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「…………中東で?石油会社を?…経営してる、だと?」
「ああ!世界中を旅している途中で掘り当てたことがあってな。何だかいろいろあって結局俺が向こうで会社をやることになったんだ」
「…………へーぇ」
(……マジでムカつくなこいつ!)
あの街中で出会った次の週末。早速俺たちは3人で会っていた。一人を除いて全く盛り上がらない食事会をした後、バーに移動してカウンターに3人並んで座っている。間に挟まれた美晴はずっと死にそうな顔で俯いている。本当にごめんな美晴。ある程度この男についてリサーチしたらすぐに解放してやるからな。美晴はほとんど口を開かない。
一ノ瀬大輝は31歳。俺より3つ年上だということが分かった。ということは美晴より9こも上だ。
「……で?お前らはどこで知り合ったんだよ」
美晴は答えようともしない。どんよりとした空気を纏って座っている。
「俺の経験について大学で講義をしたことがあるんだよ、美晴の通ってたところで。その時に知り合ったんだよな?講義の後、美晴が声をかけてきてくれて」
「……っ、」
暗い店内でも美晴の頬が真っ赤に染まったのが分かる。……マジで面白くねぇ。
「へー、なるほどな。積極的じゃねぇか、美晴」
「……ちが…………その時は、ただ単に、講義の内容の、ことで……」
(…………“その時は”)
醜い嫉妬心がドロドロと体を侵食する。この美晴に惚れられた男が、目の前にいるなんて。
「で?それから?」
さっさと馴れ初めと別れの理由を全部話して消えやがれ。
「それからはまぁ、仲良くなっていろんなところに出かけたよな。俺はヨーロッパに旅行に行った時のことがやっぱり一番心に残ってるなぁ」
「……………………。」
…………マジか……。俺はこいつが何気なく放ったその言葉にとてつもない打撃を受けた。一気にズン…と体が重くなる。
か、海外旅行、だと…………?こ、この、……この清らかな、ピュアな美晴を連れて…………?なんか俺は勝手に、美晴は童貞かつ処女ぐらいに思い込んでたのに……一緒に海外に行くぐらいの仲だったのかよ……。この野郎…………!!
大輝の言葉に美晴の瞳がハッと揺れる。思い出したのだろうか、楽しかった思い出を。今にも泣きそうに唇を噛みしめて、美晴は立ち上がった。
「……おい」
「……ち、ちょっと僕、トイレに……」
少しフラつきながら歩き出す美晴が心配で背中を見つめる。一滴も飲んでないのに、あんなによろめいて。無事トイレに辿り着いたのを見届けると、俺はようやく本気を出した。
「……で?何なんだよ、てめえは。結局あいつの元彼なんだろ?何で今さら声かけて飯行こうとか誘ってんだよ。明らかにあいつ困ってんじゃねーか。別れたんならもう近づくんじゃねーよ!」
思わず声がデカくなる。隣の客たちがチラチラとこちらを見ているが、構っていられない。ちょっかい出されたら困るんだよ。
美晴はあんなに動揺してる。まだこいつに気持ちが残っているからだろう。
大輝はキョトンとした顔で俺を見た後、困ったように笑う。
「…そうかぁ。やっぱり嫌なのかなぁもう俺のことは。……たしかに、誠意のない別れ方をしたとは思っているよ」
「……てめえから捨てたのかよ。ならなおさら近づくな。あわよくばもう一度遊んでやろうとか思ってんなら、殺すぞ」
敵意むき出しの俺とは違って、相手はあくまでも穏やかだ。この余裕がますます腹立つ。
「はは。そんなこと全く思ってないよ。美晴を粗末に扱うつもりなんてない。ましてや今恋人がいるならなおさらだ。邪魔するつもりはないから、安心してくれ!」
「…………。ならもう食事とか誘うな。連絡もするな」
対して全く余裕のない俺。
「ああ。美晴が嫌がるなら止めておくよ。悪かったな、響。心配しないでくれ」
「いや俺までもう呼び捨てにしてんじゃねーよ!!なんなんだよてめぇ!!」
思わず突っ込んでしまう。なんかペースを乱してくるなこいつは。
「ははは。俺のことは気楽に大輝と呼んでくれ!」
「呼ばねーよ!!」
あーーーイライラする。くそ。つまり美晴の方からこいつのことを好きになって距離が縮まり、そのうち海外旅行にまで行くようになり、そしてこいつは美晴を捨てたのか。
「……どのくらいの期間付き合ってたんだよ」
ムカつくが聞けることは全部聞いておかねぇと。
「そんなに長くはないよ。半年ぐらいかな」
「……半年。半年でもう海外旅行にまで連れて行くのか。そりゃセレブなことで」
「まぁな!金には困ってない。ははは!」
(く…………っ!!)
視界の端に美晴が見えた。トイレからヨロヨロと出てきて絶望的な表情でこっちに向かって歩いてくる。……もう一つだけ、聞いておきたい。
「……てめえ、身長何センチだ?」
「俺か?188だ!」
(マジで死ねよこいつ!!)
