?」
と、夫婦喧嘩とまではいかないけど。
ごちそうさまです! みたいな問答を始めたので私はそっと部屋を出た。
なんだか今日はたくさん、色んな事があったような。そんな感じだった。
けど、ちょっとだけ前進したような、そんな感じもある。
テオに手紙を書こう。今日あったことを色々、書いて。
お父様とお母様に認めていただいたことも。
私はテンションがあがって眠れるわけもなく、テオへの手紙を長々と書きつづった。
その最後には、また魔力流せば見えるように好きって気持ちを、たくさん詰め込んだ。
離れて寂しいけど、大丈夫。
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