一目惚れだけど、本気だから。~クールで無愛想な超絶イケメンモデルが健気な男の子に恋をする話

紗々

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その後のお話①百倍返しのホワイトデー

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「ふー。まだまだ寒いねー」
「ほんとだね。じゃあね、気を付けて帰ってねー」
「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまー佐倉さん!彼氏によろしくねー」
「あ、あはは。はい~…」
「いいなぁラブラブでさぁ」
「また明日ねー」

 3月14日の就業後。事務員さん達と会社の玄関でさよならして、僕は帰路につく。アパートを引き払って恋人と暮らし始めたことは皆に伝えたんだけど、相手が男の人だとは一言も言ってない。なのにどうして“彼氏”って分かったんだろう?不思議だ。

 夜はまだまだ冷えるなぁ。葵もう帰ってるかな。今日は何時頃帰れるか分からないとは言っていたけど…。晩ごはんは一応作っておこうっと。
 いつものように会社の近くのスーパーで買い物してから、バスに乗ってマンションに帰る。あのストーカーの一件の時以来、葵が僕にずっとカードを持たせてくれていてタクシー使っていいよなんて言ってくれてるんだけど、もう危険は去ったし、さすがにもったいなくて気が引ける。ただでさえ一緒に暮らすようになってから金銭面では葵に甘えっぱなしなのだ。葵は何も気にしなくていいと言ってくれるんだけど、そんなわけにはいかない。せめて食費ぐらいは出して、僕ができるだけ毎日美味しい晩ごはんを作るんだ。

 たくさん買い物してマンションに帰る。玄関の鍵を開けると、…ん?葵もう帰ってるみたいだな。何だろう、この香り…。なんか、すごくいい匂いがする…。
 僕は少し不思議に思いながら廊下を歩き、リビングのドアを開けた。

 バサッ

「?!」

 開けた途端に視界が真っ赤に染まって僕は驚いて立ち止まる。

「お帰り、璃玖。…はい、これ。バレンタインのお返し」
「……あっ、…葵……!」

 目の前には、すっごく大きな真っ赤なバラの花束を持った葵が立っていた。す、すごい……!で、……でっかい……!

「び、び、っくり、したぁ…。ど、どうしたの?これ。すごいね…」

いい香りはこの大量のバラの花だったのか…。こんな大きな花束見たこともない。なんて綺麗なんだろう。僕はカバンとスーパーの袋を置いて、差し出された花束を受け取ろうとした。

「璃玖を驚かせたくて、用意しておいた。…早く帰ってきてくれてよかった」

真っ赤なバラの花束を持って微笑む葵はまさに王子様のようで…

「…かっこいいなぁ、葵……」
「……はっ?……何言ってるの、急に」
「バラの花束がすっごく似合ってる。…ありがとう、葵」
「…俺が似合ってもしょうがない。あんたのだよ。はい」

僕の言葉に顔を少し赤らめた葵から、花束を受け取った。

ずしん…っ

「……っ」

お…………、重いっ…………!…え?こ、こんなに重いものなの?すごいんだけど。僕は予想していなかった重量感にびっくりした。

「す、すごいね、これ…。何本あるんだろう」

カシャッ

「100本だよ。俺も初めて持ったからびっくりした。結構重いよね。…一度璃玖に贈ってみたかったんだ。100本のバラの花束」

カシャッ、カシャッ

「……。な、何してるの?葵…」

答えながら葵は僕にスマホを向けて何度もカシャカシャやっている。

「バラの花束を抱えた璃玖の写真。……すごい可愛い」
「…………。…ふふっ」
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

なんだか最近僕への愛情を全く隠さなくなった葵の態度がおかしくてつい笑ってしまったら、今度は連写し始めた。…は、恥ずかしいんだけど……。

 ひとしきり撮って満足したらしい葵が、僕の手からまた花束を受け取るとキッチンのテーブルに置いた。

「おいで、璃玖。食事にしよう」
「あ、えっと、ご飯……」
「もう準備してあるから、大丈夫」

すさまじいバラの香りとインパクトで全然気付かなかったけど、本当だ。リビングのテーブルの上には可愛いガラスにリボンをかけたキャンディボトルを取り囲むように、豪華な料理の数々が……!ローストビーフにカルパッチョ…?かな?サラダにバゲットに……、

「あ!ブイヤベースだ」
「俺が作ったのは、それだけ。あとは店から届けてもらったやつだけど」
「ありがとう葵!すごく嬉しいよ」

僕のために、僕が大好きな葵のブイヤベースを作ってくれたんだ。その心遣いが嬉しくて嬉しくて、満面の笑みで葵を見上げてお礼を言う。

「…その笑顔が見られて、俺も嬉しい」

葵は僕の頬を撫でながら優しく微笑んでそう言った。今日買ってきた食材は明日にまわそう。僕は慌てて買い込んだ食材を冷蔵庫にしまうと、リビングに移動した。


 葵のブイヤベースや美味しい料理を堪能した後、入れてくれたカフェオレをソファーに座って飲みながら、ガラスのボトルの中のキャンディを取り出して見てみた。ホワイトデーだから律儀にキャンディも用意してくれたのかな。可愛いなぁこれ。それにしても今日は至れり尽くせりだな。ふふ。
 僕が綺麗な包み紙のキャンディを手の中でコロコロしていると、葵が何か大きめの包みを持ってきた。

「はい、璃玖。これ、ホワイトデーのプレゼント」
「…………。…えっ?」

ま、まだあるの……?

「ホ、ホワイトデーのプレゼントは、あのおっきなバラの花束と豪華なお料理だったんじゃ…」
「ん、それもだけど、花は枯れるし料理はもう食べたからないでしょ。俺も璃玖がくれたうさぎみたいに、後に残るものあげたくて」
「そ、そんな、…わざわざありがとう、葵。たくさん貰っちゃって…」
「俺だって先月のバレンタインにたくさん貰った。…一番嬉しかった贈り物は、璃玖自身だけど」
「……っ、ま、またそんなこと……っ」

葵は手に持っていたプレゼントの包みを僕に渡しながら、頬にキスをする。…最近の葵は本当にあまあまだ。

「あ、開けてみてもいい?」
「もちろん」

ドキドキしながら包みを開くと、中から出てきたのは黒いカバンだった。革のいい匂いがする。

「わぁ…、すごい。素敵だね、このカバン」
「璃玖がいつも会社に行くとき持ってってるやつが、だいぶくたびれてたから。…これ、使って。明日から」
「うん!ありがとう葵。嬉しいよ」

会社用のカバンがくたびれてることなんてよく気が付くなぁ。さすがモデルさん。…そのうち僕の持ち物や身に付けるものは全部葵からの贈り物に変わってしまうかもしれない。

「僕って葵に甘やかされっぱなしだね。…ありがとう。本当に百倍返しのホワイトデーだったね」

 僕がにっこり笑ってそう言うと、葵が怪訝そうな顔をする。

「……?百倍返しは今からだけど……」
「……。…ん?え?…い、今から?」
「うん」

そう言うと葵は僕の腰にするりと手を回し、首筋にちゅっ、ちゅっ、とキスをしたかと思うと、おでこをくっつけて僕に甘い声で囁いた。

「……ベッドに連れて行っていい?」




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