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 俺の中の一番古い記憶の時から、樹はずっと俺と一緒にいる。

 同じマンションの同じフロアに住んでいて、同い年。同じ幼稚園に通う幼なじみだった。
 
 物心ついた時から誰よりも大切な友達である樹は、小さな頃からすごくカッコよかった。いつも元気で運動神経が良くて、明るくて友達が多い。そしていつも俺のことを誰よりも優先して一緒にいてくれた。俺はそのことが嬉しくてたまらなかった。小さな頃から樹は俺の自慢の友達だった。

 幼稚園の3年間同じクラスで、小学校に入ってもまた同じクラスになった。俺はすごくホッとした。いつも樹と一緒にいたかったから。
 小学生になっても、樹はやっぱり俺を他の誰よりも大事にしてくれた。昼休みに外で他の友達と遊びたい時でも、まず俺の様子を伺いに来る。一緒に遊びたい気分のときは俺も外に行くことはあったけど、大抵は一人で教室に残って本を読んだ。俺は子どもの頃から読書が大好きだった。
 でも外で走り回っている樹の姿も見たくて、時々読書をやめては窓際に行ってグラウンドを見ていた。楽しそうにしている樹を離れたところから静かに見つめるのも大好きだった。笑っている樹の顔を見ていると、いつも胸がきゅうっと甘く痺れた。

 ずっと同じクラスで幸せだったのに、3年生で突然引っ越しをすることになってしまった時には心底打ちひしがれた。樹と離れるなんて、耐えられない。
 樹も同じだった。予想通り、とても悲しんでいた。昼休みに学校の教室で、離れている間も手紙をたくさん書いて連絡を取ろう、母親のスマホから写真を送り合ってもらおう、今は離れてしまっても、将来また同じ学校に通える、高校は同じところに行けるからそれまでの辛抱だと。俺を元気づけようと涙をこらえながら必死に話す樹を見ていると胸が苦しくてたまらなかったけど、その優しい心遣いを無駄にしたくなくて俺はその計画をニコニコ笑って聞いていた。

「……、……は、離れても、……俺のこと、忘れない?」

 普段は元気いっぱいの樹が不安そうに声を震わせてそんなことを聞いてくるもんだから、

「絶対忘れない!いっくんが一番大好きだもん」

と、ことさらに元気よく答えた。大丈夫だと勇気づけたかった。
 だけど俺のその言葉を聞いた途端、張り詰めていたものが切れてしまったかのように樹は突然ボロボロと涙を流し出した。その顔を見てたまらなくなった俺も、つられて泣き出す。樹は泣きながら俺の両手をギュッと強く握ってくれた。

「お、おれもっ、……だっ、……だっ……、大好きだよ、そうちゃん……っ」
「……っく、……うっ……」
「ずっとずっとっ……い、……いちばん、だよ……。絶対に絶対に、ひっ、…ひっく……。おれ、あ、会いに行ぐがらっ……、わ、忘れないで……、ぜった…」

 樹がしゃくり上げながらも懸命に伝えようとしてくれている言葉を聞いているうちに、体中に渦巻いていた想いが洪水のように溢れた。その勢いのままに俺は立ち上がり、樹の頬に唇を押し当てた。

「……忘れない。絶対。…大丈夫だよ、いっくん」

 想いが伝わるようにと願いを込めて、俺は樹を見つめてそう言った。安心して。大丈夫。俺が樹を忘れることなんて絶対にないんだ。

 俺も大好きだよ、樹。樹は俺にとってただの友達じゃない。家族とも違う。たった一人の、特別な人なんだ。

 幼い俺はその頃からもう自分の想いが何なのか、ちゃんと分かっていた。

 俺は樹に恋をしているのだと。



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