転生令嬢はやんちゃする

ナギ

文字の大きさ
上 下
53 / 243
第二章

珍しい言葉

しおりを挟む
 お兄様はしぶしぶながら、話し始める。
 彼女との出会いをだ。
 夜会を訪れ、最初は殿下と一緒にいたと言う。しばらくするとご令嬢方がそばに。
 談笑しているうちに殿下は離れていく。押し付けていったな、と思ったらしい。
 で、ご令嬢達の相手もな、とちょっと離れた時のこと、という。
 きらびやかな会場に、濃い藍色のドレス。豪奢なつくり、というわけではなくてすらりとしたシルエットに目を引かれてふと視線向けると、目があって微笑まれたという。
 あんな美人がいて誰も気付かないとはと驚いたのだけれど。どうやら彼女がうまく顔を隠してやりすごしていたそうで。
 自分と目があったのも偶然だったのかもしれないとお兄様は思っている様子。
「目が会うと逃げられたからな」
 それで、追ったと言う。
 会場の人のいない場所を誰にも咎められずにゆるやかに抜けていく。
 誘いの手もあっただろうに全部かわしていくのは相当、こういう場に慣れていなければ無理。
 庭園の方に行くのはわかったのでおいかけて、そして追いついたらしい。
「それで? どんなお話をされたんですか?」
 わくわくどきどき。
「どこのものか、名前を聞いたがはぐらかされた。女は秘密がある方が素敵で楽しいでしょうとな」
 確かにその通りだとお兄様は同意したようだ。うんうん、話のつなぎ方はとてもお兄様ですね。
 それでそれで?
「立ち話もなんだからと東屋に誘ったんだが時間がないと断られ、どこにいくのか尋ねれば帰るからと」
「……お兄様、それは……それは、根掘り葉掘り聞いてくるんじゃない、うざい。という感じだと私は思います」
「は? 何故、俺が尋ねてるのにか」
「ああああああ、はい! そういうのダメですよ! そういうの嫌いな人は本当に嫌いですよ!!」
 お兄様にしてみれば、だ。
 そうだよね、女の人は寄ってくるのが当たり前! 避けられるなんてことはない!
 なのに逃げるから、なんというか、そう。ハンター精神がうずいたとかそういう感じもある。
 第一印象駄目な感じじゃないかな、これ。
「お兄様。お兄様は妹の私も言うのもなんですが、とういか事実なのでなんか改めて言うのもと思いますが」
 家柄も良い。能力もある。見目もよろしい。将来性すごく高い。
 確かに、周囲のご令嬢からすれば、超優良物件。
 でも! あえて! そういう物件を求めない方もいらっしゃいます!!
 と、私は力説してみた。
 この感覚はおそらく、だ。私が前世の記憶を持っていたら持てない価値観だと思う。
 だって前世は恋愛自由じゃない? 家柄云々とかで結婚とかそういうの決めるなんて、普通無い話じゃない。
 お見合いだったとしても、今のこの世界よりももっと感覚は緩い。
 一般の国民の感覚はきっと前世に近いだろうけど。貴族のこの結婚婚約云々の感覚というのは、なかなかに凝り固まったものだと私は思う。
 上下の関係とか、派閥とか。恋愛で結婚するっていうのはかなり珍しいと思う。
「お前の言っていることはわかるが理解はできん」
「はい、そうだと思いますけど。そうですね、お兄様の考えなんてふるーいって思う変わり者な方である可能性もある、ということですよ」
「……変わり者、か」
 それはそれでおもしろいと。お兄様が笑う。
 あっ、だめだこれ。だめなんじゃないかな、これ。
「お兄様、ゲームじゃないんですよ。本当に気になって好きでたまらないなら、なりふり構わず行かないと振り向いてもらえないこともありますよ」
 と、私が。恋愛経験値の低い私が言うのもなんだけど。
 でも人の心はね。斜め上みてたり斜め下だったら受け取ってもらえないんじゃないかな、と思う。
 恋愛以前の問題、気持ちの向け方のところでお兄様は問題がある気もする。
「……お前にそう言うことを言われるとは思わなかった」
「え?」
 お兄様は驚いた、というように瞬く。
 でも、と次に視線を向けたのは私にではなくテオにだった。
「お前も苦労するな」
「いつものことなので」
「ん? なに? なんです」
「なんでもねーよ」
「なんでもないですよ」
 二人で通じ合っちゃってなんなのー。
 いやそれよりも! お兄様のほう!
「と、とりあえず出会い? とかはわかりました。それで、見た目は。それがわからないと探しようがないです」
「ああ……髪は結い上げていたから長さはわからないが、金色。薄い金色だな。瞳は……スカイブルー」
 そして細身の、美女と。ドレスは生地を重ねてふわっとさせたのではなくシンプルですらっとしたもの。うぅん、私は流行には疎いけど、なかなかそういうのを着てらっしゃる人は見ないかな。
 ホルタ―ネックの藍色。シンプルそうに見えて、刺繍が同色でしてあったとお兄様は言う。
 良く見てますね、お兄様。私そういうの見ないわ。わー! 藍色! 綺麗! で終わりそう。
 でも、うん。金髪にスカイブルーの人とかたくさんいるから探すの難しそう。
 まぁ、ともかくジゼルちゃんに聞いてみよう。
「アレクには絶対黙っとけよ」
「あ、はーい。ばれるの嫌なんですよね」
 嫌という言い方もあれかな、と思いつつもそれしか当てはまらない。
 殿下に話せばすぐにわかりそうな気もするんだけどなー。まぁお兄様の意見を尊重尊重。
「私もできるだけ情報集めてみますね!」
「ああ」
 頼む、と。
 珍しい言葉を、私は聞いた。や、やだ明日槍がふるかも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた! トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。 しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。 行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。 彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。 不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます! ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。

