3 / 46
3.
しおりを挟む
「はぁーーーーーーっ……」
ドサッ。
アパートに帰り着いた瞬間、僕は小さなシングルベッドの上に体を放り投げた。
「つっ……疲れたぁ……」
今夜ばかりは本当に本当に疲れた。もうグッタリだ。いつものように空気になって皆にドリンクや料理だけ配っていようと思っていたのに……、よりにもよって、あの人の席で捕まってしまうなんて。
相良響さん。うちのような中小企業の取引先の中では最大手の超ビップなお客様な上に、その中でもトップのすごいエリート営業マンの方だ。いつも女子社員さんたちが素敵すぎるカッコよすぎるって騒いでいて、お名前を聞かない日はないくらい。今夜の食事会が決まった時もそれはもう、皆すごい勢いではしゃいでいた。どうしよう、何着ていく?服買わなきゃ!あー喋れるかなー、隣座りたーい、などなど。
まさか、その人の席に行った途端にあんなに話しかけられるなんて思ってもみなくて。
あんなすごいイケメンを間近で見たのは初めてで、もう緊張して緊張して……。背が高くて、ものすごく整った顔立ちで、少し上がった目尻は思わずドキドキしてしまうくらいに色っぽかった。ついに連絡先まで交換してしまって、ようやくお席を離れた時にはもう背中が汗でびっしょりだった。
「はぁ……疲れた……。カッコよかったけど……」
もうこんな緊張は一晩だけで充分なんだけど、なぜだか流れで連絡先を交換してしまった…。どうか社交辞令でありますように…。本当に連絡が来たら緊張で吐いてしまうかもしれない。
僕は気力を振り絞ってヨロヨロと起き上がった。あんなに汗かいたのに、お風呂も入らずに眠るなんてできない。せめてシャワーだけでも浴びよう…。本当はお湯を溜めるのが好きなんだけど、今夜はそんなことよりも早くベッドに入って眠りたかった。
「ふぅ…」
シャワーを浴びてようやく気持ちが落ち着いた僕は、バスタオルでぽふぽふと髪を拭きながら部屋に戻ってきた。
「ん?」
スマホが点滅しているのに気が付き、手に取る。誰かから何か連絡が来ているのかもしれない。それかダイレクトメールかな。
「……。……ひ?!」
思わず変な声が出る。あ、あ、あの人だ。相良さんだ。社交辞令だと思ったのに、もうラインが来てしまった…。緊張で心臓がバクバクし始めた。どっ、どうしよう…。見てしまったらすぐに返信しないといけない。あんな人から来たラインに既読をつけてそのまましばらく放置するなんて、なんか、ものすごく、お、恐れ多いっていうか……。な、なんて書いてあるんだろう……。
「あ……あぁっ!!」
思わず悲痛な叫びを上げてしまった。指が震えてラインを開いちゃった。あぁっ……何をやってるんだ僕は……!
『今日はお疲れ。明日か明後日、暇だったら出てこれる?』
「…………え……う、うそ……」
どうしよう。本当に誘われてしまった。咄嗟に、嫌だ、と思ってしまう。失礼ながら…。だってなんか、あの人といるとものすごく緊張してしまって……。超大手の取引先の、その中でもすごいエリートのイケメンさんだよ?無理だよ、プライベートで二人で会うなんて。思わず断り文句を考える。明日は……、い、忙しい、とか?いや、週末はのんびり過ごしてる話をさっきしてしまったばっかりだ。どっ、どうしよう。なんか、体調が悪くなったことに、する……?いや、ダメだよね。わざとらしすぎる。さっきまで元気だったのに。
うーん。うーーーん……!
ダメだ。焦りすぎて何も思いつかない。もういっそ、はい行きますって返事する?でも、でもなぁ……!
……あぁぁぁダメだ!時間がかかりすぎてる!もう向こうは既読になってることに気付いているかもしれない。返事を待ってるかも。やけに遅いな……とか思ってふ、不愉快に思われていたら……!僕の分際で、あんなハイクラスな方を待たせるなんて……!
『はい!大丈夫です。ありがとうございます』
(あぁぁぁ……!送ってしまったぁぁぁ……!)
シャワーを浴びたばかりだというのにまた変な汗がドッと出た。
どうしよう。どうしよう。わざわざあんなハイクラスイケメンと、ふ、二人で、休日に出かけることになってしまった……!年上の……取引先の……。本当に緊張で吐き気がしてきた。な、何するんだろう。本当に映画に行くのかな。あ!そうだ!近所に何があるのかとか案内してほしいって言われてたんだっけ!僕もそんなに詳しくないんだ、あまり出歩かないから……。し、調べておかなきゃ。どうか、お願いします神様。ランチぐらいで終わってすぐに解散になりますように……!何かやらかして相良さんを怒らせたりしませんように……!
