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第二章
珍しい言葉
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お兄様はしぶしぶながら、話し始める。
彼女との出会いをだ。
夜会を訪れ、最初は殿下と一緒にいたと言う。しばらくするとご令嬢方がそばに。
談笑しているうちに殿下は離れていく。押し付けていったな、と思ったらしい。
で、ご令嬢達の相手もな、とちょっと離れた時のこと、という。
きらびやかな会場に、濃い藍色のドレス。豪奢なつくり、というわけではなくてすらりとしたシルエットに目を引かれてふと視線向けると、目があって微笑まれたという。
あんな美人がいて誰も気付かないとはと驚いたのだけれど。どうやら彼女がうまく顔を隠してやりすごしていたそうで。
自分と目があったのも偶然だったのかもしれないとお兄様は思っている様子。
「目が会うと逃げられたからな」
それで、追ったと言う。
会場の人のいない場所を誰にも咎められずにゆるやかに抜けていく。
誘いの手もあっただろうに全部かわしていくのは相当、こういう場に慣れていなければ無理。
庭園の方に行くのはわかったのでおいかけて、そして追いついたらしい。
「それで? どんなお話をされたんですか?」
わくわくどきどき。
「どこのものか、名前を聞いたがはぐらかされた。女は秘密がある方が素敵で楽しいでしょうとな」
確かにその通りだとお兄様は同意したようだ。うんうん、話のつなぎ方はとてもお兄様ですね。
それでそれで?
「立ち話もなんだからと東屋に誘ったんだが時間がないと断られ、どこにいくのか尋ねれば帰るからと」
「……お兄様、それは……それは、根掘り葉掘り聞いてくるんじゃない、うざい。という感じだと私は思います」
「は? 何故、俺が尋ねてるのにか」
「ああああああ、はい! そういうのダメですよ! そういうの嫌いな人は本当に嫌いですよ!!」
お兄様にしてみれば、だ。
そうだよね、女の人は寄ってくるのが当たり前! 避けられるなんてことはない!
なのに逃げるから、なんというか、そう。ハンター精神がうずいたとかそういう感じもある。
第一印象駄目な感じじゃないかな、これ。
「お兄様。お兄様は妹の私も言うのもなんですが、とういか事実なのでなんか改めて言うのもと思いますが」
家柄も良い。能力もある。見目もよろしい。将来性すごく高い。
確かに、周囲のご令嬢からすれば、超優良物件。
でも! あえて! そういう物件を求めない方もいらっしゃいます!!
と、私は力説してみた。
この感覚はおそらく、だ。私が前世の記憶を持っていたら持てない価値観だと思う。
だって前世は恋愛自由じゃない? 家柄云々とかで結婚とかそういうの決めるなんて、普通無い話じゃない。
お見合いだったとしても、今のこの世界よりももっと感覚は緩い。
一般の国民の感覚はきっと前世に近いだろうけど。貴族のこの結婚婚約云々の感覚というのは、なかなかに凝り固まったものだと私は思う。
上下の関係とか、派閥とか。恋愛で結婚するっていうのはかなり珍しいと思う。
「お前の言っていることはわかるが理解はできん」
「はい、そうだと思いますけど。そうですね、お兄様の考えなんてふるーいって思う変わり者な方である可能性もある、ということですよ」
「……変わり者、か」
それはそれでおもしろいと。お兄様が笑う。
あっ、だめだこれ。だめなんじゃないかな、これ。
「お兄様、ゲームじゃないんですよ。本当に気になって好きでたまらないなら、なりふり構わず行かないと振り向いてもらえないこともありますよ」
と、私が。恋愛経験値の低い私が言うのもなんだけど。
でも人の心はね。斜め上みてたり斜め下だったら受け取ってもらえないんじゃないかな、と思う。
恋愛以前の問題、気持ちの向け方のところでお兄様は問題がある気もする。
「……お前にそう言うことを言われるとは思わなかった」
「え?」
お兄様は驚いた、というように瞬く。
でも、と次に視線を向けたのは私にではなくテオにだった。
「お前も苦労するな」
「いつものことなので」
「ん? なに? なんです」
「なんでもねーよ」
「なんでもないですよ」
二人で通じ合っちゃってなんなのー。
いやそれよりも! お兄様のほう!
