転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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第五章

約束

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 お屋敷に帰ると、お前らどこ行ってたんだよーと当たり前のようにいじられた。
 デートですが何か!
 なんかもういじられるのにも慣れてきた感はある。
 それからみんなでご飯食べて。色々話をして。
 とうとう、明日だねーってなる。そう、明日とうとう、帰る日だから。
 俺達は空気を読んでさっさと寝るとガブさんとお兄様は出て行った。にやにやしながらなのですごく嫌な感じだったけど。
 というか、ガブさんなんでまだ泊まってるのとは思う。
「なんか、気を使われたよね」
「そうね。そんなの良いのに」
 どうせ、二人きりにしてもらえなくても何か理由をつけてさくっと出ちゃうつもりだったので。
 遠出もってことで屋根の上にって言ってたんだけどその必要が無くなってしまった。
「あー! やっぱり! 離れてる間にすり減っていくテオ成分を私は補給する!」
 充電充電! と私は、横に座ってるテオに抱き着いた。
 テオはびっくりしてたけど、笑ってそれに応えてくれる。ぎゅっとしてくれるの、あったかい。
「……帰りたくない……」
「うん」
「でも、帰る……あっちでお帰りって言うの楽しみにしてる」
 うん、と嬉しそうに笑う。
 そこでそういえば、とテオは私に、いじわるするような笑みを浮かべた。
「今更なんだけど、レティにとってどうしようもないほど好きっていうのは俺でいいんだよね?」
「え?」
「いや、こっちに来る前に……どうしてもこの人じゃないと嫌って思うような人が現れたら俺は身を引くとか言った覚えがあって」
「あー」
 確かに。
 何か、そういう話をした覚えがある。
 あるけど、今更! 本当に、今更な!
「流しとけばいいことをなんで掘り返すの……ええ、もちろんそんな人、現れてないわよ」
 私の心は変わらずテオでいっぱいなんだからと何の気なしに零すと、テオはそうと本当に嬉しそうに笑う。
 ああああああ……だから、その、その……その笑顔、私死ぬほど好き。
 一番近いところでこの笑みを見れるのは私。
 向けられるのは私だけ。
 そう、うぬぼれていたい。
「留学が終わって、もっと色んな事がわかるようになって帰ってくるときは、レティが驚くようなことをしてあげるよ」
「それ、楽しみだけど怖いようななんというか……」
 楽しみにしててとテオは笑う。私もつられるように、笑う。
 ぎゅっとしがみつけば、私を抱く手もそれに応えてくれる。
 明日からまた離れちゃうんだなぁという現実味があるような、ないような。
 私を見送って、寂しいなら泣いていいのよと言うと、泣かないと言う。
 レティこそ、泣いちゃうんじゃないのと。
 泣かないわよー! と強がるけど、どうなるかはわかんない。
 すごく楽しかった。
 ファンテールにきて色んな事あった。不安になったり、嬉しかったり、色んな事。
 テオが帰ってくるまで会えないはずが、私こっちに来ちゃったし。
 来ちゃった理由は、良くないものではあったけど。
「レティ、俺は……戻ったら、正式にお願いするから」
「え?」
「ヴィヴィエ公にレティとのことを認めて欲しいって」
「お、お父様に……そ、そっか。お父様をどうにかするのは命題よね……」
 ううう、まるっと忘れてたわ。
 お父様……お父様やばい。そうだ、おそらく帰ったら、お叱りタイムがある。
 やばい。やばい。やばいしか出てこないやばい。
 うわああああと思ってると、頑張って叱られてねとテオは言うわけで。
 まず頑張って叱られるというのが意味わかんないんだけど!
「頑張るー。しばらく謹慎かしら」
「そうかもしれないね……」
 殿下とデジレ様が多少の口添えをしてくれてる、はずだけど!
 でも怒られるのは間違いない。わぁ、覚悟決めておこう。
「頑張れるようにキスしてあげる」
「ひぇっ!? な、なんでそうなるの!?」
「え、したくない?」
 きょとんとした顔で、そんなこと言って。
 そんな風に言われたら、答えは一つしかないじゃないのって話。
「…………したい、する」
 そして、されるより先に、してやった!
 ちゅっとかわいい音。テオは自分からしようと思ってたんだろう。面食らってる。
 ふふー!
 にこーっと笑ってみせると、テオもにこーっと笑った。
 あー。
 あー、私はテオの何かを、今ので踏んだ。踏んだと思うぅ……絶対に。
「レティからしてくれて嬉しい分、お返しするよ」
「え、いや普通に普通でいいのよ。多めにとかそういうの無しでいいのよ」
「いや、俺の嬉しい分の気持ち、上乗せしなきゃつり合いがとれないよ」
 逆! 上乗せしたからつり合いとれないのよ!
 そんなこともわからない、というかわからないふりをしてるくらいにはテオ私の事好きすぎ。
 それは嬉しいけど怖くもあるような、気が……しないでも、ないような。
 一度、二度、三度。
 ちょっとずつ深くなっていくキスは嫌じゃない。
 ため息も甘いような、そんな錯覚すらある。
「ぐえー身が持たないってこういう事を言うのね、私ちょっと大人になったわ……」
「キスくらいでそんなこと言ってるとこの先進めないんだけど」
「んぎゃー! テオがそういう事言うとは思わなかった!」
「いや、言うよ……」
 レティは俺をなんだと思ってるのと。俺も普通に男だからね、と。
 あう、そう、確かにそうではあるがしかし。
 まだ16歳よ、早くない!? と、思うわけで。
「ま、体に響くのわかってるからしないけど。それに離れがたくなっちゃうしね」
 だから我慢する、と今度はテオが抱き着いてくる。
 抱き着いてくる、というよりも――すがりついてくるような。
「俺の事、ちゃんと待ってて」
「うん、待ってる」
「……ありがと」
 そう言ってテオは、私に一等甘い笑みを向ける。
 それに耐えられなかった私は、咄嗟に傍にあったクッションをその顔の上にあててしまった。
 何するのってもちろん言われたんだけど。
 だって、私が耐えられないような笑い方、するんだもの!
 直視してたら、私だって離れたくなくなる。
「私! テオが帰ってくるの待ってるから! 何度でも言うわ、待ってるから……もう、あんな事件に巻き込まれないでね」
「あんなのもうないと、思うけど」
「……待ってるからね」
「うん、待ってて」
 約束、と私たちは言葉交わす。
 待ってる、待ってて。
 帰ってきて、帰るって。
 不安が無いわけじゃないけど、信じてるからって笑いあえた。
 そう、別に世界が終わるわけでもなく、またちょっと離れるだけなんだから、大丈夫って。
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