悪役令嬢に転生したけど記憶が戻るのが遅すぎた件〜必死にダイエットして生き延びます!〜

ニコ
恋愛
 断罪中に記憶を思い出した悪役令嬢フレヤ。そのときにはすでに国外追放が決定しており手遅れだった。 「このままでは餓死して死ぬ……!」  自身の縦にも横にも広い肉付きの良い体を眺め、フレヤは決心した。 「痩せて綺麗になって楽しい国外追放生活を満喫してやる! (ついでに豚って言いやがったあのポンコツクソ王子も見返してやる‼︎)」  こうしてフレヤのダイエット企画は始まったのだった…… ※注.フレヤは時々口が悪いです。お許しくださいm(_ _)m

愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています

永江寧々
恋愛
結婚生活ニ十周年を迎える今年、アステリア王国の王であるトリスタンが妻であるユーフェミアから告げられたのは『離婚してください」という衝撃の告白。 愛を囁くのを忘れた日もない。セックスレスになった事もない。それなのに何故だと焦るトリスタンが聞かされたのは『愛人が四人もいるから』ということ。 愛している夫に四人も愛人がいる事が嫌で、愛人を減らしてほしいと何度も頼んできたユーフェミアだが、 減るどころか増えたことで離婚を決めた。 幼子のように離婚はしたくない、嫌だと駄々をこねる夫とそれでも離婚を考える妻。 愛しているが、愛しているからこそ、このままではいられない。 夫からの愛は絶えず感じているのにお願いを聞いてくれないのは何故なのかわからないユーフェミアはどうすればいいのかわからず困っていた。 だが、夫には夫の事情があって…… 夫に問題ありなのでご注意ください。 誤字脱字報告ありがとうございます! 9月24日、本日が最終話のアップとなりました。 4ヶ月、お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました! ※番外編は番外編とも言えないものではありますが、小話程度にお読みいただければと思います。 誤字脱字報告ありがとうございます! 確認しているつもりなのですが、もし発見されましたらお手数ですが教えていただけると助かります。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...