百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

文字の大きさ
上 下
13 / 46

13.

しおりを挟む
「…………中東で?石油会社を?…経営してる、だと?」
「ああ!世界中を旅している途中で掘り当てたことがあってな。何だかいろいろあって結局俺が向こうで会社をやることになったんだ」
「…………へーぇ」

(……マジでムカつくなこいつ!)

 あの街中で出会った次の週末。早速俺たちは3人で会っていた。一人を除いて全く盛り上がらない食事会をした後、バーに移動してカウンターに3人並んで座っている。間に挟まれた美晴はずっと死にそうな顔で俯いている。本当にごめんな美晴。ある程度この男についてリサーチしたらすぐに解放してやるからな。美晴はほとんど口を開かない。
 一ノ瀬大輝は31歳。俺より3つ年上だということが分かった。ということは美晴より9こも上だ。

「……で?お前らはどこで知り合ったんだよ」

 美晴は答えようともしない。どんよりとした空気を纏って座っている。

「俺の経験について大学で講義をしたことがあるんだよ、美晴の通ってたところで。その時に知り合ったんだよな?講義の後、美晴が声をかけてきてくれて」
「……っ、」

 暗い店内でも美晴の頬が真っ赤に染まったのが分かる。……マジで面白くねぇ。

「へー、なるほどな。積極的じゃねぇか、美晴」
「……ちが…………その時は、ただ単に、講義の内容の、ことで……」

(…………“その時は”)

 醜い嫉妬心がドロドロと体を侵食する。この美晴に惚れられた男が、目の前にいるなんて。

「で?それから?」

 さっさと馴れ初めと別れの理由を全部話して消えやがれ。

「それからはまぁ、仲良くなっていろんなところに出かけたよな。俺はヨーロッパに旅行に行った時のことがやっぱり一番心に残ってるなぁ」
「……………………。」

 …………マジか……。俺はこいつが何気なく放ったその言葉にとてつもない打撃を受けた。一気にズン…と体が重くなる。
 か、海外旅行、だと…………?こ、この、……この清らかな、ピュアな美晴を連れて…………?なんか俺は勝手に、美晴は童貞かつ処女ぐらいに思い込んでたのに……一緒に海外に行くぐらいの仲だったのかよ……。この野郎…………!!

 大輝の言葉に美晴の瞳がハッと揺れる。思い出したのだろうか、楽しかった思い出を。今にも泣きそうに唇を噛みしめて、美晴は立ち上がった。

「……おい」
「……ち、ちょっと僕、トイレに……」

 少しフラつきながら歩き出す美晴が心配で背中を見つめる。一滴も飲んでないのに、あんなによろめいて。無事トイレに辿り着いたのを見届けると、俺はようやく本気を出した。

「……で?何なんだよ、てめえは。結局あいつの元彼なんだろ?何で今さら声かけて飯行こうとか誘ってんだよ。明らかにあいつ困ってんじゃねーか。別れたんならもう近づくんじゃねーよ!」

 思わず声がデカくなる。隣の客たちがチラチラとこちらを見ているが、構っていられない。ちょっかい出されたら困るんだよ。
 美晴はあんなに動揺してる。まだこいつに気持ちが残っているからだろう。
 大輝はキョトンとした顔で俺を見た後、困ったように笑う。

「…そうかぁ。やっぱり嫌なのかなぁもう俺のことは。……たしかに、誠意のない別れ方をしたとは思っているよ」
「……てめえから捨てたのかよ。ならなおさら近づくな。あわよくばもう一度遊んでやろうとか思ってんなら、殺すぞ」

 敵意むき出しの俺とは違って、相手はあくまでも穏やかだ。この余裕がますます腹立つ。

「はは。そんなこと全く思ってないよ。美晴を粗末に扱うつもりなんてない。ましてや今恋人がいるならなおさらだ。邪魔するつもりはないから、安心してくれ!」
「…………。ならもう食事とか誘うな。連絡もするな」

 対して全く余裕のない俺。

「ああ。美晴が嫌がるなら止めておくよ。悪かったな、響。心配しないでくれ」
「いや俺までもう呼び捨てにしてんじゃねーよ!!なんなんだよてめぇ!!」

 思わず突っ込んでしまう。なんかペースを乱してくるなこいつは。

「ははは。俺のことは気楽に大輝と呼んでくれ!」
「呼ばねーよ!!」

 あーーーイライラする。くそ。つまり美晴の方からこいつのことを好きになって距離が縮まり、そのうち海外旅行にまで行くようになり、そしてこいつは美晴を捨てたのか。

「……どのくらいの期間付き合ってたんだよ」

 ムカつくが聞けることは全部聞いておかねぇと。

「そんなに長くはないよ。半年ぐらいかな」
「……半年。半年でもう海外旅行にまで連れて行くのか。そりゃセレブなことで」
「まぁな!金には困ってない。ははは!」

(く…………っ!!)

 視界の端に美晴が見えた。トイレからヨロヨロと出てきて絶望的な表情でこっちに向かって歩いてくる。……もう一つだけ、聞いておきたい。

「……てめえ、身長何センチだ?」
「俺か?188だ!」

(マジで死ねよこいつ!!)



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

処理中です...