転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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第三章

お見合い無双

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 デジレ様が王家を出ること、爵位を貰って一貴族になること。
 お兄様がヴィヴィエ家を出ること、デジレ様に婿入りすること。
 そして私が、婿取りをしなければいけなくなるということ。
 この三つの話は、あの御呼出しの次の日にはほぼ貴族の皆は知る事となり。
 お兄様の将来的なものが確定し、宙ぶらりんなのは私。
 で、私の婿取りということは、貴族の次男、三男といった跡を継がない方々にとって目の色変えるような、そんな話らしい。
 そりゃ、名のある家に入れるんだから。お兄様が継ぐと思っていたからこそ、話はあっても上手にいなすことができた。
 あと殿下から話が、みたいな雰囲気もあったから毎日どしどしそういう話がやってくると言うことはなかったのだ。
 だがしかし。
 しかし、お父様もそろそろ対応に疲れてしまったようで。
「レティ、こう毎日、話を持ってこられてそろそろ私も面倒だ」
「はい」
「いつまでも逃げられるとは」
「思ってないです」
「では明日から見合いをしなさい」
「えっ」
「断っていいから、会いなさい」
 という話になり。
 ここしばらく私はー! 見たことあるけど初対面ですよね! といった相手と毎日会っている。
 勉学優先だけど、学校終わったら呼び出されーみたいな。
 下は9歳、上は30歳まで! というのが今のところの範囲。
 さすがに一回り以上はどうなの、と思ってお父様にはお断りいただくようにした。
 いや、皆さん地位に飢えてらっしゃいますね。
「やだもう疲れた」
「これもお仕事ですよ、貴族としての」
「うう……そうは言ってもね、テオ」
 今日はまだよかった! 歳は三つくらい上で、相手もそんなに気のりしていない。親がどうしてもっていうからと苦笑していたのだから。話聞いてると恋人いるし、ってな感じで。
 私もあんまりそういう気がないとお互いに察して、世間話をしてそれじゃ、無しということでみたいに別れることができた。
 しかし昨日は、あれこれ根掘り葉掘り聞かれて、さらに自分のことを長々と話すタイプで。
 無理ー! と思ったのだ。
 そりゃ、ずっと逃げることはできないってわかってる。わかってる!
 けど! ね!
「……そもそもレティはスタートラインがずれてるよ」
「え?」
 私のためにお茶を淹れてくれていたテオは、はいと渡してくれる。
 そして私の隣に座った。
「ねぇ、まず他の男からの話より、俺からの方が先じゃない?」
「うぐっ」
「今すぐ返事が欲しいなぁとは言わないけど」
「じゃ、じゃあいいじゃない……」
「……でもはぐらかされ続けられると、周りから固めるよと思わなくもない」
 うええええ、なにそれ!
 確かに、私は甘えている。テオが許してくれるからだ。
 でも、その、今更テオを見てめっちゃ心臓早鐘打つようなそんな、稲妻落ちるような恋なんてと思うし。
 というか。
「顔近い近い……ぎゃあああ」
「ぎゃああ、とか淑女としてアウトだよ。顔が近いのはわざと」
「な、なんかテオ! お兄様から色々学んでない!?」
「……特には」
 う、嘘だー!! 絶対、嘘だー!!
 いじわるげに笑って、離れていく。
 ぐぬぬと私は唸るしかない。くそぅ、どきどきしちゃったじゃないの。
「レティが心の底から大好きで、何を捨ててもいい人が現れてその人もレティの事大事にして同じくらい愛してくれるなら、俺は身を引くよ。つまりそういう相手じゃないと許せないよ」
「またハードルの高い……」
「高く、してるんだよ」
「テオは意地悪ね」
「そうしたのはレティかな」
「えー」
 えー、なにそれー。
 その気持ちは私の顔に現れていたんだろう。
 変な顔してるとテオは笑った。変な顔で悪かったわね!
「……でもね、レティ。俺もいつまでもレティの傍にいられないんだよ」
「え?」
 ふと。
 真面目な顔になって。
 テオの笑みは困ったようなものをはらんだものになる。
「留学の日程が決まったんだ。突然だけど、来月から俺は、二年はそばにいないよ」
「二年?」
「そう。出会ってからずっと一緒だったけど、そんなに長い間傍にいないって」
 俺はちょっとしんどいけど、頑張るよとテオは言う。
 二年。
 二年?
 私は何度も反芻する。
 そんなに長い時間、テオがそばにいない?
 二年なんてあっという間かもしれない。けど今話しを聞く限り永遠に近いほど長いような、そんな感覚だった。
「約束覚えてる?」
「え、っと……どの約束?」
「留学から帰ってくるまで」
「誰の者にもならない。ちゃんと覚えてるわ」
 守ってね、とテオは言う。
 ああ、そっか。テオも不安なんだなと思った。
 だって、私の現状。テオの知らぬ間に、私が嫌だと言ってもどうにもならないことがあれば。
 テオとの約束は守られないのだから。
 私が守りたくても、守れない場合があることもテオはわかっている。
「大丈夫。いざとなったら神様にお仕えしますって逃げるから」
「また突飛なことを……」
「でもそうならないようにするし……うん。私は、テオが当たり前のように傍にいすぎて色々わかんないのかもしれないから」
 当たり前に傍にいる。当たり前すぎて見えないこともあると思う。
 離れるのは、距離ができるのは良い機会、なのかもしれないけど。
 それでも。
「さびしいわね」
「うん」
「手紙くらいは、書いていい?」
「いいよ。俺も書く」
「どこの国にいくの?」
「ファンテール」
 ファンテール、と私は紡ぐ。
 それは確か、ガブさんの国だったはず。
 ということは!
「テオ、私に美味しい食材を……」
「そういう事にはすぐ頭が回るんだね……」
「だ、だってー!!!! 保存食だけでいいからー!!!!」
 はいはいとテオはおざなりに返事をする。
 いや、これは手紙を送るたびに食材コールをするしかない。ひいい、思わぬところで!
 私の和食ライフが満たされそうな!!
 と、笑ってごまかしているのだけど。
 私の心は穏やかではない。決して、穏やかではない。
 こうやって笑って、無理をしている。
 本当は寂しくてたまらないのを隠すように、はしゃいでいるだけだ。
 テオがそばからいなくなるなんて。その話を聞くだけで。
 想像したことは確かにあったけど、それよりもダメージが深かった。
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