一目惚れだけど、本気だから。~クールで無愛想な超絶イケメンモデルが健気な男の子に恋をする話

紗々

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 それからの僕は猛勉強した。
 葵とああして互いに触れ合う時間が最高に幸せすぎて、もっともっと葵に近づけるならば、という思いがどんどん強まってきたことが起爆剤となり、僕は俄然やる気が出てきたのだ。
 仕事が終わって家に帰ればスマホをぽちぽち、男同士の交わり方について一生懸命調べた。どうやらまずは自分でちゃんと受け入れやすいように、なんていうか、じ、事前に準備した方がよさそう、なんだけど…。
 気合いに反して、それはかなりハードルが高かった。お風呂で日々、指で慣らしてみようと思いはするのだけれど…、いざとなると、……怖い。ものすごく、怖い。入り口の部分に触れるだけで心臓がバクバクする。ここを自分で柔らかく解しておけば、相手も楽になるらしいのだが…。

「あぁぁぁぁ、む、……無理……。ここ怖いぃぃぃ~……」

なかなか勇気が出ない。指を入れるなんて、絶対痛いはずだ。それ用の道具を…、ロ、ローションとか準備するといいらしいのだけど…。なんか気恥ずかしくて買えずにいた。いや、でも、もうそんなこと言ってられない。よし、買おう。もう注文しよう。このままじゃここから先に進めない。僕は焦っていた。葵の誕生日が近い。僕は…、葵の誕生日に、全てを捧げるつもりでいた。
 だから僕は、こうして日々うだうだと悩み続けてなかなか先に進めないことに焦っていた。もうそんなに時間は残されていない。葵の誕生日はバレンタインデーだ。あっという間にやって来る。バスルームを出ると、パジャマを着て、そのままスマホを手に取った。
 …だ、大丈夫だ、別に。皆普通に買ってる。はずだ。僕は独り暮らしだし、こ、こんなものを注文したことは、別に誰にもバレないわけだし。は、恥ずかしくない。大人は皆買ってる。…はずだ。
 ドキドキしながらその手のグッズをたくさん販売しているサイトを閲覧する。一番ポピュラーで、男同士のセックスにもよく使われているらしいローションを一つ、購入した。…これだけでものすごく緊張して手がぐっしょりと汗ばんでいた。


 そして数日後。ついに届いた。僕の……じ、人生初購入の、なんていうか、そ、そういう系のグッズが……!
 …まぁ、そういう系のグッズといっても、ローション一個なんだけど。配達のお兄さんから荷物を受け取る時に、なんだかものすごく恥ずかしいような後ろめたいようないたたまれない気持ちになって、一度も目が見れなかった。お兄さんは荷物の中身が何かなんて絶対分からないはずなのに。きっと挙動不審で変なヤツだと思われただろう。むしろ僕の態度で中身がバレたかもしれない。
 僕は緊張しながら箱を開け、中のローションを取り出す。伝説の秘宝でも手にしたかのように、僕はそれを凝視し、しっかりと握りしめると、今度こそと覚悟を決め、バスルームに向かった。

 シャワーを浴び、ローションを開ける。おそるおそる垂らすと、指先にとろりとした液体が落ちてくる。

「……。……ふぅ、ふぅ……」

僕は緊張で震える指をおそるおそるその部分にあてがう。深呼吸しながらできるだけ力を抜き、そっと指先を入れてみる。

「……っ。……うぅ、」

なんか……、気持ち悪い。変な感覚だ。少しも気持ち良くないし、良くなる気もしない。そのままズズッと第一関節ぐらいまで入れてみたが、たまらず引き抜いた。

「~~~~~~~っ!」

僕は崩れ落ちる。いや~…、ちょっと待って……。もうこれ以上何もできる気がしないんだけど……。本当に、…本当に、ここに、この中に、あ、葵のモノが入るの……?あんなに大きなものが……?ものすごく怖い。もう挫けそうだ。でも、でも……。
 葵と繋がりたい。葵をもっと近くに感じたい。誰よりも葵の傍に行きたい。何よりも、葵に喜んでほしい。その気持ちに少しも偽りはない。なのに…。
 僕は泣きたくなった。全然上手くいかない。葵の誕生日までもうあと半月ほどしかないのだ。気ばかり焦ってどうしようもなかった。

 ついに僕は意を決して、経験豊富な数少ない友人に相談することにした。



「ちっ!!」
 恥ずかしさにしどろもどろになりながらもどうにか悩みを話し終えると、圭介はすっごく嫌そうな顔で舌打ちをした。  

「……。ご、ごめん……。こんな話できる人、他にいなくて…。い、嫌だよね、聞きたくないよね…。ごめん…」
「ちぃっ!!」

圭介はまたすっごく嫌そうに舌打ちをする。……こ、怖いんだけど。
 相談したいことがあると言うと、仕事帰りにすぐアパートまで駆けつけてくれた友人は、頭をガシガシ掻いて溜息をついた。

「……ったくよぉ。てめぇ…、マジでもう…、なんっっっでよりによって、俺に!そんな話を!持ってくんだよ!このっ……、この、鈍感大魔王が!てめぇは悪魔か!」
「……へぇ?」
「……へぇ?、じゃねぇよ!!……ちっ!」

