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本当に不本意ながら。
今、自分が相談する相手がこいつしかいないから仕方なく、といった体でムゥは蒼公のもとをおとずれた。
「ブランシュが、冷たい」
「へー。それで?」
蒼公はそっけない。どちらかというと、借りてきたこの世界の本というものの方に興味があり、器用にくちばしで捲っている。
「ブランシュがつれない」
「うんうん。お前のこと飽きたとか?」
「!? そ、そんな、そんなことは!! ない!!」
ない。それはないとムゥは言う。
しかし、今の状態をどう改善すればいいかはまったくわからない。
だからお前に一応、話をしてみようと思ったのだが意味はなかったなと蒼公を見ると、ごろごろ転がりながら笑っているのだ。
「ぶはっ! あはははっ!! げふっ」
「何故笑う……」
「いや、だってさぁ! だって! 赤公が! そんなこと! 俺にいう! とか!」
世界がひっくり返るほどおかしいと蒼公のツボにはまってしまったようだ。
ぐぬ、と唸る赤公は飛びついて噛みつくのをどうにか我慢した。やがて蒼公はひとしきり笑い終えてはぁはぁと息つきながらムゥを見た。
ぺたんと寝そべったまま、なぁと呼ぶ。
その声色は今までと違うものだ。
「お前の、赤公の、あの子に向ける好きはなんなの?」
「なんなの、とは」
「愛でるだけの感情か、単なる好意か。それとも別のものか」
そう、まさしく。まさしく言うならば人が持つ恋情。
我ら幻獣が互いに抱くことのない感情!
そう、芝居がかった口調で、けれどおちょくるように蒼公は言う。
「さぁさぁ! どうなんだい赤公よ!」
「どうと言われても……そんな」
そんな好きの種類なんて考えた事などないとムゥは言う。
ブランシュを思えば幸せだ。
横にいられる、その幸福。満ち足りるものがある。
しかし、他の誰かといれば許しがたい。よくわからないどろどろとした感情はあるとムゥは零す。
「は? あは」
「む?」
「あははは!! 赤公が! 赤公が!!」
それをきいて、蒼公は瞬き。そして再び笑い始めた。
先程より激しくごろごろと転げまわりむせる。それでも笑いがとまらない。
「赤公の! この! ざま! ぶっふ」
「な、何がおかしい……」
「ぐふっ。だって、さぁ!」
赤公が、だ。
あちらの世界で最強、最上の五指には入る存在の赤公が自分の気持ちもわからず、そしてままならない。
そんなざま。
それがおもしろおかしくなくて一体何なのだと蒼公は転げまわっているのだ。
「これは皆も、あちらからみて、ごふっ、ぜ、ぜったい……笑いまわってる!」
ムゥはぎろりと鋭い視線を蒼公に向ける。
何故こんなに転げているのかまではわからないが、馬鹿にされているのはよくわかる。
そして、少し落ち着いた蒼公ははーと長い息を吐いて、わからないなら教えてやろうと言った。
「赤公よ、お前は認めないかもしれないが、それは人でいう……恋だろう。少なくとも俺からすれば、お前はあの娘に恋している」
そうしかみえない、と蒼公は紡いだ。
恋、とムゥは呟く。
蒼公はどう反応するのか、とじっとムゥを見つめていた。
そんなことはないと騒ぐのか、違うと誤魔化そうとするのか。
しかし予想と違って、静かだ。ただ静かに恋、と呟いただけだったのだ。
「――ああ、なるほど」
なるほど、恋というのならしっくりくる。
そう静かに紡ぐ姿は予想外以外の何でもなかった。
「蒼公よ」
「お、おう。なんだい?」
「俺はブランシュに、この思いを伝えてくる。今、すぐ」
ではな! とムゥは走り去る。
いや、おい、ちょっと待てと止めようとしたが遅い。
あーあ、と蒼公は思うのだ。
「うん、そんなの唐突にぶつけられてもどうしようもないんじゃ」
ないのか、と。