「と、とりあえず出会い? とかはわかりました。それで、見た目は。それがわからないと探しようがないです」
「ああ……髪は結い上げていたから長さはわからないが、金色。薄い金色だな。瞳は……スカイブルー」
そして細身の、美女と。ドレスは生地を重ねてふわっとさせたのではなくシンプルですらっとしたもの。うぅん、私は流行には疎いけど、なかなかそういうのを着てらっしゃる人は見ないかな。
ホルタ―ネックの藍色。シンプルそうに見えて、刺繍が同色でしてあったとお兄様は言う。
良く見てますね、お兄様。私そういうの見ないわ。わー! 藍色! 綺麗! で終わりそう。
でも、うん。金髪にスカイブルーの人とかたくさんいるから探すの難しそう。
まぁ、ともかくジゼルちゃんに聞いてみよう。
「アレクには絶対黙っとけよ」
「あ、はーい。ばれるの嫌なんですよね」
嫌という言い方もあれかな、と思いつつもそれしか当てはまらない。
殿下に話せばすぐにわかりそうな気もするんだけどなー。まぁお兄様の意見を尊重尊重。
「私もできるだけ情報集めてみますね!」
「ああ」
頼む、と。
珍しい言葉を、私は聞いた。や、やだ明日槍がふるかも。
彼女との出会いをだ。
夜会を訪れ、最初は殿下と一緒にいたと言う。しばらくするとご令嬢方がそばに。
談笑しているうちに殿下は離れていく。押し付けていったな、と思ったらしい。
で、ご令嬢達の相手もな、とちょっと離れた時のこと、という。
きらびやかな会場に、濃い藍色のドレス。豪奢なつくり、というわけではなくてすらりとしたシルエットに目を引かれてふと視線向けると、目があって微笑まれたという。
あんな美人がいて誰も気付かないとはと驚いたのだけれど。どうやら彼女がうまく顔を隠してやりすごしていたそうで。
自分と目があったのも偶然だったのかもしれないとお兄様は思っている様子。
「目が会うと逃げられたからな」
それで、追ったと言う。
会場の人のいない場所を誰にも咎められずにゆるやかに抜けていく。
誘いの手もあっただろうに全部かわしていくのは相当、こういう場に慣れていなければ無理。
庭園の方に行くのはわかったのでおいかけて、そして追いついたらしい。
「それで? どんなお話をされたんですか?」
わくわくどきどき。
「どこのものか、名前を聞いたがはぐらかされた。女は秘密がある方が素敵で楽しいでしょうとな」
確かにその通りだとお兄様は同意したようだ。うんうん、話のつなぎ方はとてもお兄様ですね。
それでそれで?
「立ち話もなんだからと東屋に誘ったんだが時間がないと断られ、どこにいくのか尋ねれば帰るからと」
「……お兄様、それは……それは、根掘り葉掘り聞いてくるんじゃない、うざい。という感じだと私は思います」
「は? 何故、俺が尋ねてるのにか」
「ああああああ、はい! そういうのダメですよ! そういうの嫌いな人は本当に嫌いですよ!!」
お兄様にしてみれば、だ。
そうだよね、女の人は寄ってくるのが当たり前! 避けられるなんてことはない!
なのに逃げるから、なんというか、そう。ハンター精神がうずいたとかそういう感じもある。
第一印象駄目な感じじゃないかな、これ。
「お兄様。お兄様は妹の私も言うのもなんですが、とういか事実なのでなんか改めて言うのもと思いますが」
家柄も良い。能力もある。見目もよろしい。将来性すごく高い。
確かに、周囲のご令嬢からすれば、超優良物件。
でも! あえて! そういう物件を求めない方もいらっしゃいます!!
と、私は力説してみた。
この感覚はおそらく、だ。私が前世の記憶を持っていたら持てない価値観だと思う。
だって前世は恋愛自由じゃない? 家柄云々とかで結婚とかそういうの決めるなんて、普通無い話じゃない。
お見合いだったとしても、今のこの世界よりももっと感覚は緩い。
一般の国民の感覚はきっと前世に近いだろうけど。貴族のこの結婚婚約云々の感覚というのは、なかなかに凝り固まったものだと私は思う。
上下の関係とか、派閥とか。恋愛で結婚するっていうのはかなり珍しいと思う。
「お前の言っていることはわかるが理解はできん」
「はい、そうだと思いますけど。そうですね、お兄様の考えなんてふるーいって思う変わり者な方である可能性もある、ということですよ」
「……変わり者、か」
それはそれでおもしろいと。お兄様が笑う。
あっ、だめだこれ。だめなんじゃないかな、これ。
「お兄様、ゲームじゃないんですよ。本当に気になって好きでたまらないなら、なりふり構わず行かないと振り向いてもらえないこともありますよ」
と、私が。恋愛経験値の低い私が言うのもなんだけど。
でも人の心はね。斜め上みてたり斜め下だったら受け取ってもらえないんじゃないかな、と思う。
恋愛以前の問題、気持ちの向け方のところでお兄様は問題がある気もする。
「……お前にそう言うことを言われるとは思わなかった」
「え?」
お兄様は驚いた、というように瞬く。
でも、と次に視線を向けたのは私にではなくテオにだった。
「お前も苦労するな」
「いつものことなので」
「ん? なに? なんです」
「なんでもねーよ」
「なんでもないですよ」
二人で通じ合っちゃってなんなのー。
いやそれよりも! お兄様のほう!
「と、とりあえず出会い? とかはわかりました。それで、見た目は。それがわからないと探しようがないです」
「ああ……髪は結い上げていたから長さはわからないが、金色。薄い金色だな。瞳は……スカイブルー」
そして細身の、美女と。ドレスは生地を重ねてふわっとさせたのではなくシンプルですらっとしたもの。うぅん、私は流行には疎いけど、なかなかそういうのを着てらっしゃる人は見ないかな。
ホルタ―ネックの藍色。シンプルそうに見えて、刺繍が同色でしてあったとお兄様は言う。
良く見てますね、お兄様。私そういうの見ないわ。わー! 藍色! 綺麗! で終わりそう。
でも、うん。金髪にスカイブルーの人とかたくさんいるから探すの難しそう。
まぁ、ともかくジゼルちゃんに聞いてみよう。
「アレクには絶対黙っとけよ」
「あ、はーい。ばれるの嫌なんですよね」
嫌という言い方もあれかな、と思いつつもそれしか当てはまらない。
殿下に話せばすぐにわかりそうな気もするんだけどなー。まぁお兄様の意見を尊重尊重。
「私もできるだけ情報集めてみますね!」
「ああ」
頼む、と。
珍しい言葉を、私は聞いた。や、やだ明日槍がふるかも。
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