こんなに苛立った圭介も珍しい。き、今日は機嫌が悪いのかな。

「ほ、ほんとにごめんってば……。こんな話、誰にでもはできないし、け、経験豊富な人が一番いいんじゃないかと……」
「……。なるほどな……。そうか、俺の日頃の行いか……。乱れきった日々のツケがついに回ってきたんだな…。女を泣かせすぎたからか。だから地獄からの使者が俺に罰を与えに来たってわけかよ。お前は地獄の使い魔だ」
「ねぇ、さっきから何ワケの分からないことをブツブツと言ってるの?」
「ちっ!!」
「………………。」

圭介は大きくはぁぁぁぁっ、と溜息をつくと、渋々といったかんじで話し始めた。

「…お前はそんな深く考えなくてもいいんだよ。怖くて何も準備できないってんなら、葵にそう言って全部任せてりゃいいんだ」

圭介は僕の部屋に置いてあったナッツの袋を勝手に引っ張り出してきて不機嫌な顔でガリガリと食べ始める。

「……。な、なんか、でも…、…め、面倒くさいとか、思われないかな…」
「思うわけねーだろ。お前あいつを何だと思ってるんだ」
「わ、分かってるんだよ!葵はほんとに優しいし、僕をすごく、すっごく大事にしてくれてるし」
「……。」
「見た目のかっこよさだけじゃないっていうか、中身も本当に素敵で、」
「ノロケか!!どーーーでもいいわ!!……お前の部屋、なんか酒置いてねぇのかよ!ちっ」

圭介はキッチンをウロウロしながら勝手に冷蔵庫まで開けだした。

「く、車で来てくれたんでしょ?飲酒運転になるからダメだよ。あと、何も置いてないよ」
「ちっ!」
「葵が、そんな、…ス、スムーズにできないからって、僕に愛想を尽かせたりする人じゃないってことは分かってるよ。でも、…僕ってさ、あまりにも、葵に釣り合ってないっていうか…」
「…………。」
「葵は有名人で、…しかも世界で活躍してるモデルさんで、きっとファンもいっぱいいて……、でも僕はただの一般人だし、…しかもさ、葵は家族に愛されて大切に育てられてきた人でしょ。…でも、僕は捨て子で、家族もいないし、お、お世辞にも、……なんていうか、…育ちが良いとは言えないっていうか…」
「だぁぁぁ!うるっせぇなお前はグダグダグダグダ!」

ポカッ

圭介に突然頭をポカッと叩かれて僕はびっくりした。

「い、痛いよ圭介…。何で叩くの…」
「うるせぇ!そんな見た目も中身も完璧でとっても素敵な男が!周りにいる美男美女がいくらでもわらわらと寄ってくる選び放題食べ放題の男が!わざわざ選んだのがお前なんだよ!!グダグダウジウジいじけてねーで、ちったぁ自信持て!!」

ポカッ

「…………。」

また叩かれて僕は頭を押さえる。圭介は再び深い溜息をつくと、

「はぁぁぁぁ~もーやってらんねぇ。帰るわ」

そう言ってガバッと立ち上がった。ものすごく怒られて気まずいけど、僕は玄関までついて行ってお礼を言った。

「来てくれてありがとう、圭介。…ほんとごめんね。しょうもないことで、わざわざ僕の部屋まで来てもらっちゃって……」
「しょうもないことじゃねぇだろ。お前にとっちゃ一大事だったんだからよ」

圭介は靴を履きながら僕の方を見ないで答える。

「う、うん?まぁ…、それはそうなんだけど…」

でもなんだかものすごく機嫌悪いし、きっと圭介から見たらあまりにも悩みの内容が稚拙でガックリきたんだろうなとは思う。仕事帰りに、僕のせいで余計に疲れさせてしまった。申し訳ない…。
 圭介は靴を履き終わると、少し間を置いて振り返りこう言った。

「お前は自己評価低いから、いろいろ考えすぎて悩んじまうんだろうけどさ、あいつがお前に惹かれたのにはちゃんと理由があるんだよ。俺には分かる。……お前にはお前にしかない特別な魅力があって、それは大抵の大人が持ってない貴重なものなんだよ」
「…………え?」
「皆お前のそこに惹かれるんだ」
「…な、何それ。……皆って、何?」
「………………、」

圭介は僕を見つめた。その時一瞬、ほんの一瞬だけ、見たことのないような顔をした、気がした。少し眉間に皺を寄せ、苦しそうな、切なそうな、……まるで、今にも泣き出しそうな……
 そして何かを言おうとしたのか、少し口を開いた。けれど、結局何も言わないまま、急に僕の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回した。

「!!…ち、ちょっと!」
「まぁとにかく深く考えんなってこった。誕生日に会った時に素直に言えばいいだけだって。ヤり方全然分からねーけどとりあえずお前とヤりたいって」
「な!!……なん、…何て、い、言い方を…!!」
「せいぜい頑張れ。上手くいかなかったら葵のせいにしとけよ。てめぇが下手くそだからだ!って」
「圭介っ!!」
「ははは。じゃあまたな」

最後はケラケラ笑いながら帰っていった。何だったんだろう。さっき、なんか変な顔をしたと思ったのは、僕の気のせいだったのかな。帰るときはいつもの圭介だった。すぐに茶化して、適当に笑って。…でもそんなに悩むほど大したことではないと言われて、なんだか気持ちが軽くなった。そうだよね、ああだこうだと一人でうじうじ考えていても仕方ない。何でもちゃんと葵に話せばいいんだ。

 ありがとう、圭介。
 
 口は悪いけど実は優しい幼なじみに感謝して、僕はくすりと笑った。




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