今、自分が相談する相手がこいつしかいないから仕方なく、といった体でムゥは蒼公のもとをおとずれた。
「ブランシュが、冷たい」
「へー。それで?」
蒼公はそっけない。どちらかというと、借りてきたこの世界の本というものの方に興味があり、器用にくちばしで捲っている。
「ブランシュがつれない」
「うんうん。お前のこと飽きたとか?」
「!? そ、そんな、そんなことは!! ない!!」
ない。それはないとムゥは言う。
しかし、今の状態をどう改善すればいいかはまったくわからない。
だからお前に一応、話をしてみようと思ったのだが意味はなかったなと蒼公を見ると、ごろごろ転がりながら笑っているのだ。
「ぶはっ! あはははっ!! げふっ」
「何故笑う……」
「いや、だってさぁ! だって! 赤公が! そんなこと! 俺にいう! とか!」
世界がひっくり返るほどおかしいと蒼公のツボにはまってしまったようだ。
ぐぬ、と唸る赤公は飛びついて噛みつくのをどうにか我慢した。やがて蒼公はひとしきり笑い終えてはぁはぁと息つきながらムゥを見た。
ぺたんと寝そべったまま、なぁと呼ぶ。
その声色は今までと違うものだ。
「お前の、赤公の、あの子に向ける好きはなんなの?」
「なんなの、とは」
「愛でるだけの感情か、単なる好意か。それとも別のものか」
そう、まさしく。まさしく言うならば人が持つ恋情。
我ら幻獣が互いに抱くことのない感情!
そう、芝居がかった口調で、けれどおちょくるように蒼公は言う。
「さぁさぁ! どうなんだい赤公よ!」
「どうと言われても……そんな」
そんな好きの種類なんて考えた事などないとムゥは言う。
ブランシュを思えば幸せだ。
横にいられる、その幸福。満ち足りるものがある。
しかし、他の誰かといれば許しがたい。よくわからないどろどろとした感情はあるとムゥは零す。
「は? あは」
「む?」
「あははは!! 赤公が! 赤公が!!」
それをきいて、蒼公は瞬き。そして再び笑い始めた。
先程より激しくごろごろと転げまわりむせる。それでも笑いがとまらない。
「赤公の! この! ざま! ぶっふ」
「な、何がおかしい……」
「ぐふっ。だって、さぁ!」
赤公が、だ。
あちらの世界で最強、最上の五指には入る存在の赤公が自分の気持ちもわからず、そしてままならない。
そんなざま。
それがおもしろおかしくなくて一体何なのだと蒼公は転げまわっているのだ。
「これは皆も、あちらからみて、ごふっ、ぜ、ぜったい……笑いまわってる!」
ムゥはぎろりと鋭い視線を蒼公に向ける。
何故こんなに転げているのかまではわからないが、馬鹿にされているのはよくわかる。
そして、少し落ち着いた蒼公ははーと長い息を吐いて、わからないなら教えてやろうと言った。
「赤公よ、お前は認めないかもしれないが、それは人でいう……恋だろう。少なくとも俺からすれば、お前はあの娘に恋している」
そうしかみえない、と蒼公は紡いだ。
恋、とムゥは呟く。
蒼公はどう反応するのか、とじっとムゥを見つめていた。
そんなことはないと騒ぐのか、違うと誤魔化そうとするのか。
しかし予想と違って、静かだ。ただ静かに恋、と呟いただけだったのだ。
「――ああ、なるほど」
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そう静かに紡ぐ姿は予想外以外の何でもなかった。
「蒼公よ」
「お、おう。なんだい?」
「俺はブランシュに、この思いを伝えてくる。今、すぐ」
ではな! とムゥは走り去る。
いや、おい、ちょっと待てと止めようとしたが遅い。
あーあ、と蒼公は思うのだ。
「うん、そんなの唐突にぶつけられてもどうしようもないんじゃ」
ないのか、と。
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