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 悠里をアパートに帰した後すぐに帰宅した冬真は、机に向かい、パソコンと書類の束を前にした。

「…………。」

 だが仕事の続きを始めるでもなく、足を組み、悠里のことを考えていた。

『……お、おれの、母親は……、…あなたのっ、父親から、い、一度も、金なんか、…受け取ってない!!……う゛ぅっ……、……ただ……、ただ、好きになった、だけだ!!…それだけ、なのに……っ!!』

『……は、母を……、……侮辱するな!!』

「…………。」

 冬真は何故だか悠里のその言葉を素直に信じられた。金を介さない父と悠里の母の関係について考えた。勉強と仕事の話以外ほとんど会話のなかった自分と両親の関係について、互いの存在を鬱陶しがり、いがみ合う父と母の関係について考えた。

「…………。」

 母親を必死でかばい、泣きわめきながら自分に刃向かってきた悠里のことを考えた。金を介して体を重ね合う自分と悠里の関係について、考えた。

「…………。はぁ。めんどくせぇ」

 思考の沼にはまりかけた冬真は意識的にそれを放棄した。どうでもいい。俺は忙しいんだ。ようやく書類を手に取り仕事を再開しようとした時、ふと気付いた。

「……ちっ。今日ヤり損なったじゃねぇか。あの野郎」



 その日以降、二人がその話題に触れることはなかった。冬真はその日の悠里の言動を責めてくることはなく、悠里ももう蒸し返して謝ることはしなかった。ただ淡々と金のための逢瀬は繰り返された。悠里から見て以前と変わったことといえば、冬真の悠里に対する乱暴な扱いがほんの少しだけ優しくなった気がすることだ。無理矢理頭を押さえつけてきたり、頬を叩いたりすることがなくなった。だからと言って奉仕をやめさせてくれるわけでもなかった。悠里が苦しくて耐えきれなくなるほどにたっぷりと口で愛撫させた後は、あらゆる体位で犯された。以前よりもさらにじっくりと前戯を施され、体中を撫でられ、舐められ、悠里の快感を感じる部分を引き出そうとしてくることもあった。

「ひっ……!……ん、あ、あぁっ……!」
「……ここがいいのか?」
「あ、あぁ……、…ふっ……!」

 内腿をねっとりと舐められ、腰をまさぐられ、甘い声を上げてしまうが、そこがいいなんて口が裂けても言えない。思わずシーツをギュッと噛みながら声を抑えようとする悠里の姿を熱の籠もった目で冬真が見つめる。何一つ見逃すまいとするかのような視線を感じ、悠里は羞恥心で涙を浮かべる。何も答えない悠里に怒ることもなく、冬真は悠里の中にグッと押し入ってくる。

「あっ!あ……、はぁぁぁぁっ!!」

 悠里が仰け反るとゴクリと喉を鳴らし、熱い吐息を漏らしながら冬真が悠里の喉元に甘く噛みつく。

「ひっ……!」

 そのままベロリと舐められ、中を掻き回されながら前を扱かれ、悠里は快感の渦に飲まれていく。

「あっ!あっ!……んんっ!!……はぁっ、はぁっ……!」
「………………おい、…こっちを見ろ」

 その日、ふいにそんなことを言われた。

「……はぁっ、はぁっ…、…………?」

 滾る頭の中で時間をかけて冬真の言葉を理解し、言われるがままに冬真の顔を見る。視界が揺らいでよく見えない。

「………………名前を呼べ」
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……、……え……?」

 意味が分からず、快感を堪えながら掠れた声で聞き返す。

「名前を、呼べって、言ってんだよ」

 腰を揺らしながら悠里の中で質量をグッと増していた冬真が、掠れた声で途切れ途切れにそう言った。
 な、名前……?誰の……?まさか、こいつの……?

「はぁっ、はぁっ……あ、……あぁぁ……」

 名前…、……何だっけ……。どうして、今……。冬真が動きを止めないので悠里は思考がまとまらない。考えなくてはと思っても、冬真が動くたびに激しい快感の波が押し寄せてきて、そちらに夢中になってしまう。

「あぁっ!あっ!あぁぁ……、ふぅ、んっ!!んあぁぁっ!!」

 望む言葉を言わない悠里に苛立ったように大きく舌打ちした冬真が、がむしゃらに腰を激しく振り出した。

「呼べっつってんだよ!早くしろ!」
「あっ!!あぁぁぁんっ!!あっ、とっ……とう、ま……っ!とうまぁぁ……っ!!」
「…………っ!!」

 悠里が甘く叫んだ途端、冬真は狂ったように腰を打ちつけて悠里の中で弾けた。

「あぁぁぁぁぁ…っ!!」

 襲いかかる衝撃に、悠里もまたビクビクと大きく痙攣しながら激しく射精した。頭の中が真っ白になった。


「…………。」
「…………ん……、…………ぁ…」

 ふと目を開けると、冬真の豪華な部屋の天井が見えた。……、あれ…?隣を見ると、冬真が裸のまま頬杖をついて悠里の顔を無表情で見つめていた。

「……っ!」
「クソ厚かましいな、てめえは。金貰ってやがる立場のくせに、最中にガンガン寝やがって」
「……っ!!」

 し、しまった。射精してそのまま意識を手放してしまったのか。一体どのくらいの時間眠ってしまったのだろう。まさかずっと、横で見られていたのか。悠里は恥ずかしくて顔が赤くなった。

「…ごっ!……ごめ、」
「もっとちゃんと食って寝ろ。体調管理も仕事のうちだぞ、今のてめえはな。俺を満足させるのが仕事だろうが」

 説教してくる冬真からはそれほどの怒りは感じられない。意外にも目の奥の光は穏やかだった。

「…………。」
「体流したら飯にするぞ」

 そう言うと立ち上がってバスルームに向かった。すぐについていかないと怒られる。悠里はフラつきつつも立ち上がり、冬真に着いていった。




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