転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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第三章

前日の問題

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 夜会の途中、ほどよいところで素敵な怪盗さんが二階の窓から颯爽と現れる。
 可能ならば、王子と引き合された直後。場所はおそらく広間の中心あたり。
『はははは! その見合いちょっと待った!』
 何奴、と会場がざわめくので視線を集めるのを待つ。タメはたっぷりとること。
『私は最近噂の素敵な怪盗さん!』
 名乗ると同時に、おそらく衛兵が上にあがろうとするので通路の鍵は締めておく。
 どたばたしてもすぐにはこれないので安心。
 

 そこまで読んで、私は薄っぺらい本を置いた。
 そして、息を深く吸い込んで。
「無理!!!!!」
 私の第一声はこれだ。
 何がって、デジレ様浚って見合いぶち壊そうぜ! の台本が届いたのだ。
 書いたのはデジレ様と殿下らしい。
 これ遊んでますよね!?
「まぁ……これはまた、すごい……」
「おお、いとしいわがひめ、いますぐそこからおたすけもうしあげましょう……ぶふっ」
 テオ、テオ!
 笑いがこらえきれてないわよ!!
「レティには難易度が高そうだね……」
「高そうじゃなくて高いっていうか、恥ずかしくて言えないから!!」
「これに対してデジレ様がアドリブって書いてあるのがまた……レティ、がんばれます?」
「無理」
 ジゼルちゃんには話した。だって当日、私は寮を抜け出すし。
 そしたらベルはお呼ばれしてるので、私もいくのよと笑顔で。
 レティの勇姿を見届けますね! と楽しそうに言われても!!
「となると、ベルにも言っておいたほうがいいのかな」
「いえ、別にいいと思いますよ、言わなくて」
 顔に出るし、とジゼルちゃんはさらっと。
 確かに出るね……ではベルには内緒の方向で、ということで決まる。
「セリフ長くない? 長いよね……私こういうのはちょっと……」
「とりあえずこのへんだけ抑えて、あとはアドリブでいいと思うけど」
 と、テオが示したのは。
 長いわ!
 名乗り上げ、おお、いとしい以下略、ではさらばだの下り。
 三つか……別にどれも覚えなくてもいいんじゃないかな……だってこれ、面白がってつくったのがわかるし。
「うぅん、適当に誤魔化してやる……そもそも名乗ったら声ばれするんじゃないかな」
「あー……」
「しますね」
 口元隠せば声がくぐもってわからないんじゃない? となってやってみたけど苦しい。
 うぅん、このあたり気にしたら負けかなぁ。
 そんなこんなで着々と準備は進み、殿下とデジレ様の手引きで夜中、予行演習を王城に忍び込んでやって。
 いやよくやったなと思うけど!
 あっという間に、問題の夜会の前日。
 その日、私はお兄様に呼び出された。
 なんでしょうかーと問うととても良い笑みが向けられたので、嫌な予感しかしなかった。
 あっ、また無茶ぶりされる……! と思ったわけで。
 とりあえず、おとなしく話を聞いているとまたとんでもないことを言いだし。
 え、さすがにそれは、それはどうなの!? ていうかそれ、皆に言ってないよね!!
 という感じの提案だったんだけど。そしてもちろん、言ってなかったわけで!
 少なくとも殿下には相談してくださいと言ったけど面倒の一点張り。私が説き伏せることなんてもちろんできない。
 最終的に、私はもうどうなっても知らないんだからー! と、好きにしてもらうことにした。
 明日怖い。
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