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「……随分楽しんでたじゃねぇか。この淫乱」

 しばらく荒い呼吸を繰り返し激しい快感をやり過ごしていた冬真が身を起こし、小馬鹿にしたように悠里に言った。冬真自身、こんなにセックスに夢中になって我を忘れた自分に戸惑っていた。気付けば体は汗だくだった。
 悠里は全身の力が抜け、頭に靄がかかったようにボーッとしていたが、冬真の言葉を聞き、脳がそれを理解した途端、屈辱のあまり嗚咽を漏らして泣き出した。

「……う゛……うぅぅっ……、……っく、…ひっ……」

 どうして、俺はあんないやらしい声を。こんな嫌なヤツに無理矢理犯されて、怖くて嫌でたまらなかったはずなのに。途中から痛みの他に、訳が分からなくなるほどのすさまじい快感を感じた。あんなによがって、喘いで、…まるでこの行為を、こんな男と一緒になって愉しんでしまったみたいじゃないか……どうして……。
 自分が情けなくて恥ずかしくて、悠里は涙が止まらない。体を折り曲げて小さくなって震えながら泣いている悠里を見下ろしていた冬真が、

「中掻き出してやるから来い」

と声をかける。反応せずに顔を覆ったまま泣いていると、苛立った冬真の大きな舌打ちが聞こえ、悠里はビクッと強張る。

「…俺に同じことを二度言わせんな。…来いっつってんだろうが」

 その目が恐ろしくて、悠里は腕に力を込めてヨロヨロと起き上がる。腕も足もガクガクと震え、立ち上がるだけでも辛かった。
 起き上がった悠里の腕を、冬真は全裸のまま乱暴に引っ張り、部屋の角に備え付けられたバスルームに連れ込んだ。寝た相手に自分のバスルームを使わせることも、洗ってやろうなんて考えたのも初めてだった。自分の行動に違和感を覚えつつ、冬真はシャワーを捻り、俯いて大人しくついてきた悠里に浴びさせる。

「足開け」

 短く命じると、前置きもなく中に指をずぶりと突っ込む。

「ひっ……!」

 悠里は思わず目の前の冬真の肩に縋り付く。その悠里の動きが何となく愉快で、冬真は気分良く中から自分の放った精液を掻き出していく。

「あ……、あぁ……っ、…んっ……」

 互いに裸のままで湯を浴びながら、自分に縋り付いてくる悠里の漏らす声を耳元で聞いているうちに、冬真の下腹にまた熱が灯る。

「……ふっ、あ、…あぁっ……っく、うぅっ…」
「…………はっ、…」

 冬真は悠里に命じる。

「壁に手をつけ」

 ……え?悠里はよく意味も分からないまま、冬真を刺激しないように言われたとおりに両手を壁についた。その後ろで冬真は悠里の腰をぐいっと引き、その腰をしっかりと押さえたままで再度勃起した自身を悠里の後ろにねじ込んだ。

「いっ!!あ、あぁぁぁっ!!や、やぁっ……!!」

 予期せぬその衝撃に悠里は絶望し叫ぶ。何で、どうして。もうこの男は二度も射精したはずなのに…、こんなに何度もできるものなの…?愕然としながら圧迫感に必死で抗う悠里をよそに、冬真は息を荒げまた激しく穿ち始めた。
 悠里は二度も続けて射精したことがない。自慰をするときは一度達したらもう充分で、こんなに何度も勃起しては貫いてくる冬真の底知れぬ精力が恐ろしくてたまらなかった。一体いつになったら解放されるのか。もう無理だ。痛い。痛い。
 涙を零しながら必死で足を踏ん張り、冬真から与えられる衝撃に耐える。背後から聞こえるはぁはぁという荒い呼吸音と、何度も強く打ちつけてくる衝撃に、歯を食いしばって耐えようとしたが、どうしても甘い声が漏れてしまう。

「はぁぁんっ!ん、はぁ、はぁ…っ!んあぁぁっ!」

 痛みだけではない感覚が、冬真の動きに合わせて波のように押し寄せては引いていき、また押し寄せる。悠里は我知らず口を半開きにして涎を垂らしながら喘いだ。
 どこからそんな体力が湧いてくるのかと不思議に思うほどに激しく悠里に挑みかかっていた冬真の動きがさらに速度を増す。悠里の中のモノの質量が一気にグッと増して、呻き声とともに弾けた。

「くっ……!」
「あぁぁっ……!あ……、は、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 ようやく達したらしい冬真がずるりと自身のモノを抜き去ると、また悠里の中を指で抉り、放った精液を掻き出す。もうこれ以上されたら死んでしまう。悠里は声を漏らさぬように必死で耐え、震える足を踏ん張った。


 ふらふらとバスルームから戻ると、ベッドの上に新しいシャツが用意してあった。代わりに冬真にボタンを引きちぎられたシャツは袋に入れられ、その横に置いてあった。

「…………。」

 冬真はまだバスルームで体を拭いている。誰が置いたのだろう。あの秘書の人だろうか。対応の素早さに驚く。悠里はその新しいシャツに袖を通し、服を全て着る。できるだけ早く冬真から肌を隠したかった。

「お前バイト全部辞めろよ」

 髪を拭きながらバスルームから出てきた冬真が悠里にそう告げる。下だけ履いており、上半身は裸のままだ。…見れば見るほど、引き締まったいい体をしている。無駄な贅肉は一切なく、腹筋は綺麗に割れ、細いのに随分逞しい。白くか細いだけの自分の体とのあまりの違いに驚き思わず少し見とれてしまった悠里は、ハッとして慌てて目を逸らす。こんな男に見とれたくない。

「…ど、どうして、ですか」

 叫びすぎて掠れた声で悠里が問う。

「金は今後俺から充分に貰えるだろうが。クソみてぇな時給のバイト掛け持ちしてる暇はもうねぇぞ。今後は俺が呼んだらいつでもすぐに飛んでこい」
「…………そ、」

 そんな。今後もこれがずっと続くのか。冗談じゃない。絶対に嫌だ。悠里は恐怖で震える声を必死に絞り出し答える。

「こ、こんなことは、…今回だけで、充分です……。も、もう、二度と」
「おい」

 ビクッと体が強張る。また怒らせた。分かっていた。おそるおそる冬真の顔を見ると、血の気が引くほどに冷たい目で悠里を睨みつけていた。近寄ってきて胸ぐらを思い切り掴まれる。

「はっ…………!」
「調子に乗るなよ、てめえ。選択肢はねぇんだよ。俺の命令が絶対だ。分かるか?…いいんだぞ、別に俺は。お袋にお前らのこと全部バラして、慰謝料請求の手続きしてやってもな」
「……っ!!」

 悠里の顔が強張る。冬真の脅しは嘘だった。冬真の母親はとうに父と悠里の母親の関係は知っているが、こんな貧乏人を相手にすることなどはない。こんな連中に目くじら立てて慰謝料を請求するなど、恥ずかしい行為だと思っているはずだ。
 だがこのはったりは悠里には覿面に効いた。胸ぐらを掴んでくる冬真の手首を必死に剥がそうとしていた悠里の手は力を失いダラリと垂れた。冬真はテーブルの上から札束を持ってきて、それで悠里の頬を軽く叩いた。

「ほらよ。今日のお駄賃だ。バイト辞めたかどうか確認するからな。…今後は俺にだけ尽くせ」

 冬真は嘲笑うかのように悠里を見下ろしそう言った。




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