何せ気が弱くて内気な僕だ。あまりにもハードルが高い。あんな人と、二人で…。なんでわざわざ僕なんだろう。あの人なら僕なんかじゃなくて、もっと、ほら、素敵な女性とかがいくらでも一緒に出かけてくれるはずなのに……。
僕は心底緊張しきっていて、正直この週末が憂鬱で仕方がなかった。
ドサッ。
アパートに帰り着いた瞬間、僕は小さなシングルベッドの上に体を放り投げた。
「つっ……疲れたぁ……」
今夜ばかりは本当に本当に疲れた。もうグッタリだ。いつものように空気になって皆にドリンクや料理だけ配っていようと思っていたのに……、よりにもよって、あの人の席で捕まってしまうなんて。
相良響さん。うちのような中小企業の取引先の中では最大手の超ビップなお客様な上に、その中でもトップのすごいエリート営業マンの方だ。いつも女子社員さんたちが素敵すぎるカッコよすぎるって騒いでいて、お名前を聞かない日はないくらい。今夜の食事会が決まった時もそれはもう、皆すごい勢いではしゃいでいた。どうしよう、何着ていく?服買わなきゃ!あー喋れるかなー、隣座りたーい、などなど。
まさか、その人の席に行った途端にあんなに話しかけられるなんて思ってもみなくて。
あんなすごいイケメンを間近で見たのは初めてで、もう緊張して緊張して……。背が高くて、ものすごく整った顔立ちで、少し上がった目尻は思わずドキドキしてしまうくらいに色っぽかった。ついに連絡先まで交換してしまって、ようやくお席を離れた時にはもう背中が汗でびっしょりだった。
「はぁ……疲れた……。カッコよかったけど……」
もうこんな緊張は一晩だけで充分なんだけど、なぜだか流れで連絡先を交換してしまった…。どうか社交辞令でありますように…。本当に連絡が来たら緊張で吐いてしまうかもしれない。
僕は気力を振り絞ってヨロヨロと起き上がった。あんなに汗かいたのに、お風呂も入らずに眠るなんてできない。せめてシャワーだけでも浴びよう…。本当はお湯を溜めるのが好きなんだけど、今夜はそんなことよりも早くベッドに入って眠りたかった。
「ふぅ…」
シャワーを浴びてようやく気持ちが落ち着いた僕は、バスタオルでぽふぽふと髪を拭きながら部屋に戻ってきた。
「ん?」
スマホが点滅しているのに気が付き、手に取る。誰かから何か連絡が来ているのかもしれない。それかダイレクトメールかな。
「……。……ひ?!」
思わず変な声が出る。あ、あ、あの人だ。相良さんだ。社交辞令だと思ったのに、もうラインが来てしまった…。緊張で心臓がバクバクし始めた。どっ、どうしよう…。見てしまったらすぐに返信しないといけない。あんな人から来たラインに既読をつけてそのまましばらく放置するなんて、なんか、ものすごく、お、恐れ多いっていうか……。な、なんて書いてあるんだろう……。
「あ……あぁっ!!」
思わず悲痛な叫びを上げてしまった。指が震えてラインを開いちゃった。あぁっ……何をやってるんだ僕は……!
『今日はお疲れ。明日か明後日、暇だったら出てこれる?』
「…………え……う、うそ……」
どうしよう。本当に誘われてしまった。咄嗟に、嫌だ、と思ってしまう。失礼ながら…。だってなんか、あの人といるとものすごく緊張してしまって……。超大手の取引先の、その中でもすごいエリートのイケメンさんだよ?無理だよ、プライベートで二人で会うなんて。思わず断り文句を考える。明日は……、い、忙しい、とか?いや、週末はのんびり過ごしてる話をさっきしてしまったばっかりだ。どっ、どうしよう。なんか、体調が悪くなったことに、する……?いや、ダメだよね。わざとらしすぎる。さっきまで元気だったのに。
うーん。うーーーん……!
ダメだ。焦りすぎて何も思いつかない。もういっそ、はい行きますって返事する?でも、でもなぁ……!
……あぁぁぁダメだ!時間がかかりすぎてる!もう向こうは既読になってることに気付いているかもしれない。返事を待ってるかも。やけに遅いな……とか思ってふ、不愉快に思われていたら……!僕の分際で、あんなハイクラスな方を待たせるなんて……!
『はい!大丈夫です。ありがとうございます』
(あぁぁぁ……!送ってしまったぁぁぁ……!)
シャワーを浴びたばかりだというのにまた変な汗がドッと出た。
どうしよう。どうしよう。わざわざあんなハイクラスイケメンと、ふ、二人で、休日に出かけることになってしまった……!年上の……取引先の……。本当に緊張で吐き気がしてきた。な、何するんだろう。本当に映画に行くのかな。あ!そうだ!近所に何があるのかとか案内してほしいって言われてたんだっけ!僕もそんなに詳しくないんだ、あまり出歩かないから……。し、調べておかなきゃ。どうか、お願いします神様。ランチぐらいで終わってすぐに解散になりますように……!何かやらかして相良さんを怒らせたりしませんように……!
何せ気が弱くて内気な僕だ。あまりにもハードルが高い。あんな人と、二人で…。なんでわざわざ僕なんだろう。あの人なら僕なんかじゃなくて、もっと、ほら、素敵な女性とかがいくらでも一緒に出かけてくれるはずなのに……。
僕は心底緊張しきっていて、正直この週末が憂鬱で仕方がなかった。
21
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
彼女のお見合い相手に口説かれてます
すいかちゃん
BL
カラオケ店でアルバイトしている澤木陸哉は、交際している彼女から見合いをすると告げられる。おまけに、相手の条件によっては別れるとも・・・。見合い相手は、IT関連の社長をしている久住隆一。
だが、なぜか隆一に口説かれる事になる。
第二話「お見合いの条件」
麻里花の見合い相手と遭遇した陸哉。だが、彼には見合いをする気はないらしい。おまけに、麻里花に彼氏がいるのを怒っているようだ。もし、見合いが断られたら・・・。
第三話「交換条件」
隆一と食事をする事になった陸哉。話しているうちに隆一に対して好感を抱く。
見合いを壊すため、隆一が交換条件を提案する。
第四話「本気で、口説かれてる?」
ホテルの部屋で隆一に迫られる陸哉。お見合いを壊すための条件は、身体を触らせる事。
最後まではしないと言われたものの・・・。
第五話「心が選んだのは」
お見合い当日。陸哉は、いてもたってもいられず見合い会場へと向かう。そして、自分の手で見合いを壊す。隆一にも、2度と会わないつもりでいたが・・・。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる