一目惚れだけど、本気だから。~クールで無愛想な超絶イケメンモデルが健気な男の子に恋をする話

紗々

文字の大きさ
上 下
66 / 68

番外編ー馬原圭介【3】

しおりを挟む
 葵をあいつに紹介した日。なんとなく予感はあった。
 葵が初対面の相手にあんなに感情剥き出しになることなんて絶対になかったし、最初からやたらと璃玖のことばかり見つめていることにももちろん気付いていた。
 葵に当たられて傷ついたであろう璃玖が先に帰ってしまった後、葵を怒って腹にグーパンしてひとりでさっさと帰りながら、考えていた。
 まぁしょうがねぇよな。俺じゃなくても、あいつには惚れる。可愛いもんな。顔も雰囲気も。少しでも言葉を交わせばあいつだけが持っているあの魅力にもすぐに気が付く。
 葵は俺とは違う。真っ直ぐでいいヤツだ。育ちがいいのに、それに甘んじて努力をしないバカな坊ちゃんではない。真面目でストイックな努力家だ。しかもあんな仏頂面してて意外と優しいところもある。普段は常に冷静で他人とは距離を置くタイプだが、一旦心を許した相手には全く違う一面を見せると知っている。懐が深いヤツだ。
 …俺よりははるかに、璃玖と釣り合う。
 ああいう男と一緒にいれば、璃玖の魅力も損なわれることなく、幸せに過ごしていけるんだろう。
 
「…………はーぁ…」

 俺のそばにいてほしい。他の誰かのものになってほしくない。幸せになってほしい。ずっと笑っていてほしい。俺とじゃ釣り合わない。そもそも俺のことはそんな目で見てくれてない。気持ちを伝えたい。俺を受け入れてほしい。

「………………。」

 なんとなく足が重い。ドロドロとわだかまる複雑な気持ちを抱えたまま、俺は真っ直ぐに家に帰った。


 それからどうにか葵と璃玖とを仲直りさせて、俺は様子を見た。鈍感な璃玖はこんなにも分かりやすい葵の好意に全く気付いていない。葵は葵で自分からアプローチする術を知らないし、そもそも苦手なタイプだ。顔面が完璧に整った有名人なもんだから、黙って立っているだけでも女の方から次々にすり寄ってくる。その方面では苦労を知らない男だ。これはかなりの長丁場になりそうだ。
 そんな中で、璃玖に突然同居の話を持ちかけた葵には正直ビビった。何考えてやがるんだこいつは。暴走にもほどがある。頭がおかしくなったのか。いくらストーカーのせいで璃玖が安全に暮らせないからといって、まだまるっきり打ち解けてもいないのに同居はきついだろう。
 でも葵と二人きりで話してみたらどうやら頭はまともらしいし、一応真剣に考えた上での提案であることは間違いなさそうだった。…まぁ、こいつなら預けても大丈夫だろう。璃玖に嫌われたくないからこんな時に変なことはしないというこいつの言葉にも信憑性はある。何かあったら引き剥がすしかないが。
 俺もそうだが、璃玖はこの提案にもっと驚いてビビっていた。こんなんでやっていけるのかと多少不安だったが、意外と二人は上手くやっていってるようだった。途中で何があったのか少しの仲違いみたいなことはあったが、それもあっさり解決したらしく、だんだんと距離が縮まっていっているのは手に取るように分かった。
 女々しく湧き上がってくる複雑な思いに蓋をするように、俺は相変わらず適当な相手と適当な夜を過ごした。できる限り深く考えないようにした。考えれば気持ちが沈む。仕事と女、ストーカーの捕獲に意識を集中した。葵にも璃玖にも、何も悟られたくなかった。


 その後ストーカーをようやく捕まえ、璃玖がアパートに戻り、年が明けて少し経った頃。
 風呂上がりに何気なく璃玖に、元気か?とラインを送った。何の心の準備もなく。すぐに返信が来た音がして、俺はテレビのニュースに目をやりながら髪を拭きつつ、何も考えずスマホを手に取った。

『元気だよ!葵と付き合うことになったよ』

「………………。」

 脳が拒否したのか、なかなか文面の意味を理解できず、しばらくその文字を見つめ続けた。そのうち指先がすうっと冷たくなった。気が付くと、俺はベッドに腰かけて座り込んでいた。

 …あぁ、そっか。上手くいったんだな。よかったじゃねぇか、葵のヤツ。ようやく成就したわけだ。頑張ったな、あの鈍感相手に。

「………………。」

 早く返信してやらねーと。璃玖が変に思うだろ。不安がるかもしれない。
 でも指が動かない。何も返したくない。これでよかったはずなのに。璃玖が幸せになるために、こんなにいい選択肢はないはずなのに。
 体中の力が抜けて、スマホを床に落とした俺は頭を抱えた。苦しい。辛い。何も考えたくない。璃玖。璃玖。ずっと好きだったよ。ガキの頃から。お前だけが、俺にとって特別だったんだ。俺じゃダメだったか?ダメに決まってるよな。俺じゃお前には全然釣り合ってない。分かっていたから身を引いたんだ。気持ちを伝えなかったんだ。いいじゃねぇか、別に。あいつらは俺にとってはどっちも大事な友達だ。そのポジションで充分だろ。何度も自分にそう言い聞かせてきただろう。

 いつかはこんな日が来ると、分かっていたはずだろう。

 だけど。
 ふいに、子どもの頃の璃玖の姿が頭の中によみがえってくる。教室で自分の席に座って、静かに本を読んでいた、璃玖の姿が。可愛かったな。あいつの姿を見るのが好きだった。静かで、柔らかくて、温かくて、透明で。

「………………あぁ……」

 ……苦しい。マジで。逃げ出したい。この感情から。誰か俺から感情を消してくれ。

 プルルル…、プルルル…

「………………。」

 スマホが鳴って、俺は重い腕を伸ばして拾い上げる。…誰だっけ、この女。

「…もしもーし」

 声が掠れてる。

『あっ、圭介くん、覚えてくれてるかなぁ、ミユです。こないだの、パーティーで…』
「…………あぁ、うん。もちろん。こないだはありがとう」

 先日のパーティーで話した甘ったるい雰囲気の女の顔がなんとなく浮かんできた。そうだ、こんな声の女いたな。

『こちらこそー。…あ、あのね、…なんだか圭介くんと話したくて、電話しちゃった。…今大丈夫だった?』
「うん、全然大丈夫だよ。嬉しいな、俺のこと覚えててくれたんだ」
『わ、忘れるわけないよ!……ぁ、……えっと…』

 勢いよく言ってしまって恥ずかしがってる雰囲気がありありと伝わってくる。ちょろそうな雰囲気が、ありありと。

「……。あのさ、ミユちゃん、今から会える?」
『……えっ、い、今から?』
「うん。…なんか声聞いたらめちゃくちゃ会いたくなった。……何でだろうね。会いたいんだ、すごく」
『け、……圭介くん……』



 数時間経って、さんざんヤりまくって女が疲れ果てて眠った頃。
 照明を落とした薄暗い女の部屋で、ようやく俺は璃玖に返信した。しょうもないスタンプと、一言だけ。

『そりゃよかった』

 …大丈夫だ。これで何も変に思われないはずだ。

 俺の女々しい想いがバレることは、ないはずだ。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...