「ああ!世界中を旅している途中で掘り当てたことがあってな。何だかいろいろあって結局俺が向こうで会社をやることになったんだ」
「…………へーぇ」
(……マジでムカつくなこいつ!)
あの街中で出会った次の週末。早速俺たちは3人で会っていた。一人を除いて全く盛り上がらない食事会をした後、バーに移動してカウンターに3人並んで座っている。間に挟まれた美晴はずっと死にそうな顔で俯いている。本当にごめんな美晴。ある程度この男についてリサーチしたらすぐに解放してやるからな。美晴はほとんど口を開かない。
一ノ瀬大輝は31歳。俺より3つ年上だということが分かった。ということは美晴より9こも上だ。
「……で?お前らはどこで知り合ったんだよ」
美晴は答えようともしない。どんよりとした空気を纏って座っている。
「俺の経験について大学で講義をしたことがあるんだよ、美晴の通ってたところで。その時に知り合ったんだよな?講義の後、美晴が声をかけてきてくれて」
「……っ、」
暗い店内でも美晴の頬が真っ赤に染まったのが分かる。……マジで面白くねぇ。
「へー、なるほどな。積極的じゃねぇか、美晴」
「……ちが…………その時は、ただ単に、講義の内容の、ことで……」
(…………“その時は”)
醜い嫉妬心がドロドロと体を侵食する。この美晴に惚れられた男が、目の前にいるなんて。
「で?それから?」
さっさと馴れ初めと別れの理由を全部話して消えやがれ。
「それからはまぁ、仲良くなっていろんなところに出かけたよな。俺はヨーロッパに旅行に行った時のことがやっぱり一番心に残ってるなぁ」
「……………………。」
…………マジか……。俺はこいつが何気なく放ったその言葉にとてつもない打撃を受けた。一気にズン…と体が重くなる。
か、海外旅行、だと…………?こ、この、……この清らかな、ピュアな美晴を連れて…………?なんか俺は勝手に、美晴は童貞かつ処女ぐらいに思い込んでたのに……一緒に海外に行くぐらいの仲だったのかよ……。この野郎…………!!
大輝の言葉に美晴の瞳がハッと揺れる。思い出したのだろうか、楽しかった思い出を。今にも泣きそうに唇を噛みしめて、美晴は立ち上がった。
「……おい」
「……ち、ちょっと僕、トイレに……」
少しフラつきながら歩き出す美晴が心配で背中を見つめる。一滴も飲んでないのに、あんなによろめいて。無事トイレに辿り着いたのを見届けると、俺はようやく本気を出した。
「……で?何なんだよ、てめえは。結局あいつの元彼なんだろ?何で今さら声かけて飯行こうとか誘ってんだよ。明らかにあいつ困ってんじゃねーか。別れたんならもう近づくんじゃねーよ!」
思わず声がデカくなる。隣の客たちがチラチラとこちらを見ているが、構っていられない。ちょっかい出されたら困るんだよ。
美晴はあんなに動揺してる。まだこいつに気持ちが残っているからだろう。
大輝はキョトンとした顔で俺を見た後、困ったように笑う。
「…そうかぁ。やっぱり嫌なのかなぁもう俺のことは。……たしかに、誠意のない別れ方をしたとは思っているよ」
「……てめえから捨てたのかよ。ならなおさら近づくな。あわよくばもう一度遊んでやろうとか思ってんなら、殺すぞ」
敵意むき出しの俺とは違って、相手はあくまでも穏やかだ。この余裕がますます腹立つ。
「はは。そんなこと全く思ってないよ。美晴を粗末に扱うつもりなんてない。ましてや今恋人がいるならなおさらだ。邪魔するつもりはないから、安心してくれ!」
「…………。ならもう食事とか誘うな。連絡もするな」
対して全く余裕のない俺。
「ああ。美晴が嫌がるなら止めておくよ。悪かったな、響。心配しないでくれ」
「いや俺までもう呼び捨てにしてんじゃねーよ!!なんなんだよてめぇ!!」
思わず突っ込んでしまう。なんかペースを乱してくるなこいつは。
「ははは。俺のことは気楽に大輝と呼んでくれ!」
「呼ばねーよ!!」
あーーーイライラする。くそ。つまり美晴の方からこいつのことを好きになって距離が縮まり、そのうち海外旅行にまで行くようになり、そしてこいつは美晴を捨てたのか。
「……どのくらいの期間付き合ってたんだよ」
ムカつくが聞けることは全部聞いておかねぇと。
「そんなに長くはないよ。半年ぐらいかな」
「……半年。半年でもう海外旅行にまで連れて行くのか。そりゃセレブなことで」
「まぁな!金には困ってない。ははは!」
(く…………っ!!)
視界の端に美晴が見えた。トイレからヨロヨロと出てきて絶望的な表情でこっちに向かって歩いてくる。……もう一つだけ、聞いておきたい。
「……てめえ、身長何センチだ?」
「俺か?188だ!」
(マジで死ねよこいつ!!)
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