いとしのわが君

ナギ

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蒼公の到来

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 ブランシュとムゥの平穏な日々はしばらく続いた。
 時折、窓際さんのところにいくがまだ呼び名はダメ出しの最中だ。かわいくないのだから。
「あの方、センスがないのね」
「適当なところで許してやれ」
「それはイヤ」
 変なところで頑固だなとムゥは笑う。
 寮への帰り道、他愛のない話。その途中でムゥは待て、とブランシュをとどめた。
「どうしたの?」
「いや……なんだか首筋がちりちりする」
 このあたり? と抱えたままでそこをくすぐる。ムゥはやめろと言うがどこか気持ちよさそうでブランシュは調子に乗った。
「うぐっ、そ、そこはだめだ……!」
「そう? よさそうじゃない?」
 もふもふなでなで。
 立ち止まってそうしていると、目の前にべしゃっと何かが落ちた。
「ってー! カミサマ乱暴すぎ!!」
 ぴょんと起き上がって身震いするそれは、蒼い鳥だった。
 綺麗な青い羽根、尾は長く邪魔だというように足でけり上げている。
「……蒼公……? は!?」
「あっ! 赤公! どんぴしゃ!」
 ムゥが零したのはためらいがちな声だ。
 その声色には何故、ここにいるといったものが含まれている。
「何故ここに」
「え? おもしろそうだったからに決まってるだろ?」
「……くそ、お前はそういうやつだったな」
 ぐるると喉奥が鳴る。
 このやりとりをみていたブランシュは、知り合いなのねとただそう思っただけだ。
「で、おま、おまえ……近くで見るとかわいい姿になって」
「お前もな」
 げらげらと転がりながら笑う蒼い鳥。器用に転がるものねとブランシュはそれを眺めていた。
 すると、その視線に気が付いてぺそんと寝転がったまま、笑いをこらえながらその鳥は自分は蒼公というのだと、ブランシュに向き直った。
「ひー、すまん。しばしまってくれすまんげふっ」
「笑いすぎだ、貴様は」
「だってさぁ! あの! 赤公が! かわいらしく! だきあげふっ」
「……ブランシュ放っておこう」
「でもお友達なんでしょう? 大事にしなきゃ」
 そう言ってブランシュはムゥを降ろす。
 寮まではすぐだ。あとは自分だけで帰れるし、お話すると良いわとブランシュとしては気を利かせたつもりだった。
 しかし、ムゥにすればそれは余計なお世話。
 別に蒼公と話すことは無いと言っても、そんなことないでしょうと言うのだ。
 これはひかないなと思ったムゥは、では少しだけと言う。
 ブランシュは仲良くねと言って寮へ。その姿が寮の中へ消えるまでムゥは見守っていた。
 そして、その姿が見えなくなると遠慮なく。
「貴様ッ! 何故! きた! 邪魔をしにきたのか!!」
 勢いよく、蒼公へととびかかった。
 鳥と、四足の獣。抑え込みやすいのはムゥの方だ。
 蒼公はやめろというがやめるわけがない。飛び立って逃げる前につかまってしまった。
「いや、俺はさ! 皆からの伝言をあずかってきて!」
「伝言?」
「そうそう。赤公がいなくなったのなんかすぐわかるから、どこいったーって探したらこの傍らの世界にその身をみっている。驚くだろう? 面白い見世物だけど」
「…………」
「いや、だからほら、その、な? 皆は面白い見世物だから頑張れってみてるからな! って感じでさぁ!」
「…………」
「あと、国のほうは任せておけー。別に何もすることないけどなーって感じ」
 じろりと睨みつけられる。蒼公はもういいだろうと言うがよくない。
 視られているのはわかった。それも複数に。
 しかし面白がられている、ということはきっと一層、何かネタにされ遊ばれていると思えるのだ。
「こちらへくるのはお前だけか?」
「いまのところ」
「……カミサマに送ってもらったのか」
「あたりまえだろ。そうしないとこれない。ちゃんとカミサマのところでいろいろ、びっちり……ウッ」
 しごかれたんだなとムゥは言う。
 蒼公の気性からして、到着、すぐにここへ! となっただろうがカミサマはそうはさせてくれなかっただろう。
 自分だってこんこんと、色々なことを言い含められたのだから。
カミサマの言うことを守り、俺の邪魔をしなければいい」
「邪魔なんてしないって。俺は俺でこっちで遊びたい」
 そうか、とムゥは零し放した。
 起き上がった蒼公は羽根が土まみれじゃないかと身震いする。
「赤公は」
「待て、赤公と呼ぶな。ここではムゥと呼ばれている」
「ああ、そういえば。ずいぶんかわいいと上で笑ったんだよなそれ」
「もう一度抑え込まれたいみたいだな」
「いやいやそんなことは! 何にせよ、あのお嬢さんとの時間を邪魔する気はないからな」
 俺は俺で、この世界で遊ぶのだと蒼公は笑う。
 けれどその前に、顔を見せておかないといけない相手がいるとも言うのだ。
 お前の気に入ったやつかとムゥが問えば、そうだと言う。
「おちょくりがいがありそうでな!」
「ああ……」
 それじゃあまたなと蒼公は飛び立つ。
 もう顔を見せるなとムゥは思いつつも、またと返した。
 そして蒼公が向かう先は、木々に覆い隠された庭園だ。
 どこにいるかくらいはすぐにわかる。その東屋でひとりのんびりしている男を見つけ、蒼公はとびかかった。
「よう! 俺のお気に入り! 元気かー!」
 羽ばたきながら、言葉を解した蒼い鳥が飛んでくる。
 なんだ、と驚いた男はとっさに手を伸ばしてその首掴んだ。
「ぐぎゃ! ちょ、ごふっ!」
 ばたばたと暴れまわる。普通の鳥ではないというのは一目瞭然だ。
 男は目の前のテーブルの上に、その鳥を置いた。
「げふっ! ひどい! つれない! 俺はわざわざ!」
「……待て、そのしゃべりには覚えがある……お前、幻獣か?」
「おうおう、わかるか! そうそう、お前のことを毎日とまではいかんが見守っていた幻獣だぞ」
 蒼公は上機嫌。
 目の前の男は、意味が分からないというように瞬く。
「いろいろはしょるが、俺はここで遊ぶ。付き合えよ」
 クロヴィス、と蒼公は相手の名を紡ぐ。
 正直、めんどうだなと思ったのをクロヴィスは心の内でとどめ置いた。
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