上 下
15 / 46

15.

しおりを挟む
 ピクッ

 美晴の体が一瞬強張る。
 俺は美晴を抱きしめたまま、優しく頭を撫で続けた。

「よーしよし……。落ち着け」
「…………っ。……ひくっ」
「馬鹿な男だなぁマジで。こんな健気で可愛いヤツを振るなんて。見る目ねぇよなぁ。頭おかしいんだよ、アイツ」
「………………っく……」
「なんかおかしいだろ、いろいろと。何で初対面の俺がガルガルしてんのに飯とか誘ってくるんだよ。何だよ、よし!3人で飯行こうぜぇ!みたいなあのノリ。アホか」
「……。………………ふ…っ」
「何だよ、身長188って。ふざけやがって、アイツ」
「…………ふふふ……。……だ、大輝さん、188なんですか……?」
「おお。そう言ってたよ。ちゃっかり聞いたからな、俺」
「ふふふふ……」

 腕の中の美晴が笑っている。俺は少しホッとした。美晴が笑ってくれるなら何でもいい。

「……大丈夫だ、美晴。そういう辛さはそのうち絶対に解決するんだよ。時間さえ経てばな。どんな辛いことも、時間が経ったら必ず薄れていくから。辛いのは、今だけだ。……もうすぐ終わる」
「………………うん」
「そしたらまた、新しい恋愛したらいいんだよ。絶対にアイツよりもいい男がいくらでもいるぞ、お前なら」
「………………っ、」
「お前は可愛くて素直でいいヤツで、汚れてなくて、家事までできて。特に料理の腕前はすげぇよ。誰が放っとくよ、こんな可愛いヤツを」
「………………ふ……っ、……っく、……」

 美晴のか細い肩がまたふるふると揺れ始める。俺はその肩を強く抱きしめた。早くこの傷が薄れて、こいつが楽になれるようにと願いを込めて。俺のこの愛情がこいつに染みこんでいって、それで傷口が塞がって楽になれたらいいのにな。

「……なぁ。こんな風に会ったら思い出しちまうよなぁ、その時の気持ちを。……大丈夫だよ、美晴。……大丈夫だからな」
「……ひっ、……ひっく……ふ、……うぅぅっ……」
「気晴らしにいっぱい出かけようぜ。塞ぎ込む暇がないくらいにな」
「うっ、……ふぅぅぅ……っ、ひっく、…………ふ、…」
「そうだ、お前が好きそうなあの大人気の夢の国にでも行くか!ねずみの耳つけたりド派手な入れ物に入ったポップコーン食ったりアトラクションに乗って叫んだりしてるうちに……なんか気が紛れるだろ」
「…………ふふ」
「あと、海外旅行も俺が連れて行く。絶対」
「…………。」
「……あ、アイツと行ったことがないところな」
「…………。」
「……。……あ、ち、違うぞ!違う違うっ!!そういう意味じゃねーよ!!部屋は別だよ!部屋は!!馬鹿野郎!」
「……ふふ……僕何も言ってないじゃないですか…………ふふふ…」

 美晴の髪を撫でながら、泣いたり笑ったりする美晴を見守っているうちに、やがて夜が更けていった。泣き疲れた美晴をシートを倒した助手席で眠らせ、俺は朝が来るまでその静かで綺麗な寝顔をずっと眺めていた。

 俺がこいつを守ってやりたい。ずっと。これから先、こんなに深く傷付くことがもう二度とないように。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

彼女のお見合い相手に口説かれてます

すいかちゃん
BL
カラオケ店でアルバイトしている澤木陸哉は、交際している彼女から見合いをすると告げられる。おまけに、相手の条件によっては別れるとも・・・。見合い相手は、IT関連の社長をしている久住隆一。 だが、なぜか隆一に口説かれる事になる。 第二話「お見合いの条件」 麻里花の見合い相手と遭遇した陸哉。だが、彼には見合いをする気はないらしい。おまけに、麻里花に彼氏がいるのを怒っているようだ。もし、見合いが断られたら・・・。 第三話「交換条件」 隆一と食事をする事になった陸哉。話しているうちに隆一に対して好感を抱く。 見合いを壊すため、隆一が交換条件を提案する。 第四話「本気で、口説かれてる?」 ホテルの部屋で隆一に迫られる陸哉。お見合いを壊すための条件は、身体を触らせる事。 最後まではしないと言われたものの・・・。 第五話「心が選んだのは」 お見合い当日。陸哉は、いてもたってもいられず見合い会場へと向かう。そして、自分の手で見合いを壊す。隆一にも、2度と会わないつもりでいたが・・・。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...