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中1の冬休み。
親の許可が降りて、俺はついに初めて一人で颯太に会いに行った。しかも、泊まりだ。颯太のおばちゃんの好意で、どうせ会いに来るなら泊まっていってもいいわよーと言ってもらったのだ。嬉しすぎる。おかんに豪華な手土産を持たされた。
バスに乗って揺られながら、胸が高鳴って仕方なかった。久々に顔を見られる。なんだか年々颯太に会いに行くたびにどんどん緊張している自分がいる。会ってしばらくすれば昔のように普通に喋れるのに、会うまではもう心臓がバックンバックンなのだ。何でだ?これ。楽しみすぎるからかな?
もうすぐ目的のバス停に着きそうだ。俺はバッグの中から手鏡を取り出して髪型と顔をチェックする。ゴミついてないかな。髪変じゃないかな。どうせ大した髪型してないんだけど、なんかそわそわして何度も見てしまう。
バス停には颯太が一人で立っていた。グレーのコートを着て深い緑色のマフラーを巻いている。バスの中からその姿を見つけた瞬間、心臓が大きく高鳴った。颯太だ。相変わらず可愛い……、いや何を考えてるんだ俺は。男に対して可愛いって。アホか。
「よー颯太!久しぶりー」
「樹!」
バスを降りた俺が胸の高鳴りを隠して何気ない風に声をかけると、颯太は満面の笑みで俺を迎えた。屈託のないその笑顔にドキッとする。
「久しぶり。元気そうでよかった」
嬉しさを隠すこともなくニコニコしている颯太が可愛すぎて、俺の方がまごまごしてしまう。
「…おー。元気元気。…すっげー寒いな今日」
「うん。うち近いからもうちょっと頑張って歩いて」
「任せろ。俺は部活で鍛えてるから平気だ」
「ふふ」
…なんか颯太の仕草や声がいちいち可愛く見えて仕方ない。胸がぎゅうっとなる。自分の動揺を悟られたくなくて、俺は颯太から目を逸らしキョロキョロと周りを見回しながら、久々に来たなーこの辺、とかブツブツ話しながら並んで歩いた。顔が赤くなってしまっている気がして、妙に恥ずかしかった。
「わー、久しぶりねぇいっくん。また大きくなってー。どうぞ、上がって」
颯太のマンションに着くとおばちゃんもニコニコと出迎えてくれた。
「こ、こんにちは。おじゃまします…」
「はーい、どうぞー」
「あの、これ、…おかんから、です」
俺はデカい手土産の箱を差し出した。
「わぁっ、すごい…、ステラのケーキだぁ。こんなにたくさん…。気を遣わせちゃったわね。ありがとういっくん。お母さんに連絡しておくわ」
おばちゃんはご機嫌で箱を受け取ってくれた。
俺たちはそのまま颯太の部屋に入り、空白の時間を埋めるかのようにたくさん喋った。主に互いの部活や学校での生活について。でも俺には颯太に絶対に話せないことがあった。
「学校どう?楽しい?」
「んー、まあまあかなぁ。部活のために行ってる感じだな」
「そうなの?ふふ。ちゃんと勉強してる?」
「まぁ一応…。…いや、あんまやってない」
「ふふ」
「颯太はどうなんだよ。相変わらず成績優秀なのか?」
「んー、多分。期末テストは学年で7位だったよ」
「げ!マジかよ!俺下から5番目だったぞ!」
「あははっ」
俺のリアクションに颯太が楽しそうに笑う。…はぁ、幸せだ。目の前に颯太がいる。この時間が俺にとっては夢のようだった。今日は約1年間あの環境に耐えた俺へのご褒美タイムなんだ。
彩音先輩との過ちのことは絶対に言えなかった。
いや、本当は笑い話として話してもいいような気がしていた。他のダチとの会話のときみたいに。「やー、実はさー、俺はずみで3年の先輩とヤっちゃってさぁ。相手の女にそのこと学校中にバラされたり、僻んだ男たちにボコられたりもう散々だったんだよ」とか。この話は仲間内ではいまだにめちゃくちゃ盛り上がる。どうせ派手にバラされてるんだし、俺にとってはもはや自虐ネタだ。でも、なんか颯太には言えなかった。万が一ドン引きされたらどうしよう、とか、嫌われたらもうお終いだ、とか、すごく不安だった。悪い方向に行ってしまったらと思うと、…話すわけにはいかなかった。他のヤツらにはどう思われても別にいい。だけど颯太に軽蔑されるのだけは耐えられない。
夕方まで颯太の部屋でたくさん喋って、おばちゃんが作ってくれた晩ごはんをご馳走になった。カツカレーといろんな野菜がいっぱい入った豪華なサラダ。うちのおかんよりも盛り付けがすげぇ綺麗だ。遠慮もなくもりもり食べながら、颯太と話したような学校のことをおばちゃんにたくさん話した。颯太は俺よりだいぶ少食だった。「いい食べっぷりねぇ。見ていて気持ちがいいわ。颯太もこれぐらい食べてくれたらいいのに」とおばちゃんにニコニコされた。
「いっくん、颯太、先にお風呂入っちゃってね」
夕食の後、二人でテレビのバラエティ番組を見ながらケラケラ笑っていたらおばちゃんに声をかけられた。
「はーい」
颯太が返事をして俺に向き直る。
「いっくん先に入っていいよ」
「えっ」
「それか一緒に入る?」
「……。…………っ?!」
「そうね、二人で入っちゃったら?」
「?!……っ、……っ?!」
颯太がさらりととんでもないことを言うもんだから返事もできずに動揺していたら、食器を洗っていたおばちゃんまでそんなことを言い出した。
……え?
……そ、颯太と一緒に、風呂……?
親の許可が降りて、俺はついに初めて一人で颯太に会いに行った。しかも、泊まりだ。颯太のおばちゃんの好意で、どうせ会いに来るなら泊まっていってもいいわよーと言ってもらったのだ。嬉しすぎる。おかんに豪華な手土産を持たされた。
バスに乗って揺られながら、胸が高鳴って仕方なかった。久々に顔を見られる。なんだか年々颯太に会いに行くたびにどんどん緊張している自分がいる。会ってしばらくすれば昔のように普通に喋れるのに、会うまではもう心臓がバックンバックンなのだ。何でだ?これ。楽しみすぎるからかな?
もうすぐ目的のバス停に着きそうだ。俺はバッグの中から手鏡を取り出して髪型と顔をチェックする。ゴミついてないかな。髪変じゃないかな。どうせ大した髪型してないんだけど、なんかそわそわして何度も見てしまう。
バス停には颯太が一人で立っていた。グレーのコートを着て深い緑色のマフラーを巻いている。バスの中からその姿を見つけた瞬間、心臓が大きく高鳴った。颯太だ。相変わらず可愛い……、いや何を考えてるんだ俺は。男に対して可愛いって。アホか。
「よー颯太!久しぶりー」
「樹!」
バスを降りた俺が胸の高鳴りを隠して何気ない風に声をかけると、颯太は満面の笑みで俺を迎えた。屈託のないその笑顔にドキッとする。
「久しぶり。元気そうでよかった」
嬉しさを隠すこともなくニコニコしている颯太が可愛すぎて、俺の方がまごまごしてしまう。
「…おー。元気元気。…すっげー寒いな今日」
「うん。うち近いからもうちょっと頑張って歩いて」
「任せろ。俺は部活で鍛えてるから平気だ」
「ふふ」
…なんか颯太の仕草や声がいちいち可愛く見えて仕方ない。胸がぎゅうっとなる。自分の動揺を悟られたくなくて、俺は颯太から目を逸らしキョロキョロと周りを見回しながら、久々に来たなーこの辺、とかブツブツ話しながら並んで歩いた。顔が赤くなってしまっている気がして、妙に恥ずかしかった。
「わー、久しぶりねぇいっくん。また大きくなってー。どうぞ、上がって」
颯太のマンションに着くとおばちゃんもニコニコと出迎えてくれた。
「こ、こんにちは。おじゃまします…」
「はーい、どうぞー」
「あの、これ、…おかんから、です」
俺はデカい手土産の箱を差し出した。
「わぁっ、すごい…、ステラのケーキだぁ。こんなにたくさん…。気を遣わせちゃったわね。ありがとういっくん。お母さんに連絡しておくわ」
おばちゃんはご機嫌で箱を受け取ってくれた。
俺たちはそのまま颯太の部屋に入り、空白の時間を埋めるかのようにたくさん喋った。主に互いの部活や学校での生活について。でも俺には颯太に絶対に話せないことがあった。
「学校どう?楽しい?」
「んー、まあまあかなぁ。部活のために行ってる感じだな」
「そうなの?ふふ。ちゃんと勉強してる?」
「まぁ一応…。…いや、あんまやってない」
「ふふ」
「颯太はどうなんだよ。相変わらず成績優秀なのか?」
「んー、多分。期末テストは学年で7位だったよ」
「げ!マジかよ!俺下から5番目だったぞ!」
「あははっ」
俺のリアクションに颯太が楽しそうに笑う。…はぁ、幸せだ。目の前に颯太がいる。この時間が俺にとっては夢のようだった。今日は約1年間あの環境に耐えた俺へのご褒美タイムなんだ。
彩音先輩との過ちのことは絶対に言えなかった。
いや、本当は笑い話として話してもいいような気がしていた。他のダチとの会話のときみたいに。「やー、実はさー、俺はずみで3年の先輩とヤっちゃってさぁ。相手の女にそのこと学校中にバラされたり、僻んだ男たちにボコられたりもう散々だったんだよ」とか。この話は仲間内ではいまだにめちゃくちゃ盛り上がる。どうせ派手にバラされてるんだし、俺にとってはもはや自虐ネタだ。でも、なんか颯太には言えなかった。万が一ドン引きされたらどうしよう、とか、嫌われたらもうお終いだ、とか、すごく不安だった。悪い方向に行ってしまったらと思うと、…話すわけにはいかなかった。他のヤツらにはどう思われても別にいい。だけど颯太に軽蔑されるのだけは耐えられない。
夕方まで颯太の部屋でたくさん喋って、おばちゃんが作ってくれた晩ごはんをご馳走になった。カツカレーといろんな野菜がいっぱい入った豪華なサラダ。うちのおかんよりも盛り付けがすげぇ綺麗だ。遠慮もなくもりもり食べながら、颯太と話したような学校のことをおばちゃんにたくさん話した。颯太は俺よりだいぶ少食だった。「いい食べっぷりねぇ。見ていて気持ちがいいわ。颯太もこれぐらい食べてくれたらいいのに」とおばちゃんにニコニコされた。
「いっくん、颯太、先にお風呂入っちゃってね」
夕食の後、二人でテレビのバラエティ番組を見ながらケラケラ笑っていたらおばちゃんに声をかけられた。
「はーい」
颯太が返事をして俺に向き直る。
「いっくん先に入っていいよ」
「えっ」
「それか一緒に入る?」
「……。…………っ?!」
「そうね、二人で入っちゃったら?」
「?!……っ、……っ?!」
颯太がさらりととんでもないことを言うもんだから返事もできずに動揺していたら、食器を洗っていたおばちゃんまでそんなことを言い出した。
……え?
……そ、颯太と一緒に、風呂……?
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